2015年2月21日(土)「アメリカン・スナイパー」

AMERICAN SNIPER・2014・米・2時間12分

日本語字幕:手書き風書体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(with Panavision〈IMDbではデジタル、Arri Alexa〉)/ドルビー・デジタル、 DATASAT(IMDbではドルビー・デジタルなしでドルビーATMOSとAuro11.1も)

(米R指定、日R15+指定)(IMAX版もあり)

公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/americansniper/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

幼い頃から父にライフル銃によるハンティングを教えてもらったクリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)は、30歳の時アフリカでのアメリカ大使館爆破テロのニュースを見て、祖国のための力になりたいと海軍に入隊する。そして厳しい選考を経て特殊部隊ネービー・シールズのスナイパーとなる。やがてバーで出会った美女タヤ(シエナ・ミラー)と意気投合し結婚するも、2001年9月11日にアメリカで同時多発テロが発生し、イラクに派兵されることになる。

78点

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 実話の映画化。かなりショッキングな映像で、観客を戦場へと連れて行く。もちろん戦場の全てがあるわけではないが、そのわずかな一端でさえも非常に過酷なものであることを垣間見せてくれる。

 一般市民なのか、軍服を着ていない敵の兵士なのか、連絡員なのか、攻撃しようとしているのか、自爆犯なのか、スナイパーは短時間に見極めトリガーを引くかどうするか判断を下さなければならない。多くの場合、司令部からの支援は得られず、スナイパー個人の責任となってしまう。そして戦闘が終われば、正しい判断だったのか詰問され、間違って市民を撃てば軍事刑務所に入れられ、敵兵を撃たなければ戦友を失うことになってしまう。こんな究極の選択を強いられる職業。そして目の前で血が流れ、人が死ぬという過酷な現実。これで精神をおかしくしないほうが、どうかしているというものだろう。6週間で帰るというが、帰れないものも多く、帰ったとしても、突然普通の暮らしができるわけがない。ここにも戦争の恐ろしさがある。

 これらを、イーストウッド監督はじっくりと、丁寧に描いていく。スーパー・ヒーローではなく、いろいろなことで悩む1人の人間として、愛国心が強く多くの戦友を救った勇敢な兵士として、普通のヒーローとして描いている。ラストの、BGM付きの実際の葬式の写真やビデオ映像が心に刺さる。多くの見送りの人々、車イスの元兵士らしい人もいる。アメリカの国旗を振っている。涙が流れそうになった。それに対してエンドクレジットのロールが無音というのが強烈。逆に多くの人が出て行かなかった。この重さ。

 銃器は、スコット・マクイーウェン、ジム・デフェリス共著による原作本「ネイビー・シールズ 最強の狙撃手」(原題は「American Sniper」、口述筆記による自伝、原書房刊/文庫版・Kindle版は「アメリカン・スナイパー」早川書房刊)と緻密なリサーチによって、可能な限り正確に再現されているようだ。海軍技術顧問として参加しているケビン“ドーバー”ラーチは、シールズ・チーム3でクリス・カイルと戦友だった人物だという。自分自身の役で出演もしているらしい。当然、装備ではアドバイスしているはずだ。

 クリス・カイルは4回の派兵(ツアー)で、毎回、違ったスナイパー・ライフルを使ったという。リューポルド・マーク4 3.5-10x40 LR/Tスコープを載せた.338ラプア・マグナム口径のマクミランTAC-338Aボルト・アクション・ライフル。ナイトフォースNXS 5.5-22x56スコープを載せた.300 Win Mag口径のレミントンM700ベースのナイツ・アーマメント(KAC)のサプレッサー付きSOCOM Mk13。これら2種はカイルのお気に入りだったらしい。そしてリューポルド・マーク4スコープを載せた7.62×51mm口径のMk11(SR-25)オートマチック・ライフル。ラストの第4回目は7.62×51mm口径のM40A3ボルト・アクション・ライフル。護身用にはKACサプレッサーとAN/PEQ-2、エイムボイント付き5.56mm口径のMk18(M4CQBR)と、シールズの標準装備であるP226ピストル(実際にはクリス・カイルは.45口径のスプリングフィールドのTRPオペレーターを装備していたが、ファルージャで手榴弾によってダメージを受けたため、.45口径のP220に換えたという)。訓練シーンではボルト・アクションのM40A1を使っている。

 ちなみに、腕時計はカシオのGショックDW6600アーミー。映画でもそれを付けている。そしてヴェストと手首にGPSを1コずつ、さらにGPSが壊れた時に備えてコンパスも身につけていたという。そして4回目の派兵の時、奥さんのタヤの両親から防弾効果が高いとされる当時最高レベルのドラゴン・スキン・アーマーをもらっているらしい。耳栓は敵の射撃音などを聞くため使用せず、映画の通りヘルメットもあまり被らなかったらしい。M4のマガジンは30連を10本携帯。サングラスはワイリーXのセイント・モデル。グローヴは手の甲に文字が入ったメカニクスウェアのオリジナル・グローヴ【コヴァート】(メーカーの説明によると微妙に違うようだ:http://www.mechanix.com/magazine/special-projects-american-sniper)。シューズはメリルのハイトップス・ハイキング・ブーツ。

 クリス・カイルはブラッドリー・クーパー。自ら映画化権を取得しクリント・イーストウッドに監督を依頼、そしてともにプロデューサーとしても本作に関わっている。T Vドラマの「エイリアス/2重スパイの女」(Alias・2001-2006・米)などで知られるようになり、悪ノリコメディ「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」(The Hangover・2009・米/独)で注目された。日本人的にはピンとこない感じだが、アメリカではとてもチャーミングなスターらしい。その後、残念な「特攻野郎AチームTHE MOVIE」(The A-Team・2010・米)や、多くの賞を受賞した「世界にひとつのプレイブック」(Silver Linings Playboo・2012・米)、さらにFBIの囮捜査の実話を映画化した「アメリカン・ハッスル」(American Hustle・2013・米)も多くの賞を受賞している。本作ではシールズに見えるように肉体改造を行い、海軍技術顧問のケビン“ドーバー”ラーチから狙撃の指導を受けたという。

 妻のタヤはシエナ・ミラー。残念なS Fアクション「G.I.ジョー」(G.I. Joe: The Rise of Cobra・2009・米/チェコ)で敵の強い女の中ボスを演じた人。とても同じ人とは思えない。つい最近、暗い物語「フォックスキャッチャー」(Foxcatcher・2015・米)に出ていた。

 脚本は製作総指揮も務めるジェイソン・ホール。原作が完成する前に、すでにクリス・カイルと映画化の話をしていたという。役者としての経歴の方が長く、TVを中心に1996年頃から活躍している。たぶん最後は「CSI:マイアミ」(CSI: Miami・2002-2012・米)の2005年シーズンの1話。2009年から脚本も書いているらしい。本作の前に書いたのが携帯会社同士の産業スパイを描いた「パワー・ゲーム」(Paranoia・2013・米/仏)。本作と共通点はないようにも思えるが。あるといえば原作があるということくらいか。

 監督はもちろんクリント・イーストウッド。1930年生まれだから85歳。さすがに歳をとった感じがするが、とてもバイタリティが必要な監督を現役でやっているとは信じられない。つい最近「ジャージー・ボーイズ」(Jersey Boys・2014・米)を監督したばかり。3年前には「人生の特等席」(Trouble with the Curve・2012・米)に役者として出演している。やっぱりダーティ・ハリーはタフだ。

 公開初日の初回、すでに話題となっていたので危ないと思ったが、金曜に新宿の劇場のサイトにアクセスしてみると席があったので、ムビチケカードで確保。当日は混雑を予想してか早めの30分ほど前に開場。観客層はほぼ中高年で、それも男がほとんど。最初は30人ほどだったが、15分くらい前で607席の1/3ほどが埋まり、5分前くらいで7割ほどだった。しかしギリギリに入ってくる奴が多くいて、最終的に9割ほどが埋まった。

 早めに開いたので、10分前になるまでBGMもなし。女性は1割ほどで、20代くらいの若い人は2割いたかどうか。

 スクリーンはシネスコ・サイズで開いていて、左右マスクのCMから始まった。気になった予告編は...... 四角の枠付きの「チャッピー」は人工知能(AI)を搭載したロボットの話らしい。ロボットのデザインが「エリジウム」(Elysium・2013・米)そっくりだなあと思ったら、同じニール・ブロムカンプ監督らしい。AIをどう育てるのかという話のようだった。ヒュー・ジャックマンやシガニー・ウィーバーが出ている。5/23公開。

 四角の枠付きの「アナベル」は「死霊館」(The Conjuring・2013・米)に出てきた女の子の人形が祟る話らしい。「死霊館」がなかなか面白かったので、続編的なスピンオフということなのだろう。面白いのか、つまらないのか、賭けだなあ。IMDbでは、5.5点とかなり厳しい。うむむ。2/28公開。

 暗くなり、マスクが左右に広がって本編へ。


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