Kaguya-hime no Monogatari


2013年11月23日(土)「かぐや姫の物語」

2013・スタジオジブリ/日本テレビ放送網/電通/博報堂DYMP/ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン/ディーライツ/東宝/KDDI・2時間17分

ビスタ・サイズ/5.1ch


公式サイト
http://kaguyahime-monogatari.jp/
(全国の劇場リストもあり)

むかしむかし、竹取の翁(おきな、声:地井武男)は竹林で光る竹を見つけ、中から着物を着た手の平に収まるほどの小さな女の子を見つける。天からの授かりものと家に連れて帰ると、妻の媼(おうな、声:宮本信子)も大変喜んで育てようと言う。と、女の子は突然、着物が脱げて普通の赤ちゃんになり、泣き出す。そして驚いたことに媼は乳が出るようになる。どんどん大きくなっていく赤ちゃんに、近所の子供たちは「たけのこ」とあだ名を付ける。しばらくすると、翁は再び光る竹を見つけ、今度はりっぱな着物と、たくさんの金の粒が出てくる。高貴な姫だから、そのように育てよという天啓ととらえた翁は、得た金で都に立派な家を建て、教育係に宮中で働いていた相模(さがみ、声:高畑淳子)を雇って高貴な姫として育てていく。そして大人になったお祝いに、斎部秋田(いんべのあきた、声:立川志の輔)にその美しさから「なよ竹のかぐや姫」と名付けてもらう。やがてその評判は高貴な人々の間にまで聞こえることになる。

87点

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 涙が流れた。まさか、こんなに良く知っている童話・昔話で泣くとは。もともと子供のころに聞いて、そして読んで、悲しい話だとは思ていたけれど、ここまで泣ける話だったとは。

 絵が何より素晴らしい。まるで鉛筆スケッチ、エスキスのようなタッチなのに訴えてくるものがある。水彩画のようなムラのある淡い色も、日本の昔話にはピッタリ。きわめて平面的なのに、これが3D的に重なり合って動くわけで、一体どうやって描いているのだろう。透明な水の表現、木漏れ日の葉の影の動き、風、髪……ちゃんと動いている。ただ、予告で使われていたシーンが一番粗かった。なぜなんだろう。

 また曲というか歌が良い。心にしみ込む。民謡? 童歌? とにかく良い感じ。そして、宮崎作品じゃないけど、空を飛ぶし。その浮遊感も気持ち良い。

 さらに、声優にも有名人がいて、キャラクターがどことなく似ているので面白かったりする。そして何よりかぐや姫の声とキャラクターが素晴らしい。まさにジブリのヒロインのキャラクター。宮崎アニメのヒロインにも通じる。悩んだりもするけれど、笑顔が魅力的で、さわやかで、本当に良い子。かわいい。

 昔の地域社会というかコミュニティの優しさも良い。たぶん両面があると思う。どんな変わり者でも受け入れてしまう懐の広さがある面と、少しでも異質なものを弾き出してしまう面。このコミュニティは受け入れる派だった。良い木材を求めて移住するジプシー的というか、遊牧民的な人々だったからか。子供は特に仲間はずれを作りやすいのに、ここの子供たちは仲間はずれを作らない。子供たちが「たけのこ」とあだ名を付けたあたりで、いじめのパターンかと思ったら、やはりジブリはそうはならない。

 しかもとても正統な作り。オープニング・タイトルからして、アバンなしの和紙的なバックに縦書きの文字から始まり、昔の日本の映画を思わせるスタイル。ほとんどヒネリもなく、実にていねいに原作を映画にしている。それがまた好印象。なんだかオヤジ世代には昭和の古き良き時代を見ているかのような懐かしさもある。ゲームとかオモチャがなくても、自分たちで工夫して遊んでいたなあと。

 ただ、ナレーションで始まったのに、シメのナレーションはなかったようだし、ラストは昔の映画のように「終」とか「おわり」、もしくは昔話に付きものの結の言葉もあって良かったような気も。余計なお世話だが。

 かぐや姫の声は朝倉あき。第6回東宝シンデレラのファイナリストだそうで、映画では「神様のカルテ」(2011・日)や「横道世之介」(2012・日)に出ている。1991年生れの22歳。本作のかぐや姫にはピッタリの声のイメージだった。

 ほかにも有名俳優は多く、翁の声に昨年亡くなった「北の国から」(1981〜2002)の地井武男。媼の声に「マルサの女」(1987・日)の宮本信子。ほかに高良健吾、高畑淳子、立川志の輔、上川隆也、伊集院光、宇崎竜童、中村七之助、橋爪功、朝丘雪路、仲代達矢……と、ほとんどオール・スター状態。ボク的に面白かったキャラクターは侍女のような女童で、声は田畑智子。

 脚本は監督の高畑勲と坂口理子。坂口理子は1972年生れの脚本家で、2006年からTVの脚本で多くの賞を受賞している。2010年には「風に聞け」で城戸賞を受賞。

 監督は高畑勲。古くはTVの「狼少年ケン」(1963)や「ルパン三世」(1971)の演出をやっていた人。映画では「火垂るの墓」(1988・日)、「おもひでぽろぽろ」(1991・日)、「平成狸合戦ぽんぽこ」(1994・日)、「ホーホケキョとなりの山田くん」(1999・日)などを監督している。作品的にはあまりジャンルやつながりがない感じ。オール・ジャンル。1935年生れの78歳。まだまだ作品を作り続けて欲しい。

 主題歌は「いのちの記憶」で、作詞・作曲・唄、二階堂和美。広島県在住のシンガー・ソング・ライターで、僧侶でもあるのだとか。劇中歌の「わらべ唄」と「天女の歌」は作詞:高畑勲、坂口理子、作曲:高畑勲。音楽は久石譲。

 公開初日の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保。当日は12〜13分前に会場となり場内へ。下は小学生くらいから、上は中高年まで幅広い。男女比も半々くらい。万人向けの内容だし、当然だろう。最終的には607席に7.5〜8割くらいの入り。もっと入ってもいい作品だと思う。話を知っている人も、ちゃんと覚えていない人も、見る価値のある映画だと思う。

 気になった予告編は……上下マスクの「神様のカルテ2」は話題となった前作の続編。ボクは苦手なジャンルだが、嵐の櫻井翔が出ているから鉄板だろう。3/21公開。

 「抱きしめたい」は北川景子と関ジャニの錦戸亮というアイドル系で、しかも感動の実話という、ボクの苦手な分野。ちょっと「私の頭の中の消しゴム」(Nae meorisokui jiwoogae・2004・韓)的な感じもするが……。2/1公開。


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