Byzantium


2013年9月21日(土)「ビザンチウム」

BYZANTIUM・2012・英/米/アイルランド・1時間58分

日本語字幕:黒フチ丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(デジタル、Arri)/ドルビー・デジタル、DATASAT

(UK15指定、米R指定、日R15+指定)

公式サイト
http://www.byzantium.jp/
(情報少ない。全国の劇場リストもあり)

誰にも話せない秘密を抱えた少女エレノア・ウェッブ(シアーシャ・ローナン)は、それを物語のようにノートに書いては捨てていた。彼女は実は吸血鬼で、死期の迫った老人にだけ「光へ導く」として血を吸い穏やかな死をもたらしていた。一方、母親のクララ(ジェマ・アタートン)は娼婦をしながら2人の生活費を稼ぎ、悪い男の血を吸い殺していた。そしてその度に2人で引っ越しをしていた。ある港町へたどりついたとき、エレノアは同じくらいの歳の少年フランク(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)と知り合う。クララはたまたま客としてやってきた男ノエル(ダニエル・メイズ)が廃業したホテルを持っていることを知ると、そのホテルで娼館を営むことを思いつく。しかし、2人の後を謎の二人の男たちが追っていた。

73点

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 血の物語。血液の血であり、血族の血でもあり、食料としての血、そして女の血。各所に血をイメージした赤が配置されている。さすがニール・ジョーダン監督。衝撃的で、生々しい。ただ。この話をそのまま普通にハリウッドでハリウッドの監督が撮ったら、チープなファンタジーになっていたような気はする。この重さと、暗さ、そして切なさ、リアル感をともなった不思議な異世界感は出せないだろう。

 話自体は荒唐無稽。トンでも吸血鬼ストーリー。ありえない話で、一歩間違えば「ぷっ!」と吹き出してしまいそうになる設定。それなのにちゃんと感情が伝わってきて、彼女を応援したくなる。

 そして絵作りのうまさ。首が飛ぶとか、娼館の変態野郎など、エロ・グロのどぎつい表現もあちこちにあるが、映画的な絵としてうまくまとめられしている。特にスゴイのは、ある儀式によって、幅広い滝がみるみる真っ赤に染まって行くシーン。これは衝撃的だった。むしろこのシーンを撮りたくてこの映画を作ったとか。んなことはないか。

 ただつじつまが合わないと言うか、良くわからないところもある。200年も生きてきて、歳も取らないのに、なぜ今さら子離れで、独立させるのか。必要ないじゃん。やるならもっと早くやればいいのだし、歳を取らないのなら面倒を見る必要さえないのでは。死なないし。

 少女エレノアはシアーシャ・ローナン。注目された「ラブリーボーン」(The Lovely Bones・2009・米/英/ニュージーランド)は作品がちょっと暗く残念なものだったので、そんなイメージが付いてしまった感じ。そのあとも明るい役はなく、殺し屋を演じたアクションの「ハンナ」(Hanna・2011・米/英/独)も、面白かったが暗い役で、さらにそのイメージが加算されてしまった。本作も暗い。もっと作品に恵まれればという感じ。

 娼婦の母という汚れ役を堂々と演じたのはジェマ・アタートン。「007/慰めの報酬」(Quantum of Solace・2008・英/米)に途中でやられる味方のボンド・ガールを演じていた人。その後ギャング映画「ロックンローラ」(RocknRolla・2008・英/米)や、海賊ラジオ局を描いた「パイレーツ・ロック」(The Boat That Rocked・2009・英/独/仏)、残念なリメイクの「タイタンの戦い」(Clash of the Titans・2010・米)、残念なゲームの映画化「プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂」(Prince of Persia: The Sands of Time・2010・米)などに出ている。最初は良かったのに、やはり作品に恵まれていない気はする。

 エレノアの恋人となるは、いかにも病気そうなケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。人気シリーズ「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」(X-Men: First Class・2011・米)や、マーク・ウォールバーグのアクション「ハード・ラッシュ」(Contraband・2012・米/英/仏)でダメな義理の弟を演じていた人。スター的ではないが自然な感じがいい。

 原作の戯曲と脚本(IMDbではテレプレイとあった)はモイラ・バフィーニ。イギリス生れの女性で、ジェマ・アタートンが主演した日本劇場未公開「タマラ・ドゥルー〜恋のさや当て〜」(Tamara Drewe・2010・英)の脚本や、「ジェーン・エア」(Jane Eyre・2011・英/米)などを書いている。

 監督はニール・ジョーダン。すでに「狼の血族」(The Company of Wolves・1984・英)で狼男の血の問題を描いていた。その後ボクは面白かったファンタジーの「プランケット城への招待状」(High Spirits・1988・英/米)や吸血鬼ストーリー「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(Interview with the Vampire: The Vampire Chronicles・1994・米)を撮っていて、それらが本作につながるが、テロリストを描いた衝撃的傑作「クライング・ゲーム」(The Crying Game・1992・英/日)や、アイルランドの独立闘争を描いた「マイケル・コリンズ」(Michael Collins・1996・英/アイルランド/米)などの社会的なドラマも撮っている。最近では自衛のため銃を手に取った女性を描いた「ブレイブワン」(The Brave One・2007・米/豪)があるくらいで、ちょっとパッとしなかった感じ。本作はやはり傑作「クライング・ゲーム」の片鱗が伺える。

 公開2日目の初回、六本木の劇場は全席指定で、15分前くらいに開場。2番目に少ない客席数だがスクリーンは割と大きめなので、小さいという印象はない。若いカップルから中年カップルとカップルが多めながら、やはり中高年のオヤジは多い。男女比は6対4くらいで男の方が多かった。最終的には108席に6割くらいの入り。比率としては悪くないが、もともと客席数が少ないからなあ。悪くない作品なのに……。

 気になった予告編は……あかるいまま始まったニュースで、何と「キック・アス2」が来年2月に公開されるという。ちょっと大人になったクロエ・グレース・モリッツが色っぽくなって、前作のようなキレのあるアクションがこなせるのかどうか。楽しみに待ちたい。

 「陽だまりの彼女」は山下達郎の曲だけが気になる。いい雰囲気。10/12公開。

 「ジャッジ」は日本映画で、コミックが原作らしい。密室、7人の罪人、獣のマスク、多数決……なんだか「インシテミル7日間のデス・ゲーム」(2010・日)的な雰囲気。うーむ。1/11公開。

 それにしても、老若男女、関係なくケータイを場内で使い過ぎ。外でやれ。遠くでもまぶしい。じゃま。平気で懐中電灯代わりにするヤツもいるし……。


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