The Great Gatsby


2013年6月15日(土)「華麗なるギャツビー」

THE GREAT GATSBY・2013・豪/米・2時間22分

日本語字幕:手書き風書体下、藤澤睦実/シネスコ・サイズ(デジタル、by Panavision、Shot on Red )/ドルビー・デジタル、DATASAT、SDDS

(米PG-13指定)(3D上映もあり)

公式サイト
http://www.gatsbymovie.jp/
(重い)

ある療養所でアルコール依存症の治療を受けているニック・キャラウェイ(トビー・マグワイア)は、主治医のすすめで、1922年のギャツビーの事件をタイプライターで書き始める。その年、イェール大卒のニックは証券マンとしてニューヨークにやって来て、ロングアイランドの新興住宅地ウエスト・エッグに小さなコテージを借りる。湾を挟んだ対岸の古くからの高級住宅街イースト・エッグには大富豪ブキャナン家のお屋敷があり、夫のトム・ブキャナン(ジョエル・エドガートン)と妻のデイジー(キャリー・マリガン)が暮らしていた。デイジーはニックの従兄弟で、イースト・エッグのお屋敷に招かれるが、なりゆきでトムが浮気をしていることを知る。そんなある日、隣家の豪邸に住むジェイ・ギャツビー(レオナルド・ディカプリオ)からパーティーの招待状が届く。ギャツビー邸では夜な夜なセレブを集めて豪華なパーティーが開かれており、ニューヨーク中の話題となっていたものの、ギャツビーがどんな人物なのか、出席者さえもほとんど知らなかった。

76点

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 ロバート・レッドフォードの「華麗なるギャツビー」(The Great Gaysby・1974・米)は見たと思うのだがあまり記憶にない。こういう映画だったっけ。よくできたラブ・ストーリー。感動した。男なら、こうありたいという1つの姿かも。映画が終わって、若いカップルの女の子が一言「女はずるいよねえ」。男の立場からは、好きな女のために一切を引き受けてケジメをつける。そういう話だか、たぶん一歩引いて、あるいは女性の視点から見れば、ずるい女が男を翻弄した話になるのだろう。確かに酷いというか、酷すぎる話だ。

 良くあるパターンといえば良くあるのだろうし、あるいはこれがそのパターンの元なのかもしれないが、その女をいかにもかよわい感じの、控えめの美女、キャリー・マリガンが演じているから、意外でもあり、男的には許してしまうのかもしれない。ギャツビーや、ナレーターでもあり親戚でもあるニックのように、憎みきれない。そして全盛期のロバート・レッドフォードのような美男子レオナルド・ディカプリオだからこそ生きてくるギャツビーという男。

 そしてストーリーは時代背景とも実に良くあっている。たぶん時代を置き替えて描くことはできないだろう。世界恐慌直前の1920年代アメリカ。それもウォール街を擁するニューヨーク。日夜パーティに明け暮れ、狂乱を謳歌する上流社会と禁酒法の時代。自動車産業が大きく発展し、ジャズが広まり、現職の華やかなファションが花開き、チャールストンが流行した時代。素晴らしいセット美術と衣装の数々。そしてメイクも。見事だ。

 映画の作り方は、1930年代から、ヌーベル・バーグが台頭するまでの1950年代くらいの古い芝居がかったものをあえて取り入れているようだった。そして3Dはかなり立体感があり、効果は豪邸の広さがよくわかることだろう。とくにラスト、家具も無くなって人もいない屋敷に1人立つ姿は、だだっ広くて寂しさが強調されていた。しかし、必要があったのかといえば、ドラマには必要なかった気もする。ただし過去のヘタな3Dよりはずっと効果があったのは事実。

 ラスト、ニックが書き上げた(タイプで打った)原稿のタイトルに「ギャツビー」とあり、そこに手描きで「The Geat」と加えるところがなんとも良かった。ボクには「華麗なる」というより「偉大なる」という気はした。タイトルには向かないだろうが。

 銃は、第1次世界大戦の回想シーンで、ギャツビーがM1911ガバメントを持っていて、ガソリン・スタンドのオヤジが持ち出すのが5インチくらいのリボルバー。1974年版ではS&WのM1917が使われていたらしい。

 ジェイ・ギャツビーはレオナルド・ディカプリオ。謎の包まれた人物の初登場シーンで最高の笑顔でスローで振り返る感じは、黒澤明の「羅生門」(1950・日)の市女笠にベールを垂らした京マチ子のようで、ドキッとした。この誰でもを魅了してしまう最高の笑顔が出来る人は、レオナルド・ディカプリオ以外にわずかしかいないだろう。本作の前に残酷西部劇「ジャンゴ繋がれざる者」(Django Unchained・2012・米)で悪人をやっていたとは思えない変わりっぷり。もう40歳だというのに、どこかに幼さのようなものがあるのがスゴイ。

 ナレーターでもあるニック・キャラウェイはトビー・マグワイア。ほぼレオナルド・ディカプリオと同い年で、やはり幼げなところというか、頼りなさなのか、そんなところがある感じが、本作でも生きている。実際にディカプリオとは親友らしい。「スパイダーマン3」(Spider-Man 3・2007・米)前後から、プロデューサー業にも進出しているらしい。

 かよわそうな美女デイジーはキャリー・マリガン。まさにこの役にピッタリという感じ。キーラ・ナイトレイの「プライドと偏見」(Pride & Prejudice・2005・仏/英/米)で映画デビュー。イギリス生れで28歳。「パブリック・エネミーズ」(Public Enemies・2009・米)でハリウッド進出後、はかなげな人妻を演じた「ドライヴ」(Drive・2011・米)がまた良かった。

 女性プロ・ゴルファーの美女、ジョーダン・ベイカーはエリザベス・デビッキ。なんと劇場映画は本作で2本目らしい。ベテランのような堂々たる演じっぷり。女ボスのようにドカッと落ち着いていながら、ふてぶてしくなく妖艶さがあるのが素晴らしい。この時代のメイクや意匠がピッタリという感じ。今後注目かも。

 原作はF・スコット・フィッツジェラルドの同名小説。今回で5回目の映像化になるらしい。ニック・キャラウェイがフィッツジェラルドだという説もあるんだとか。「ベンジャミン・バトン数奇な人生」(The Curious Case of Benjamin Button・2008・米)の原作もこの人だ。

 脚本は、監督のバス・ラーマンとクレイグ・ピアース。クレイグ・ピアースはバスと同じオーストラリア出身で、2人組んで大ヒットした「ダンシング・ヒーロー」(Strictly Ballroom・1992・豪)以降ハリウッドへ進出し、「ロミオ&ジュリエット」(Romeo + Juliet・1996・米)、「ムーラン・ルージュ」(Moulin Rouge!・2001・米/豪)でもバズと一緒に仕事をしている。悲恋系がうまいのだろうか。

 監督のバス・ラーマンは脚本を書くことも多く、クレイグ・ピアースと良く組んでいる。ニコール・キッドマンとヒュー・ジャックマンが共演した西部劇のような「オーストラリア」(Australia・2008・豪/米/英)はピアースが書いていない。本作は「ムーラン・ルージュ」と「オーストラリア」が合わさった感じだろうか。時代感も素晴らしい。

 アートディレクターなのか、わからないが、額縁文字の中に入っていって、モノトーンからカラーになって物語が始まり、カーからモノトーンになって。文字からズームバックしてくるカメラワークによるタイトル・シークエンスも素晴らしかった。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指で金曜に確保。当日は10分前に開場になって、場内へ。若い人から中高年まで、わりと幅広い感じ。男女比はほぼ半々くらい。ただ、最終的に301席に2割程度の入りはビックリ。この話題作でこの入り? 関係者らしい人たちが3〜4人いたが、がっかりしたのではないだろうか。初日はドカンと入ったのだろうか。

 気になった予告編は……スクリーンが左右に広がってから、渡辺謙の「許されざる者」、ついに動画付きに。元殺し屋の渡辺謙を柄本明が呼びに来ると。9/13公開。

 怪獣とロボットが大暴れするらしい「パシフィック・リム」はすごい迫力。芦田愛ちゃんが結構目立っていた。ギレルモ・デル・トロ監督なので大丈夫だとは思うけど、「トランスフォーマー」にならなければいいのだが。8/9公開。

 「マン・オブ・スティール」はなんだか悩める男の部分ばかりが強調されているが、そんな暗い映画なのだろうか。ザック・スナイダー監督だし、絵はすごそうだし、ラッセル・クロウ、ケヴィン・コスナー、ダイアン・レインなんかが出ているし……8/30公開。

 古いワーナーのロゴから、アナログ・レコードのノイズの混じる曲が流れて本編へ。


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