La migliore offerta


2013年12月14日(土)「鑑定人と顔のない依頼人」

LA MIGLIORE OFFERTA・2013・伊・2時間11分

日本語字幕:黒フチ丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(デジタル、Arri Alexa)/ドルビー・デジタル

(伊T指定、日PG12指定)

公式サイト
http://kanteishi.gaga.ne.jp
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

自身美術品のコレクターで、天才的な鑑定眼を持つ鑑定士で、人気競売士のヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)は、レストランに自分専用の名入り食器を持ち、豪華な家で暮らす大金持ちでもある。しかし初老の身でありながら独身で、極度の潔癖症でほとんど手袋をしている変人でもあった。さらに密かに画家でもある友人のビリー(ドナルド・サザーランド)と組んで、不正に気に入った女性の肖像画を集めていた。そんな彼の元に、クレア・イベットソンと名乗る若い女性(シルヴィア・ホークス)から、遺産の鑑定依頼が入る。普段なら飛び込みの鑑定依頼など受けないが、つい相手のペースにはめられて受けることになってしまう。

76点

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 うーむ、ショッキングな映画。なんとなくトリックは読めるが、結末は強烈で、しかもイタリア映画だからか、話が終わってもすぐには終わらず、苦しみを反すうするようにねっとりと描いてから静かに消えるように終わる。ハリウッドならこういう終わり方はしないだろう。たぶんナイフで切ったようにいきなり終わるはず。

 全体の雰囲気はまさにヒッチコック風。ヒッチ・タッチ。カメラも基本はフィックスで、動くときはズームでもパンでも実にゆっくり。曲もヒッチコックを思わせる。何か起きそうなミステリーの雰囲気たっぷり。ああ、映画だなあ。怪しげなシチュエーションと、怪しげな男たち、そして金髪美女。本作では加えてエロもある。すっかりこの世界に引き込まれてしまう。

 画質も素晴らしく、コントラストがはっきりしていて、解像度も高い。名画がたくさん出てくるので、それをちゃんと見せるにはこの画質が必要だったのだろう。あふれるほどの名画の数々。まさか本物ではないだろうが……エンド・クレジットではアート・レンタルという会社がずらりとリストされていたようだ。

 ただ、ボク的には1つだけ計算違いがあったように思える。それは主人公の鑑定士が、本来はちょっとした悪党で嫌なヤツでなければならないところ、主演のジェフリー・ラッシュゆえか、どうもそうは見えなくて、むしろ良い人に見えてしまうこと。だからラストがよりショッキングでいやらしく見える。しかも時間軸をバラバラにしているから、もっと悲惨なのか、持ち直したのかわからない。感情移入してしまったボクとしては持ち直したと思いたいが……。

 ヴァージル・オールドマンはジェフリー・ラッシュ。独特の雰囲気を持った人。最近では「英国王のスピーチ」(The King's Speech・2010・英/米/豪)でスピーチ・アドバイザーをやっていたかと思えば、人気シリーズ「パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉」(Pirates of the Caribbean: On Stranger Tides・2011・米)では死んだ海賊の船長をやっている。ちょっと得体のしれないと言うか、不気味な感じがあるところが持ち味か。もちろん名優には間違いない。本作でも世間嫌いな変人に見えたが、人の良さそうな部分も出ていた。

 謎の美女クレア・イベットソンはシルヴィア・ホークス。裸にガウン1枚で、わざとオールドマンに見せるために足を開いて見せるシーンはビックリ。シャロン・ストーンの「氷の微笑」(Basic Instinct・1992・米/仏)を超えるエロさ。こんな美女がここまでやるなんて。オランダ出身で、TVや短編が多く、日本ではたぶんあまり知られていない。1983年生れというから30歳だが、もっと若く見える。本作で注目され、今後どんどん活躍していくかも。そういえば「氷の微笑」を監督した同じオランダ出身のポール・ヴーホーヴェンの「ブラックブック」(Zwartboek・2006・蘭)で全裸で熱演していた女優カリス・ファン・ハウテンもオランダの女優。和蘭は美人でここまでやる人が多いのだろうか。

 オールドマンが信頼する少ない人間の1人、なんでも直せる修理屋の青年ロバートはジム・スタージェス。「ラスベガスをぶっつぶせ」(21・2008・米)で数学が得意な学生を演じていた人。ナイーブな感じが素晴らしい。最近「クラウドアトラス」(Cloud Atlas・2012・独/米/香/シンガポール)にも出ていた。香港の未来世界ではアジア人風のメイクをしていた。

 オールドマンの古くからの友人で、「君が認めてくれたら画家になったのに」とグチってばかりのビリーはドナルド・サザーランド。1935年生れの78歳。まだまだ現役で、新作が4本も控えている上、連続もののTVドラマにも出ている。近日公開の「ハンガー・ゲーム2」(The Hunger Games: Catching Fire・2013・米)にも前作から引き続き出演。息子のキーファー・サザーランドも「24TWENTY FOUR」(24・2001〜2010・米)シリーズのジャック・バウアー役で大ブレイクで、すでにベテランの域。プロデューサーとしても活躍している。ただ映画はイマイチのようだ。この点では父を超えられていないか。

 監督・脚本はイタリアの名匠ジュゼッペ・トレナトーレ。なんといっても素晴らしかったのは「ニュー・シネマ・パラダイス」(Nuovo Cinema Paradiso・1989・伊/仏)。ほかにティム・ロスが出た「海の上のピアニスト」(La leggenda del pianista sull'oceano・1998・伊)や、モニカ・ベルッチの「マレーナ」(Malena・2000・伊/米)も監督・脚本を担当している。1956年生れの57歳。凄い人だ。

 心に残る音楽はエンニオ・モリコーネ。マカロニ・ウエスタンからハリウッド作品、日本の大河ドラマまで手掛ける世界的巨匠。ジュゼッペ・トレナトーレの作品はほとんど手掛けているようだ。「ニュー・シネマ・パラダイス」のあの曲も。

 機械じかけの人形、オートマタは、中に小人が入って話していたというエピソードがひとつの鍵で、「偽りの中にも常に真実はある」なんてセリフにつながっているのだろう。雰囲気的には「ヒューゴの不思議な発明」(Hugo・2011・米)に似ている。ほかにも蝋(ろう)管レコードとか、手袋、鍵、携帯といった小物、小人症でサヴァン症候群の女性、カフェなど、直接ストーリーとは関係のない細部のこだわりがすごい。

 スーツはアルマーニ、パソコンはアップル、時計はブルガリ、カメラはキヤノン……とたぶん高いものばかり。

 131分の映画なので、古い劇場では椅子が硬く、ケツが痛くなった。もっとシートも考えてくれないと。作品の印象にも関わることだ。

 銀座の劇場は全席指定でムビチケで確保。当日は直接劇場入口へいって端末で操作するより、1Fの窓口でやってもらった方が簡単で早い。公開2日目の初回、20分くらい前にチケットを受け取り4Fへ。すでに開いていて、観客は若い人から中高年まで幅広い。若い女性が多い感じ。男女比は4対6くらいで女性が多かった。最終的に224席ほぼすべてが埋まった。公開劇場数が少ないからなあ。しかも都内のあと1館はかなりマイクロ劇場だし……。

 気になった予告編は……明るくて良く見えなかったが、上下マスク「ローン・サバイバー」はマーク・ウォールバーグの戦争アクション。実話だそうで、アフガニスタンでのタリバンとの戦いを描いたものらしい。怖そう。3/21公開。

 半暗になってから、「エヴァの告白」はマリオン・コティヤール主演のドラマらしい。ポーランドからアメリカへの移住した女性の過酷な運命を描くらしい。かなり暗い雰囲気。2月公開。

 上下マスクの「メイジーの瞳」は、ヨーロッパ映画にありがちな子供視点の離婚物語。日本語の女の子っぽい声でナレーションが浸けられていた。うむむ……かわいいけど。1/31公開。

 上下マスクの「ザ・イースト」は環境テロリストに潜入した捜査官が同情してしまうという、ストックホルム症候群を描くらしい。面白そう。エレン・ペイジも出ているし。でも劇場次第かなあ。1/31公開。

 上下マスクの「危険な関係」はチュン・ドンゴン、チャン・ツィイー、セシリア・チャンという豪華な顔合わせ。どうもハリウッド映画「危険な関係」(Dangerous Liaisons・1988・米/英)を上海に置き換えたリメイクらしい。1/10公開。

 「オンリー・ラヴァーズ・アライブ・レフト」はジム・ジャームッシュのヴァンパイア・ラブ・ストーリーらしい。面白そうだが、やっぱり劇場次第かなあ。12/20公開。


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