Snowpiercer


2014年2月8日(土)「スノーピアサー」

SNOWPIERCER・2013・韓/米/仏・2時間05分(IMDbでは126分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、大西公子/ビスタ・サイズ(1.85、少し上下マスク、Arri、Super35)/ドルビー・デジタル

(韓15指定、仏12指定、日PG12指定)

公式サイト
http://www.snowpiercer.jp/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

2014年7月1日、人類は地球温暖化にブレーキを掛けるため、人口冷却剤CW-7を大気圏に散布した。しかし効果があり過ぎて地球は凍りつき、生物はすべて絶滅してしまった。ただ箱船としての列車「スノーピアサー」に乗り込んでいた人々のみが唯一の生存者だった。列車の軌道はすべてつながっており、1年掛けて地球を一周する。エンジンはウィルフォード産業のウィルフォード社長(エド・ハリス)が発明した永久機関で、走り続けることにより人類の生存を可能にしていた。しかし、列車内は前方車両に乗る富裕層と、後方車両に乗る貧困層にハッキリと分けられ、貧困層は劣悪な環境での生活を強いられ、前方へ行くことは許されなかった。17年後の2031年、後方車両の乗客の中から音楽演奏のため老人が連れて行かれ、さらにウィルフォードが好きらしいという小さな少年2人も連れて行かれるに及び、カーティス(クリス・エヴァンス)をリーダーに、彼にあこがれるエドガー(ジェイミー・ベル)をサブ・リーダーに、反乱を起こし、エンジンを掌握するため前方車両を目指すが……。

74点

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 まるで往年のハリウッドSF大作やパニック映画を見ているような感じ。細部まで作り込まれたリアルな異世界へ旅してきたような、あるいはそんな悪夢を見たような感覚に陥る。映画らしい映画。SFアクションなのにビスタ・サイズを選んだのは、たぶん列車内で展開する閉塞感を出したかったからだろう。ビジュアルも素晴らしいし、世界観も実に見事。音響もクリアで、よく後ろから回っていた。

 設定は「地球温暖化」など今風で、本当にありそうなものだが、構成としてはオーソドックスというか王道、定石パターン。リアルに描かれてはいるものの、荒廃した未来世界というのはSFにありがちな世界観。富裕層と貧困層という対立構造。これは古くから使われており、つい最近でも「トータル・リコール」(Total Recall・2012・米/加)や「エリジウム」(Elysium・2013・米)で描かれていたばかり。列車が舞台の戦いは、「カサンドラ・クロス」(The Cassandra Crossing・1976・独/伊/英)や「暴走機関車」(Runaway Train・1985・米)、「暴走特急」(Under Siege 2: Dark Territory・1995・米)的でもある。さらには食糧問題は「ソイレント・グリーン」(Soylent Green・1973・米)のようだし……。韓国の監督はアメリカの大学で映画を学んでデビューする人が多いので、おのずとハリウッド・スタイルになるのかもしれない。本作の監督はどうなんだろう。

 とはいえ、これらのことはちゃんと観客を楽しませる商業作品が撮れるということで、日本の監督だとここまでの作品が撮れるかどうか。しかもこれだけの有名俳優をたくさん使って。残酷表現もたっぷりあり、感情もがんがん揺さぶってくる。韓国映画らしい力強い演出。日本語のガヤと、外国人が握る寿司まで出てきていたが、サービスだろうか。

 主人公となるカーティスはクリス・エヴァンス。ヒゲでわかりにくいが、「セルラー」(Cellular・2004・米/独)のあの二枚目。その後作品に恵まれない気がするが、「キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー」(Captain America: The First Avenger・2011・米)はアメリカではヒットしたらしい。本作は「セルラー」以来、久しぶりの人間臭いドラマということになるのではないだろうか。実に良い感じだった。うまい人なんだ。見直した。

 カーティスを尊敬する若いエドガーはジェイミー・ベル。もともとダンサーで、傑作ダンス映画「リトル・ダンサー」(Billy Elliot・2000・英/仏)でデビュー。1986年生れの28歳。「デス・フロント」(Deathwatch・2002・英/仏/独)や「ディファイアンス」(Defiance・2008・米)など、ちょっと戦争物が多いか。最近見たのは「崖っぷちの男」(Man on a Ledge・2012・米)。本作も戦いだ。大きい役ではなかったが、存在感を出すところはさすが。

 貧困層のリーダー、ギリアムはジョン・ハート。1960年代から活躍しているイギリスの大ベテラン。「エイリアン」(Alien・1979・米/英)の胸を食い破られる役が印象的だったが、その後「ハリー・ポッターと賢者の石」(Harry Potter and the Sorcerer's Stone・2001・英/米)シリーズなどにも出ている。1940年生れの74歳。まだまだがんばって欲しい。

 子供をさらわれる、片腕を凍らされてしまう貧困層のアンドリューはユエン・ブレムナー。傑作戦争映画「ブラックホーク・ダウン」(Black Hawk Down・2001・米/英)でマシンガナーを演じていた人。とぼけた感じが持ち味だと思うが、最近はあまり見かけなかった。

 エンジンを開発したウィルフォード社長はエド・ハリス。もはや堂々たる悪役という感じ。「ライトスタッフ」(The Right Stuff・1983・米)も良かったが、「アビス」(The Abyss・1989・米)で強烈にその存在をしらしめた。つい最近「ゼロ・グラビティ」(Gravity・2013・米)でNASAのミッション・コントロールの声を担当していた。「崖っぷちの男」ではジェイミー・ベルと共演している。さすがの貫録。怖い。

 その部下で、列車を取り仕切っている女性総理メイソンはティルダ・スウィントン。メイクや髪形、大きなメガネなどでまったく違う人のようだが、「コンスタンティン」(Constantine・2005・米/独)で天使をやっていた人。「ナルニア国物語/第一章ライオンと魔女」(The Chronicles of Narnia: The Lion, the Witch and the Wardrobe・2005・米/英)では白い魔女をやっていた。あの人が、こんなヒステリーばばあみたいになるとは(失礼!)。

 列車の施錠システムを設計したクロノール中毒患者のナムグン・ミンスはソン・ガンホ。英語は使っていないが、それを逆手にとって、翻訳機を駆使してのギャグも入れながら堂々たる演技で国際俳優の雰囲気。韓国映画の話題作に良く出ていて、ボクが初めて見たのは「クワイエット・ファミリー」(The Quiet Family・1998・韓)。その後、本作のポン・ジュノ監督作品「殺人の追憶」(Memories of Murder・2003・韓)や「南極日誌」(Antarctic Journal・2005・韓)、「グエムル−漢江の怪物−」(The Host・2006・韓)にも出ている。ボクが最近見たのは「青い塩」(Hindsight・2011・韓)。とぼけた役も怖い役も演じられる人。

 その娘ヨナはコ・アソン。「グエムル−漢江の怪物−」でもソン・ガンホの娘を演じていた人。

 原作はフランスのコミック「LE TRANSPERCENEIGE」。公式サイトによると、ジャック・ロブとジャン=マルク・ロシェットによって第1部が1984年に発表され、ジャック・ロブの死後、ベンジャミン・ルグランドとジャン=マルク・ロシェットによって第2部と、最終作の第3部が発表されたという。ジャック・ロブは1932年生れの漫画シナリオ作家で1990年没。ベンジャミン・ルグランドは1950年生れの小説、翻訳、漫画シナリオなどの作家。ジャン=マルク・ロシェットは1956年生れの画家、イラストレーター、漫画家なんだとか。本作で画家が出てきて似顔絵などを描くが、それはジャン=マルク・ロシェットの作品らしい。

 脚本はケリー・マスターソンと、監督でもあるポン・ジュノの2人。ケリー・マスターソンは本作の前に手掛けているのは、シドニー・ルメット監督の「その土曜日、7時58分」(Before the Devil Knows You're Dead・2007・米)。その評価が高く、本作につながったらしい。

 監督はポン・ジュノ。未解決連続殺人事件の実話を描いた「殺人の追憶」で話題となり、極限の環境下で人間の感情がむき出しとなる韓国らしい映画「南極日誌」、そしてあり得ないような設定から、少女の血みどろの戦いへと展開していく力強いSF「グエムル−漢江の怪物−」などで次々と評価を高めていった。まあ、観客を映画に惹きつけて引っ張り回す力はものすごく強い。いづれも本作につながる気がする。本作の前に見たのは、これまた強烈だった「母なる証明」(Mother・2009・韓)。良い方向にしろ、悪い方向にしろ、とにかく観客の感情を揺さぶるのがうまい。

 登場した銃は、列車を取り締まっている特殊部隊のような男たちは、斜めにスリットの入ったハンドガードのM4カービン。さらに銃身の短いショーティもあった。暗視装置も使う。学校の先生が使うのはVz61スコーピオン。貧困層が使うのは斧などの刃物。カーティスが斧を持って、列車の中を移動しながら銃を持つ敵をバッタバッタとなぎ倒していく感じは「オールド・ボーイ」(Oldboy・2003・韓)のようだった。

 公開2日目の初回、大雪の日、六本木の劇場は全席指定。ムビチケで金曜に確保しておいて、15分前くらいに付いたら開場済み。若いカッブルが1組いたものの、メインは中高年。最初、13人いて女性は2人。雪の影響だろう、最終的には124席に30人ちょっとくらいの入り。天気さえ良ければもっと入ってもまったくおかしくない。

 気になった予告編は……上下マスクの「ロボコップ」は、カッコいいのだが、前よりロボット感が薄れて、なんだか日本のヒーローもののようなスーツ感が強まった気がする。どうなんだろう。3/14公開。

 上下マスクの「ホビット 竜に奪われた王国」は新予告に。最初の予告よりはかなり面白そうな雰囲気。前作はイマイチの印象だったが、今度は良いかも。2/28公開。

 上下マスクの「キック・アス ジャスティス・フォーエバー」も新予告に。今度は仲間が増えるらしい。はたしてオリジナルの面白さを引き継げるか。2/22公開。

 本作はかなり残酷というか暴力的表現が多く、過激なためか、アメリカではまだ公開されていないらしい。それにしても、言われなければ韓国映画とは思えない豪華キャスト&スタッフ。日本映画ではこれは無理だろうなあ。


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