2015年3月1日(日)「プリデスティネーション」

PREDESTINATION・2014・豪・1時間37分

日本語字幕:丸ゴシック体下、長澤達也/シネスコ・サイズ(by Panavision〈IMDbではデジタル、Arri Alexa〉)/ドルビー・デジタル、 DATASAT、SDDS

(豪MA15+指定、米R指定、日R15+指定)

公式サイト
http://www.predestination.jp
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

連続爆弾魔のフィズル・ボマー(不完全な爆弾魔)を追っていた、時空を飛び越える航時局のエージェント(イーサン・ホーク)は、任務に失敗し爆弾が爆発。九死に一生を得てどうにか命を取り留めるも、顔などに大やけどを負ったため、整形手術の結果、まったく別人の顔になってしまう。現場復帰したエージェントは、最後の仕事として再びフィズル・ボマーを追い、1970年7月6日のニューヨーク、「ポープ酒場」にバーテンとして現れる。すると、そこに無愛想な男ジョン(サラ・スヌーク)がやってくる。オレが驚く話をしたらウィスキーのボトルを1本やるという賭けで、ジョンはとんでもない身の上話を語りだす。

76点

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 何という、驚きの物語。圧倒された。まさに奇談。宇宙船も宇宙人も出てこないが、これはみごとなSFだ。主人公がバーで聞かされたその奇妙な話を聞き、それを映像として見ることで、観客も本当に聞かされている感じになる。これは公式サイトでも書かれているようにタイム・パラドックスというやつなんだろう。シリアスなSFではありえないともされるし、アドベンチャー系やファンタジー系ではよく使われる設定。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(Back to the Future・1985・米)でマーティは過去で自分より年下の父と母にあう。

 特に良いのは、1970年7月6日、バーで主人公が奇妙な男と会って、驚くような話をしろと賭けをするところ。この映画のメインの部分でもある。まるで「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」(The Curious Case of Benjamin Button・2008・米)のような驚くべき話が語られる。雰囲気は良く似ていると思う。

 ムービー・マジックとしては、ブラッド・ピットがベンジャミン・バトンを演じたように、女優のセーラ・スヌークを男性にしたところがすごい。その衝撃を表すため、全裸になるシーンがあり、一瞬だが男性自身が映る。ここをボカしてしまうと衝撃が分かりにくくなってしまう。「クライング・ゲーム」(The Crying Game・1992・英/日)のように、ここは修正せず上映しなければならない。映倫はよくぞこのままで公開してくれた。

 原作はロバート・A・ハインラインの短編「輪廻の蛇」だそうで、確かにそんな感じ。自分の尻尾を追う蛇のような堂々巡り。キリがない。そして「卵が先か鶏が先か」という答えのない問答に答えを出そうとする物語。ただし、やっぱり答えはなかった。一見バラバラのわからなかった話がすっきり1つに繋がる物語。短編らしく、衝撃があって答えはないが、長編映画としては結末というか、答えが欲しかった。そして凡人にはちょっとわかりにくかった。こんがらがる。どうやったらこの話を終わらせられるの?

 ちなみに原題のPREDESTINATIONとは運命とか宿命という意味なんだとか。なるほどねえ。

 銃は使用される年、19710年に合わせてか、M13の4インチのようなヘビー・バレル・リボルバーに、ハイパワー。後の方でシルバーのリボルバーも出ていた。

 エージェントはイーサン・ホーク。傑作SFアドベンチャーの「エクスプローラーズ」(Explorers・1985・米)でビューし、1990年代は「ニュートン・ボーイズ」(The Newton Boys・1998・米)や「ヒマラヤ杉に降る雪」(Snow Falling on Cedars・1999・米)など良い作品に恵まれた感じだが、2000年代に入るとB級が増えてきた感じで、パッとしなくなる。最近ではIMDbでわずか4.4点という残念な「ゲッタウェイ スーパースネーク」(Getaway・2013・米/ブルガリア)と、アカデミー賞で話題になったがマイナーな「6才のボクが、大人になるまで」(Boyhood・2014・米)など。本作はなかなかの出来だが、もっとハリウッド大作に出てもいいような気がする。

 無愛想な男ジョンと孤児の女性ジェーンを演じたのは、オーストラリアの女優サラ・スヌーク。ちょっと若き日のレオナルド・ディカプリオのような男役は見事。声もそれらしかった。こんな才能ある女優さんがいたとは。主にTVで活躍していて、映画は日本公開されていない模様。最近作は、なかなか怖そうなホラー「ジェサベル」(Jessabelle・2014・米)。IMDbで5.4点と微妙。見たいが、劇場がなあ。本作のおかげか、新作が4〜5本控えている。

 怪しい男ロバートソンはノア・テイラー。独特な味を持った名脇役。多くの大作にも出演しているし、「アドルフの画集」(Max・2002・ハンガリー/加/英)のヒトラー役はすごかった。最近では、強烈なギャング映画「欲望のバージニア」(Lawless・2012・米)、ミステリーSF「記憶探偵と鍵のかかった少女」(Mindscape・2013・米/西/仏)、トム・クルーズのSF大作「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(Edge of Tomorrow・2014・米/加)などに出ている。

 監督と脚本はマイケルとピーターのスピエリッグ兄弟。なんと、ドイツ生まれオーストラリア在住の双子なんだとか。大学在学中に撮った短編が評価され、CM監督に抜擢され、見ていないが2003年に「アンデッド」(Undead・2003・豪)で劇場長編監督デビュー。その後、第2作は大分間を空けて、イーサン・ホークのSFホラー「デイブレイカー」(Daybreakers・2009・豪/米)。その次が本作。自作にも期待したい。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に窓口で前売り券で確保。ところが当日は映画の日で大混乱。映画1本1,000円だもんなあ。ビルの1Fの入り口から長い行列。おいおい、ロビーどころかエレベーターにも到達できないではないか。インターネットで購入した人のチケット・オンライン発券機にも長い列。設計が悪いのか、たいして混んでなくても混雑する劇場が、もはやパニック手前のような状況。

 10分前くらいに開場になって、場内へ。映画に日だからか、若い人から中高年まで幅広い。昔はこんなだった。男女比は7対3か8対2くらいでほとんど男性。SFだからとしても、イーサン・ホークは女性に人気がないのだろうか。最終的に137席ほぼすべて埋まった。映画の日はすごいなあ。でも映画好きには迷惑な日。

 気になった予告編は...... 「王妃の館」は水谷豊が主演で、右京さん? って杉下右京かと思ったら、浅田次郎の原作で、舞台はパリ、主人公の名は北白川右京で天才小説家らしい。TVの延長のような気もするが、浅田次郎だし......4/25公開。

 上下マスクの「ターミネーター:新起動/ジェニシス」はちょっと長いバージョンでの予告。ボク的にはいまひとつだった「猿の惑星:新世紀(ライジング)」(Dawn of the Planet of the Apes・2014・米)の主役の人がいきなり現れて、うーむ、これはヤバいかなと。タイトルもなんだか似ているし。でも「猿」はアメリカでは評価が高かったようだ。それでの抜擢だろう。シュワちゃんも出ていて「アイル・ビー・バック」と言って少女にキョトンとされるというギャグも期待させる。7/11公開。

 上下マスクの「誘拐の掟」は、リーアム・ニーソンのアクション。雰囲気が「96時間」(Taken・2008・仏/米/英)にそっくりで、柳の下かと。1作めの方なら良いが......。原作があって、リュック・ベッソンは関わっていないようなので大丈夫か。依頼されて、誘拐された少女を救い出すというものらしい。「マイ・ボディガード」(Man on Fire・2004・米/英)か? なら見たいけど。5/30公開。

 上下マスクの「リピーテッド」はニコール・キッドマンの主演で、記憶喪失に関わるミステリーらしい。本当に記憶を失ったのか、だまされているのか。その微妙な感じが面白そう。5/23公開。

 スクリーが上下に狭まって、シネスコ・サイズになって本編へ。


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