Only God Forgives


2014年1月26日(日)「オンリー・ゴッド」

ONLY GOD FORGIVES・2013・デンマーク/仏/タイ/米/スウェーデン・1時間30分

日本語字幕:丸ゴシック体下、寺尾次郎/ビスタ・サイズ(デジタル、Arri、Red)/ドルビー・デジタル

(仏12指定、米R指定、日R15+指定)

公式サイト
http://onlygod-movie.com
(全国の劇場リストもあり)

タイのバンコクで、表向きはキック・ボクシング・クラブを経営するアメリカ人の兄弟、ビリー(トム・バーク)とジュリアン(ライアン・ゴズリング)は、裏では麻薬の売買を行っていた。ある日、薬でイってしまったビリーは16歳の娼婦を惨殺してしまう。駆けつけた警察官たちのリーダーのような男チャン(ヴィタヤ・パンスリンガム)は、惨殺された娘の父親に、チャンスをやるといってビリーと2人だけにして部屋に閉じこめる。すると父親はビリーを惨殺。チャンは誉めたあと、娘が娼婦をやっていたのはお前の責任だとして刀で父親の腕を切り落とす。そしてビリーが殺されたことを聞き、長男を溺愛していた母親のクリスタル(クリスティン・スコット・トーマス)がアメリカからやって来て、長男殺害犯の殺害命令を出す。

74点

1つ前へ一覧へ次へ
 法から外れた世界で展開する、悪と堕落、背徳、暴力、血……、そんな猟奇的ともいえる凄絶な物語。うがった見方をすれば、大国の軍隊が新興国へ勝手に侵攻して好き放題をした揚げ句、新興国の原初的な神のような存在によって冷徹に正義の裁きが下される物語と見れないこともないだろう。しかし、それはあとで考えてみればそう考えられなくもないかくらいのもので、見て最初に感じるのは、この作者は普段とてもおとなしくて自己主張もあまりしないような人か、あるいは本物のサイコではないかというもの。歯止めが利かなくなってしまった感情の爆発というか発露。あるいは脳内の渦巻く妄想の具現化。とても怖く、気持ち悪く、居心地が悪い。嫌だけれど目が離せない。途中で席を立った人もいた。さすがに日本でもR15+指定だが、ボクは20歳以上くらいでないと衝撃が強すぎて心の傷になってしまうような気さえする。

 雰囲気としてはデヴッド・リンチ監督の作風に通じるものがあるように感じた。「ブルーベルベット」(Blue Velvet・1986・米)やTVドラマの「ツイン・ピークス」(Twin Peaks・1990〜1991・米)「マルホランド・ドライブ」(Mulholland Dr.・2001・仏/米)的な。本作はもっと猟奇的で過激だが。

 映画的な表現として、赤、青、緑、黄色のライトを使っている。この辺は「HERO」(Hero・2002・中/香)などのチャン・イーモウ監督や、「始皇帝暗殺」(The First Emperor・1998・中/日/仏)のチェン・カイコー監督の絵作りと通じるものがある。そしてハム音のような、ノイズのような、不快で不安を煽る音楽の使い方。好き嫌いはともかくとして、映画としては大変良くできているのではないかと思う。感情も揺さぶられる。ただIMDbでは5.8点という低評価。

 オープニングのタイトルはタイ風の文字。本当にタイ語がどうかも不明。何と出ているのかわからない。これは視点をタイ側に置いた映画という宣言だろうか。

 登場人物の中で割とまともに見えるジュリアンはライアン・ゴズリング。やはり衝撃的なアクション「ドライヴ」(Drive・2011・米)で、本作のニコラス・ウィンディング・レフン監督と組んでいる。ほかに最近では「スーパー・チューズデイ正義を売った日」(The Ides of March・2011・米)や「L.A.ギャング・ストーリー」(Gangster Squad・2012・米)に出ている。使っていた銃はステンレスらしい2.5インチのS&Wリボルバー。M19かM27か。シリンダーを振って入れていたのはいただけない。

 容姿も人間性も醜怪で恐ろしい母親のクリスタルはクリスティン・スコット・トーマス。一瞬誰かわからないほど、異常な母親になっていた。「イングリッシュ・ペイシェント」(The English Patient・1996・米/英)のころはすごい作品にいっぱい出ていたような印象があるが、最近はマイナーな作品が多いような。ボクが見たのは「砂漠でサーモン・フィッシング」(Salmon Fishing in the Yemen・2011・英)くらい。さすがの演技力で怖かった。細いタバコを吸っていたのが、また嫌らしかった。

 謎のタイの男チャンはヴィタヤ・パンスリンガム。お下劣映画「ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える」(The Hangover Part II・2011・米)に出ていた人で、タイの大臣を演じていたらしい。本作ではなかなかの怖さ。グラフィック・デザイナーからダンス・スタジオを設立し、偶然のように役者になったんだとか。剣道五段の腕前。だからか、武器は一見日本刀のような刀。ただ直刀に近く、先端が斜めになっている。

 銃はほかにチャンを襲う殺し屋がウージーSMG。タイの警官はグロック。チャンの娘を殺しにジュリアンと一緒に行く男はシルバーのM92。

 監督・製作・脚本はデンマーク生れのニコラス・ウィンディング・レフン。ヴァイオレンス作品が多いらしい。「ドライヴ」は世界各国で受賞しており、評価が高い。この人は今後どうなって行くんだろう。

 公開2日目の3回目、新宿の劇場は全席指定。10分前くらいに開場。若い人から中高年まで、割と幅広い。これは意外。凄惨な内容なのに男女比も半々くらい。最終的には253席に7割くらいの入りはなかなか。ただ、途中で出ていった人も3人くらいいたが……。気持ち悪くなったのだろうか。

 気になった予告編は……日本語ナレーションによる2分でわかる「エージェント・ライアン」などをやっている割に前売り券の発売なしとは。あまり多くの人に見せたくないのだろうか。2/15公開。

 アニメ「劇場版TIGER & BUNNER The Rising」(なぜ英語のタイトル?)はやっぱり人が入るんだろう。マーナー広告で実写のスーツが出てくるが、これのできが素晴らしい。ただせそのまま実写版の映画を作るのは難しいのだろう。アニメなら許されることが実写だとできなくなったり、受けなかったりするから。2/8公開。

 「マチェーテ・キルズ」はとんでもアクションの第2弾。監督はロバート・ロドリゲスで、今回のマチェーテ(山刀)は3つに別れるタイプ。レディ・ガガやメル・ギブソン、チャーリー・シーンも出ているらしい。3/1公開。タコ・タイムって!

 「ウルフ・オブ・ウォールストリート」は新予告に。1/31公開。

 劇場の特徴なのか、この映画の特徴なのか、とにかく遅れてくるヤツが多過ぎ。どうなってんの?


1つ前へ一覧へ次へ