Gone Girl


2014年12月13日(土)「ゴーン・ガール」

GONE GIRL・米・2時間29分

日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(デジタル、Red、ビスタの上下マスクで上映〈だったら字幕を外に出せ〉)/ドルビー・デジタル

(米R指定、日R15+指定)

公式サイト
http://www.foxmovies-jp.com/gone-girl/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

ある日、アメリカ、ミズーリ州の田舎町で、双子の妹のマーゴ(キャリー・クーン)と「ザ・バー」を経営している兄のニック(ベン・アフレック)が帰宅すると、ドアが開いていて、妻のエイミー(ロザムンド・パイク)が見当たらず、テーブルが壊れている。ニックはすぐに警察を呼び、ボニー刑事(キム・ディケンズ)がやって来る。すると鑑識の結果、キッチンから大量の血痕を拭いた跡が見つかり、失踪と殺人の両面から捜査が進められることになる。たちまちこの事件は全米の注目するところとなり、ニックは記者会見を開くが、記者の「笑って」という要求に応えてしまった写真が広く使われ、報道は夫が怪しいという方向に傾いていく。


74点

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 怖い映画。こういう人間がいることが怖い。実際、程度の差こそあれ、こういう人は身近にいる。嘘つきなのだが、まず自分がそのウソを信じて、それから堂々と言うので、ウソだと見抜けない。多くの人がそれを信じ、疑う方が悪いような感じになってしまう。最高の嘘つきはこういう人たちだ。

 そして、マスコミの恐ろしさ。先入観や思い込み、センセーショナルを狙った報道は、それが当たっていればいいが、外れていた時に飛んでもないことになる。対象となった人の人生を破滅させてしまう。大衆はたやすく扇動されてしまう。その恐ろしさ。

 事件が進むに従って明らかになってくる夫の素行。良い子とばかりではない。見てはいけないものを見てしまったような居心地の悪さ。テレビの無礼なリポーターのバカな質問を浴びているような不愉快さ。さらには、浮気などの本当の悪さを知るに至り、感情移入もしにくくなってくる。そして徹底した悪意の恐ろしさ。このへんは演出がうまい、演技がうまいということなんだろう。

 ただ、2時間半もかけて、解決のない物語を見せられるのはどうなんだろう。監督としては安易な解決は示さず、観客に考えて欲しいと言うことなのだろうとは思う。しかし完結しないと、まるで「3部作の序章」みたいになってしまう。楽しい映画ならそれでもいいかもしれないが、こういう映画だとなあ……。ここから事件は思いも掛けない展開に!みたいな感じ。意味あり気に出てきた刑事なんて、何の役にも立たないではないか。

 キャッチ・コピーはミス・リーディングのためなのか、「本当に大切なものはいつも失って初めてわかる」は映画を見終わった後だとかなり違和感を覚える。

 ニックを演じたのはベン・アフレック。ほとんど出演がメインでラジー賞作品などにも出ていたが、やがて製作総指揮や監督も手掛けるようになり、大きな評価を得ている。特に最近は出演作も評価の高いものが多いようだ。選べるようになったということか。「ゴーン・ベイビー・ゴーン」(Gone Baby Gone・2007・米)という日本劇場未公開作品の脚本と監督を担当。自らは出演せず少女の誘拐事件を描いたものだそうだが、なんとなく本作とのつながりを感じる。メイン・ビジュアルは男の後ろ姿。評価は高かったようなのに、なぜ未公開に? ベイビーからガールへ大人になったと。監督作の「ザ・タウン」(The Town・2010・米)と「アルゴ」(Argo・2012・米)はどちらも素晴らしかった。本作は「ハリウッドランド」(Hollywoodland・2006・米)みたいに、あまりイメージの良い役ではないが、積極的に出ている感じだ。

 妻のエイミーはロザムンド・パイク。かなりきわどい役を体当たりで演じている。ほとんどノー・メークの場面もあり、凄いなあと。美人ゆえに、ラストのアップは本当に怖い。いかもに、こういう人っているよなあという説得力。イギリスのTVで活躍していて、「007/ダイ・アナザー・デイ」(Die Another Day・2002・英/米)でボンド・ガールに抜擢されブレイク。その直後は色々な作品に出ていたが、最近はトム・クルーズと共演した「アウトロー」(Jack Reacher・2012・米)以外パッとしなかったが、本作で実力派であることを鮮やかに証明して見せた。

 双子の妹マーゴはキャリー・クーン。きれいな人で、活躍し出したのは2011年くらいからで、主にTV。話題作「LAW & ORDER: 性犯罪特捜班」(Law & Order: Special Victims Unit・1999〜・米)にも出ているらしい。映画は本作が初めてのようだが、とても良かった気がする。今後にも期待。

 思わせぶりだが、実はいなくても何の影響もないキャラクター、刑事のボニーはキム・ディケンズ。事件のカギになるかと思いきや、まったく活躍しない。ブルース・ウィリスの「マーキュリー・ライジング」(Mercury Rising・1998・米)や、ケヴィン・ベーコンのSFリメイク・ホラー「インビジブル」(Hollow Man・2000・米/独)に出ていたが、最近は作品に恵まれていなかった。

 敏腕弁護士のターナー・ボルトはタイラー・ペリー。この人も活躍するかと期待させてくれるが、結局はほとんど関係なく終わってしまう。うむむ。アカデミー賞を受賞した話題作「プレシャス」(Precious・2009・米)の製作総指揮を担当。TVを中心に監督、脚本もやっている。「バーニング・クロス」(Alex Cross・2012・米)では主役の刑事を演じたが、日本では小劇場公開だったので見ていない。

 イヤらしいTVニュースの女性アンカー、エレン・アボットはミッシー・パイル。底の浅そうなTV人っぽい感じが抜群だった。TVが多い人で、見たことあるなあと思ったら、アカデミー作品賞を受賞した「アーティスト」(The Artist・2011・仏/ベルギー/米)に出ていたらしい。いい味を持っている。

 もう少しお上品なTVニュースの女性アンカー、シャロン・シーバーはセーラ・ウォード。ローランド・エメリッヒ監督のディザスター映画「デイ・アフター・トゥモロー」(The Day After Tomorrow・2004・米)に出ているが、TVの「CSI:ニューヨーク」(CSI: NY・2004〜2013・米/加)や「Dr.HOUSE -ドクター・ハウス-」(House M.D.・2004〜2012・米)の方が良く知られているだろう。

 原作と脚本は女性ライターのギリアン・フリン。アメリカで600万部以上の大ヒットとなった自身の同名小説を映画化。そうか、女性ゆえに女性の視点からこんなに恐ろしい物語を書けたんだ。本作が初の脚本。新作小説が2015年に出るらしい。女性は怖いなあ。

 監督はデヴィッド・フィンチャー。ILMで特殊効果に関わった後、ミュージック・ビデオやCMを手掛け、シガーニー・ウィーヴァーの希望で銃を使わない「エイリアン3」(Alien3・1992・米)で監督デビュー。その後「セブン」(Se7en・1995・米)など話題作を次々と監督。評価を高めた。リメイクの「ドラゴン・タトゥーの女」(The Girl with the Dragon Tattoo・2011・米/スウェーデン/ノルウェイ)はどうかと思うが、「ソーシャル・ネットワーク」(The Social Network・2010・米)のイヤらしい人間関係が本作でも生きているようだ。新作はどうも「ドラゴン……」の続編らしいが、オリジナル版で見たよ。やめてほしいなあ……。

 ひとつ気になったのは、予告にあった水の中に沈んでいく死人のような顔をしたエイミーのカットがなかったこと。ひょっとしたら違うエンディングも撮っていて、スニーク・プレビューでこちらの方が反応が良かったということだろうか。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、ムビチケカードで確保。当日は10分前くらいに開場。ほとんど中高年で、若い人は少々。男女比は半々くらい。最終的には157席がほぼすべて埋まった。楽しい映画ではないし、子供も見られる映画ではないので、それを考えるとイイ線か。

  気になった予告編は…… 上下マスクの「駆け込み女と駆け出し男」は大泉洋主演のコメディ時代劇らしい。まだティーザーで内容は良くわからない。ただタイトルがどこかで聞いたような……「鮫肌男と桃尻女」(1998・日)とか関係ないよなあ。原田眞人監督だし。5/16公開。

 「ジミー、野を駆ける伝説」はケン・ローチ監督の新作。「麦の穂をゆらす風」(The Wind That Shakes the Barley・2006・アイルランド/英ほか)みたいな作品なら見たいが、ちょっと違う感じ。1/17公開。

 少しだけ上下マスクの「エクソダス神と王」は新予告に。これだと内容が少しわかる。ものすごいスケール、スペクタクル。これなら3D上映の方がいいかも。リドリー・スコット監督だから、最後は1対1の決闘だろうなあ。旧約聖書の10の災いがが描かれるようで、見たくなる。えっ、シガーニー・ウィーヴァー? 楽しみ。1/30公開。

 上下マスクの「96時間/レクイエム」はシリーズ3作目。前作が酷かったが、今度はどうか。ファムケ・ヤンセン演じる妻殺害の容疑者になるらしい。なんだか新しいマシンガンが使われているような。1/9公開。

 スクリーンはビスタのままで、マスクでシネスコ・サイズ上映。レンズを使っていないということか。デジタルならどっちも同じなのか。この方式でやるなら、日本語字幕を黒帯へ出せ!


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