Hitchcock


2013年4月6日(土)「ヒッチコック」

HITCHCOCK・2012・米・1時間33分(IMDbでは98分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、稲田嵯裕里/シネスコ・サイズ(デジタル、Red)/ドルビー・デジタル、DATASAT、SDDS

(米PG-13指定)

公式サイト
http://www.foxmovies.jp/hitchcock/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

1959年、「北北西に進路をとれ」を撮り終えたアルフレッド・ヒッチコック(アンソニー・ホプキンス)は、46本の映画を世に送り出し60歳になっていたことから、引退かとささやかれていた。しかしそんな気は全くないヒッチコックは新企画を探していて、ロバート・ブロックのエド・ゲイン(マイケル・ウィンコット)事件の実話に基づく小説「サイコ」を気に入る。しかしショッキングな内容から出資者が集まらず、契約していた映画会社のパラマウントの社長バーニー・バラバン(リチャード・ポートナウ)もチープなホラーになると首を縦に振らない。そこで、ヒッチコックは良きビジネス・パートナーでもある妻のアルマ(ヘレン・ミレン)の了解を得て、家を抵当に入れて自己資金で製作することにする。監督としてのギャラなし、パラマウントは配給だけをやると。脚本は、酒や女性問題でセラピーを受けていた脚本家のジョセフ・ステファノ(ラルフ・マッチオ)が適任と依頼。すると今度はMPAAから映画倫理規定によりシャワー・シーンとトイレの便器が映ることが問題視され、上映はできないと告げられる。

73点

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 見るまでは、ヒッチコックの撮影裏話的な映画か、ヒッチコック自身を描いたものか、と思っていたが、意外なことに夫婦の映画という印象。どんな夫婦でもあるような、危機と愛があって、たまたま夫が映画監督で、妻が脚本家だったと。

 中盤まで何が言いたいのか良くわからなかったが、後半になって良くわかった。天才の陰に彼を支え、適切なアドバイスをし、激励し、健康を気遣う妻がいたと。しかも、夫と正反対のプレイボーイの魅力的な脚本家もいて、ちょっとよろめいてしまったと。

 映画好き、特にヒッチコック好きには、エピソードの1つ1つが楽しいだろう。笑いもずいぶん用意されている。「定本映画術ヒッチコック・トリュフォー」を読んでいる人はさらに興味深いだろう。そして本当かどうなのかわからないが、撮影の舞台裏も面白い。ただそれらは「サイコ」(Psycho・1960・米)の撮影の間だけに限定されているが。そして劇中語られる公開当時は低評価だったという「めまい」(Vertigo・1958・米)や「間違えられた男」(The Wrong Man・1956・米)、そしてもちろん「サイコ」を見直したくなる。ボクには「めまい」が不評だったなんて、まったく信じられないが。

 アルフレッド・ヒッチコックはアンソニー・ホプキンス。特殊メイクでそれらしい雰囲気に。おなかもかなりでっぷりとさせている。ちょうどアルフレッド・ヒッチコックとアンソニー・ホプキンスをモーフィングさせて真ん中で止めたような感じ。75歳を過ぎても映画出まくり。これから公開される作品が3本、製作に入る作品が4本という売れっ子ぶり。スパイ映画の「八点鍾が鳴るとき」(When Eight Bells Toll・1971・英)のころはさすがに尖った感じだったが、「世界最速のインディアン」(The World's Fastest Indian・2005・ニュージーランドほか)あたりではすっかり良い人に。しかも、いまだに「マイティ・ソー」(Thor・2011・米)のようなレベルの作品にも出ている。

 ヒッチコックにまけない存在感を放っていた妻のアルマを演じたのはヘレン・ミレン。名作SFの続編「2010年」(2010・1984・米)にソ連の宇宙飛行士役で出ていたりするが、サスペンス映画「鬼教師ミセス・ティングル」(Teaching Mrs. Tingle・1999・米)はヘレン・ミレンが強烈で印象に残った。末期癌の殺し屋という複雑な役柄を演じた「サイレンサー」(Shadowboxer・2005・米)のクールさも良かったが、何と言っても良かったのはエリザベス女王を演じアカデミー主演女優賞を受賞したた「クィーン」(The Queen・2006・英/仏/伊)だろう。意外とハマっていて良かったのは、引退した殺し屋を演じた「RED/レッド」(Red・2010・米)。1945年生れというからもう68歳。それでも劇中の下着シーンなどはセクシーだった。

 ジャネット・リーを演じたのは、まけないくらいの美女、スカーレット・ヨハンソン。まあ、とにかくこの人が出てくるだけで画面が華やかになる。きれいすぎて、映画が持って行かれる感じ。最近出ていた「アベンジャーズ」(The Avengers・2012・米)はかなり残念だったが、本作は良い感じ。本作を見る限り、ジャネット・リーって芸能人なのにまともで普通の人だったんだなあと感慨深い。

 もう1人の美女、「サイコ」ではジャネット・リーの妹役になるヴェラ・マイルズを演じたのはジェシカ・ビール。本作ではヴェラ・マイルズに似た髪形にしたためか、本来の美しさが全く出ていなかった。マイケル・ベイの酷いリメイク「テキサス・チェインソー」(The Texas Chainsaw Massacre・2003・米)で注目を浴びただけに、ホラーものはぴったりということだろうが、実はアクションもいける人。「幻影師アイゼンハイム」(The Illusionist・2006・チェコ/米)なんか心がいたかったが、最近は作品に恵まれていなかった感じ。

 ヒッチコックの秘書のようなペギー・ロバートソンはトニ・コレット。ホラー・サスペンス「シックス・センス」(The Sixth Sense・1999・米)のお母さん役は、作品が良かっただけに強く印象に残った。存在感のある人だが、「いつか眠りにつく前に」(Evening・2007・米/独)以降、最近は作品に恵まれていなかった感じ。

 ほかにもたくさんの有名俳優が出演していて、妻アルマの浮気相手のTV脚本家ウィットフィールド・クックーに「30デイズ・ナイト」(30 Days of Night・2007・米/ニュージーランド)のバンパイア、ダニー・ヒューストン、内気なアンソニー・パーキンスに「クラウドアトラス」(Cloud Atlas・2012・独/米ほか)のジェームズ・ダーシー、殺人鬼エド・ゲインに「スパイダー」(A Long Came a Spider・2001・米/独/加)のマイケル・ウィンコット、MPAAのジェフリー・シャーロックに「ロボコップ」(Robocop・1987・米)のカートウッド・スミス、ほんのちょっとしか出ていないが、「サイコ」の脚本家のジョセフ・ステファノに「ベスト・キッド」(The Karate Kid・1984・米)のラルフ・マッチオ……という具合。

 原作はスティーヴン・レベロの「ヒッチコック&メイキング・オブ・サイコ」(白夜書房)。ヒッチコックが亡くなる直前に最後のインタビューをした人らしい。脚本はジョン・J・マクロクリン。TVの脚本からナタリー・ポートマンがアカデミー主演女優賞を受賞した「ブラック・スワン」(Black Swan・2010・米)の脚本で劇場長編映画デビュー。本作のあと、面白かったアクション「PARKER/パーカー」(Parker・2013・米)も書いている。何でも書ける人らしい。

 監督は1966年。ロンドン生まれのサーシャ・ガヴァシ。スピルバーグの「ターミナル」(The Terminal・2004・米)の脚本で注目を浴びたらしい。その後ドキュメンタリーを撮り、日本ではミニ劇場公開となった「フェイク・クライム」(Henry's Crime・2010・米)の原案・脚本も手掛けた。ただ劇場長編映画の監督としては本作が初めてらしい。さて次にどんな作品を撮るのか、評価はそれからだろう。

 公開2日目の初回、六本木の劇場は全席指定で、ムビチムで金曜に確保。15分前くらいに開場となり、場内へ。スクリーンはビスタで開いており、明るいままTOHOシネマズの小芝居とニュースへ。観客層はほとんど中高年で、やはりヒッチコック・ファンか。だ中学生くらいの男の子も1人いた。男女比は6対4くらいで、大風の注意が出ていた日のせいか、最終的には644席に50人ほどの入り。ちょっと寂しいが、大きなスクリーンでゆったりと見ることができた。

 半暗で始まった予告で気になったのは……堀越二郎と堀辰雄に敬意を表してという宮崎駿監督のアニメ「風立ちぬ」は、メイン・ビジュアルからすると堀辰雄の「風立ちぬ」だろうが、婚約者を結核で失う話で、どこが零式艦上戦闘機の設計者の堀越二郎と結びつくんだろう。語り手の「私」が堀越二郎か?もちろん宮崎駿監督作品なら空は飛ばないと。気になる。夏公開。

 同じジブリの高畑勲監督のアニメ「かぐや姫の物語」は筆で描いたようなタッチのもの。これまたどんな話になるのか。「姫の犯した罪と罰。」というキャッチが付けられている。できれば本格的な竹取物語であってほしい。秋公開。

 「モネ・ゲーム」はモネをニセモノとすり替えるコメディらしい。コリン・ファース、キャメロン・ディアス、アラン・リックマン、スタンリー・トゥッチという顔ぶれ。おもしろそう。5/17公開。

 上下マスクの「ジャッキー・コーガン」は悪党を殺す殺し屋の話らしい。暴力満載でダークな感じ。ブラッド・ピットがこんなダークな話を? 4/26公開。

 ジャッキー・チェン最後のアクションという上下マスクの「ライジング・ドラゴン」は、世界中に散らばる十二支のお宝を集める大冒険。またムチャやっているが、おもしろそう。4/13公開。高校生は1,000円なんだとか。

 スクリーンが上下左右に広がって、暗くなり本編へ。


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