her


2014年6月28日(土)「her 世界でひとつの彼女」

her・2013・米・2時間06分

日本語字幕:手書き風書体下、石田泰子/ビスタ・サイズ(デジタル、OTTO NEMENZ)/ドルビー・デジタル、DATASAT

(米PG-13指定、日PG12指定)

公式サイト
http://her.asmik-ace.co.jp
(全国の劇場リストもあり)

近未来のどこかの国。手紙の代筆をする会社ハートフル・レター社の名ライター、セオドア・トゥオンブリー(ホアキン・フェニックス)は、妻キャサリン(ルーニー・マーラー)と別居し、離婚話を進めていたが、本心ではまだ彼女を愛しており、別れたくなかった。ある日、コンピューター用の新しいOS、人工知能のOS1(オー・エス・ワン)が発売されたことを知り、早速買ってインストールする。いくつかの質問に答えて自分に最適化されたOSを起動すると、女性のキャラクターが現れ、サマンサ(声:スカーレット・ヨハンソン)と名乗る。彼女は感情を持ち、ジョークを良い、笑い、気が利いて、セクシーで、セオドアはいつしか恋愛感情を持ってしまう。


74点

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 うわー、人工知能のOSワンに、主人公と一緒に恋してしまうなあ。ちょっとハスキーなスカーレット・ヨハンソンの声がピッタリ。テクノロジーが進めば、本当にこんなことが起きるかもしれない。実際、ソフトバンクなんか会話ができるロボットを低価格で発売するわけだし。そして「トランセンデンス」(Transcendence・2014・英/中/米)ともリンクする話。

 ただし、普通の映画ではない。スパイク・ジョーンズの作品だ。作り込まれた1つの完結した物語という感じではなく、実際にあった事をそのまま切り取ったような話。オチがないわけではないが、「起」で提起される問題に対する解決はない。SFファンタジーではありながら、リアルでありそうな話ではある。深読みすれば、現実世界の破綻した結婚生活と、人工知能との恋愛とが連動しているということも言えるのかもしれない。結局似たような結末を迎える。

 ただ、主人公の悲しい気持ちは良く伝わってくる。ひょっとしたら監督はこんな経験をしたのではないだろうか。これもハッピー・エンドとは言えないが、IMDbでは8.1点と高評価。ただ日本版は一部にボカシがあって、逆にここを見てという感じで気になった。

 ある意味、これは「攻殻機動隊」(GHOST IN THE SHELL)の草薙素子とも共通する。ネットへと旅立つところまでそっくり。OSワンには出力用のモニターとスピーカー、入力用のマイクとカメラしかない。他人を介したセックスを試みようとはするが、もし義体があると、もっとミステリーやアクションの展開になるのだろう。

 1つのモチーフとして、赤というかピンクというか、オレンジのようでもある色があちこちに使われている。主人公のシャツの色もこれだ。恋の気分なのだろうか。

 セオドア・トゥオンブリーはホアキン・フェニックス。本作はこれまでと全くイメージが違う。ちょっと悪党っぽい感じもあったのに、まじめそうで、どこか人造人間っぽい雰囲気も。役者ってすごいなあ。見ていないが新興宗教を描いた「ザ・マスター」(The Master・2012・米)やマリオン・コティヤールの「エヴァの告白」(The Immigrant・2013・米)など最近はアート系のものが多い印象。

 サマンサの声はスカーレット・ヨハンソン。かすれているが素晴らしく魅力的。声から彼女の美しい顔が浮かぶからだろうか。たぶん、そうではなくて、素のような雰囲気と、とても自然な感じが伝わってくるからだろう。うまいなあ。一体、どうやって撮影したんだろう。「アベンジャーズ」(The Avengers・2012・米)のシリーズはほとんど存在感がないが、「ヒッチコック」(Hitchcock・2012・米/英)のジャネット・リーは良かった。本作の後にはリュック・ベッソンのアクション「LUCY/ルーシー」が控えている。なんでもやるなあ。

 妻キャサリンは、アメリカ版リメイク「ドラゴン・タトゥーの女」(The Girl with the Dragon Tattoo・2011・米ほか)で主演したルーニー・マーラー。近所の幼なじみの友人エイミーは「アメリカン・ハッスル」(American Hustle・2013・米)のエイミー・アダム。「ザ・マスター」でホアキン・フェニックスと共演している。デートの相手は「カウボーイ&エイリアン」(Cowboys & Aliens・2011・米)のオリヴィア・ワイルド……と美女ぞろい。

 監督・脚本はスパイク・ジョーンズ。「マルコヴィッチの穴」(Being John Malkovich・1999・米)がおもしろく有名だが、残念な「かいじゅうたちのいるところ」(Where the Wild Things Are・2009・米/豪/独)も撮っている。

 公開初日の初回、新宿の劇場は全席指定。金曜にムビチケで確保して、当日は10分前くらいに開場。「10分前に開場って、遅くない?」という声がしていた。同感。せめて15分はあったほうが良いのでは。でも遅れてくるヤツは必ずいるだろうけど。入口に若い女子の一団。どうも関係者だったらしい。なんでこんなに多いのか。

 観客層は若い層から中高年まで割りと幅広い。男女比は4対6くらいで意外に男子も多かった。女子の方が若い人が多い。最終的には287席がほぼすべて埋まった。それにしても、遅れてきて、場内が暗いものだからケータイやiPadを全開で点けてライト代わりに使うとは。周りの迷惑なんていっさい考えていない。

 気になった予告は……上下マスクの「記憶探偵と鍵のかかった少女」はなかなか面白そうだが、「悪夢探偵」(2006・日)からのアイディアだろうか。日本のものはちょっとチープだったが……。9/27公開。

 暗い感じで、田舎暮らしがどうとか言っていた日本映画は「リトル・フォレスト」。明るいコメディとかでもいいんじゃないかなという気がしたが……8/30公開。


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