Unforgiven


2013年9月15日(日)「許されざる者」

Yurusarezaru mono・2013・ワーナー・ブラザース映画・2時間15分

シネスコ・サイズ(レンズ)/ドルビー・デジタル

(米R指定、日PG12指定)

公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/yurusarezaru/
(全国の劇場リストもあり)

1869年(明治2年)、幕府側の兵士として戦い「人斬り十兵衛」と恐れられた釜田十兵衛(渡辺謙)は北海道に逃げたが、執拗に追手が追ってきていた。1880年(明治13年)、北海道の小さな寒村、鷲路村の娼館「秋山楼」で開拓民の兄弟、堀田佐之助(小澤征悦)と宇之助(三浦貴大)がナイフで娼婦なつめ(忽那汐里)の顔をめった切りにするという事件が発生する。しかし警察署長の大石一蔵(佐藤浩市)は、兄弟が元武士であることなどから、軽い罪で済ませてしまう。これに怒った娼婦たちは金を出しあい、兄弟に1,000円の賞金を掛ける。腕に覚えのある者たちが鷲路村に向かう中、妻を3年前に無くし、痩せた土地で2人の子供を育てて行くのに限界を感じていた十兵衛の前に、かつての戦友、馬場金吾(柄本明)が現われ、賞金は折半、一緒に鷲路村へ行こうという。

77点

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 まさに西部劇。舞台は日本に置き変えてあるが、北海道(蝦夷地)はアメリカの西部開拓時代の西部で、色んな季節があって、広大な荒野が広がっており、厳しい自然があって、雄大な夕日が望める。開拓民の村もあるし、旧幕府軍で逃げてきた者や、屯田兵、先住民=アイヌもいる。

 当たり前だが、ほぼストーリーはクリント・イーストウッド監督のオリジナル版「許されざる者」(Unforgiven・1992・米)と一緒。似たような構図も随所に。絵作りが素晴らしい。ただ日本が舞台になっている分、ウェットにはなっている感じ。「ダーティハリー」(Dirty Harry・1971・米)のくだりがあるのは、イーストウッドへのオマージュということだろう。敵に銃を構えさせておいて「弾が気になるか。俺にもわからん。どっちだったかなあ」。

 さすがに2時間を超える長尺だと、町というか村へいたる道のりがちゃんとした旅になっている。ロードムービーのよう。見ごたえがある。事件が起きて、旅があって、村でも色んなことが起きて、ラストに凄絶な殺し合いがある。そして北海道の雄大な四季の自然も美しく捕えられている。

 当初、残虐な仕打ちを受けた娼婦のために立ち上がる正義の味方のように見えるが、実は子供たちを食わせるためであってもそれは金目当てであり、しかも主人公は過去に多くの人を殺し逃げている身。手配されているのかどうかはわからないが、今は改心した、むしろ犯罪者。一方、当初は敵でもなんでもないが、途中から敵となってしまうのは、村を守る保安官(日本的には警察署長)で、少々やり方は暴力的だが、悪を許さない、取り締まる側の人間。冷静に考えたら、どっちが悪者かと。ただ途中から犯罪者たちは人助けの良い人になり、官憲側は取り調べがエスカレートし、ついには人をあやめてみずから犯罪者となってしまう(当時の法制度では犯罪にならないのかもしれないが)。しかし、法によらず、個人によって裁きを下せば、それは犯罪となってしまう。主人公が家にもどれないのも当然ということになってしまう。ただ「買って生き残った男が正義になる」と。この辺の構造もオリジナルどおりで、日本に置き替えても破綻せずに見せてくれる。

 ただ、さすがに暴力表現は、普通のアクション映画ではないので、リアルで恐ろしい。やられる方も簡単にはやられず、逃げ、のたうち、抵抗する。弾は肉を破り、刃は体に食い込み、骨が飛び出し、血が噴き出す。怖い。そして強烈。感情の爆発がある。ラストは泣ける。子供たちのため、こうするしかないと。娼婦たちの悲しみ、アイヌの悲しみ。赤貧の暮らし。北海道の、そして開拓者の過酷さ、悲しさが伝わってくる。

 オリジナルではイーストウッドが演じた主人公は渡辺謙。ハリウッド・スターになったので日本の作品には出ないのかと思ったら、そんなことはなかった。TVにも映画にも出ている。映画は何本も作られた「はやぶさ」ものの1本、「はやぶさ遥かなる帰還」(2012・日)。過去に「硫黄島からの手紙」(Letters from Iwo Jima・2006・米)でイーストウッド作品に出ていることもあって、本作の許諾が出やすかったのかもしれない。さすが世界的な名優、うまい。

 オリジナル版でモーガン・フリーマンが演じた相棒となる馬場金吾は柄本明。もともとうまい人なのだろうが、本作では特に良かった気がする。実に自然。演技っぽくないというか。情けないふんどし姿もよかった。近作では「飛べ!ダコタ」(2013・日)〈フェニックスじゃないんだ……〉や「利休にたずねよ」(2013・日)にも出ているらしい。しかし、志村けんとコントをやっているのが強烈で、とても同じ人とは思えない。使っていた銃はたぶんウィンチェスターのM92。なかなかリアルだったが、狙撃のシーンで、近距離だったかもしれないが、リア・サイトのスライダーを親指で持ち上げていたら完璧だったのに。オリジナル版はスペンサー・カービン。

 本作で特に素晴らしかったのは、オリジナル版でイーストウッドを誘いに来る若いガンマンスコフィールド・キッドに相当する沢田五郎を演じた柳楽優弥。14歳で「誰も知らない」(2004・日)でカンヌ映画祭の男優賞に輝いた実力派。本作ではどちらからも差別を受けるアイヌと和人のハーフであり、なおかつ見栄を張って「5人殺している」とウソをつく微妙な役どころ。実に説得力があった。太い眉、頬まであるヒゲなどは特殊メイクだろうが、見た目はもちろん雰囲気まで先住民という感じがあふれていた。「星になった少年」(2005・日)にも出ていたが、アート系が多いようで、ボクのようなミーハー系はあまり見かけないのが残念。使っていた銃はオリジナル役に敬意を表したのかS&Wのスコーフィールド。

 そして悪役として素晴らしかったのがオリジナル版でジーン・ハックマンが演じたシェリフの大石一蔵役の佐藤浩市。ボク的にはいままで見た中でベスト3入りする演技ではないだろうか。役にはまっていたし、セリフという感じが薄く、佐藤浩市感も薄かった。「アンフェアthe answer」(2011・日)や「のぼうの城」(2011・日)に出ていた。近作は「人類資金」(2013・日)と「清須会議」(2013・日)か。よく映画に出ている。使っていた銃はコルト・ネービーらしいパーカッションとスプリングフィールドぽいライフル(トラップドア?パーカッション?)。しかし、日本刀で銃を持った相手とにらみあい、気迫で勝ってしまうところは説得力があり、怖くて良かった。

 ひとりきれいな顔で生活感の全く無い娼婦、なつめを演じたのは忽那汐里。顔にナイフの傷が多数あるにも関わらず、きれい。あえてそうしたのだろうが、傷が全く怖くなく、気にならないから、これで商売に死傷があるとは思えなかった。もっとむごたらしい傷にすれば良かったのに。TVにも良く出ていて、ボク的にはどうしても多くのCMの印象が強い。帰国子女ゆえか、明るく元気なイメージがある。

 娼婦のリーダー的存在のお梶は小池栄子。オリジナル版ではフランシス・フィッシャーが演じていた訳だろうか。ほとんどすっぴんという感じで、なつめと正反対で生活感があふれていた。そして馬場金吾とのことのあと、股間を手拭いで拭くのがなんともリアルで衝撃的ではあった。たぶんノーブラでの熱演。映画にも良く出ているが、メジャー作品で印象に残っているのは、残念な「20世紀少年」(2008・日)あたりか。

 オリジナル版でリチャード・ハリスが演じた格好はさまになっているが、ハッタリで生き抜いてきたような賞金稼ぎイングリッシュ・ボブに相当する北大路正春は國村隼。いい味を出していた。後半でシェリフから正春と呼び捨てにされる感じが実に良かった。ボコボコにされた特殊メイクもすごかったし。ボク的には「オーディション」(2000・日)以来のファン。

 オリジナル脚本を翻案し監督したのは李相日(リ・サンイル)。新潟県生れで、同じ新潟の渡辺謙とは気が合ったのかもしれない。卒業制作した作品がぴあフィルムフェスティバルで高く評価されてプロ・デビュー。村上龍原作の「69 sixty nine」(2004・日)〈國村隼が刑事役で出ている〉や、大ヒット作「フラガール」(2006・日)、モントリオール映画祭で深津絵里が最優秀女優賞を受賞した「悪人」(2010・日)〈柄本明が殺された娘の父役で出ている〉などを手掛けている。特に感情の伝え方がうまい気がする。すごい才能だと思う。

 銃器はほかに火縄銃なども出てくる。しかし、何より、体に食い込むに本当が怖い。銃器特殊効果はエンド・クレジットから見つけられなかった。ただ協力にはCAWとあったので、モデルガンなどを提供しているのだろう。予告ではモデルガンの生音という感じだったが、さすがに本編では大きな音がつけられていて、重く迫力があって良かった。

 公開3日目の初回、新宿の劇場は、大雨の影響もあり、場内で靴を脱いでいるヤツも。観客層は若い人もいたが、中高年というよりやや高齢者が多い感じ。女性は50人くらいの中で10人弱くらい。最終的には若い人も少し増えて、301席に5割くらいの入り。これはちょっと少ないかも。

 気になった予告編は…… 上下マスクの「キャプテン・フィリップス」はトム・ハンクスの主演で、アフリカのソマリア沖の海賊に捕われた男を描くものらしい。予告だけで犯人に腹が立つ。11/29公開。

 上下マスク「42〜世界を変えた男」は、予告なのに何回見ても感動的。今は皆が讃えているのに、当時は強烈な人種差別にあった。ハリソン・フォードがいう「やり返さない勇気を持て」と。泣きそう。11/1公開。


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