2015年1月17日(土)「ジャッジ 裁かれる判事」

THE JUDGE・2014・米・2時間22分(IMDbでは141分)

日本語字幕:手書き風書体下、岸田恵子/シネスコ・サイズ(マスク、Panavision、Super 35)/ドルビー・デジタル、DATASAT(IMDbではSDDSも)

(米R指定)

公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/thejudge/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)(前売り券無し)

高い弁護料を取る敏腕弁護士のハンク・パーマー(ロバート・ダウニー・Jr.)は、幼い娘ローレン(エマ・トレンブレイ)を抱え、離婚の危機にあった。そんなとき田舎の実家から母が亡くなったという電話があり、1人で帰郷する。そして早々に仕帰ろうとした日、地元で長年判事をと勤めてきた厳格な父のジョセフ・パーマー(ロバート・デュバル)が交通事故を起こし、相手を死亡させたという。その相手は札付きの悪党で、過去にハンク判事が裁判を手掛けていたことから、担当検事のドワイト・ディッカム(ビリー・ボブ・ソーントン)はそれに絡んで起こした第一級殺人としてジョセフを起訴する。ところがジョセフは高齢で、最近ボケの症状が出始めており、当日のことは覚えていないという。ハンクは父を弁護することにするが、ジョセフはそれを断固として断る。

76点

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 楽しい映画ではないが、良くできたドラマだと思う。俳優たちの演技も素晴らしい。ただ、終わって出るとき、若い女の子が友人に「もっとミステリーになってるのかと思った」と言っていたが、激しく同意。思わせぶりなのに、結局大したことは何もなく、普通のドラマ。つまりこの映画で判事が犯罪を犯したかどうかは問題ではない。どっちでもいいのだ。描きたいのは、この事件をきっかけに家族や友人たちの関係性が、そして主人公自身が微妙に変化するということなのだろう。キャッチとなっている「父は犯人なのか」は実は関係ない。

 ただ普通のドラマとは言っても、冷静に考えてみると相当悲惨。離婚の危機、倫理観と仕事、母の死亡、父との確執、兄弟との確執、父の病気と介護……正面から描けば、息が詰りそうになる、にっちもさっちもいかない逃げ出したくなるような状況。それでいて、実は実際にありそうな事柄で、深く考えさせられる。重い。ずっしり胸に来る。これが暗くならず、ため息が出るような落ち込む映画になっていないのは、登場人物たちが誰一人として嘆いたり、悲惨さをぐだくだと語ったりしないからだろう。そして、ほどよくギャグが織り込まれ、観客を笑わせる。この絶妙バランス。

 つまり映画的には些細な事件を142分も描いているわけで、長いし眠くなる。退屈というわけではないが、こんなに長く描くなら、やはりミステリーにして、事件の意外な真実を盛り込んで欲しかった。実はボケていながらも父は誰かを守っていたとか、家族も知らない過去があってそれを隠していたとか……。ロバート・デュバルやロバータ・ダウニーJR.とかの名優が演じているので、それだけで映画はもってしまうのだけれど。

 画質は今ひとつ。最新の映画のようには見えなかった。デジタル化の昨今、非常に高画質化しており、フィルム撮影したらしい本作はその点で劣る。古い映画のよう。デジタル処理も加えられているようで、フィルムを取り込んで処理するとやはりさらに劣化はするようで、それも足を引っ張っているのかもしれない。個人的にはデジタルで撮れば良かったのにと思う。どうにも古くさく感じてしまう。それが、すこし流れていたノスタルジックな感じや、行き詰まった感じや、諦めやウンザリ感を出しているのかもしれないが。

 主演はときどきトラブルを起こして話題になるが・名優のロバート・ダウニー・Jr.。製作総指揮も担当している。奥さんのスーザン・ダアニーがプロデューサー(製作)を務めている。人気のS Fアクション「アイアンマン」シリーズから本作のようなドラマまでなんでもこなせる。「シャーロック・ホームズ」(Sherlock Holmes・2009・米/独)では見事な肉体アクョンも披露した。ボク的にはコミカルなファンタジー「愛が微笑む時」(Heart and Souls・1993・米)あたりが好きだけど。

 父のジョセフ・パーマーはロバート・デュバル。日頃厳しいから、そのまま頑なな感じでボケたようすが素晴らしかった。あまりにリアル。吐いて、漏らすシーンは壮絶だった。さすが名優。「地獄の黙示録」(Apocalypse Now・1979・米)のキルゴア中佐は強烈だった。すでに83歳。ボク的には「ウォルター少年と、夏の休日」(Secondhand Lions・2003・米)が良かった。

 かつてのハンクの憧れの人だったサマンサはベラ・ファーミガ。独特の色気がある。ボクは「ワイルド・バレット」(Running Scared・2006・独/米)が強く印象に残っている。つい最近ホラーの「死霊館」(The Conjuring・2013・米)に出ていた。

 戦う相手となるドワイト検事はビリー・ボブ・ソーントン。冷酷な切れ者のような雰囲気が見事。「シンプル・プラン」(A Simple Plan・1998・英/独ほか)なんかは怖かった。最近はあまり作品に恵まれなかった感じ。この人もいろいろ問題を起こしているようだが、演技はさすが。

 ハンクのせいで野球を諦めた兄グレンはビンセント・ドノフリオ。が、「メン・イン・ブラック」(Men in Black・1997・米)は笑わせてくれたが、一転して「ザ・セル」(The Cell・2000・米/独)の犯人は怖かった。

 ハンクの知的障害がある弟デイルはジェレミー・ストローング。この人もうまかった。しつこさがうっとうしくなく、人の良さが伝わってくるような演技。アカデミー賞作品「ゼロ・ダーク・サーティ」(Zero Dark Thirty・2012・米)やスピルバーグの「リンカーン」(Lincoln・2012・米)に出ているようだが、あまり印象に残っていない。本作はしっかり印象に残った。

 原案と脚本はニック・シェンク。イーストウッドの傑作「グラン・トリノ」(Gran Torino・2008・米/独)の原案と脚本を書いた人だ。なるほど。

 監督・製作・原案はデイビッド・ドブキン。残念なジャッキー・チェンのウエスタンの続編「シャンハイ・ナイト」(Shanghai Knights・2003・米/香)を監督した人。監督より製作の方がやや多く、最近手がけたのは、残念な「ジャックと天空の巨人」(Jack the Giant Slayer・2013・米)や、たしか前売りがなかった「ゴースト・エージェント/R.I.P.D.」(R.I.P.D.・2013・米)。コメディ系の人らしい。それがなぜ、こんなシリアスなドラマを? 本作の場合、そのコメディ感覚が、重いドラマを深刻になりすぎないようにバランスを取っていたようだ。

 公開初日の初回、新宿の劇場は全席指定で、ムビチケ・カードで確保。当日は10分前くらいに開場。観客層は20代くらいから中高年まで幅広かったが。メインはやはり中高年。男女比はほぼ半々くらい。最終的には157席ほぼ全て埋まった。地味な作品なのにと思ったら、アカデミー賞候補になっているらしい。なるほどわかりやすい。

 スクリーンはシススコで開いていて、気になった予告編は......四角枠の「ストレイヤーズ・クロニクル」は本多孝好の小説の映画化らしいが、なんだかアメリカの「クロニクル」(Chronicle・2012・米)と、日本の韓国映画リメイクの「MONSTERZ モンスターズ」(2014・日)を合わせたような雰囲気。面白そうな気もするが......。6月公開。

 左右マスクの「白鯨のいた海」はついに映像付きの予告へ。小説の元になった1819年の実話の映画化らしい。鯨の巨大なこと。ロン・ハワード監督は前作が残念な感じだったが、これはぜひ見たい。5月公開のようだが、日本語のサイトはまだない模様。

 左右マスクの「フォーカス」はウィル・スミス主演の詐欺師ものらしい。引退できるほどの大仕事に挑むとか。3/28公開。

 四角枠の「アナベル 死霊館の人形」は、またジェームズ・ワンのホラーで、なかなか面白かった「死霊館」(The Conjuring・2013・米)の中で出てきた人形が主人公というかモチーフになるらしい。予告はかなり怖そうだが、なんでそんなことをするというのを予告の段階から感じるのは不安材料かも。2/28公開。


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