12 years a Slave


2014年3月8日(土)「それでも夜は明ける」

12 YEARS A SLAVE・2013・米/英・2時間14分

日本語字幕:手書き風書体下、アンゼたかし/シネスコ・サイズ(マスク、Arri、Super 35)/ドルビー・デジタル、dts(IMDbではドルビーのみ)

(米R指定、日PG12指定)

公式サイト
http://yo-akeru.gaga.ne.jp
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

南北戦争の20年前となる1841年、自由黒人のバオリニスト、ソロモン・ノーサップ(キウェテル・イジョフォー)は、妻と2人の子供とニューヨークのサラトガで暮らしていたが、妻が仕事で半月ほど子供たちを連れて出た間に、白人の2人組からサーカスの音楽を担当してほしいと言う話に乗り、ワシントンへ出張する。ところがレストランで飲みすぎて酔いつぶれ、目が覚めると檻に入れられており、そのまま船に乗せられてニューオーリンズの奴隷市場で南部の大農場主フォード(ベネディクト・カンバーバッチ)に売られてしまう。自由黒人だという主張はまったく聞き入れられず、プラットという名前を与えられ、それから12年間奴隷として生きていくことになる。

76点

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 感動的ではあるけれど、ネガティヴな方向の感動で、かなり落ち込む。しかも実話に基づいている。人間はこんな酷いことができるんだということをあらためて目の前に突き出される感じ。この時代、この場所で、黒人として生まれていたら、と思わずにはいられない。自分が奴隷にされたような気もする。しかも助かるのはたった1人だけで、ほかの奴隷たちはそのままという……。

 ただ、「戦場のピアニスト」(The Pianist・2002・仏/ポーランドほか)と同様に、主人公は特殊な能力があり、特別扱いで、もどれる場所がある。悲惨な話ではあるけれど、どんなに少なくとも救われる可能性はゼロじゃない。パッツィなんか仕事も常にトップでありながら、性の玩具にされ救い出される希望はない。映画の中で言っているように、ここから逃れるには自分で死ぬか、殺してもらうしかない。主人公は運良く脱出することができたと。まあ、だからこそ、ラストに字幕で出たように、主人公はのちに奴隷の脱出組織「地下鉄道」を支援したんだろうけれど。

 とにかく考えつく限りの、あるいはそれ以上の酷い人間の仕打ちがある。目を覆いたくなるようなものばかり。本当に人間がこんなことをできるのかと。アメリカだからということではなく、たぶんすべての人間に共通なのではないかという気がする。

 そして背景にある貧しい白人という構図。一見貴族のような暮らしだが、実はそれを維持するため借金に追われていて、より安い賃金で人を雇わなければやっていけない実情。そして害虫や災害による大不作……。それでもはるかに黒人よりはめぐまれているのだが。

 このアメリカの黒人の悲惨な状況というのは、最近よく映画になっている。「ジャンゴ繋がれざる者」(Django Unchained・2012・米)とか、「42 世界を変えた男」(42・2013・米)とか。つい最近では「大統領の執事の涙」(The Butler・2013・米)とか。古くはTVの「ROOTS/ルーツ」(Roots・1977・米)のクンタ・キンテとか、スピルバーグ監督の「アミスタッド」(Amistad・1997・米)などもあった。

 ソロモン・ノーサップはキウェテル・イジョフォー。「アミスタッド」でスクリーン・デビューした人で、イギリス生れの40歳。群像ラブ・ストーリーの「ラブ・アクチュアリー」(Love Actually・2003・英/米/仏)やアクションの「インサイド・マン」(Inside Man・2006・米)、SFアクションの「トゥモロー・ワールド」(Children of Men・2006・米/英)などに出ている。最近作はアクションの「ソルト」(Salt・2011・米)。

 性の玩具となっている女性パッツィはルピタ・ニョンゴ。本作でアカデミー助演女優賞を受賞した。ケニア生れだが、名門イェール大学出の才女。映画の製作スタッフから短編、TVドラマを経て、本作で劇場長編デビュー。問題はこの次だろう。

 強烈な農園主エドウィン・エップスはマイケル・ファスベンダー。とても整った顔立ちで、いわゆる美男子。「イングロリアス・バスターズ」(Inglourious Basterds・2009・米/独)がインパクトあったが、最近はショッキングな「悪の法則」(The Counselor・2013・米/英)やSFホラー・アクションの金字塔シリーズの完結版になるのか「プロメテウス」(Prometheus・2012・米/英)に出ている。

 比較的まともな農場主のフォードは、最近「ホビット 竜に奪われた王国」(The Hobbit: The Desolation of Smaug・2013・米/ニュージーランド)でドラゴンの声をやっていたベネディクト・カンバーバッチ。冷酷な奴隷商人フリーマン(なんという名前)は「スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜」(The Ides of March・2011・米)のポール・ジアマッティ。フォードの農場の若い雇われ白人ジョン・ティビッツは「LOOPER/ルーパー」(Looper・2012・米/中)のポール・ダノ。

 そしてエドウィン・エップスに雇われて東屋を建てるカナダ人の大工、バスはプロデューサーでもあるブラッド・ピット。「悪の法則」でマイケル・ファスベンダーと共演している。

 原作はもちろんソロモン・ノーサップの「12 YEARS A SLAVE」。脚本は製作総指揮も兼ねるジョン・リドリー。オリヴァー・ストーン監督の「Uターン」(U Turn・1997・仏/米)や、戦場金塊強奪作戦を描いた「スリー・キングス」(Three Kings・1999・米/豪)などを書いている。本作は傾向が全く異なるが、こういう作品の方が向いているのではないだろうか。

 監督はスティーヴ・マックィーン。往年の名スターと同姓同名だが、イギリス生れの45歳。彫刻家や写真家としても活動しているそうで、この絵作りはそれゆえか。南部独特の木の生えた沼のような川、バイユーや、エアー・プランツの一種らしいスパニッシュ・モスとかサルオガセモドキとか言うらしい白っぽいヒゲのような植物のある風景が印象的に捕えられている。多くの短編を撮った後、「HUNGER/ハンガー」(Hunger・2008・英/アイルランド)というマイケル・ファスベンダー主演の日本劇場未公開作品でデビューし、多くの賞を受賞したらしい。長編第2作もマイケル・ファスベンダーの主演で、セックス依存症の男を描いた「SHAME -シェイム-」(Shame・2011・英)でまたまた多くの賞を受賞しているという。そして第3作が本作だ。今後どんな作品を撮るのだろう。

 銃は1841年という時代背景から、ほとんどパーカッションの銃。フォードの農園にいた監督は2挺のベビー・ドラグーンっぽいものを使っていた。ただしこれは厳密には1848年発売なのでアウト。コルトの第1号リボルバーのパターソンなら1836年ならOK。フォードが持っていた小銃は、オクタゴン・バレルで、ひょっとしたらフリント・ロック? 銃よりはるかに鞭の方が怖かったが。この小銃はソロモンがエップス夫人のお使いに出て逃げようとし、リンチの場に遭遇したときに、白人たちが持っていた。農園主のエドウィンが持っていたビストルはたぶんパーカッションの単発。これで脅してソロモンにバッツィへのむち打ちを行わせる。のちに大工のバスでやって来る保安官はガン・ベルトをしていたが、何の銃を入れていたかはわからなかった。銃は発砲していないので、アーマラーはいなかったのかも。

 それにしても、日本語タイトルはどうなんだろう。「それでも日はまた昇る」「それでも陽は昇る」なんてタイトルの歌とかあるし、「日はまた昇る」というヘミングウェイの小説もあるし……。原題と全く違う邦題を付けるとき、こういうもじり的なタイトルはちょっと悲しい。

 公開2日目の初回、六本木の劇場は全席指定で、ムビチケで座席予約。当日は10分前くらいに開場。中高年というよりはほとんど高齢者。30人くらいの中で女性は5人ほど。最終的には、遅れてくるヤツが多くはっきりわからなかったが、644席にたぶん3.5割りくらいの入り。いくらアカデミー賞作品とはいえ、見て楽しい作品ではないし、残酷シーンも多く、こんなものだろう。

 気になった予告編は……明るいまで見にくかった新作ニュースでは上下マスクの「ローン・サバイバー」が日本語ナレーションの新予告。ネービー・シールズの実話の映画化で、なんと1人生き残った本人が登場して、映画の通りのことが起こったと証言。アメリカの軍隊は仲間同士の絆が強い。まして特殊部隊ともなればなおのこと。絶対に見捨てない。それは夫婦の絆より強いと言われる。これはかなり辛い映画かも。3/21公開。

 トム・クルーズとエモリー・ブラントのSFアクション上下マスクの「オール・ユー・ニード・イズ・キル」は映像付きの予告。同じ1日を繰り返しているとか何とか。予告ではほとんど戦争映画の雰囲気。パワード・スーツのようなものがとてもリアル。原作は日本の桜坂洋のライト・ノベル。7月公開。

 「X-MENフューチャー&パスト」はまたまた面白そうな感じ。ブライアン・シンガー監督だし。5/30公開。

 上下マスクの「トランスフォーマー/ロスト・エイジ」はまだやるのかという感じだが、主人公が好感度の高いマーク・ウォールバーグに変わったのは気になる。ただ監督は相変わらずマイケル・ベイなので……。絵はカッコいい。8/8公開。

 スクリーンが左右に広がって本編へ。ちょっと字幕のも字が大きいように感じたが、気のせいか。もっと小さくてもいいのではないだろうか。


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