Kaze Tachinu


2013年7月21日(日)「風立ちぬ」

2013・スタジオジブリ/日本テレビ/電通/博報堂DYMP/ディズニー/三菱商事/東宝/KDDI・2時間06分

ビスタ・サイズ/モノラル

(一部字幕上映もあり)

公式サイト
http://kazetachinu.jp/
(全国の劇場リストもあり)

幼い頃から正義感が強く、飛行機にあこがれて大きくなった堀越二郎(声:庵野秀明)は、高校を優秀な成績で卒業すると東京大学に進学し、航空研究所に所属する。1923年9月1日、東京へ戻る列車に乗っていた堀越は関東大震災にあい、同じ列車に乗っていた美しい令嬢、里見奈穂子(声:瀧本美織)を助ける。やがて東京大学を卒業した堀越は、不景気の中、先輩の本城(声:西島秀俊)が就職した名古屋の三菱内燃機関に就職する。配属先は「はやぶさ班」で、すぐに直接の上司、黒川(声:西村雅彦)に認められると、上司の服部(声:國村隼)から本城とともにドイツ・ユンカースの視察を命じられる。20年は先を行くドイツの技術に圧倒されて帰国した堀越は、入社5年目にして、艦上戦闘機の設計チーフを任される。堀越はアイディアをまとめるため避暑地の軽井沢のホテルに投宿し、そこで里見奈穂子と運命の再会をする。

87点

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 泣いた。泣けた。我慢しようと思ったのに、歳とともに涙腺がゆるくなったらしく、両目から涙がこぼれてしまった。やっぱり悲しい物語だった。でも暗い悲しみだけの映画ではないし、なんだか希望があるというか、宮崎アニメらしく前向きの映画で、感動した。

 想像通り、死などは直接的に描かれていないし、それを泣き叫ぶ姿も直接的には描かれていない。だからなお心の奥にまでその悲しみは突き刺さり、その場で泣いてスッキリというぱたーんではなく、家に帰ってから思い出しても泣けるような、それでいて不幸でないような……。映画の全編にさわやかな風が吹いている。ファンタジーではないけれど、夢のシーンが多く、夢の中はファンタジーだ。ただ時代背景からか煙草のシーンも多いが。

 出会いなど、小さな、ハッピーなエピソードが実に宝石のように輝いていて、良い。126分はかなり贅沢な作り。登場人物のけなげな感じ、ひた向きな感じが良い。そして、ていねいな言葉遣い。それは上流階級だからということもあるだろうが(お嬢様と東大生だ)、やはり昔は言葉遣いがていねいだったのではないかと思う。1950年代くらいの日本のギャング映画なんかでも、悪役は乱暴な言葉を使うが、それでも今から見たら笑ってしまうくらいていねいだ。それがまた気持ち良くしてくれる。

 絵もきれい。タッチも色も、構図もすべて良い。見ていて気持ちが良い。わざと汚く作る人もいるが、たぶん良い映画は美しい。美しい飛行機のように。アスファルトがなく(実際には車が走ると砂利が飛んで、窓が割れたりほこりが舞ったりするのだが)、まだ馬も行き交う(実際には馬糞が大変なのだが)、緑の多い町。細かいところまで、よく描き込まれている。たとえば度の強い眼鏡を動かすと、レンズ内の絵はちゃんと歪んでいる。

 メインの曲が、予告の時や最初はきれいな曲にしか思えなかったのに、終わりの方ではとても悲しいものに聞こえるようになった。ユーミンの「ヒコーキ雲」はエンド・クレジットの時に流れるだけで(主題歌と表記されているが)、これも心に響くが、メインの曲が良い。たぶん久石譲の曲だと思うが、何という曲なのか。「旅路」だろうか。

 残念だったのは、主人公の声。やはり、せめて役者か声優でないとこれはつらい。聞き取りにくいし不自然。まだ「となりのトトロ」(1988・日)とか「耳を澄ませば」(・1995・日)はシロート声優の出番がそれほど多くないから良かったが、本作は主人公だからなあ。周りがものすごくうまいだけに、とても気になる。

 そして効果音。どうにも不自然なところが多かった。なんでも人間の声でやっているそうで、そう思えばうまいと思えるが、そう思わないと不自然。せめて夢の中のシーンだけなら納得できるし、効果的だったと思うのだが……。

 声の出演は、主人公、堀越二郎の妹、メイ的な加代は志田未来。ヒロイン里見奈穂子がイメージピッタリの「彼岸島」(2009・日)瀧本美織で、先輩の本城は「ストロベリーナイト」(2013・日)の西島秀俊。直接の上司、黒川が監督の分身っぽい短躯に眼鏡の「宇宙兄弟」(2012・日)西村雅彦。その妻が宮崎映画定番の姉御肌の黒川夫人の大竹しのぶ。さらに上の上司、服部が「アウトレイジ」(2010・日)の國村隼、菜穂子の父親が「綱引いちゃった!」(2012・日)風間杜夫、夢の中に出てくイタリア人飛行機デザイナー、カプローニが「のぼうの城」(2011・日)野村萬斎。そしてほんのチョイ役の二郎の母が「探偵はBARにいる」(2011・日)竹下景子。みんなイメージ通りでピッタリ。黒川以外はキャラクターの顔も似ていた気がする。J-WAVEのラジオDJサッシャはドイツ、ユンカース社のハンガーの警備の声をやっていた。

 原作、監督、脚本は宮崎駿。もはや横綱相撲という感じ。天才としか言い様がない。たぶんこの人が作っているから面白い。脚本だけではダメで、やっぱり監督もしないと、ということはあるような気がする。「コクリコ」とか「アリエッティ」とか。

 公開2日目、新宿の劇場の大きい劇場の方の初回、全席指定で金曜に確保した時点ですでに半分以上が埋まっていた。すごい人気。当日40分前くらいに着いたらすでに満席表示。下は小学生くらいから、上は中高年まで、非常に幅広い。メインは20〜30代くらいの若い人たち。男女比は4対6くらいで女性の方が多かった。外国人の方の姿もらほら。もちろん607席が満席。すごい。

 気になった予告編は……だいたい見た予告ばかりだったが、上下マスクの「ガッチャマン」の本気度はどれくらいなんだろうか。予告では微妙で、よくわからない。劇場次第かなあ。8/24公開。


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