The Railway Man


2014年4月19日(土)「レイルウェイ 運命の旅路」

THE RAILWAY MAN・2013・豪/英・1時間56分

日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(デジタル、Panavision〈IMDbではArri〉)/ドルビー・デジタル(IMDbではSDDSも)

(英15指定、米R指定)

公式サイト
http://www.railway-tabi.jp
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

1980年、鉄道好きの初老の老人エリック・ローマクス(コリン・ファース)は、列車で美しい女性パトリシア(ニコール・ギッドマン)と知りあい、結婚する。やがてパトリシアはエリックが心に問題を抱えていることに気付く。彼が描いたスケッチなどから、過去の戦争体験に原因があるのではないかと疑い、軍人会へ行きアンクルと呼ばれているリーダーらしい男性フィンレイ(ステラン・スカルスガルド)に話を聞く。すると彼は、1942年、シンガポールにいたイギリス軍が日本軍に降伏し、鉄道をつくるために強制労働をさせられていた時の話を始めるのだった。そこでエリックは情報を得るため密かにラジオを作ったのだが、それがバレて送信機だと疑われ、拷問されていたのだった。

74点

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 実話に基づく映画。かつて日本兵によって虐待、拷問を加えられ、心に深い傷を負ったかつてのイギリス兵の、自分を取り戻す物語。物語の舞台はまさに「戦場にかける橋」(The Bridge on the River Kwai・1957・英/米)に相当する。非常にショッキングで、日本を憎む気持ちがビシビシ伝わってくる。戦場という特殊な環境で、しかも祖国を離れたところで、勝って驕っている状態だと、人間はこんなにも傲慢になれるというショッキングな話。

 実話だけに話の展開は単調。それを避けるために過去の物語と現在の物語を同時に進めるという手法を取っているが、それでもやはり起承転結などがあるわけではなく、誰もが予想できる結末へ向かって進んで行く。盛り上がりはなく、笑いもない。少しの希望と、主人公と敵の元日本兵には救いがあるが……。

 結局、心の傷を直すためには、過去へ戻ってその事実と真正面から向きあわなければならないということなのだろう。主人公はそれをやったと。しかも、最後には相手を許し、友人になったと字幕で出る。亡くなったのは、その日本兵が2011年、本人が2012年。やっとそれで彼らの戦争が終わったと。そして2013年ようやく映画化できた。これは感動的。ただ、暗い。辛い。そしてちょっと眠い。まわりではぐしゅぐしゅと音がしていたから、泣いていた人もいたようだ。

 原作者でもある主人公エリック・ローマクスはコリン・ファース。感動作「英国王のスピーチ」(The King's Speech・2010・英/米/豪)でアカデミー賞主演男優賞を受賞。英米の話題作に良く出ている。ABBAの曲をフィーチャーしたミュージカル「マンマ・ミーア!」(Mamma Mia!・2008・米/英/独)では歌も披露。つい最近ちょっと惜しいミステリー「モネ・ゲーム」(Gambit・2012・米)に出ていた。

 妻のパトリシアはニコール・ギッドマン。歳を取ったとは言え、まだまだきれいだし、活躍してくれそうだが、曲は良かった話題の大作ミュージカル「NINE」(Nine・2009・米/伊)以降、あまり作品に恵まれない気はする。本作もあまりパッとしなかった。

 軍人会の友人フィンレイはステラン・スカルスガルド。変態的な役や悪役が多い感じ。そっくりにリメイクした「ドラゴン・タトゥーの女」(The Girl with the Dragon Tattoo・2011・米/スウェーデン/ノルウェイ)に出ていたかと思えば、日本人にはピンと来ない「マイティ・ソー」(Thor・2011・米)に出ていたりもする。ちょっと前は「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」(Pirates of the Caribbean: Dead Man's Chest・2006・米)でビル・ターナーを演じていた。「マンマ・ミーア!」でコリン・ファースと共演している。

 良かったのは若き日のエリック・ローマクスを演じたジェレミー・アーヴィン。どこかで見たなあと思ったら、「戦火の馬」(War Horse・2011・米)で主演した人。いかにも鉄道好きな青年という感じがして良かった。

 同様に驕っていた日本の通訳、若き日の永瀬を演じた石田淡朗も良かった。能・狂言の世界の人だそうで、映画は若松孝二監督の「千年の愉楽」(2012・日)や、なんと見たなあと思ったら「モネ・ゲーム」で日本人ビジネスマンを演じていた。ほかにとても残念な「47 RONIN」(47 Ronin・2013・米)にも将軍の副官で出ているらしい。実際の永瀬さんは戦後和解活動に尽力し、エリック・ローマクスさんと親友になり、2002年には英国政府から特別感謝状が送られているそうだ。それは映画では全く触れられていない。

 原作は1995年度の「エスクァイア」誌でノンフィクション大賞を受賞したものらしい。あまりに過酷な経験で、ほとんど生存者が語りたがらなかったらしい。初めてリアルに語ったのが本作ということになるのだと。「泰緬鉄道 癒される時を求めて」(角川書店)。

脚本はフランク・コットレル・ボイスとプロデューサーも兼務したアンディ・パターソンの2人。フランク・コットレル・ボイスはマイケル・ウィンターボトム監督との仕事が多い人で、イギリス映画が多いため日本ではアート系の小規模公開が多く、ボクは劇場で見ていない作品が多い。見たのはミラ・ジョヴォヴィッチが出た西部劇の「めぐり逢う大地」(The Claim・2000・英/仏/加)くらい。まあ全体に暗い印象。アンディ・パターソンは基本プロデューサーで脚本を手掛けたのは本作のみ。製作作品ではフランク・コットレル・ボイスが書いた「星の王子さまを探して」(Saint-Ex・1995・英)や「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」(Hilary and Jackie・1998・英)、コリン・ファースが出た「真珠の耳飾りの少女」(Girl with a Pearl Earring・2003・英/ルクセンブルグ)などがある。

 監督はオーストラリア出身のジュナサン・テプリツキー。映画のほかTV、そしてCMやミュージック・ビデオもたくさん手掛けているらしい。ただ映画はこれまで日本で劇場公開されていない模様。本作は良い感じだ。絵作りが印象的。

 銃はもちろん日本の三八式らしいライフル。日本軍の戦車やサイドカーも出ており、なかなかリアルな雰囲気。蒸気機関車の前面のプレートには「C5615」とあった。1935年の日立製で、実際にタイでカンチャナブリ駅などを走っていたらしい。ということは、戦車やサイドカーもそれなりに考証されたものだろう。アメリカ軍はM1ガーランド。

 ラスト、エンド・クレジットでエリック・ローマクスと永瀬隆本人の写真が出る。そして2人が会った写真も。それがまた衝撃だ。ただ、斜体の掛かった字幕のジャギーが酷かった。解像度が昔のビデオ並なのだろうか。劇場公開作品なんだからなあ……。
 公開初日の初回、新宿の劇場は全席指定で金曜に確保。当日は10〜12分前くらいに開場。他の映画の開場とも重なり、ロビーは大混乱。それを嫌ってか、遅れてくるヤツが多い。酷い場合は真ん中の席を取っておいて、本編が始まってから入ってくるヤツもいる。じゃまになるって。観客層は中高年がほとんどで、特に高齢者が多い。関係者らしい男性が2人。男女比は半々くらいで、最終的には127席がほぼ埋まった。でも127席だからなあ。

 気になった予告編は……上下マスクの「X-MENフューチャー&パスト」はせっかく新予告だったのに、明るいままでの上映で、よく見えなかった。しかし面白そうで、興味がわく。見たい。5/30公開。

 半暗になってから、「her/世界でひとつの彼女」はスパイク・ジョーンズの監督で、AIの女性と中年男が恋に落ちる話らしい。ただ主役のホアキン・フェニックスがアンドロイドみたいで不気味で、そればかりが印象に残った。6/28公開。

 なかなかタイトルが出なくてイライラする上下マスクの「プリズナーズ」は新予告に。これだけで惹きつけられる。面白そう。5/3公開。

 上下マスクの「アメイジング・スパイダーマン2」は、絵がスゴ過ぎて、もうどうやって撮影したんだろうではなく、CGで作ったとしか考えられないものばかり。とにかくスゴイが、果たして……。4/25公開。

 スクリーンが左右に広がって、ようやく暗くなって本編へ。


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