American Hustle


2014年2月1日(土)「アメリカン・ハッスル」

AMERICAN HUSTLE・2013・米・2時間18分

日本語字幕:手書き風書体下、佐藤恵子/シネスコ・サイズ(一部デジタル、レンズ、Arri、Techniscope)/ドルビー・デジタル、DATASAT、SDDS

(米R指定)

公式サイト
http://american-hustle.jp
(全国の劇場リストもあり)

1978年、ニューヨークの詐欺師アーヴィング・ローゼンフェルド(クリスチャン・ベイル)と相棒で愛人のシドニー・プロッサー(エイミー・アダムス)は、FBI捜査官リッチー・ディマーソ(ブラッドリー・クーパー)におとり捜査によって逮捕される。そして同業者を4人売れば、裁判での証言なしで逮捕もしないという条件を出され、汚職の噂のあるニュージャージー州のある街の人気市長カーマイン・リポート(ジェレミー・レナー)を「アラブスキャム」という作戦名のアラブの王族を使ったおとり捜査を提案する。リッチーは上司から政治家はダメだと止められるが、現状を打破するため強引に推進する。

74点

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 1970年代の雰囲気がたっぷり。あのころの時代感、政治、ファッション、ディスコ、歌、気分……そんなものなどがみごとに詐欺ストーリーに溶け込んでいる。そして実話をベースにしながらも、コメディの味付けをした「スティング」(The Sting・1973・米)的物語はエンターテインメントとして楽しめる。面白かった。138分が長く感じない。むしろ短いくらい。シチュエーションとしてはシリアスなのに笑えるセリフもたくさんあって、笑ったら隣の女が見るので、笑うのを控えてしまったが、英語がわかればもっと笑えるのだろう。

 ただ実話に基づいているにも関わらず、政治家を罠に掛ける計画が結構ズサン。これは実話寄りなのか、映画的脚本構成のまずさなのか。また、たぶんこれは事実に近いのだろうが、手柄を立てるため、政治家を執拗に罠にはめようとするのは、おとり捜査というより新たに犯罪を作っている感じに近い。最近はその手法が問題になっていたように思う。1978年当時はまだ問題にされなかったのだろう。罠にはめられる政治家はなかなかの熱血漢で、市民のためを思って行動しているから、どっちが悪いのかわからなくなってくる。そこが本作の狙いの1つでもあるのだろう。

 とにかくリアリティがあったのはアーヴィング・ローゼンフェルドを演じたクリスチャン・ベイル。ロバート・デ・ニーロのように役によって体形まで変えるこの人は、今回、一・九分けのはげ頭と、ぼってり太った太鼓腹の典型的中年オヤジになっている。どうも特殊メイクだけではない感じ。「マシニンスト」(The Machinist・2004・西)では本当に針金のように骨と皮ばかりになっているから、本作でもやったのではないだろうか。「ダークナイトライジング」(The Dark Knight Rises・2012・米/英)ではあんなにカッコよかったのに、まるで別人のよう。ただ、どうしてもボクにはいまだに「太陽の帝国」(Empire of the Sun・1987・米)の印象が強いが。私生活では色々問題を起こしているようだが、俳優としては一流だろう。「ザ・ファイター」(The Fighter・2010・米)で本作の監督と仕事をしている。スがシュと訛るのがまた見事だった。「ジャシュト・ユアシェルフ」って。

 罠を仕掛ける野心的なFBI捜査官リッチー・ディマーソはブラッドリー・クーパー。パーマの感じとか、嫌らしさが良く出ていて、出てくるだけでイラ付きを感じる雰囲気がみごと。いらつく映画「ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」(The Hangover・2009・米/独)シリーズの主役の1人を演じた人。人をイラ付かせるのは名人級だが、本作と同じ監督によるアカデミー賞8部門ノミネートの「世界にひとつのプレイブック」(Silver Linings Playbook・2012・米)でも主役を演じている。見ていないけど。本作では製作総指揮も兼ねている。

 アーヴィング・ローゼンフェルドの相棒で愛人のシドニー・プロッサーはエイミー・アダムス。何と言っても「魔法にかけられて」(Enchanted・2007・米)が良かった。何も悩んでいないような天真爛漫さが素晴らしいと思ったら、その後は屈折したような役の方が多くなっている。「ザ・ファイター」でクリスチャン・ベイルと共演し、本作の監督と仕事をしている。

 アーヴィング・ローゼンフェルドの自由奔放な妻ロザリンはジェニファー・ローレンス。「ハンガー・ゲーム」(The Hunger Games・2012・米)なんかに比べるととても大人に見えるし、演技がうまいと思ってしまう。「世界にひとつのプレイブック」でブラッドリー・クーパーと共演し、本作の監督と仕事をしている。

 孤児を引き取って育てている熱血政治家カーマイン・ポリートはジェレミー・レナー。「ザ・タウン」(The Town・2010・米)のギャング役は怖かった。「ボーン・レガシー」(The Bourne Legacy・2012・米)ではアクションも演じているが、メインの俳優陣の中では唯一、だれとも共演しておらず、デヴィッド・O・ラッセル・ファミリーでもない。

 ゲスト出演のような感じで登場するマフィアのボスに、「世界にひとつのプレイブック」にも出ていたロバート・デ・ニーロ。あまりにハマリっていて、やり過ぎの感じさえするが、さすがに貫録というか威圧感があり怖かった。そして眼鏡を掛けた雰囲気はなんだかマーティン・スコセッシという感じ。また、アラブのシークを演じるFBIのメキシコ人捜査官に、これまたゲストという感じのマイケル・ペーニャ。その設定だけで笑わせる。

 脚本はエリック・ウォーレン・シンガーと監督でもあるデヴィッド・O・ラッセルの2人。エリック・ウォーレン・シンガーは社会派アクションの「ザ・バンク 堕ちた巨像」(The International・2009・米/英/独)を書いた人。映画は本作で2本目になるらしい。本作では製作総指揮も務めている。

 監督のデヴィッド・O・ラッセルは、戦争終結後にフセインの宝を探しに行く兵士たちを描いた「スリー・キングス」(Three Kings・1999・米/豪)で注目され、しばらく間をおいて撮った「ザ・ファイター」でアカデミー賞にノミネートされるなど高く評価された。主演が「スリー・キングス」でも使ったマーク・ウォールバーグで、この人は同じ役者を使うのが好きらしい。「世界にひとつのプレイブック」でも再びアカデミコー使用にノミネートされ、さらに評価を高めた。コメディ系が多い感じで、本作もコメディの要素が多い。

 登場した銃は、FBIの上司がスナブノーズ・リボルバーを机の上に置いている。時代的にいうとS&WのM10かもしれない。政治家のカーマインがクリーニング店から持ち出すのはワルサーPPK(PPK/S)。FBIの捜査官リッチーはブローニング・ハイパワー。実際にはハイパワーは1981年に採用されたらしいのでちょっとフライング気味。

 70年代の味付けとして、壁にバート・レイノルズのヌード・ポスターが貼ってあったり、タバコをよく吸っていたり、「サタデー・ナイト・フィーバー」(Saturday Night Fever・1977・米)の雰囲気があったり、まだ電子レンジが珍しかったり、曲が懐かしいもので「007/死ぬのは奴らだ」(Live and Let Die・1973・英)のテーマがあったり……そのへんがオヤジにはまた楽しい。

 公開2日目の初回、六本木の劇場は全席指定。金曜にムビチケでオンラインで確保。残念だったのはこの劇場唯一の前席の頭がじゃまになるシアターだったこと。できるだけ前寄りを選んだものの、やはり前席が気にはなった。くそう。スクリーンが低いんだよ。

 20分前くらいに開場。観客層は比較的若い人から中高年まで幅広かったが、メインは中高年。男女比は最初7対3くらいで男性が多かったが、あとで少し女子が増えて6対4くらいに。遅れてくるヤツが多く、最終的に369席がほぼすべて埋まった。珍しいとおもとったら、1日なので映画の日だったらしい。

 明るいまま始まったCM・予告は前回と同じだったが、「ミリオン・ウェイ・トゥ・ダイ・イン・ザ・ウエスト」は「テッド」の監督セス・マクファーレンが登場ししゃべるのを、テッドが邪魔するという構成で、よくわからなかったがコメディ西部劇らしい。日本では難しい題材かも。

 半暗になってからの予告も見やすいとは言えなかったが……渡辺謙が登場する上下マスクの「ゴジラ」は7/25公開。どうなるんだろう。

 上下マスク「ワンチャンス」は映像付き。なかなか感動的なようだが、上映劇場次第かなあ。3/21公開。

 上下マスクの「それでも夜は明ける」は黒人奴隷の姿を描いた作品。製作がプラッド・ピットの会社でブラビも出演。悪役のマイケル・ファスベンダーがかなり怖い。3/7公開。


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