In the Hero


2014年9月7日(日)「イン・ザ・ヒーロー」

2014・RESPECT/東映/木下グループ/読売テレビ/中央映画貿易/文響社・2時間04分

英語部分日本語字幕:黒フチ丸ゴシック体、下/ビスタ・サイズ/ドルビー・デジタル(表記無し)

(一部日本語字幕付き上映もあり)

公式サイト
http://in-the-hero.com
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

スタント・チーム「下落合ヒーロー・アクション・クラブ(HAC)」のリーダー、スーツ・アクター25年のベテラン・スタントマン、本城渉(ほんじょうわたる:唐沢寿明)は、いつか自分の名前と顔を出して出演することを夢見て仕事を続けている。ある日、やっとその夢がかなうチャンスが訪れるが、アイドルの一ノ瀬リョウ(福士蒼汰)にその役を奪われ、やはり変身後のスーツ担当となってしまう。一ノ瀬のマネージャー、門脇(かどわき:小出恵介)は本城からアクションを教わるように勧め、一ノ瀬はいやいや本城について行く。そのころ、スタンリー・チャン監督(イ・ジュニク)のハリウッド・アクション大作「ラストブレード」のクライマックスが日本で撮影されることになり、日本人俳優のオーディションが行われることに。一ノ瀬は「ハリウッド・スターになって、アカデミー賞を取ってスピーチする」という夢を追い、オーディションを受け、一次選考を通過する。そして、オーディションに受かるため、本気でアクションを学ぶため、再び本城のところへ向かう。


73点

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 もっとジメっとした、スポ根的なものを予想していたら、良い意味で裏切られた。割りとカラッとした、明るいコミカルな感動の裏方ものだった。映画製作の裏側を、初心者的に知るにも良いのではないだろうか。現実的にはもっとどろどろしたり、生々しかったりするのだろうが、それでは映画にならない。これはドキュメンタリーではなく、エンターテインメントだ。その辺のさじ加減がうまい。

 小規模なTVの「ヒーロー戦隊もの」の撮影から始まって、ラストはハリウッド大作映画のクライマックス・シーンの撮影へとエスカレートしていく様子も面白く、それぞれの役者の成長とか暗示もしているのだろう。

 エキセントリックでバカにしか見えないわがままなハリウッドの映画監督とか、ノー・ワイヤー、ノー・マット、ノーCG、ワン・カット、などという無意味でバカな設定(現実には、ハリウッドではスターが怪我をしないよう、かなり縛りがきつく、過去にジャッキー・チェンは自分でやらせてもらえなかったと不満を漏らしていた。それにハリウッドでなくても、スタッフを含め大けがや死亡事故が起きたら映画自体が飛んでしまいかねない)もありながら、そこは映画なので大げさな部分もあっていいと納得できる範囲。それ以外は、かなりリアルな感じがする。「明日の撮影のため、スタッフさんがどんな仕事をしているか見ておけ」なんて本城が一ノ瀬を連れて回る、スタジオ・ツアーのような場面も。

 時に家族を忘れて危険な仕事に打ち込む男と、離婚した妻と娘。新人アイドル俳優とベテラン裏方とのあつれきや差別。監督の無謀なわがままやスターの気まぐれで揺れる撮影現場。仲間の厚い絆、夢を与える仕事への熱意、夢を追い続ける姿勢などがうまく織り込まれている。一歩間違えばお説教臭い映画になっていたかも。

 雰囲気とというか物語の構造としては「蒲田行進曲」(1982・日)と似ている。「階段落ち」の替わりに「ノー・ワイヤー、ノー・マット、ノーCG、ワン・カット殺陣」。

 驚いたのは、上映前にも唐沢自身が出ているビデオ・メッセージ付き予告があったが、ビデオ・メッセージの画質はとんでもなく良いのに、予告の画質がとても良くないこと。お客さんを呼ぶための大切な予告のはずなのに、色が浅く、低コントラストで、解像度も低い、昔の映画のような酷い画質の予告。本編もそうなのかと覚悟していたら、そんなに酷くないじゃない。多少その傾向はあるのかもしれないが、ちゃんと良い画質じゃないか。なぜ日本映画の予告は画質が悪いんだろう。「ふしぎな岬の物語」もかなり酷い画質の予告が流れている。ひょっとして、本編映像が間に合わないので、同時に回していた予告用のビデオの画像を使っているとか、そういうことなのだろうか。不思議だ。

 本城渉は唐沢寿明。本当に昔、スーツ・アクターだったそうで、ブルース・リーお宅だったりするらしい。ダイワハウスのCMではスーツ・アクターを演じている。本作のキャラクターと被る部分が多い。映画は「20世紀少年」(2008・日)シリーズや「太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男-」(2011・日)など、あまり恵まれていない印象。

 生意気な若い役者、一ノ瀬リョウは福士蒼汰。等身大だからが実にハマっていた。うまい。実際、過去に「仮面ライダーフォーゼ」(2011〜2012・日)をやっているらしい。「図書館戦争」(2013・日)にも出ていたらしい。最近「好きっていいなよ。」(2014・日)に出ていた。

 HACのメンバーの一人、戦隊ものでピンクを演じている海野吾郎は寺島進。やはり実際、過去に女性キャラクターのスーツに入っていたらしい。いまやヤクザや刑事役で欠かせない名わき役だが、たぶん注目されるようになったのは北野武映画。中でもアメリカ・ロケしたヤクザ映画「BROTHER」(Brother・2000・米/英/日)が大きかったのではないだろうか。この活躍ぶりはコミカルな役もいけるところが大きいのではないだろうか。「清須会議」(2013・日)では黒田官兵衛を演じていた。つい最近「土竜(モグラ)の唄 潜入捜査官REIJI」(2014・日)に出ている。

 大阪弁丸出しのおばちゃんキャラ、大芝美咲は黒谷友香。大阪弁がうまいなあと思ったら、大阪出身だったんだ。たぶん注目されたのは大沢在昌原作のハードボイルド「天使の牙 B.T.A.」(2003・日)あたりからではなかったろうか。ちょっと前に「二流小説家シリアリスト」(2013・日)や「利休にたずねよ」(2013・日)に出ていた。

 本城の娘、元村歩は杉咲花。TVの「妖怪人間ベム」(2011・日)に出ていたようだが、たぶん有名なのは味の素のCookDoシリーズのホイコーローをばくばくと食べるCMではないだろうか。本作ではもっと柔らかく、フツーな感じが見事だった。

 戦隊のグリーンで、途中で辞めたいと言ってくる森田真澄は日向丈。あまりドラマの印象はないが、外為オンラインのCMで、残業を強要してくるイヤらしい上司を演じていた人。いやあ、眼力がある。

 ハリウッド作品の日本側ラインプロデューサー石橋はモデル出身の加藤雅也。やや革と染み智監督の「NOBODY」(1994・日)なんかとても良かったが、「クライング・フリーマン」(Crying Freeman・1996・加/仏ほか)あたりからハリウッドへ進出。「BROTHER」にも出ている。2000年くらいからは日本に戻っているようだ。その意味でも役的には適任だったのかも。最近はTVで見ることが多く、NHKの大河ドラマ「八重の桜」(2013・日)あたりか。

 ハリウッドのわがまま監督スタンリー・チャンは、韓国のイ・ジュニク監督。日本では旅芸人を描いたどろどろドラマ「王の男」(The King and the Crown・2005・韓)が知られている。たぶんエグゼクティブ・プロデューサーで、脚本も担当している京都生れの李鳳宇(りぼんう)の功績だろうか。

 その李鳳宇はシネカノンを設立し、「月はどっちに出ている」(1993・日)や「KT」(2002・日/韓)、「パッチギ!」(2004・日)、「フラガール」(2006・日)など手掛けている。最近はちょっと名前を見かけなくなった気がしたら、本作だったか。さすが。

 ほかに脚本は水野敬也。「夢をかなえるゾウ」の原作者。

 アクション監督は柴原孝典。JAC出身だそうで、実際にスーツ・アクターをやっていた人。業界では有名なオフィススワイルドの社長。本作でHACの事務所になっているところは、オフィススワイルドの事務所。「宇宙刑シャイダー」(1984・日)などを担当している。

 監督は武正晴。「パッチギ!」や「嫌われ松子の一生」(2006・日)の助監督からのたたき上げ正統派監督。監督は李鳳宇の「EDEN」(2012・日)から。このあとどんな作品を撮るかが重要になりそうだ。

 意外なことに銃も出てきて、ラスト、ハリウッドでアクションを撮っているという設定の場面でガバメントが登場する。マガジンを入れてスライドを操作していたような。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定のため、前売り券を持って劇場まで行って金曜に確保。当日は10分前くらいに開場。下は小学生連れのファミリーもいたが、ほとんど中高年で、女性はやや若め。男女比は半々くらい。上映ギリギリになって少し若い人も増えた。最終的には251席に6割りくらいの入り。

 上下マスクの「猿の惑星 新世紀ライジング」は、なんだか西部劇のインディアンと白人の戦いのような気がしてきた。構造は一緒なんじゃないだろうか。9/19公開。

 上下マスクの「るろうに剣心 伝説の最期編」は、佐藤建がすごい顔になっている予告で、いいのかなあと。いよいよ9/13公開。初日の舞台挨拶があると言うことで、該当する劇場は大変なことになりそう。時代劇でも面白ければ人は入る。NHKの大河ドラマだって人気が高い。

 ほぼ暗くなってから、画質の良くない上下マスクの「アゲイン 28年目の甲子園」。中井貴一が出ているらしい。古い映画かと思った。タイトルがなかなか出ず、イライラした。最後に一瞬だけ出るだけじゃ、タイトルを覚えられない。なんための予告なんだか。1/17公開。




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