The Butler


2014年2月16日(日)「大統領の執事の涙」

THE BUTLER・2013・米・2時間12分

日本語字幕:手書き風書体下、牧野琴子/ビスタ・サイズ(with Panavision、Super 35)/ドルビー・デジタル

(米PG-13指定)

公式サイト
http://butler-tears.asmik-ace.co.jp
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

南部ジョージア州の綿花農場で生まれたセシル・ゲインズは、まだ幼かった1926年、母のハッティ(マライア・キャリー)が農場主の息子トーマス(アレックス・ペティファー)の慰みものになっていたことから、ついトーマスに声を掛けてしまった父を射殺されてしまう。トーマスの母アナベス(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)は、特別にセシルをハウス・ニガーとして雇い屋敷に入れてやる。そして給仕の仕事を覚えるが、このままでは殺されると感じたセシルは15歳になると外の世界へ出て行く決心をする。しかし何の仕事も得られぬまま、あまりに腹が減ってあるホテルへ侵入し、ケーキをむさぼり食っているところを、黒人給仕長メイナード(クラレンス・ウィリアムズ三世)に見つかる。セシルは必死に給仕ならできると訴え、仕事を得る。やがて、さまざまな仕事を覚えたころ、メイナードから大きなホテルに推薦され、そこでメイドをしていたグロリア(オプラ・ウィンフリー)と結婚し、2人の息子を得る。そんなとき、ホテルでの働きぶりを見ていた大統領執務室長官のウォーナー(ジム・グレアソン)からホワイトハウスの執事として雇われる。

76点

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 1人の黒人男性の一代記のような物語。実話ではないが、実話にインスピレーションを得て作られたという。一般人の黒人男性ではなく、地位のある、ちょっと恵まれた環境で生きることのできた男の物語。自分を殺して生きてきた男の物語が波乱万丈で、感動的だ。

 アメリカにおいて、黒人がどのような扱いを受けてきたのか、1926年から現在までが実際の事件に基づいて描かれている。ボクなんかはケネディ大統領あたりで人種差別はほとんど無くなったような印象だったのだが、1981〜1989年まで大統領だったレーガンの時代でもまだ問題が残っていたとは。人種差別の時代に、黒人として生まれていたら……。

 あまりに強烈な人種差別の話で、これは黒人監督でなければ描けなかったのではないかと思えるが、これは黒人の不遇を描いたというよりは、やはり今人男性の人生を描いたものというふうにとらえたほうが良いように感じた。人種差別だけにフォーカスすると、ちょっと引いてしまうほど。集団心理もあるのだろうけれど、人がここまで残酷になれるとは。

 グレたり、犯罪者になってもおかしくなかった少年時代を送り、すばらしい人との出会いによって人生を取り戻し、出会いが重なって、どんどん出世していく。そして歳を取り、支えてくれた妻が去り、子供もいつしか大人になって新世代として世の中を引っ張る存在になり、最後に一番上の人からねぎらわれるという、人生。うむむ……。

 劇中、主人公のCecilはシーセルと発音しているように聞こえるのだが、字幕はセシルと出て違和感があった。

 ホテルの就職してからのセシル・ゲインズはフォレスト・ウィテカー。悪役が続いて、とても怖いイメージが定着していたが、がらりと変わったキャラクターを好演。「ラストキング・オブ・スコットランド」(Last King of Scotland・2006・英/独/米)なんか最強に怖かった。SFアクションの「レポゼッション・メン」(Repo Men・2010・米/加)もショッキングだったし、「キリング・ショット」(Catch .44・2011・米)もゾッとする怖さがあった。つい最近FBIのチーフを演じた「ラストスタンド」(The Last Stand・2013・米)は悪役ではないのに威圧感がすごかった。結局、演技がうまいということなんだろうけど。「クライング・ゲーム」(The Crying Game・1992・英/日)や「ゴースト・ドッグ」(Ghost Dog: The Way of the Samurai・1999・仏/独/米/日)は忘れられない。

 農場の女主人アナベスはヴァネッサ・レッドグレーヴ。大ベテランはさすがの名演。怖さと優しさが同居する感じが絶妙で見事だった。「ジュリア」(Julia・1977・米)でアカデミー助演女優賞を受賞。「いつか眠りにつく前に」(Evening・2007・米/独)の老いた母役もすばらしかった。「英雄の証明」(Coriolanus・2011・英)では怖い母役を演じていた。

 ホワイトハウスの執事頭カーター・ウィルソンはキューバ・グッティングJr。以前は大作などにも良く出ていたが、最近はB級が多い印象。「サイレンサー」(Shadowboxer・2005・米)や「エンドゲーム大統領最期の日」(End Game・2006・独/米/加)はそんな作品の代表か。ごく最近は日本劇場未公開が増えている。

 執事の同僚ジェームズ・ホロウェイにミュージシャンで「ハンガー・ゲーム」(The Hunger Games・2012・米)シリーズにも出ているレニー・クラヴィッツ。セシルの母にセリフはほとんどないが歌姫マライア・キャリー。本作の監督の「プレシャス」(Precious・2009・米)にも出ていた。近所の友人ハワードにテレンス・ハワード。つい最近「デッドマン・ダウン」(Dead Man Down・2013・米)に出ていた。

 歴代の大統領も豪華な俳優陣。第34代アイゼンハワーは「奇跡のシンフォニー」(August Rush・2007・米)のロビン・ウィリアムズ、第35代ケネディは「魔法にかけられて」(Enchanted・2007・米)のジェームズ・マースデン、第36代ジョンソンに「レポゼッション・メン」でフォレスト・ウィテカーと共演しているリーヴ・シュレイバー、第37代ニクソンは「フローズン・グラウンド」(The Frozen Ground・2013・米)のジョン・キューザック、第40代レーガンは「ハリー・ポッターと賢者の石」(Harry Potter and the Sorcerer's Stone・2001・英/米)シリーズのアラン・リックマン、そしてその妻、ファースト・レディのナンシーが2005年から女優復帰した「チャイナ・シンドローム」(The China Syndrome・1979・米)の大女優ジェーン・フォンダ(ナンシーに雰囲気そっくり)。

 脚本はダニー・ストローング。TVで活躍する俳優で、これまでTVの脚本を書いていたが、劇場長編映画は初めての模様。これから公開される「ハンガーゲーム」の続編の脚本も書いているらしい。本作ではジャーナリスト役で出ているらしい。ちなみにこの人は黒人ではない。

 監督はリー・ダニエルズ。ハル・ベリーが初の黒人アカデミー主演女優賞を獲得した「チョコレート」(Chocolate・2001・米)で劇場長編映画のプロデュースを務め、末期癌の女殺し屋を描いたアクション「サイレンサー」で監督デビュー、キューバ・グッティングJrと仕事をしている。虐待を受ける肥満女性を描いた監督作「プレシャス」(Precious・2009・米)も話題になった。虐げられた人を描くのに手腕を発揮するらしい。それはこのひとの生い立ちに関わるのかもしれない。父が警察官で虐待を受けていたのだとか。この人は黒人。

 銃は冒頭、セシルの父を「アレックス・ライダー」(Stormbreaker・2006・独/米/英)のアレックス・ペティファーに撃ち殺されるとき、S&Wっぽい4インチのリボルバーが使われている。

 ラストの歌は何だっただろうか。心に残る。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、10分前くらいに開場。下は小学生くらいからいたが、この悲惨な物語を小学生に見せるのはどうなんだろう。ほとんどは中高年で、予想どおり高齢者が多い。男女比はほぼ半々くらい。最終的には232席ほぼすべてが埋まった。初回からこれはすばらしい。子供向きじゃないが、大人なら見る価値があると思う。

 半暗になってからのに予告で気になったのは……上下マスクの「トランセンデンス」はティーザーなので内容は良くわからないが、どうも進化に関するSFらしい。ちょっと怖そうな感じ。ジョニー・デップとモーガン・フリーマンが出ている。6/28公開。

 上下マスクの「プリズナーズ」も同じポニーキャニオン。これもティーザーで内容は良くわからないが、娘を誘拐された父親の話らしい。ジェイク・ギレンホールとヒュー・ジャックマンの顔合わせ。5/3公開。

 「家路」は松山ケンイチ主演で、3.11の被災地に突然帰ってきた弟と家族の物語らしい。3/1公開。

 アニメ「ジョバンニの島」はWWII末の北方領土の物語。今というのがちょっと引っかかるが……。2/22公開。


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