Captain Phillips


2013年11月30日(土)「キャプテン・フィリップス」

CAPTAIN PHILLIPS・2013・米・2時間14分

日本語字幕:丸ゴシック体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(Arri、Super16、Super35)/ドルビー・デジタル、DATASAT、SDDS

(米PG-13指定)(日本語吹替版もあり)

公式サイト
http://www.captainphillips.jp/
(入ったら音に注意。全国の劇場リストもあり)

2009年3月29日、マークス海運の船長リチード・フィリップス(トム・ハンクス)は自宅を出て飛行機でオマーンに向かい、サラーラ港からケニアに物資を運ぶコンテナ船「マークス・アラバマ号」に乗り込む。しかしソマリア沖を航行中、小型のボート2隻が付いてくるのに気付き、すぐに当局に連絡し1隻を振り払うが、1隻が執拗に追いかけてきて隙をついて乗船されてしまう。フィリップスはあらかじめ用意されていた金庫の3万ドルを渡し、帰るように言うが、グループのリーダー、ムセ(バーカッド・アブディ)はもっと金を引き出すため、フィリップスを人質にして救命艇でアラバマ号を離れる。アメリカはすぐに海軍の駆逐艦ベインブリッジを派遣し、大統領は特殊部隊SEALに全権を与えて出撃させる。

75点

1つ前へ一覧へ次へ
 実に恐ろしい実話。現代世界で海賊に襲われるとは。間違いなく主人公であるフィリップス船長のおかげでほかの乗組員は命拾いをした。そしてフィリップス船長だから銃を突きつけられて何日もの監禁に耐えられた。それは間違いない。しかし、この実話はアメリカだからこのような結果になったのであって、日本だったら、長時間を掛けてお金で解決しているだろう。

 アメリカは、基本、海賊相手であっても交渉はしない。国外であってもすぐに軍が出動し、特殊部隊までが投入され、たぶん可能な限り最短で解決する。強硬策だから、当然、人質の命は危険にさらされる。しかもスゴイのが、大統領が特殊部隊であるSEALに全権を任せること。この辺も、通常のアメリカ国内犯罪の人質事件の対処と似ている。交渉人が交渉に当たるが、あらゆる情報をそろえ、分析して早く判断を下す。ムダな時間稼ぎはしない。

 フィリップス船長の冷静で勇気ある行動も素晴らしいが、アメリカの対応、海軍の対応、特殊部隊の対応がスゴイ。感動的。みな良く訓練されており、あらゆる展開に対応する。ここで想定外はない。事件が起きて、当局(US海事局、英国MTO)に報告して船はやるべきことをやり、まず海軍の駆逐艦が対処にあたり、全権が与えられたSEALが到着すると、指揮権をSEALに譲る。実に良くシステム化されている。だから助けてもらえると信じることができる。しかも、それぞれにものすごいプロだ。特にSEALは。

 映画はそれだけでなく、海賊側も描いている。自爆テロのように、そうするようにしなければ生きるのも大変な環境。そして悪どいリーダーがいて、そうするように追い込む。フィリップス船長が「元漁師ならほかにやれることがあるんじゃないのか」というのに対して、海賊は「アメリカならな」と答えている。小型ボートで決死の思いで乗り込んでくる。それにしても、ヤクでハイになっているとは言え、海賊たちは憎たらしい。卑怯で卑劣。許せない。

 ただカメラが動きまくり。目が回る。船に酔ったような効果を出すためなのかもしれないが、カメラを動かしたいのだったらビスタでやれ。シネスコではやるな。この監督は他の作品でもやっていたっけ。

 フィリップス船長役のトム・ハンクスは、2000年代に入ってからプロデューサーとしての仕事も忙しいようだが、結構、映画にも出ている。プロデューサーとしてかなり強烈な戦争TVドラマ「ザ・パシフィック」(The Pacific・2010・米)に関わり、映画の「幸せの教室」(Larry Crowne・2011・米)や「クラウドアトラス」(Cloud Atlas・2012・独/米ほか)に出ている。さすがアカデミー賞俳優、やはりうまい。

 ほかにあまり有名な俳優は出ておらず、ドキュメンタリー・タッチを出そうとしたのだろう。脇役でよく出ている人はチラホラいて、中でもSEALの隊長はそんな役が多いマックス・マーティーニ。TVの出演が多いが、特殊部隊を描いたTVの「ザ・ユニット米軍極秘部隊」(The Unit・2006〜2009・米)や、つい最近はロボット怪獣映画「パシフィック・リム」(Pacific Rim・2013・米)に出ていた。

 海賊役の4人は抜群にうまかった。役作りのために痩せたのかもしれない。眼がギラギラした感じが実にリアル。TVショウなどに出ていたようだが、ドラマや映画は初めての模様。すごい。

 原作はリチャード・フィリップス本人とステファン・タルティ共著による「キャプテンの責務」(A Captain's Duty: Somali Pirates, Navy SEALS, and Dangerous Days at Sea・訳:田口俊樹・早川書房)。脚本は「サスペクト・ゼロ」(Suspect Zero・2004・米)や「フライトプラン」(Flightplan・2005・米)、「アメリカを売った男」(Breach・2007・米)、リメイクの「消されたヘッドライン」(State of Play・2009・米/英/仏)を手掛けた人。つい最近アメリカでは評価の高い「ハンガー・ゲーム」(The Hunger Games・2012・米)を書いている。

 監督はポール・グリーングラス。イギリス出身で、ジャーナリストとしても活躍したためかドキュメンタリー・タッチが持ち味らしく、よくカメラを手持ちで動かす人。偉そうな言い方だが、ボクはこの手法を多用するのは間違いだと思う。特にシネスコでは。ヒット作第2弾「ボーン・スプレマシー」(The Bourne Supremacy・2004・米/独)、第3弾「ボーン・アルティメイタム」(The Bourne Ultimatum・2007・米/独)、9.11の実話「ユナイテッド93」(United 93・2006・仏/英/米)、戦争映画「グリーン・ゾーン」(Green Zone・2010・仏/米/西/英)などを撮っている。アクションとリアルさに手腕を発揮する感じ。

 製作総指揮の1人が優れた俳優のケヴィン・スペイシー。積極的に新人を育てるプログラムなどにも参加しているらしい。実に多くの作品に出演しているが、特に印象深いのは「ユージュアル・サスペクツ」(The Usual Suspects・1995・米/独)や「交渉人」(The Negotiator・1998・独/米)だろう。最近は小さな作品に良く出ているようで、「ヤギと男と男と壁と」(The Men Who Stare at Goats・2009・米/英)など今ひとつパッとしない感じだが、プロデューサーとしてはアカデミー賞を受賞した「ソーシャル・ネットワーク」(The Social Network・2010・米)や、ジェイソン・ステイサムにしては今ひとつのアクション「SAFE/セイフ」(Safe・2012・米)などを作っている。

 銃は、海賊の親組織の連中がドーシカ重機関銃、実行グループがAK47、AK47S、使い古したガバメント、そしてたぶんマカロフ。撃ちそうな場面ではちゃんとガバメントのハンマーが起きていた。アメリカ海軍はM4、FN MAG。SEALのスナイパーはAR系でバイポッドとサイレンサー付き。imfdbによれば7.62mm×51のナイツ・アーマメントSR-25だとか。スーパーバイジング・アーマラーはニック・コモーニッキ。最近だと「ワールド・ウォーZ」(World War Z・2013・米/マルタ)や「ワイルド・スピードEURO MISSION」(Furious 6・2013・米)を手掛けている人。アメリカでのキー・アーマラーはデイヴィッド・フェンクル。多くの大作を手掛けている人で、近作で言うと「ゼロ・ダーク・サーティ」(Zero Dark Thirty・2012・米)や「L.A.ギャング ストーリー」(Gangster Squad・2013・米)、「G.I.ジョー バック2リベンジ」(G.I. Joe: Retaliation・2013・米)などを手掛けている。

 ちなみに1マイルが字幕では1.9キロと出る。1.6キロじゃないのかと思ったら、海里(ノーティカル・マイル)の方だった。なるほど。でもセリフでは単に「マイル」としか言っていない。海で言えば自動的に海里なんだろう。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保。当日は12〜13分前に開場。ほとんどは中高年で、若い人は数人。男女比はほぼ半々くらい。最終的には301席に6割くらいの入り。まあまあの入りではないだろうか。

 気になった予告編は……上下マスクの「ロボコップ」はキャシャーン的な感じで、ちょっとスマート過ぎ? スーツっぽくって、ロボット感が薄いような。見るけど。3/14公開。

 上下マスクの「くもりときどきミートボール2」は新予告に。完全に子供向けのアニメ作品。12/28公開。

 上下マスクの「エンダーのゲーム」はちょっと「エラゴン遺志を継ぐ者」(Eragon・2006・米/英/ハンガリー)を連想してしまうが、ハリソン・フォードが出ていたりして、ビジュアルもなかなか。少年が主人公というのは子供向けの可能性が高いが、大人も見られるものかも。1/18公開。


1つ前へ一覧へ次へ