Fury


2014年11月30日(日)「フューリー」

FURY・2014・英/中/英・2時間15分(IMDbでは134分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/字幕監修:浪江俊明/シネスコ・サイズ(レンズ、Panavision)/ドルビー・デジタル、DATASAT、SDDS

(米R指定)

公式サイト
http://fury-movie.jp
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

1945年4月、優勢にベルリン侵攻を目指す連合軍に対し、劣勢のドイツ軍は激しい抵抗を見せていた。そんな中、アメリカ軍のある戦車部隊の第3中隊で唯一生き残った「フューリー」号のクルーは、副操縦士を戦闘で失い、10代の若い新兵ノーマン(ローガン・ラーマン)が補充兵としてやってくる。戦車長のドン「ウォーダディ」コリヤー(ブラッド・ピット)、砲手のボイド「バイブル」スワン(シャイア・ラブーフ)、装填手のグレイディ「クーンアス」トラビス(ジョン・バーンサル)、操縦手のトリニ「ゴルド」ガルシア(マイケル・ペーニャ)たちは、各部隊から寄せ集めたシャーマン戦車隊と協力して、歩兵を助けて進軍する。そしてある町を過ぎた時、新たな任務で、町外れの十字路でドイツ軍を食い止める任務に付くが、途中でタイガー戦車の待ち伏せにあう。


84点

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 うーん、これはやっぱりCMなどで言っているような戦車戦アクションというより、いわゆる反戦映画なんだろう。戦争をすると戦地に送られた兵士たちはこんな地獄を味わうことになるという。トム・ハンクスとスティーブン・スピルバーグ製作総指揮のTVドラマの「ザ・パシフィック」(The Pacific・2010・米)にも近い気がする。リアルな戦場を描こうとすれば残酷表現は避けられず、一旦そういう描写がリアルな戦争物で使われると、次からのシリアス作品はそういう表現を避けられなくなるという。

 手が飛び、足が飛び、頭がはじける。血が噴き出し、戦車の中には顔の一部だけが落ちていたりする……。市民か、自国の兵士か、敵の兵士かわからないが、死体の山をトラックに積み、ブルドーザーで穴に入れて処分する。スピルバーグ監督の「リンカーン」(Lincoln・2012・米)にもその類いの表現があった。道路のぬかるみには南鐐もの車両に引かれてぺしゃんこになった死体がそのままになっていたりもする……。観客は一緒にその戦場へ連れて行かれる。人によっては気持ち悪くなるだろう。すごいショックで言葉を失う。

 ただ、メイン・キャストの戦士はそこまでリアルにというか残酷にできなかったようで、頭部に銃弾を受けても特殊メイクで銃創が目の辺りに作られているだけだったりする。主演クラスに至っては、2コの手榴弾のほぼ直撃を受けても、顔からちょっと血を流している程度。粉々の肉片にしてしまっては誰かわからないうえ、余韻が残せないしなあ。

 冒頭に「米軍の戦車はドイツ軍のものより劣っていた」と出る。そしてタイガー(ティーガー)戦車1台とシャーマン戦車4台(それぞれタイプが違ったようだ)の戦いは、スゴイ迫力と緊迫感だった。ちなみにこのタイガー戦車は実際に稼動する唯一の実物を使って撮影されたらしい。

 マシンガンなどは4発に1発などの割合でトレーサー(曳光弾)が使われていたそうで、それを劇中でも再現している。わかりやすくするためか、ドイツ軍はグリーンで、アメリカ軍はレッドだ。まるでライト・セーバーのよう。これのおかげで弾道が観客にもわかり、緊迫感が増した。そして、装甲ではじかれた砲弾や銃弾が遠くに飛んで行くところも描かれていた。これは初めてではないだろうか。白燐弾が描かれたのも初めてだろう。ラスト、泥だらけのシャーマン戦車は多数の銃弾を浴びて、塗装がハジケ飛び、小さな銀色の弾痕が無数に残っている。激戦の様子をたった1カットで見せるものだが、これも初めてかも。車体にAP弾のよる穴が開き、そこから中で燃えているのが見えるというのも初めてだろう。

 気になったのは、セリフで「タイガー」と言っているのに、字幕では「ティーガー」になっていたこと。確かにドイツ語では虎は「ティーガー」か「ティーゲル」(昔の強発音)だから正しいが、当時のアメリカ兵がわざわざ敵国語で呼ぶだろうか。そもそもセリフでは「タイガー」と言っているではないか。

 ミルを度に換算していたのもどうなのか。ボクなどにはここでは具体的な量などわからなくても良いと思える。たぶんアメリカの観客だって15ミルとかがわからない人がほとんどだと思う。重要なのは、戦車兵たちはそういう特殊な単位を使って戦っていたということではないだろうか。それを度に換算してしまっては意図が伝わらない。過ぎたるは及ばざるがごとし、とボクなんかは思ってしまう。

 字幕の監修に専門家を入れるというのは、問題があるのかも。仕事で頼まれれば普通の訳のままの方がいいというのではお金をもらえないと考えてしまうだろう。しかし必要なのは、使われている専門用語が日本ではどういう専門用語で使われているか、ではないかと思う。ただし、有名な小説が原作で、すでに日本語訳されて人気があるというような場合は、その用語に従うというのはあるかもしれない。それ以外はどうなんだろう。

 使える文字数制限もある。AP弾が良いのか徹甲弾がいいのか。文字数は同じだ。意味としては漢字の方がわかりやすいが、製作者が意味を重要視していないのならばAP弾の方が瞬時に読めていいだろう。

 基本はセリフのままに訳すことなのでは。むずかしいのは単位など。インチやヤードをセンチやメートルに換算すべきかどうか。国や文化、言葉や習慣が違えば伝わらないことがあるのは仕方ない。英語のギャグを無理やり日本語のオヤジギャグに置き換えるような昔風の字幕は必要ないと思う。セリフでは「ビルマ」と言っているのに、字幕では「ミャンマー」と出たこともあったなあ。これって政治が入って来てしまっているのではないだろうか。最初に字幕を入れて「原文のまま表記しています」とか断ればいいのでは。違和感があり過ぎる。

 字幕って、むずかしいなあ。

 それと、人の手が飛んだり、頭が飛んだり、残酷描写は気持ち悪くなるほどものすごいのに、なぜ日本ではこれがG指定なのだろう。アメリカでは成人映画と同じR指定なのに。

 戦車長のドン「ウォーダディ」コリヤーは、製作総指揮も兼ねるブラッド・ピット。ただ彼の製作会社「プランB」の名前はクレジットに見当たらなかった。ブラッド・ピットは最近は製作だけで出演しないことも多いが、それだけ入れ込んでいたということか。本作の前には黒人奴隷問題を描いた「それでも夜は明ける」(12 Years a Slave・2013・米/英)の製作と出演、そしてリドリー・スコット監督の強烈な「悪の法則」(The Counselor・2013・米/英)に出て、「ワールド・ウォーZ」(World War Z・2013・米/マルタ)を製作・出演と、大活躍だ。本作で使っていた銃はMP44とショルダーに入れたS&W M1917。グリップには女性の絵付き。この戦車ファミリーのお父さんのような役。

 タイピストなのに戦車部隊に配属される新兵ノーマン「マシーン」エライアソンはローガン・ラーマン。「3時10分、決断のとき」(3:10 to Yuma・2007・米)以降、あまり作品に恵まれていなかったが、本作は良い。実にハマっている。本作の前の「ノア約束の船」(Noah・2014・米)はあまり良い訳ではなかったので印象も良くない。本作は等身大な感じで、印象もとても良い。役者は良い作品に巡り会えるかどうかなのかもしれない。使っていた銃はM3A1グリスガン。「ウォーダディ」のM1917で無理やりドイツ兵を撃たされる。

 砲手のボイド「バイブル」スワンはシャイア・ラブーフ。なんか牧師だか神父のような雰囲気。本作ではあまりシャイア・ラブーフ感が出ていないので、いいかも。戦場で神を信じられなくなってしまったかのようなのに、最後はやっぱり神にたどり着くという、結構良い役。世界的なヒット作「トランスフォーマー」(Transformers・2007・米)シリーズはボクは好きではないが、最近公開されたマイナーな作品の「欲望のバージニア」(Lawless・2012・米)と「ランナウェイ/逃亡者」(The Company You Keep・2012・加)は良かった。使っていた銃はM1トンプソン、ショルダーにガバメントM1911A1。

 操縦手のトリニ「ゴルド」ガルシアはマイケル・ペーニャ。「クラッシュ」(Crash・2004・独/米)と「ザ・シューター/極大射程」(Shooter・2007・米)はハマり役だったが、その後あまり作品に恵まれていない。最近で良かったのは「エンド・オブ・ウォッチ」(End of Watch・2012・米)あたりか。使っていた銃はM3A1グリスガン。

 装填手のグレイディ「クーンアス」トラビスはジョン・バーンサル。部隊一の粗暴者。言葉も荒く、態度も良くないが、最後の決戦を前にして伝えておきたいと「お前は良いヤツだ」わざわざ言うようなヤツ。TV戦争巨編「ザ・パシフィック」(The Pacific・2010・米)にも出ていたらしい。似たような役を経験済みということか。最近だとドウェイン・ジョンソンの実話に基づいたアクション「オーバードライヴ」(Snitch・2013・米/アラブ首長国連邦)で主人公に手を貸す良い役。使っていた銃はM1トンプソン。

 脚本・監督・製作はデヴィッド・エアー。監督よりは脚本の方が多く、キャリアは脚本家としてスタート。軍隊経験があり、潜水艦に勤務していたらしい。その経験を元に「U-571」(U-571・2000・仏/米)を書いたのだとか。他に「ワイルド・スピード」(The Fast and the Furious・2001・米/独)や「S.W.A.T.」(S.W.A.T.・2003・米)などを書いている。監督作の「フェイク シティ ある男のルール」(Street Kings・2008・米)はなかなか面白かった。「エンド・オブ・ウォッチ」(End of Watch・2012・米)のあと、これまた強烈なアクションの「サボタージュ」(Sabotage・2014・米)を監督・脚本し、つい最近公開している。すでに新作がプリプロに入っているらしい。期待して待ちたい。

 「フューリー」とは英語で激しい怒りのことだそう。そういうことかあ。そして今はどうか知らないが、戦場であだ名のような「ウォーネーム」というのを使っていたというのも興味深かった。

 公開3日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、ムビチケカードで確保。12〜13分まえに開場。観客層は20代もいたが、ほぼ中高年という感じ。男女比は7:3くらいで男性の方が多かった。まあ戦争映画だから当然か。入りは287席に9.5割りくらい、ほぼ満席状態。さすがは話題作。ブラッド・ピットとローガン・ラーマンが来日していたしなあ。それにしても、大きなスクリーンで見たかったなあ。

 スクリーンはシネスコで開いていて、そのままはじまった予告編で気になったのは…… 内容はティーザーで良くわからないが、左右マスクの「フォックスキャッチャー」はチャニング・テイタムがオリンピック・レスラーを演じるらしい。実話で、ちょっと怖そう。2/14公開。

 枠付きの「ゴーン・ガール」は新予告に。一体妻の失踪は第3者のしわざか、夫の犯行か、妻の自作自演か、かなり気になる。12/12公開。

 枠付きの「ホビット決戦のゆくえ」も新予告に。本当に素晴らしい画質と音質、そして音響効果。クオリティが高い。12/13公開。

 ジョニー・デップの枠付き「チャーリー・モルデカイ」も新予告に。どうやらインチキ美術商を演じるらしい。2/6公開。

 スクリーンのマスクが左右に広がって、くらくなって本編へ。


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