Shirayuki-hime Satsujin Jiken


2014年3月30日(日)「白ゆき姫殺人事件」

2014・松竹/松竹ブロードキャスティング/集英社/ジェイアール東日本企画/ぴあ/博報堂/GyaO!・2時間06分

ビスタ・サイズ/ドルビー・デジタル


公式サイト
http://shirayuki-movie.jp.s3-website-ap-northeast-1.amazonaws.com
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

TV局の契約ディレクター、赤星雄治(綾野剛)はワイド・ショーの食レポを担当し、そのようすなどをツイッターでリアル・タイムにつぶやいていた。そんなとき、知り合いの女性、狩野里沙子(蓮沸美沙子)から、美人OLが長野県のしぐれ谷でめった刺しされた上、火をつけて殺された事件で事情聴取されたと電話がある。その話を聞きながらツイートすると、様々な反応が返ってきて、「白ゆき姫殺人事件」として世間で盛り上がっていることを知り、ワイド・ショーのネタにしようと早速ビデオ・カメラを持って狩野のところに取材に行く。そして事件当日から行方不明になっている城野美姫(井上真央)が鍵を握っているらしいことを聞き出すと、すぐにそれをSとしてツイート。それはまたたく間に広がり、やがて実名までもがネットに流出する。

74点

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 実に良くできた物語。細かなピースが組み合わされて行って、ついに全体像が見えてくる。それも、最初は斜の角度から見ていたものが、次第に正しい姿になってくる。人の記憶は自分の都合の良いように書き換えられているとか、無責任なツイッターでの発言が重ねられ、実に見事なミス・リーディング。やられた。感動的な物語で、悲しく、切なく、涙が出そうになるが、今ひとつ、後味はよろしくない。ネットにあふれる無責任な悪意とか、リアルな社会にもあふれるイジメや悪意などが、ジワジワと伝わってきて、事件が解決してもどこか気持ちは晴れない。こんなことって、本当に良くあるよなあ。実は自分も小学校の時などに、意識せずに人を傷つけ、結果としていじめていたんではないかと。

 映画が終わって、冷静に考えてみれば、事件の展開がおかしいことに気付く。これは警察の捜査を中心に語っているのではなく、TV局と契約しているTAGという製作会社の映像ディレクターの独自調査で描かれているのだ。だから、街頭に良くある監視モニターの映像も調べないし、もちろん指紋の調査もない。つまり「CSI:科学捜査班」などの手法とは真反対。ほとんど地取捜査的な聞き込み証言のみ。それも警察相手ではないから、かなり主観的で偏っている。これに観客もまんまと載せられてしまう。

 つまりは黒澤明監督の「羅生門」(1950・日)の手法。あれでは霊媒によって死者にまで語らせているが。ただ、事件はネットとTV番組の中だけで歪んだ形で展開して行く。警察はちゃんと物証に基づく捜査をしていたようで、あっさりと真犯人を逮捕する。考えてみれば当たり前の結果。納得できる。うまい。これは原作の素晴らしさでもあるのだろう。

 赤星雄治は綾野剛。あちこちに良く出ている。「ガッチャマン」(2013・日)はかなり残念だったが、NHKの「八重の桜」(2013)はとても良かった。最近TBSの「S -最後の警官-」(2014)にも出ていた。本作はいかにもいそうな人物で、すばらしかった。ただ、ラスト、城野美姫のことがわからないというのは、際立たせる演出だろうが、ちょっと納得できなかった。それでも、ちゃんと謝罪に行くあたりは印象良く終われたのでは。

 みんなから疑われる城野美姫は井上真央。この自信なさそうな感じが絶妙。実際はかなり明るいようだが、暗い雰囲気も見事。幸薄い感じが良く出ていた。大ヒット作「永遠の0」(2013・日)にも出ていたが、ボク的には中田秀夫監督の「怪談」(2007・日)の印象が強い。あれも幸薄かったなあ。

 良いイメージと、いけ好かないイメージの両方を見せなければならない被害者の美姫典子は菜々緒。モデル出身だが、みごとな雰囲気の差を演じていた。これが劇場映画初出演とは。ダーク・サイドは、こういうヤツ、いるよなあという感じで、説得力があった。かなり怖い。

 役柄から強く印象に残るのは、城野美姫の小学生当時の同級生で、一番の美人といわれていたがイジメによって引きこもりとなってしまった谷村夕子役の貫地谷しほり。「赤毛のアン」のくだりがすばらしい。光通信「ここにいるぞ、アン。世界中の人が敵になっても、オレはお前の見方だ」……これがネットの状況に対応していて、泣かせる。ちょっと天然な所がある感じだが、役になると全く違う。「龍馬伝」(2010)や「八重の桜」にも出ていた。NHKが多い印象。

 原作は湊かなえの同名小説。脚本は林民夫。「永遠の0」も書いているが、「藁の楯」(2013・日)も書いている。「コールデンスランバー」(2009・日)は実に見事だったから、題材というか原作によるということか。泣かせるのがうまいような気がする。

 監督は中村義洋。傑作「コールデンスランバー」を手掛けた人で、「チーム・バチスタの栄光」(2008・日)も手掛けている。さらに「映画 怪物くん」(2011・日)もやっていて、ジャンルは様々。ボク的にはもっとミステリーを手掛けて欲しいが、ずっと「ほんとにあった!呪いのビデオ」のビデオをやっていた人で、ホラー作品もいいのかもしれない。本作にもちょっとその片鱗が伺える。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保。当日は15分前くらいに開場。観客層は下は小学生くらいから、上は中高年まで、意外と広い。ただ殺人事件の話で、結構生々しいが、小学生にはどうなんだろう。若い人たちも結構多かった。男女比は3.5対6.5くらいで女性の方が多かった。原作のファンということなのだろうか。それとも綾野剛ファンか。最終的には607席に7.5割りくらいの入り。TVの劇場版じゃないのにこれは立派。すばらしい。

 ネットがひとつのテーマであるためか、ケータイを使っている奴がやたらと多い。今回は両隣がギリギリまで使っていて、まぶしいったらありゃしない。特に左の若い女は本編が始まる直前までラインかなんかでメッセージを送っていたが、外でやれ。案の定、本編が終わるとエンド・クレジットが始まってすぐ、ケータイを取り出した。まぶしいって! そんなにケータイが気になるなら映画なんか見ないで、ずっとケータイをやってろ。映画に来るな!

 気になった予告編は……「関ジャニ参上!未来への戦い」って……まったく時代劇に見えないところがすごい。まあ何でもいいんだろうけど。6/7公開。

 忍者のあとは海賊ということか、「瀬戸内海賊物語」はどうやらジュブナイルもので、村上水軍の財宝を探すんだとか。「瀬戸内少年野球団」(1984・日)なんてのもあったよなあ。よく映画の舞台になるところだ。5/24公開。

 「ぼくたちの家族」は酷い画質で驚いた。まさかこのレベルで本編も? 脳腫瘍、引きこもり、予告だけで重過ぎて……。5/24公開。

 なかなかタイトルが出ないでイライラした「プリズナーズ」は新予告に。少女誘拐という思いテーマだが、ついついドラマに引き込まれてしまう作り。日米の差をヒシヒシと感じる。5/3公開。

 上下マスクの「ソロモンの偽証」は原作が宮部みゆきなんだとか。絵はほぼなし。2015公開って。おいおい。

 上下マスクの「ホットロード」は大ヒットコミックの実写映画化らしいが、ベタベタの恵春恋愛物と言う感じ。「あまちゃん」の能年玲奈主演。8/16公開。

 「好きっていいなよ。」は少女漫画の実写映画化とかで、印象は「ホットロード」とそっくり。なんなんだろう。予告だけで恥ずかしい感じ。7/12公開。

 「超高速!参勤交代」は、めちゃくちゃそうで、でもちゃんと作った時代劇という感じも。笑えそうな感じもあって、いいかも。6/21公開。


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