Emperor


2013年7月27日(土)「終戦のエンペラー」

EMPEROR・2012・米/日・1時間47分(IMDbでは105分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、石田泰子、日本語監修:茶谷誠一/シネスコ・サイズ(レンズ、Hawk Scope)/ドルビー・デジタル、DATASAT

(米PG-13指定)

公式サイト
http://www.emperor-movie.jp/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

1945年8月30日、ボナー・フェラーズ准将(マシュー・フォックス)は、上官のダグラス・マッカーサー元帥(トミー・リー・ジョーンズ)とともに、厚木基地に下り立つ。マッカーサーは爆撃を免れた第一生命ビルにGHQ司令部を置くと、フェラーズとリクター少将(コリン・モイ)に戦争犯罪者の捜査を命じる。特にフェラーズは天皇に戦争責任があるか10日以内に報告書を提出するように命じられる。専属の通訳兼ドライバーとして高橋(羽田昌義)が配属され、フェラーズは高橋に極秘で生き別れとなった恋人アヤ(初音映莉子)を探すよう依頼する。関係者が次々と自殺する中、フェラーズは天皇を救うため、同じく自殺を図って失敗した巣鴨プリズンの東條英機(火野正平)から、真実を知っている者の名前として前首相の近衛文麿(中村雅俊)の名を得る。

75点

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 IMDbでは6.1点の低評価。しかしボクには良かった。派手さはないが誠実で丹念な作りに好感が持てた。そしていろんな人々の思いに感動した。当然アメリカ人には面白くないだろうし、大きな事件があるわけでも無く、どうでもいいことかもしれない。興味が持てないだろう。

 原作は日本の岡本嗣郎「陛下をお救いなさいまし河井道とボナー・フェラーズ」(集英社)だが、占領軍のアメリカ軍、しかも日本に同情的な軍人から見た日本という形。精いっぱい理解しようと務めている。戦争犯罪者の捜査、なかでも天皇の戦争責任を問えるかという地味な捜査を縦糸に、主人公と日本人女性の恋を横糸に描くドキュメンタリー的終戦秘話。

 多くは捜査の場面なので、主要人物以外は顔見せ的なちょっとだけ出演。そこが惜しいところがだ、構成上しようがない。それぞれが個性的で存在感があるから、いかにもちょっとだけのゲスト出演みたいになってしまった。

 同僚に日本人を憎むライバルがいるのも良いし、少年たちに石をぶつけられたり、巷の安飲み屋で日本人の軍人崩れの愚連隊に襲われるのも良い。不気味なパンパンや、焼け野原で何もない東京の風景もすごい。住所などなんの役にも立たなかったとナレーションで言っている。そしてマッカーサー元帥が大統領選に出馬するために日本の占領戦略やマスコミを利用したというのもいい。ラスト、エンド・クレジットで本当の関係者がその後どうなったか出るが、それも興味深い。ボナー・フェラーズは1971年、日米親善に尽したとして日本政府から勲二等瑞宝章が授与されているという。

 そのボナー・フェラーズ准将を演じたのはマシュー・フォックス。人気TVドラマ「LOST」(2004〜2010・米)のメイン・キャスト。映画では時間逆転ドラマ「バンテージ・ポイント」(Vantage Point・2008・米)で重要な役を演じていた。最新作は近日公開の「ワールド・ウォーZ」(World War Z・2013・米/マルタ)らしい。

 マッカーサー元帥はトミー・リー・ジョーンズ。最近映画出まくりで、2012年には4本も出ている。「メン・イン・ブラック3」(Men in Black 3・2012・米/アラブ首長国連邦)、「31年目の夫婦げんか」(Hope Springs・2012・米)、本作、そして「リンカーン」(Lincoln・2012・米)。でも日本では宇宙人ジョーンズの方が有名かも。

 恋人アヤは初音映莉子。話題となった「ノルウェイの森」(Norwegian Wood・2010・日)に出ていたらしい。ボクが見たのは伊藤潤二のホラー漫画が原作の「うずまき」(2000・日)。本作では実に良い感じだったので、今後の活躍を期待したい。新作は「ガッチャマン」(2013・日)らしい。

 通訳兼ドライバーの高橋は羽田昌義。「嫌われ松子の一生」(2006・日)に出ていたらしい。またトム・クルーズの「ラストサムライ」(The Last Samurai・2003・米)ではスタントで参加しているとか。最新作はキアヌ・リーブスの「47 RONIN」(47 Ronin・2013・米)。

 ほかにもたくさんの日本人キャストが登場するが、ほとんどチョイ役で顔見せという感じ。宮内次官の関谷貞三郎を演じた夏八木勲は、本作では元気な姿を見せているが、このあとの「永遠の0」(2013・日)が遺作になるらしい。

 脚本はデヴィッド・クラスとヴェラ・ブラシの2人。デヴィッド・クラスは、公式サイトによると、イギリス生れで、1983〜1985年にかけて日本の高校に勤めていたことがあるという。サイコ・キラーを描いたモーガン・フリーマンの「コレクター」(Kiss the Girls・1997・米)、マイケル・キートンが殺人鬼を演じた「絶体×絶命」(Desperate Measures・1998・米)なども書いているが、実話に基づくドウェイン・ジョンソンのアクション「ワイルド・タウン/英雄伝説」(Walking Tall・2004・米)も書いている。TVドラマの「LAW & ORDERクリミナル・インテント」(Law & Order: Criminal Intent・2001〜2011・米)の2010年版シーズン9では、ライターとプロデューサーを務めているらしい。なるほど、なんだか納得できる気がした。

 ヴェラ・ブラシはブラジル生れで、ペネロペ・クルスのラブ・ストーリー「ウーマン・オン・トップ」(Woman on Top・2000・米)を書いている。おそらく、本作ではフェラーズ准将とアヤのラブ・ストーリー部分で力を発揮したのではないだろうか。

 監督はピーター・ウェーバー。イギリスでTV映画を多く手掛けたあと、スカーレット・ヨハンソンの「真珠の首飾りの少女」(Girl with a Pearl Earring・2003・英/ルクセンブルク)で劇場長編映画デビュー。その後、日本のテイストがちょっと混じっている人気リーズの第4作「ハンニバル・ライジング」(Hannibal Rising・2007・英/チェコほか)を撮っている。その流れから本作か。ドキュメンタリーも良く撮っているようで、本作でも証言を重ねて事実を浮き彫りにする感じが良い。冷静な視点というのがこの監督の特徴なのかもしれない。

 銃は、東條英機が自殺に使うのがコルト・ポケット(M1903かM1908)。アメリカ兵はM1917リボルバー、ガバメント、トンプソン、M1カービンなど。日本兵はたぶん三八式歩兵銃。

 公開初日の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保。12〜13分前に開場し、場内へ。観客層は、ちょっと若い人もいたがほとんど中高年。特に高齢者が多い感じ。男女比は6対4くらいで男性が多かった。最終的には301席の9.5割くらいが埋まった。これは立派。関係者らしい一団が4〜5人。

 気になった予告編は……日本映画の「人類資金」はようやく動画付きの予告へ。しかし内容は良くわからない。M資金を盗み出す話らしい。10/19公開。

 人気アニメの続編「劇場版TIGER & BUNNY The Rising」が作られるらしい。日本映画なのに、タイトルがすべて英語って? 映画版は見ていないが、TV版では話は終わってしまっていたのでは? なんだか金ぴかのキャラが登場しているようだ……。2014年2/8公開。

 「武士の献立」は料理の苦手な武士と、そこに嫁いだ料理上手な妻の物語らしい。コメディか? 12/14公開。

 90歳になってから詩を書き始めて話題となった柴田トヨさんの実話の映画化「くじけないで」は、八千草薫主演。テレビネタっぽい気がするが、映画にするか。11/16公開。

 スクリーンが左右に広がり、暗くなって本編が始まったら、隣のジジイが早くも寝ていていびき……。あきれた。何しに来ているんだろ。


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