U-neun nam-ja


2014年10月19日(日)「泣く男」

NO TEARS FOR THE DEAD・2014・韓・1時間56分

日本語字幕:でか丸ゴシック体フチ下、根本理恵/シネスコ・サイズ(デジタル、Sony 4K)/ドルビー・デジタル

(韓18指定、日R15+指定)

公式サイト
http://nakuotoko.jp
(全国の劇場リストもあり)

アメリカの中国系犯罪組織で殺し屋をやっている韓国系移民のゴン(チャン・ドンゴン)は、指示によりナイト・クラブでロシアン・マフィアと韓国人ビジネスマンを射殺する。そしてドアの向こうで音がしたため反射的に発砲すると、そこにいたのは韓国人ビジネスマンの幼い娘ユミ(カン・ジウ)だった。衝撃を受けるゴンだったが、重要なファイルが回収できなかったため、それを持っていると思われる韓国にいる妻で母のチェ・モギョン(キム・ミニ)からファイルを回収し、彼女を殺すよう命じられる。


84点

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 凄いアクション! この迫力と派手さはハリウッド並み。暴力描写もリアルで、強烈。人によっては気持ち悪くなるかもしれない。それでいて、しっかりとしたドラマがあり、韓国映画らしく泣かせる。とても骨太で力強い映画。リアルさにも力が注がれており、行き過ぎたアクロバティックなアクションはないし、サウンド・サプレッサー(サイレンサー)を装着していても銃声は大きく恐ろしい。血が飛び、ナイフが突き刺さり、指が飛んだりする。凶悪なヤクザたちは、とにかくとことん恐ろしい。

 タイトルは「泣く男」だが、主人公は泣かない男。物語の中盤で母親から「男は泣くもんじゃない」と教えられて育ったことがわかる。話の最後まで泣かない。ちっとも泣かないと思っていると、ラストのラスト、主人公が号泣する。これはたまらない。つらい。悲しい。だから「泣く男」なのか。ただ、話は複雑で、字幕では分かりにくい。韓国人名は覚えにくく、誰が誰なのか、どういう関係なのかよくわからない。そして、意外と母モギョンの悲しみは伝わって来にくかった。

 殺し屋たちはプロという設定なので、みな銃の扱いがうまい。公式サイトの写真などでチャン・ドンゴンがトカレフを持っている写真はトリガーに指が掛かっていたりするが、本編中でそれはなかったと思う。アメリカ版のビジュアルではトリガーに指は掛かっていない(IMDb参照。韓国の女性と2人で写っているメイン・ビジュアルは指が掛かっている)。

 とにかく本編中はリアル。韓国には銃が持ち込めないので、地元のヤクザがゴンが仕事をするための銃を用意するのだが、不良品の銃だと渡すのがトカレフ。中国の54式拳銃かもしれない。サウンド・サプレッサーが装着できるようになっている。そして重要な場面で不発となる。アメリカからやって来る同僚の凶悪な殺し屋たちは、韓国にいる裏の武器屋から最新式の銃器を買う。ベネリのM3ショットガン、M4A1カービン、M4A1マグプル・カスタム(ダーク・アース・カラー・ストック)などで、M4A1マグプル・カスタム(後半でなぜかキャリング・ハンドル付きになる)を使うヤツがマガジン・チェンジや、前進しながらの連射、片手でのマガジン・チェンジなどのテクニックを見せつけてくれる。まそに訓練を受けたプロの所作。ほかにグロックやP226も使われている。

 ナイフでの格闘もあるが、チャン・ドンゴンは実に見事に、流れるように、演じて見せている。先生というか殺陣師の腕が良いのだろう。そして監督もそれを求めていたに違いない。

 残念ながら、日本ではハリウッドにまけないここまでの本各的なアクションを撮れる監督はいない。たぶん殺陣師の人やテクニカル・アドバイザーはいるはずだが。予算の関係もあるのかリアルさは突き詰めない。たぶん監督が知らない。そして口だけうまい調子のいいテクニカル・アドバイザーが多いらしい。韓国では兵役があるため、ほとんどの男性は銃の使い方を習得している。俳優はもちろんのこと、製作スタッフ、脚本家や監督もよく知っているわけだ。適切な設定と演出、演技が可能だ。そして使おうと思えば実銃ベースのプロップガンも使える。

 主人公のゴンはチャン・ドンゴン。やっぱりうまなあ。まあ、どちらかというと、こんな役が多い。ヤクザの青春物語「友へ チング」(Chingoo・2001・韓)、仲村トオルと共演した「ロスト・メモリーズ」(2009: Lost Memories・2002・韓)、戦争映画「ブラザーフッド」(Taegukgi hwinalrimyeo・2004・韓)、西部劇の「決闘の大地で」(The Warrior's Way・2010・ニュージーランド/韓)は見ていないが、オダギリジョーと共演した戦争映画「マイウェイ12,000キロの真実」(Mai wei・2011・韓)も強烈だった。公式サイトによると、本作のためアメリカで特殊部隊の教官によるトレーニングを受けているらしい。最初に使っていたのはP250。

 いかにもヤクザっぽいビジネスマンのビョン室長はキム・ヒウォン。つぶやくようなセリフ「シカトかよ」のようなところに実にリアリティがあった。どこかで見たなと思ったら「マイウェイ12,000キロの真実」に出ているらしい。ほかに小劇場公開で見ていないが、本作の監督イ・ジョンボムの「アジョシ」(Ajoshi・2010・韓)にも出ているらしい。

 ゴンの同僚の殺し屋チャオズはブライアン・ティ。ハリウッドで活躍する人なので良く見かける。なんと父が韓国人で、母が日本人で、沖縄生れなんだとか。有名なTVドラマにたくさん出ていて、たぶん注目されたのは「ワイルド・スピードX3TOKYO DRIFT」(The Fast and the Furious: Tokyo Drift・2006・米/独)。最近「ウルヴァリン:SAMURAI」(The Wolverine・2013・米/英)に出ていた。

 もう1人の同僚の殺し屋、タクティカルのテクニックを見せつけてくれたジュアンは、アンソニー・ディリオ。海兵隊にいたことがあるということなので、基礎はできていたのだろう。たぶんさらに訓練を受けたはず。TVや日本劇場未公開の映画に出ているが、本作が出世作になるのでは。とにかくテクニックは見事。プロっぽく見えた。

 3人目の殺し屋、ベネリのM3を使っていたアルヴァロはアレックス・レイス。オリバー・ストーンの麻薬ビジネス・アクション「野蛮なやつら/SAVAGES」(Savages・2012・米)に出ていたらしい。

 脚本・監督はイ・ジョンボム。劇場長編映画のデビュー作は、見ていないがアクションものらしい「熱血男児」(Yeolhyeol-nama・2006・韓)。2作目がヤクザと少女の交流を描いたウォンビンの「アジョシ」。予告だけでも凄そうだった。もっと良い劇場でやってくれていれば……。本作のため、監督自身も射撃場で実銃をかなり撃っているらしい。そこからこの演出が出てきたのだろう。サプレッサーを付けた銃の銃声の大きさのリアルさも。この監督は次の作品も注目だろう。前の作品も見たい。

 公開2日めの2回目、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保。当日は10分前くらいに開場。若い人から中高年まで、割りと幅広い客層。男女比は6対4くらいで男性が多かったが、これだけのバイオレンス表現だと当然か。女子はお1人さまも結構いた。最終的には226席に8割りくらいの入り。これはクチコミで増えていくかも。

 終わって出て行く時、若い男性2人が「サイレンサーつけているのにあんなに銃声が大きいんだ」「YouTubeで本物の映像を見ると、本当にアレくらい大きいようだよ」なんて会話をしていた。時代は変わったなあ。

 気になった予告編は……人気アニメの「映画ハピネスチャージプリキュア!人形の国のバレリーナ」に、これまた人気者のふなっしーが出るのだとか。凄いコラボ。10/11公開って、もう始まってるか。

 中国が舞台で双子の姉妹とのラブ・ストーリーになるらしい「真夜中の5分前」は、普通の恋愛もののようだったが、愛のミステリーなんだとか。愛のミステリーって何? 12/27公開。

 「想いのこし」は突然交通事故で死んだ人のために生き残った男が奮闘するというお話。なんだか「愛が微笑む時」(Heart and Souls・1993・米)みたいな気もするが(人数も4人と同じだし)、原作はあるらしい……11/22公開。

 「25 NIJU-GO」は東映Vシネ25周年記念作品らしい。まあVシネ・ヤクザ映画という感じで、集大成ということになるのだろうか。11/1公開。

 「トワイライトささらさや」も愛する人が死んで、また戻ってくるとか、会えるとかいう話らしい。なんで似たような作品が重なるんだろう。大泉洋、よく出ているなあ。11/8公開。

 「最後の命」は集団婦女暴行事件を目撃してしまった少年たちのトラウマを描くダークなミステリーらしい。本作もそうだが、日本映画はキーワードが次々と出て、どれがタイトルかわからない予告が多い。11/8公開。

 スクリーンが左右に広がって、映画泥棒の後、やっと暗くなって本編へ。それにしても、字幕が大きかったなあ。最初は画面の下1/3くらいもあるのかと思ってしまった。そんなに大きいはずはないのだが。とにかくでか過ぎ! じゃま。


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