Django Unchained


2013年3月3日(日)「ジャンゴ 繋がれざる者」

DJANGO UNCHAINED・2012・米・2時間45分

日本語字幕:フチ付き丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(マスク、with Panavision)/ドルビー・デジタル、DATASAT、SDDS

(米R指定、日R15+指定)

公式サイト
http://www.sonypictures.jp/movies/djangounchained/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

1858年、テキサス州のあるところで、奴隷を輸送中の2人奴隷商人に元歯医者で今は賞金稼ぎのDr.キング・シュルツ(クリストル・ヴァルツ)が近寄り、奴隷の中でブリトル3兄弟をしているものはいないかと問いかける。するとジャンゴ(ジェイミー・フォックス)が知っていると答える。1人の奴隷商人は銃を抜こうとするが、それより早くシュルツの銃が火を吹く。もう1人に金を払い、売買証明書を作るとシュルツは「賞金首のブリトル3兄弟を指さしてくれれば私が撃つ。あとは自由だ」という条件を出す。一緒に旅に出た2人は大農場でブリトル3兄弟を見つけると、ジャンゴが自らの銃で決着をつける。その腕前に感心したシュルツは、さらわれた妻を探しに行くというジャンゴに、雪の解ける春まで賞金稼ぎとして組まないかと誘う。

76点

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 たっぷりの血と暴力、残酷描写。マカロニ・ウエスタン・スタイルで描かれるアメリカ製の西部劇だが、マカロニ・ウエスタンを遥かに超えるどぎつさ。まさにタランティーノ映画。ジョークもたっぷり盛り込まれているが、笑えないほどヴァイオレンスに溢れ、気持ち悪くなるほど。ほとんどアメリカの白人は人種差別主義者で悪党しか出てこない。かろうじて、2人をコーヒーにさそう連邦保安官くらいがまともな感じ。あまりに常軌を逸した悪党たちと、ひどい虐待。感情も突き動かされ、大爆発で終わってすっきり爽快、良かった、良かっただが、どこか完全に喜べない部分もある。

 やはり雰囲気はクェンティン・タランティーノが監督した「レザボア・ドッグス」(Reservoir Dogs・1992・米)や「キル・ビル」(Kill Bill: Vol.1・2003・米)や「イングロリアス・バスターズ」(Ingrourious Basterds・2009・米/独)そのまま。脚本と製作総指揮を担当しただけの「フロム・ダスク・ティル・ドーン」(From Dusk Till Dawn・1996・米)シリーズと違うのは、相手が生身の人間だということ。ヴァンパイアならどうやって殺そうとも後ろめたさはないが、生身の人間相手だとそうはいかない。

 たぶんこの気持ち悪さ、何か引っかかるものというのは、あまりの悪を見てしまったことによる胸くそ悪さではないだろうか。短にカッと来るようなワルではなく、じわじわと嫌悪感が込み上げてきて、それが恐怖になっていくような悪。それを見てしまったと。白人も悪いが、差別を受ける黒人までもが、ワルは徹底的に悪い。これを3時間近いあいだ見せられる。

 古いコロムビア・マークから始まるオープニングは1960年代まで良く使われていた、アバン・タイトルなしのいきなりタイトル文字から始まるスタイル。文字もウェスタン調で、赤の立体的なもの。しかもフランコ・ネロ主演のマカロニ・ウェスタン「続・荒野の用心棒」(Django・1966・伊/西)の英語版のテーマ・ソングをそのまま使っている。作曲はルイス・バカロフ。この人は「キル・ビル」の1と2のサウンド・トラックも手掛けている。テーマ以外に2曲ほど使われており、他にも何曲か映画音楽、特にマカロニ・ウェスタン音楽の巨匠、エンニオ・モリコーネの曲も使っている。後半、ラップ調の歌も使われているが。

 時代設定は1858年なので、登場する銃にはかなり制限がある。奴隷制をめぐる南北戦争(1861〜1865)前にしたかったということか。つい最近ミシシッピー州でようやく奴隷制度廃止の法案が批准されたというニュースが流れたが、基本的にはアメリカにおける奴隷制度の終結は1865年アメリカ合衆国憲法修正第13条の成立以降ということになっている。物語としてはその辺でも良かったはず。1858年だと西部劇の定番銃、レバー・アクションのウインチェスター(1866〜)はもちろんヘンリー・ライフル(1860)やピースメーカー(SAA、1873〜)、デリンジャー(1866〜)などが存在しないことになる。まだパーカッションの全盛期だ。せめて1860年だったらよかったのに。

 本作ではシュルツがヘンリー・ライフル、デリンジャー(現在製造されているコブラ社の物が使われているらしい)、レミントン・アーミー・リボルバー(製造は1860〜)を使い、ジャンゴが狙撃でシャープス・ライフル(1850〜)、コルト・ネービーM1851リボルバーを使っている。そして撃っていないが、ジャンゴはマカロニ・ウエスタンで良く見られたピストル・カービン(キャトルマンズ・カービン)のレミントン・アーミー・カービンも使っている。普通マカロニ・ウェスタンのイメージだと、良いヤツはSAAで、ちょっとクセ者はレミントンという感じだったが……。

 また時代的な設定だろう、よく煙草を吸う。そして皆、歯が汚れている。この当時はあまり歯磨きということをしなかったのかもしれない。煙草も吸うし。それはディカプリオ演じるフランスかぶれのセレブのキャンディであっても同じ。また用心棒に向かってジャンゴが「室内で帽子は無礼だぞ」というが、ときどき映画館でも場内で帽子を被っているヤツがいて、ぜひ聞かせてやりたかった。今は時代が違うのか……。

 キング・シュルツは本作でアカデミー助演男優賞を受賞したオーストリア出身のクリストフ・ヴァルツ。確かにいい味を出している。特に散り際が見事で印象に残る。「イングロリアス・バスターズ」の恐ろしいナチ将校からは一転して良い人(子供の目の前でお尋ね者の父親を狙撃させるが)。最近見たのは「三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」(The Three Musketeers・2011・独/仏/英/米)のリシュリュー枢機卿だったろうか。

 ジャンゴはジェイミー・フォックス。奴隷なのに、なぜか最初から抜き撃ちができ、狙撃もできてしまう天才。劇中1万人に1人の黒人とか言ってる。マイケル・マン監督、トム・クルーズの「コラテラル」(Collateral・2004・米)でのタクシー運転手がとにかく良かった。「Ray/レイ」(Ray・2004・米)ではアカデミー主演男優賞を受賞している。

 大農場主カルヴィン・キャンディはレオナルド・ディカプリオ。最悪の悪役の1人なのに、このために日本にPRに来た。ときどきはこういう役も演じるとバランスがとれるらしい。イーストウッドの「J・エドガー」(J. Edgar・2011・米)は今ひとつの感じだったが、「インセプション」(Inception・2010・米/英)は抜群に良かった。

 執事のスティーブンはサミュエル・L・ジャクソン。背を曲げた卑屈な感じが絶妙。だからラストはよりビックリ。アメコミ系とSF系の作品はどれもパッとしない感じだが、それ以外は最近は小劇場公開ばかり。タランティーノ作品では「キル・ビルVol.2」(Kill Bill Vol.2: The Love Story・2004・米)と、「イングロリアス・バスターズ」ではナレーションを担当している。

 ジャンゴの妻ブルームヒルダはケリー・ワシントン。衝撃の実話の映画化「ラスト・キング・オブ・スコットランド」(Last King of Scotland・2006・英/独)でアミンの妻の1人を演じていた美女。「Ray/レイ」でジェイミー・フォックスと共演している。本作では罰のため「灼熱地獄」とよばれる鉄の箱に全裸で閉じこめられているシーンがある。

 大牧場でKKKのような組織のボス、ビッグ・ダディはドン・ジョンソン。大ヒットTV「特捜刑事マイアミ・バイス」(1984〜1989・米)のあと「刑事ナッシュ・ブリッジス」(1996〜2001・米)シリーズもあったが、今はもう昔。正義の味方から一転、本作ではロバート・ロドリゲスの「マチェーテ」(Machete・2010・米)同様の差別主義者のとんでもない悪党を好演している。

 マンディンゴという殺し合いの客としてジャンゴに名前を聞くセレブはフランコ・ネロ。Dは発音しないというと、知っていると返事をしている。そりゃ、そうだろ。自分で演じたんだからというギャグらしい。また「奴らを高く吊るせ!」(Hang 'Em High・1968・米)などの悪役で古くから活躍しているブルース・ダーンは犬を奴隷にけしかける老人役で出ている。「キル・ビル」や「デス・プルーフinグラインドハウス」(Grindhouse "Death Proof"・2007・米)で同じアール・マクグローを演じているマイケル・パークスとともに、監督のクエンティン・タランティーノ自身も出演し、気持ち良さそうにダイナマイトで吹っ飛んでいる。

 冒頭の奴隷輸送の兄弟に「48時間」(48 Hrs.・1982・米)の悪党を演じていたジェームズ・レマーと、「ビバリーヒルズ・コップ」(Beverly Hills Cop・1984・米)で冒頭に殺されるマイキーを演じていたジェームズ・ルッソ。本当に良く悪役を演じている二人だ。そして ボカシがかかって見えないが、ジャンゴを裸で逆さ釣りにして、玉袋をボウイ・ナイフで切ろうとする雇われチンピラのビリー・キャッシュは「プレデターズ」(Predators・2010・米)のウォルトン・ゴギンズ。ジャンゴをドゥジャンゴと呼んで、「Dは発音しない」と指摘されるところが笑わせる。

 カルヴィン・キャンディの姉さんララはローラ・カユーテ。世間知らずのお嬢様で、行き遅れたハイ・ミスという感じが抜群。ラストに銃弾を受けてぶっ飛ぶさまがスゴかった。痛快アクション「エネミー・オブ・アメリカ」(Enemy of the State・1998・米)や、タランティーノが製作総指揮を務めたバイカー・アクションの「ヘルライド」(Hell Ride・2008・米)に出ている。

 銃器特殊効果としては、実に良く血のりが飛んでいてグロいが、弾着の方は同なんだろう。ジャンゴが革ジャンを脱ぐとポロポロと弾丸がこぼれたりする。これは当時の弾丸は鉛のキャストが多かったから貫通力が弱かったため、ありえる話。一方で、体を貫通して、後ろにいた者も一緒に撃たれたり、壁や花瓶にも着弾したりするシーンもあって、一体どっちなんだと。現代劇なら貫通した方が良いと思うが、西部開拓時代はそんなに貫通しないのではないかと思うのだが。

 誰からも教えられないので鮮やかな素晴らしい抜き撃ちを見せるジャンゴを演じたジェイミー・フォックスは、合成と編集の妙なのかもしれないが、ちゃんと抜き撃ちをやっているように見える。自由をクルクル回しながらホルスターに入れたりもしている。よほど特訓をしたのだろう。教えたのは、想像どおりセル・リード。最近の主要な西部劇はほとんど手掛けている抜き撃ちの元世界チャンピオン。タランティーノがプロデューサーを務めた「プラネット・テラーinグラインドハウス」(Grindhouse "Planet Terror"・2007・米)でガン・コーチをやっている。

 キー・アーマラーはトニー・ディディオ、シニア・アーマラーはラリー・ザノフ。トニー・ディディオは、古くは「ランボー3怒りのアフガン」(Rambo III・1988・米)や「ターミネーター2」(Terminator 2: Judgement Day・1991・米/仏)を手掛けており、最近では残念な「キャプテン・アメリカ」(Captain America: The First Avenger・2011・米)や、アカデミー作品賞を受賞したベン・アフレックの「アルゴ」(Argo・2012・米)を担当している。ラリー・ザノフは「コラテラル」、「アイアンマン2」(Iron Man 2・2010・米)、「プレデターズ」、残念だった「バトルシップ」(Battleship・2012・米)などを手掛けている。

 マカロニ・ウェスタン風タイトル・デザイナーはジェイ・ジョンソン。「キル・ビル」、「コラテラル」、「イングロリアス・バスターズ」(Inglourious Basterds・2009・米/独)などを手掛けた人。なるほど。

 監督・脚本はクェンティン・タランティーノ。「パルプ・フィクション」(Pulp Fiction・1994・米)に続いて本作で2つめのアカデーミー脚本賞を受賞。ただ、映画の本数でいうと、プロデューサーよりも、監督よりも、役者として関わった者の方が多い。つい最近の監督作は「イングロリアス・バスターズ」。注目されるきっかけとなった「レザボアドッグス」(Reservoir Dogs・1992・米)もすごかったが、だいたい血まみれ作品が多い。

 公開3日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保。今日も、昨日ほどではないが、ガンダム・アニメの公開でごったがえすロビーで待っていると、10分前くらいに開場。やはりほとんど中高年。男女比は6.5対3.5くらいで、予想どおり男性が多い。休憩なしで上映時間が長いのでトイレには直前にもう一回行っておかなければ。最終的には287席に8割くらいの入り。さすがに話題作。

 気になった予告編は……スクリーンが左右に広がってシネスコ・サイズになってから、ウィル・スミス親子が出演するSF「アフター・アース」はやっぱりスゴイ迫力。原始時代に戻ったような地球でのサバイバルを描くらしいが、本当の親子だしなあ。夏公開。

 サム・ライミ監督の出世作「死霊のはらわた」をリメイクするんだそう。かなり血まみれで、スプラッター度は相当アップしているよう。これは見るには勇気がいるかも。5/3公開。


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