Kyouaku


2013年9月29日(日)「凶悪」

2013・日活/ハピネット・2時間08分

ビスタ・サイズ/音響表記なし(サラウンド)

(日R15+指定)

公式サイト
http://www.kyouaku.com/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

雑誌「明潮24」の記者、藤井修一(山田孝之)は、上司の芝川理恵(村岡希美)に、東京拘置所の死刑囚から編集部に届いた手紙について、直接本人の話を来て生くるように命じられる。面会に行くとその手紙の主、須藤純次(ピエール瀧)は、誰にも話していない殺人が3件あると言う。そのすべての首謀者が先生と呼ばれていた男、木村孝雄(リリー・フランキー)で、シャバでのうのうと暮らしているから、ぜひ記事にして追い詰めてやりたいと。上司の芝川は須藤の言うことが曖昧で、記事にできないと言うが、藤井自身も疑いつつ、調査を進める。すると、やがて曖昧な証言に合致する人物や場所が判明してくる……。

73点

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 凶悪、というか狂気。悲惨というか、気持ち悪く、おぞましくて、醜悪。人をただ殺すのでは無く、リンチにかけていたぶって殺す恐ろしい場面に立ちあわされてしまったような居心地の悪さ。実話だというのがさらに恐ろしくさせる。これを見ると、TVでもやっていたが「尼崎連座続殺人事件」はどんなに恐ろしい事件だったのか、思わざるを得ない。

 人を殺すことをなんとも思わない人間がいて、こともなげに殺人を犯す。その恐ろしさもあるが、老人問題もついてきて、観客は二重に脅されることになる。さらに仕事優先で家庭をかえりみない主人公と妻の離婚の危機まで。どんどんストレスがたまる。鑑賞ポイントが貯まったいたから、それで見たが……。ちょっと「ファーゴ」(Fargo・1996・米/英)を思わせるところがないでもない。

 暗い話が暗い画調で描かれる。しかも画質があまり良くなく、デジタルなのだろうが、粒状感があって、低コントラスト。つねにベールが一枚かかったようなモヤっとした絵がまたストレスになる。超低予算だったんだろうか、それとも居心地の悪さの演出の1つか。

 記者の藤井は山田孝之。素晴らしい暗さ。見ていてどんどん気持ちが落ちていく。暴力的な役とか、こういう暗い役が多い。2000年くらいから活躍していて、TVより映画の出演が多い。大きく注目されるようになったのは「電車男」(2005・日)あたりか。ボクが最近見たのは「悪の教典」(2012・日)。コメディの「荒川アンダーザブリッジTHE MOVIE」(2011・米)にも出ていたようだが、見ていない。コメディでは印象が薄い気がする……。

 とんでもなく恐ろしいヤクザ須藤はピエール瀧。NHKのTVドラマ「あまちゃん」(201 3・日)とは対照的な役だが、顔の印象がゴツイので、やはりこういう役は迫力があって恐ろしい。この人が怒ったら怖いんだろうなあ。「ALWAYS三丁目の夕日」(2005・日)シリーズでは人の良さそうな役だったが。さすが役者。

 ピエール瀧ほどではないが、同様にじわーっと怖いセンセイこと木村はリリー・フランキー。イラスト、音楽など多方面で活躍している人で、最近良く映画に出ている気がする。最新作は、カンヌで話題となった「そして父になる」(2013・日)。

 記者・藤井の妻の洋子は池脇千鶴。なんだか、こんなかわいそうな女性の役が多い気がする。やはりTVより多くの映画に出ている。近作は「舟を編む」(2013・日)あたり。暴れはしないけれど。じわーっと真綿で首を絞めてくるような感じが怖い。

 電気屋の不気味なばあさんは白川和子。ボクらの年代にはどうしても「団地妻」的な日活ロマンポルノの印象が強いが、さすがベテランの貫録。出てくるだけで怖い。

 ほかにあまり有名な俳優が出ていないのも、本作には向いていていい。みな演技はうまいし自然で、リアルさがより高まる。九十九一は久しぶりに見た気がする。TVのゲスト出演は多かったようだが。素晴らしかったのは、拷問でアル中にされるじいさんを演じたジジ・ぶぅ。57歳くらいなのに75歳くらいに見えるし、じんさん感がハンパない。すごいなあ。こういう人をもっと使えば良いのに。WAHAHA商店で芸人をやっているらしい。映画はほとんど知らないものばかりで、近作で聞いた事があるのは「月光ノ仮面」(2011・日)。

 原作は新潮45編集部編『凶悪 -ある死刑囚の告発-』(新潮文庫刊)。それを脚本にしたのは高橋泉。「ソラニン」(2010・日)や「ランウェイ☆ビート」(2010・日)、「LOVEまさお君が行く!」(2012・日)、「100回泣くこと」(2013・日)などを書いている。本作はこれまでの作品とは全く違うので、さすがというほかない。見事なバイオレンスと恐怖。夫婦の別れ話と介護の問題がかろうじてつながるか。

 監督は白石和彌。何本かで脚本の高橋泉と仕事をしている。若松孝二監督や行定勲監督の助監を経て「ロストパラダイス・イン・トーキョー」(2009・日)で劇場長編作品監督デビュー。ボクはいずれも見たことがなく、本作が初見。この後どんな作品を撮るか注目だ。

 公開9日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、10分前くらいに開場。予想どおりほぼ中高年で、若い人は少なかった。女性も少なく2割ほど。最終的には157席に7割くらいの入り。思っていたより多かった。落ち込みそうな映画なので、ボクはポイントが貯まっていたから見たけど。

 上下マスクの「死霊館」は、監督が「1」以外残念な「ソウ」(Saw・2004・米/豪)シリーズのジェイムズ・ワンなのでどうかと思ったが、海外での評判はとても良いようだ。調べて見ればジェイムズ・ワンは面白かった「1」しか監督していない。あとは製作総指揮のみ。でも「デッド・サイレンス」(Dead Silence・2007・米)は残念だったしなあ……。実話の映画化だから大丈夫か。予告ではかなり怖そうで、科学者も出てきてトンデモ話にはならないようだし……。ただ邦題がヒドイ。いかにもBC級のダメダメ映画の雰囲気。10/11公開。


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