2015年2月14日(土)「フォックスキャッチャー」

FOXCATCHER・2015・米・2時間15分(IMbでは129分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、石田泰子/ビスタ・サイズ(1.85、Super 35、Panavision、Arri)/ドルビー・デジタル、 DATASAT

(米R指定、日PG12指定)

公式サイト
http://foxcatcher-movie.jp
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

1984年の第23回ロサンゼルス・オリンピックのレスリングで兄のデイヴ(マーク・ラファロ)とともに金メダルを獲得したマーク・シュルツ(チャニング・テイタム)は、金メダリストであってもマイナー競技ゆえに貧しいギリギリの生活ながら、1988年のソウル・オリンピックでの連覇を目指し厳しいトレーニングに励んでいた。そんなある日、アメリカの大企業、デュポン社の社長ジョン・デュポン(スティーヴ・カレル)から、自分のレスリング・チーム「フォックスキャッチャー」に入って一緒に世界制覇を目指そうと誘われる。立派なトレーニング施設と高給に惹かれてチームに加わったマークだったが、次第にジョンの真の姿が見えてくるに従い、軋轢が生じてくる。

68点

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 うーむ、これは……元気な時に見ないと、かなり落ち込むかもしれない。人間のいやらしい部分を、そのままねっとりと、じっくりとリアルに、しかも避けられない袋小路にはまるような感じで描かれると、本当によく伝わってきて、まさに嫌になる。逃げ場はない。こういう選択しかないだろうと。実話であり、エンディングも救いはない。

 避けられずにこうなってしまったわけで、バカな行動のせいではないので怒りはわかないが、やるせなさとか悲しさがよく伝わってくる。感情が動かされるというのは、映画としてよくできていて、演技も素晴らしく、演出もハマっているからだろうが、映画として何を描きたかったのか。実名まで使っているわけだし、事件を描きたかったのなら、TVでドキュメンタリー的に関係者の証言や当時の本物の映像を織り交ぜながら作ったほうがいいと思うし、ドラマとしてもこのスケール感なら映画じゃなくTVドラマで良かったのではと思ってしまう。なぜ映画だったのか。名優が使えたから? よくわからなかった。ただ、アカデミー賞候補にはなっているらしい。

 特殊効果は結構使われていて、まず特殊メイク。格闘技の選手らしく、耳が変形しているのをリアルに作っている。そしてスティーヴ・カレルをジョン・デュポンにした特殊メイクも、どアップでもわからないくらいリアルに作っている。そして、視覚効果なのか、オリンピックの試合も、本当にその場にいたような雰囲気。まったく不自然さはなかった。

 ジョン・デュポンはスティーヴ・カレル。特殊メイクで人相も変わり、あのとぼけた感じはなくなり、すっかり意固地でダークな金持ちの社長といった雰囲気に。まるで人が変わったかのよう。とても「40歳の童貞男」(The 40 Year Old Virgin・2005・米)とは思えない、見てないけど。たぶんこれが話題になったのは劇場効果時ではなく、ビデオ・リリースされてからではなかったか。わざわざ劇場まで行くほどではないと。スパイ・アクションの「ゲットスマート」(Get Smart・2008・米)も残念だった。たぶん日本受けしない内容で、キャラクターなのだろう。アメリカでは人気が高いらしい。日本でも評価が高いのは「リトル・ミス・サンシャイン」(Little Miss Sunshine・2006・米)くらいで、あとは最近のものも含め日本劇場未公開という作品がぞろぞろ。本作は全く違う。さすが実力のある俳優ということなのだろう。

 弟のマーク・シュルツはチャニング・テイタム。この人もダークなキャラクターをうまく演じている。鏡に頭をぶつけて悪シーンはどうやって撮ったんだろう。驚いた。肉体改造もしたようで、レスリング選手のように見えた。もともとマッチョな二枚目俳優で、残念なS Fアクション「G.I.ジョー」(G.I. Joe: The Rise of Cobra・2009・米/チェコ)あたりから大きな役を演じるようになった感じ。「ホワイトハウス・ダウン」(White House Down・2013・米)では大作の主役だったが、本作で初めて本格的な演技を見せたような印象も。まもなく超大作の「ジュピター」(Jupiter Ascending・2015・米)が公開される。

 唯一明るいキャラの兄のデイヴはマーク・ラファロ。演技派という感じだが、きっと肉体改造はされているものだろうが、まわりがすごいのでそれほどレスリング選手には見えなかった。それにもともとそんなに明るいキャラでもないので、全体として暗いイメージになってしまっているのだろう。最近だと「アイアンマン3」(Iron Man 3・2013・米/中)や「グランド・イリュージョン」(Now You See Me・2013・仏/米)に出ている。

 おそらくは厳格な母で、育て方を間違っただろうジャン・デュポンはヴァルッサ・レッドグレーヴ。うますぎて、ちょっとしか出てこないのにすごい存在感。多くの不幸の根源はこの人にあるのではないかと思わせる。1960年代から活躍しているベテラン女優。比較的最近だと「いつか眠りにつく前に」(Evening・2007・米/独)などが印象的だった。つい最近では「大統領の執事の涙」(The Butler・2013・米)でやはり上流階級の夫人を演じている。

 マーク・シュルツの妻、ナンシーはシエナ・ミラー。「スターダスト」(Stardust・2007・英/米/アイスランド)で片思いされる美女を演じた人。本作では生活感のある普通の主婦という感じだが、「アメリカン・スナイパー」(American Sniper・2014・米)では国で夫の帰りを待つけれど、現代的な女性のタヤを演じている。「G.I.ジョー」で敵となる強い女役でチャニング・テイタムと共演している。それぞれ全く印象が異なるのだからすごい。

 脚本はE・マックス・フライとダン・ファターマンの2人。E・マックス・フライは話題となったWWII時のヨーロッパ戦線を描いたT Vドラマ「バンド・オブ・ブラザース」(Band of Brothers・2001・英/米)を書いている。他に「10ミニッツ・オールダー イデアの森」(Ten Minutes Older: The Cello・2002・英/独/仏)のうちの1本も書いているようだが、見ていない。

 ダン・ファターマンは脚本家という世の役者としての仕事の方が多く、映画の他にT Vのドラマの脚本を書いている。のちに話題となった「カポーティ」(Capote・2005・米/加)の製作総指揮と脚本を担当。小劇場での単館公開だったので見ていないが、それでフィリップ・シーモア・ホフマンはアカデミー主演男優賞を受賞した。最近の出演作にはアンジェリーナ・ジョリーの「マイティ・ハート/愛と絆」(A Mighty Heart・2007・米/英)がある。

 監督はベネット・ミラー。「The Cruise」というドキュメンタリーで注目され、第2作の「カポーティ」を監督、一気にメジャーとなる。そのあと「マネーボール」(Moneyball・2011・米)を監督している。短編のドキュメンタリーを撮って本作となる。きっとドキュメンタリー的な作品が上手い人なのだろう。

 登場する銃は、上流階級の高価な水平二連銃に、デュポンが購入するAPC M113に取り付けろと駄々をこねるのがM2重機関銃。灰皿には.50口径の弾薬が取り付けられている。敷地内の射撃場で警察官たちと練習しているとき使われていたのは、4インチのリボルバー。たぶんちょうど警官の銃がリボルバーからオートマチックに変わる頃。S&Wの M19かM27か、.44マグナムならM28かM29かもしれない。リブがなければM10か12あたりか。殺害に使う銃もたぶんこの4インチ。ハイパトのように見えた。3発撃ち込む。

 フォックスキャッチャーというのは、たぶんジョン・デュポンが好きではなかった上流階級のスポーツのキツネ狩りで使われていた馬の名前。それを母親に押し付けられ、ますますキツネ狩りも馬も嫌いになってしまったのではないかという気がした。

 公開初日の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に前売券を持って劇場で確保。当日は15分前くらいに開場。観客層は中高年がメインで、若い人が少し。男女比は9対1くらいで圧倒的に男性が多かった。女性はほぼ中高年のみ。最終的には157席に8割くらいの入り。アカデミー賞ノミネートで話題になってはいるが、今後観客が増えるような作品とは思えない。これに対して関係者らしい一団が10人くらい。多いって。

 気になった予告編は……上下マスクの「ターミネーター:新起動/ジェニシス」はシリーズ第5作目。なんとあの液体金属の警官T-1000も出てきて、演じるのはイ・ビョンホン。シュワルツェネッガーも出ている。ただ主要人物がらしい男性が「猿の惑星:新世紀(ライジング)」(Dawn of the Planet of the Apes・2014・米)の人って、ちょっと地味すぎなんじゃないの。うーむ、期待していいのか。たぶん見るけど。3D上映もあり。夏公開。

 上下マスクの「ジュピター」は新予告に。「スター・ウォーズ」(Star Wars・1977・米)的スペース・オペラという感じだが、絵がとにかくすごい。映像新世紀という感じ。3/28公開。

 ウッディ・アレンの新作「マジック・イン・ムーンライト」は興味深い設定のようだが、なんでこんなに画質が悪いのか。まるで昔の映画みたい。4/11公開。

 あいかわらず意味のよくわからない「ごはんかいじゅうパップ」のCMに、やっと普通になったQPのCM、なぜか外人を使った上から目線のJTのCMとか、劇場は効果の不明な変わったCMが多い。しかも、マナー広告はほとんど効果なし。携帯はオフにと言っている時に、暗闇で液晶画面を煌々と光らせて数人がケータイを使ってる。なんなんだろ。


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