Lawless


2013年6月30日(日)「欲望のバージニア」

LAWLESS・2012・米・1時間56分

日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(デジタル、Arri Alexa)/トルビー・デジタル、DATASAT(IMDbではSDDSも)

(米R指定、日R15+指定)

公式サイト
http://yokubou.gaga.ne.jp/
(全国の劇場リストもあり)

1931年、禁酒法施行下のアメリカ。バージニア州フランクリンは世界で最も酒の密造が盛んな地で、長兄のハワード(ジェイソン・クラーク)、次兄のフォレスト(トム・ハーディ)、三男のジャック(シャイア・ラブーフ)のボンデュラント3兄弟も密造酒を作っていた。そこへ、新任の検察官とその部下のシカゴ出身の特別補佐官チャーリー・レイクス(ガイ・ピアース)が赴任してくる。彼らは堂々とワイロを要求してきたが、ボンデュラント3兄弟が断ったことで、次々と嫌がらせを受けることになる。そんなとき、やはりシカゴから逃れてきた女マギー・ボーフォード(ジェシカ・チャステイン)が店で使ってくれと言ってくる。

75点

1つ前へ一覧へ次へ
 血まみれ、暴力満載の映画。かなり残酷描写もきつい。しかし実話に基づいた話で、ショッキングであるとともに、感動的でもある。愚かな「禁酒法」と、それに翻弄された人々。これを見ていると、諸悪の根源は「禁酒法」ではないかという気になってくる。合法だった酒をアンダーグラウンドにし、ギャングの資金源にしてのさばらせてしまった。そしてそれを取り締まる側に特権を与え悪徳捜査官を生んでしまった。

 さらには、ローリング・トゥエンティーズから続くギャングの暗躍、そして1929年に始まった大恐慌による不景気と閉塞感。それらが人々に大きな影を落としていたと。そんな時代感も良くでていた。街はまだ開拓時代そのままの雰囲気で、自動車が走っていなければ西部劇かと間違えそうなくらい。しかも山の中の田舎だし、多くの人が銃を持っていて、いざとなれば話し合いより先に手が出る。

 すごい話で、こんな時代に生まれなくて良かったとつくづく思うが、どうも一歩引いて考えてみると、すべてのトラブルの原因は三男のジャックのせいではないかと言う気がしてくる。こいつのバカのせいで大事になり、死人やけが人が出て、自分も負傷している。こいつがいなければ……。何も出来ないくせに粋がって、口だけで、色気だけ一人前で、とんだトラブル・メーカーではないか。そこだけが気になった。

 登場した銃器は当然クラシックなものばかり。ギャング映画の定番、トンプソンM1928、ガバメント、オフィシャル・ポリス、ディテクティブ、ウィンチェスターM12ショットガン、ウィンチェスターM97トレンチ・ガンなどのほか、三男のジャックがショート・バレル、ハンマーレスのトップ・ブレイク・リボルバーを使っている。 これはimfdbによるとハーリントン&リチャードソンらしい。初めて見た。そして、レイクスは金めっきにパール・グリップ付きの派手なS&Wミリタリー&ポリス4インチ(4スクリュー)、兄弟の店で酔っ払いが持っているのがSAAの10インチくらいのバントライン。ジャックの友人のクリケットはイギリスのウェブリー・リボルバーを持っている。またラストの撃ち合いで、密造業者の一団の中に変わったライフルを持っているヤツがいたなあと思ったら、imfdbによるとスティーヴンス・クラックショットという.22口径のライフルらしい。初めて見た。

 かなり珍しい銃も使っているのに、アーマラーの表記はなし。小道具係が兼任しているとも思えないが。

 長兄のハワードはジェイソン・クラーク。つい最近「華麗なるギャツビー」(The Great Gatsby・2013・豪/米)でガソリン・スタンドのさえない亭主を演じていた人。ちょっと不気味な感じが持ち味か。実話の「ゼロ・ダーク・サーティ」(Zero Dark Thirty・2012・米)では拷問をするCIAの諜報員をやっていた。

 次兄のフォレストはトム・ハーディ。ほとんどこの人が主人公という感じ。不死伝説が効いている。「インセプション」(Inception・2010・米/英)で注目され、「ダークナイトライジング」(The Dark Knight Rises・2012・米/英)ではずっと仮面をかぶっていて見えないものの、素晴らしい演技を恐怖を感じさせてくれた。完璧な悪役。本作で殴るとき手にはめるメリケン・サックがまた怖かった。

 末っ子のジャックはシャイア・ラブーフ。スピルバーグのお気に入りだが、「トランスフォーマー」(Transformers・2007・米)のせいかどうも好きになれない。しかし、こういう情けない役はピッタリの気がする。

 マギー・ボーフォードはジェシカ・チャステイン。本作ではフル・ヌードで頑張っている。もともとはTVで活躍していた人で、テレンス・マリック監督の「ツリー・オブ・ライフ」(The Tree of Life・2011・米)で注目され、「英雄の証明」(Coriolanus・2011・英)や「テイク・シェルター」(Take Shelter・2011・米)などアート系の作品が続いて、「ゼロ・ダーク・サーティ」(Zero Dark Thirty・2012・米)でエンターテインメント系で主演を果たす。そういう意味では本作はエンタ系2本目か。うまい。

 ジャックが惚れる神父の娘バーサはミア・ワシコウスカヤ。ダニエル・クレイグの戦争映画「ディファイアンス」(Defiance・2008・米)でも光っていたが、「アリス・イン・ワンダーランド」(Alice in Wonderland・2010・米)の主演で一気に花開いた感じ。本作もなかなかの存在感。

 最大の悪役レイクスはガイ・ピアース。この人は最近悪役が多い。本作では真ん中分けの髪の分け目をあえて剃っているようで、眉毛も剃って不気味さを出している。イギリス生れで「L.A.コンフィデンシャル」(・1997・)でハリウッド・デビュー。最近はリュック・ベッソン印のSFアクション「ロックアウト」(Lockout・2012・仏)でアウトローっぽいタフなヒーローを、「アイアンマン3」(Iron Man 3・2013・米/加)ではやはり悪の科学者を演じている。本作では憎たらしさが半端なかった。

 ギャングのフロイドはゲイリー・オールドマン。悪役が多い人だが、本作はチョイ役で顔見せという感じ。「ダークナイトライジング」では良い役で、トム・ハーディと共演している。本作では「レオン」(Leon・1994・仏)風にキレたら怖い悪役の片鱗をちらりと見せている。

 ジャックの友達で足が悪いクリケットを演じたのはデイン・デハーン。本作にピッタリという雰囲気。この人でなかったら成立しなかった役とも思えるほど。TVで活躍していたようで、つい最近「リンカーン」(Lincoln・2012・米)に出ていたらしい。

 原作は末っ子ジャックの孫、マット・ボンデュラントのThe Wettest County in the World。日本語版「欲望のバージニア」は集英社文庫刊。脚本はニック・ケイヴ。オーストラリア出身で、作曲家でもあり、本作の音楽も担当している。俳優としても6本ほどの作品に出ているらしい。脚本家としては3本目になる。「亡霊の檻」(Ghosts... of the Civil Dead・1988・豪)、西部劇の「プロポジション−血の誓約−(未)」(The Proposition・2005・豪/英)、そして本作とすべてジョン・ヒルコート監督とのコンビによるものだ。「プロポ……」にはガイ・ピアースはじめ、何人か本作の役者さんも出ている。

 監督はオーストラリア出身のジョン・ヒルコート。ミュージック・ビデオの監督から「亡霊の檻」で劇場映画監督デビュー、これが高く評価されて「プロポジション−血の誓約−(未)」を撮り、日本は劇場未公開だが、またまた高く評価され、ハリウッドで「ザ・ロード」(The Road・2009・米)を撮ったらしい。ただしこれはバッド・エンディング、後味の悪い映画の上位にランクされてしまったが。本作は、暴力満載ながらエンターテインメントとしていいできだと思うが、日本での公開劇場はとても少ない。さてつぎはどうなるか。

 公開 2日目の初回、銀座の劇場は全席指定で、金曜に確保。当日は20分前くらいに開場。全席指定とはいえ、並んでいる人がいるのに、平気で前に割り込んで入っていくオヤジがいてガッカリ。ほとんど中高年で、20代くらいは数人というところ。15分前くらいで40人ほどだったが、男女比は6対4で男性が多い感じ。最終的には350席の3.5〜4割くらいが埋まった。

 気になった予告編は……どれもタイトルが出るのが遅すぎ。最後に一瞬出るだけでは覚えられない。これは東映系の特徴なのだろうか。「ルームメイト」は北川景子と深田恭子の共演で、ハリウッド映画でもあった気がするが、それとは違うようだ。ティーザーなので内容はわからないが、ミステリーっぽい雰囲気。11/9公開。

 どれがタイトルか良くわからなかったが、実話の10代の犯罪者を描くらしい「THE BLING RING」。いつ公開かも良くわからなかった。なんのための予告なんだろう。調べたら12月公開らしい。日本の公式サイトはまだない模様。


1つ前へ一覧へ次へ