Saveges


2013年3月9日(土)「野蛮なやつら SAVEGES」

SAVEGES・2012・米・2時間09分(IMDbでは131分、アンレイト版は141分)

日本語字幕:フチ付き手書き書体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(レンズ、in Panavision)/ドルビー・デジタル、DATASAT、SDDS

(米R指定、日R15+指定)

公式サイト
http://yabanna-yatsura.jp/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

チョン(テイラー・キッチュ)はイランやアフガンで戦った元海軍特殊部隊シールズの隊員。古くからの親友のベン(アーロン・テイラー・ジョンソン)はアフリカやアジアで救済活動を行っている人道主義者で、植物学者。その二人と愛しあい体を共有しているオーことオフィーリア(ブレイク・ライブリー)の3人は、自分たちで栽培した大麻を売って生計を立て、3人でカリフォルニアのラグーナ・ビーチで暮らしていた。チョンがアフガンから持ち帰った世界一の大麻の種を、ベンが改良したことで、主成分であるTHCが多量に含まれているため、非常に好評であっという間に広がり膨大な財産を築きつつあった。ところが、ある日、メキシコの巨大麻薬組織バハ・カルテルの女ボス、エレナ(サルマ・ハエック)の知るところとなり、「提携」しないかと誘いがかかる。危険を感じたベンは事業から手を引くことを主張するが、ベンは徹底抗戦を訴える。そうこうしているうちにオーが組織の殺し屋ラド(ベニチオ・デル・トロ)によってオーが誘拐されてしまう。ワイロによって抱き込んでいる麻薬取締局(DEA)の捜査官デニス(ジョン・トラボルタ)に相談するが、危険だから手を組めという。

76点

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 ある程度予想はしていたものの、こんなにも悪だらけで、暴力と血にまみれているとは。そもそも主人公たちがとんでもない犯罪者で、ナレーションもやっているヒロインであるべき若い美女が、どうしようもないバカで、ベースが「悪」なのだ。だからこれ以上の悪がどんどん登場することで、次第に主人公たち3人がまともに思えてくるというレトリック。

 ただ、良くできた話で、感情もたっぷり揺り動かされ、鼓動が次第に早くなってくる演出。メキシコの麻薬カルテルvsアメリカの悪賢い若者グループの麻薬をめぐる戦争、プロ対トーシロ。しかも2パターンのハリウッドにありがちなエンディングには驚かされる。こう来たか。男2人に女1人。黄金の三角関係。しかも最近使われなくなった「THE END」の文字まで出している。

 テーマとしては、単なる犯罪者では無く、麻薬。主にコカインではなく大麻ということのようだが、とにかく薬まみれ。麻薬ということではオリバー・ストーン監督の脚本作品「ミッドナイト・エキスプレス」(Midnight Express・1978・英/米)にも通じるもので、非常に生々しい。水煙草で吸うシーンなんか本当にやっているみたい。また犯罪者という点では「ナチュラル・ボーン・キラーズ」(Natural Born Killers・1994・米)にも通じる。

 日本も最近は脱法ハーブなど汚染されてきたようだが、アメリカはこんなにも薬まみれなのか。劇中主人公の1人が「もうすぐアメリカは大麻を合法化する」とまで言っている。アメリカの最大の脅威は、テロなどより麻薬なのではないだろうか。

 殺し屋ラドが使うのはグロックと1911オート。手下の若いチンピラはM36チーフスペシャル。メキシコ・カルテルの1人はルガーLCR。チョンが口にくわえるのはP230/232。ガイコツのマスクを着けてメキシコ・カルテルを襲うとき使うのはM4ショーティ、RPG。スナイパーはブレイザーR93、SG550スナイパー、バレットもあったような……そしてラストにベンはS&WのM&Pかと思ったらimfdbによるとH&KのP30だったらしい。オーはS&Wのショート・オート。DEA捜査官デニスはグロック。設定2kmというスナイパー戦はかなり冷や冷やドキドキもの。かつての軍隊仲間という設定も良い。

 ちなみに、劇中登場する、イラクの方法を使おうと言ってIEDという爆発物を使うが、これはImprovised Explosive Device、即席爆破装置のことだという。「ハート・ロッカー」(The Hurt Locker・2008・米)で使われていたヤツ。砲弾とかをそのまま爆弾として使う。

 チョンを演じたカナダ出身のテイラー・キッチュは、大予算の話題作ながら残念な「バトルシップ」(Battleship・2012・米)や「ジョン・カーター」(John Carter・2012・米)に出ていた人。本作はようやくの良いできだが、役柄としてはイメージ・アップには貢献しないだろう。見た目の感じなのか、印象の悪いヤクばかり。ひょっとすると本作が一番良いかも。

 相棒のベンはイギリス出身のアーロン・テイラー・ジョンソン。ヒゲを生やしているからわかりにくいが、傑作ファンタジー・アクション「キック・アス」(Kick-Ass・2011・英/米)で、主人公の気の弱い大学生、キック・アスを演じていたひと。これはビックリ。まったく別人のよう。これから公開されるキーラ・ナイトレイのイギリス映画「アンナ・カレーニナ」にも出ているらしい。

 いかにもおバカな女に見えるオーを演じたのはブレイク・ライブリー。ちょっとおバカが売りのスザンヌに似てる気も。芸能人一家に生まれたそうで、父は映画監督で、夫は「デンジャラス・ラン」(Safe House・2012・米/南ア)のライアン・レイノルズ。彼女自身はTVドラマの「ゴシップガール」(Gossip Girl・2007〜2012・米)のメイン・キャラクター。映画ではベン・アフレックの「ザ・タウン」(The Town・2010・米)でジェレミー・レナーのヤバい妹を演じていた。そして残念な「グリーン・ランタン」(・2011・)でライアン・レイノルズと共演している。

 強烈な悪役はプエルトリコ出身のベニチオ・デル・トロ。素晴らしい、見事な悪役。凶悪この上ない。悪役の多い人で、「誘拐犯」(The Way of the Gun・2000・米)なんか特に良かった。最近見たのはちょっと残念な「ウルフマン」(The Wolfman・2010・米)だったか。ちょっと作品に恵まれなかった印象。本作で再び存在感を取り戻した。

 その女ボスはメキシコ生れのサルマ・ハエック。色んな作品に出ている人だが、ここまで悪い役は初めてではないだろうか。美人なだけにより冷たい感じがする。アントニオ・バンデラスと共演した「デスペラード」(Desperado・1995・米)で注目され、「フロム・ダスク・ティル・ドーン」(From Dusk Till Dawn・1996・米)ではヴァンパイアを演じていた。最期にボクが見たのは残念な「ダレン・シャン」(Cirque Du Freak: The Vampire's Assistant・2009・米)のフリーク役。

 汚職DEAエージェントはジョン・トラボルタ。ボク的には「ソードフィッシュ」(Swordfish・2001・米/豪)や「閉ざされた森」(Basic・2003・米/独)系の役が好きだが、「ヘアスプレー」(Hairspray・2007・米/英)では特殊メイクで太った母親になっていた。ちょっと前、ヘゼッソン印の残念な「パリより愛をこめて」(From Paris with Love・2010・仏/米)で、パリで遣り放題の無礼なCIAエージェントを演じていた。

 脚本は、原作も書いたドン・ウィンズロウ、製作総指揮も兼ねるシェーン・サレルノ、監督でもあるオリバー・ストーンの3人。ドン・ウィンズロウは現代最高の犯罪小説家の1人なんだそうで、日本でも「このミス」の1位にも輝いているらしい。映画化された作品に、面白かった「ボビーZ」(The Death and the Life of Bobby Z・2007・米/独)がある。

 シェーン・サレルノは、なんと高校生の時に撮ったドキュメンタリーが認められて、19歳でTVドラマ「NYPDブルー」(New York Undercover・1994〜1998・米)の見習いライターとしてショウビズ界に入ったという。手掛けた作品は、科学的では無く雰囲気優先のSF「アルマゲドン」(Armageddon・1998・米)の脚色、リメイクの「シャフト」(Shaft・2000・独/米)や、信じられないほど残念な続編「AVP2 エイリアンズVS.プレデター」(AVPR: Aliens vs Predator - Requiem・2007・米)、人気のリメイクTVドラマ「ハワイ5-0」(Hawaii Five-O・2010〜・米)の脚本などを手掛けている。全体的には?という感じがあるが……。

 監督でもあるオリバー・ストーンは、プロデュース作品の方が多い。最近「ウォール・ストリート」(Wall Street: Money Never Sleeps・2010・米)を撮っているが、2000年代に入ってからはボク的にはあまりピンとこなかった。本作はなかなかパンチが効いていて、エンターテインメント性もあって良かったのではないだろうか。

 公開2日目の初回、六本木の劇場は全席指定で、ムビチケで金曜に確保。10分ほど前に開場となり場内へ。この時点では8人ほどで。ほとんどオヤジ。バアさんが1人。遅れてくる人が多く、はっきりとはわからないが、最終的には180席に25〜30人くらいの入り。ほぼオヤジで、若い女性が少し。これはあまり知られていないためという気がする。テイストは別として、作品自体の出来は良いので、もっと入っても良いと思う。

 気になった予告編は……とにかく場内が明るくて、CMや案内がよく見えない。ストレスがたまる。暗くしろ。

 半暗になってから、人の頭の中へ入っていくセンシング技術を描いたらしい「リアル〜完全なる首長竜の日〜」は、どこかで聞いたような話だが、予告を見る限り面白そう。サラウンドで音が良く回っていた。銃はガバメント? 6/1公開。

 上下マスクの「ヒッチコック」は、予告では、何だか名作の陰にやり手の奥さんがいたというようなお話か。「サイコ」(Psycho・1960・米)のシャワー・シーンの舞台裏など、かなりおもしろそう。スカーレット・ヨハンソンがジャネット・リーか。4/5公開。

 上下マスクの「アンナ・カレーニナ」はトルストイの映画化だが、許されぬ愛って、また不倫ものか。お恥ずかしながら、原作を読んでいないので……。3/29公開。


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