Jinrui Shikin


2013年10月20日(日)「人類資金」

2013・木下グループ/松竹/テレビ東京/講談社/ハピネット/ギーク・ピクチュアズ/GyaO! /КИНО・2時間20分

ビスタ・サイズ/ドルビー・デジタル


公式サイト
http://www.jinrui-shikin.jp/
(全国の劇場リストもあり)

1945年、憲兵の笹倉雅実(ささくらまさみ)大尉は日本銀行から秘匿されていた金塊600トンを盗み出すと、未来の戦争のために使うと称して弾薬箱に隠し船に乗せて消える。戦後、アメリカと日本は財団を作り通称「M資金」として運用してきたが、一般には存在しないと思われていた。そして2014年、「M資金」詐欺を働いていた真舟雄一(まふねゆういち、佐藤浩市)の前に、謎の若者、石優樹(せきゆうき、森山未來)が現われ、ある男たちの前に連れて行く。その男たちとは自称M(香取慎吾)と本庄(岸部一徳)。「M資金」は本当に存在し、それを盗み出さないかという。金額は10兆円、報酬は50億円。Mは紙幣経済のルールを変えたいと、そして一緒に世界を救って見ませんかと誘う。

73点

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 よくわからない。ボクの頭では、マネー・ゲーム的なものは良く理解できない。金本位制とか、財団、株取り引き、投資ファンド、国債……それらの仕組みというかからくりがわからないと映画の意味がわからない。たぶん2時間ほどの映画で描くには、専門的すぎて、奥が深くて、壮大すぎるのではないだろうか。本なら充分説明してから次へいけるし、わからなくなったらもどって読み直せばいいが、映画は一方通行で止められない。TVで何回かに分けてじっくり描いていく作品なのではないだろうか。原作は読んでいないのだが。

 しかも、狙いなのか、画質が悪い。古い映画のよう。暗い中で撮影したためなのか、フィルムの粒状性が目だち、どうにもすっきりしない。いまのハイビジョンならもっとずっときれいな絵が撮れるのではないだろうか。これもわからないことに加えてストレスになる。

 わからないから、ラストの演説がちっとも理解できない。感動的な内容らしいが、なぜ国連の各国代表がアメリカの脅しにも関わらずもどってくるのか。しかも英語の演説で日本語字幕だから、より入ってこない。なぜ、PDAがルールを変えることになるのか。PDAだって製造から、送付まで、いろいろお金がかかることに違いはない。何をやるにもお金が掛かるのでは? 頭の良い人でないと……。ラストのラスト、日本の国債が値上がっているの? 値下がっているの? ちょっとしか出ないのでわからなかった。なぜアリガト・ジャパンなの?

 話の展開は、第二次世界大戦が終わる1945年からちょっと先の2014年までにわたり、しかも日本から始まって、ロシア、カペラ共和国、アメリカ……と世界中を回り、壮大な冒険物語という感じなのは素晴らしい。格闘技アクションもあるし、銃も出てくるし、スパイみたいな殺し屋みたいなヤツも出てくるし、いい感じ。これで物語がちゃんと理解できれば……。

 キャストはほとんどオール・スター・キャスト。豪華過ぎ。ほんのちょい役でも有名俳優が出ている。メインとなるのは詐欺師の真舟雄一を演じた佐藤浩市と、石優樹を演じた森山未來。

 佐藤浩市はつい最近「許されざる者」(2013・日)に出ていたばかり。近日公開の「清州会議」(2013・日)にも出ている。個性が強くどれも佐藤浩市という感じだが、最近特に自然体で良い感じがする。

 森山未來はあまりボクが見ない映画に良く出ているようだが、いま注目の俳優の1人であることは確か。若手という印象だが、1984年生れというから29歳。ボクが見たのは「ALWAYS三丁目の夕日'64」(2011・日)の星野六子の恋人役くらい。アクションもできるとは意外。

 殺し屋役で破格の怖さがあったのは、ほとんどしゃべらないCIAの遠藤治役のユ・ジテ。最近はパッとしない感じだが、これまで「アタック・ザ・ガス・ステーション!」(Attack the Gas Station!・1999・韓)、「オールド・ボーイ」(Oldeuboi・2003・韓)、「親切なクムジャさん」(Kind-Hearted Ms. Geum-Ja・2005・韓)、「美しき野獣」(Running Wild・2005・韓)など話題作すべてに出ていた。本作ではハーフ・カラーのサングラスを掛けて嫌らしさをより出している。さすがにアクションは素晴らしく、本作で誰よりもキレが良かった。クレジットによればユ・ジテ専任のアクション指導が付いていたらしい。

 人類資金を陰で操るハロルド・マーカスはヴィンセント・ギャロ。キーファー・サザーランドが獲得した「気まぐれな狂気」(Truth or Consequences, N.M.・1997・米)など、初期は悪役が多かったが、「バッファロー'66」(Buffalo '66・1998・米)で監督・脚本・主演を務めるなど注目され、日本でも高く評価された。しかし、その後、女優にわいせつな行為をさせるなど問題を起こし、最近はほとんど見かけない存在に。しかしさすがの嫌らしさ。

 財団側の男たちが使う銃はP230か232。ロシアで出てきたのはマカロフだったろうか。カペラ共和国の兵士たちはM16。ニューヨークではグロック。ハロルド・マーカスの部屋ではスターム・ルガーのようなオートも出てきた。

 アクション監督は諸鍜治裕太。「僕の彼女はサイボーグ」(2008・日)や「探偵はBARにいる」(2011・日)シリーズを手掛けている。

 VFXスーパーバイザーは神谷誠。「GANTZ」(2010・日)シリーズや「図書館戦争」(2013・日)を手掛けている人。本作では派手な効果はないが、むしろ特撮を感じさせないところがスゴイ。

 原作と脚本は福井晴敏。「亡国のイージス」(2005・日)、「ローレライ」(2005・日)、「戦国自衛隊1549」(2005・日)など原作小説が相次いで映画化され、フルCGアニメの「キャプテンハーロック」(2013・日)では脚本も書いている。

 監督と脚本は阪本順治。ボクシング映画の「どついたるねん」(1989・日)で劇場長編映画監督デビュー。金大中事件を描いた「KT」(KT・2002・日/韓)などのほか、「亡国のイージス」で福井晴敏作品を手掛け、佐藤浩市と仕事をしている。ただ、なんだか最近はちょっと作風が変わったような……。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保。当日は12〜13分前に開場し、場内へ。観客層はやはり中高年がほとんど。男女比は6対4くらいで男性が多かった。最終的に301席に8割くらいの入りはさすが話題作。ただ、このわかりにくさ、今後、観客が増えるだろうか。

 隣に座ったオヤジのチープな整髪料が臭くて、困った。ときどきタバコを吸ってきたばかりというヤツもいて臭くてたまらないこともあるが、整髪料も辛い。

 気になった予告編は……広告マンの話らしい上下マスクの邦画「ジャッジ!」は、予告の印象ではどうでもいいわ、という感じ。何なんだろう。1/11公開。

 「小さなおうち」はなんだか古い映画のような印象。しかもジメジメしたくらい感じで気が重くなる。ただ監督は山田洋次。1/25公開。

 「武士の献立」はなんだか「武士の家計簿」(2010・日)のそろばんを包丁に置き換えただけのような印象。二匹目のドジョウか。12/14公開。


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