2015年4月12日(日)「マジック・イン・ムーンライト」

MAGIC IN THE MOONLIGHT・2014・米/英・1時間38分(IMDbでは98分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、石田泰子/シネスコ・サイズ(レンズ、Arri、レンズはPanavision、with Panavision)/ドルビー・デジタル

(米PG-13指定、英12A指定)

公式サイト
http://www.magicinmoonlight.jp
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

1928年、ベルリンで中国人の扮装をし、ウェイ・リン・スーと名乗ってマジック・ショーをやっていたイギリス人スタンリー(コリン・ファース)は、尊大な皮肉屋で悲観主義の鼻持ちならない男だった。ある日、友人のマジシャン、ハワード・バーカン(サイモン・マクバーニー)が楽屋を訪れ、知人のカトリッジ家に若い女の霊能占い師ソフィ(エマ・ストーン)が取り入って、家族を虜にし、ひとり息子のブライス(ハミシュ・リンクレイター)と結婚しようとしているが、自分にはトリックを見抜くことができない。そこで、南フランスのお屋敷まで行って、イカサマを見抜いてくれないかという。スタンリーは、おばのヴァネッサ(アイリーン・アトキンス)も南仏に住んでいることから、必ず見破ってやると、意気揚々と南仏に乗り込むのだが......。

71点

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 ハリウッドが勢いのあった昔のスタイルで作られた、昔の物語。往年のハリウッド映画の雰囲気とノスタルジーを楽しめた人は面白かったと思う。一方、超皮肉屋で文句ばっかり言っている悲観主義のカリカチュアライズされたイギリス紳士的主人公のキャラクターが好きになれなかった人は、たぶんちっとも楽しめなかったと思う。もはやシャレや個性ですまされないようなレベル。正直、ボクはあまり楽しめなかった。それに何だ、あのエンディング。予想しつつも、そうあっちゃいけないと、現実にはそうなりっこないと思っている結末に、堂々とというか、無理やり持っていくとは! 降霊会のように靴か何かでイエスの音を鳴らすのは感動的だけど、そこだけ。あまりにいきなりで、それまでの積み上げはなんだったのかと。これが描きたくてこの映画を作ったのかも。

 たぶん主人公に感情移入しにくいのは、その嫌らしいキャラクターだけでなく、芝居の構成にもあると思う。ほとんどがインテリっぽい台詞のやり取りばかり。もっと台詞に頼らず、映画なんだから、小さなエピソード積み重ねで、語らずに2人のラブ・ロマンスを感じさせてほしかった。特に名著の引用を使うあたりは、鼻持ちならない感じ。ヒロインが「ディケンズでしょ」と庶民的なことを言うと、主人公は言下に否定する。ボクにはまったくわからないが、そういう教養(?)を備えた人しか相手にしていないってこと?

 結局、一番興味があった当時の「降霊会」とか、手品とか、インチキのカラクリとかにはほとんど触れることがない。ただ台詞によるバトルを描くための道具というかお膳立てに使っただけで、それについて掘り下げたりしない。興味もなくて、調べなかったのだろう。

 ただ、登場するクラシック・カーはすばらしかった。とんでもなく美しく、魅力的。ごく一部の人だけだったが、優雅な時代だったんだなあと。ヒッチコックなんかも「レベッカ」(Rebecca・1940・米)とか「断崖」(Suspicion・1941・米)、「泥棒成金」(To Catch a Thief・1955・米)でもそんな上流社会を描いていたなあと。でも厭らしさは感じさせなかったが。

 そして衣装。昔の上流階級のドレスの見事さ。たぶんヒロインのエマ・ストーンを美しく撮るための手法の一つ。あのオードリー・ヘップバーンがやったように、出てくるたびに違うドレスをまとって登場するのだ。なかには赤白のセーラー服まである。キュート。衣装デザインはソニア・グランデ。ホラーの「アザーズ」(The Others・2001・米/西ほか)や同じ監督アリハンドロ・アメナバールの「海を飛ぶ夢」(Mar adentro・2004・西/仏/伊)などを手がけ、そのあとウッディ・アレン監督の「それでも恋するバルセロナ」(Vicky Cristina Barcelona・2008・西/米)や「ミッドナイト・イン・パリ」(Midnight in Paris・2011・西/米/仏)などを手がけている。

 さらに景色。南仏の景色は素晴らしい。とくに明け方の朝焼けなど美しく切り取られている。撮影監督はイラン生まれのダリウス・コンジ。「ミッドナイト・イン・パリ」や「ローマでアモーレ」(To Rome with Love・2012・米/伊/西)のウッディ・アレン作品のほか、デヴィッド・フィンチャー監督の「セブン」(Se7en・1995・米)や「パニック・ルーム」(Panic Room・2002・米)、ジャン=ピエール・ジュネ監督の「ロスト・チルドレン」(La cite des enfants perdus・1995・仏/独/西)や「エイリアン4」(Alien: Resurrection・1997・米)も撮っている。割とレトロな暖色系の印象が強い。本作もそう。

 まっ、見所はそこかなと。

 イギリス人スタンリーはコリン・ファース。「ブリジット・ジョーンズの日記」(Bridget Jones's Diary・2001・英/仏ほか)や「マンマ・ミーア!」(Mamma Mia!・2008・米/英/独)のイメージからコミカルな雰囲気を感じてしまうが、「秘密のかけら」(Where the Truth Lies・2005・加/英)や「英国の王のスピーチ」(The King's Speech・2010・英/米/豪)、最近では「レイルウェイ 運命の旅路」(The Railway Man・2013・豪/英/スイス)という暗い作品にも出ていて、だんだん暗いイメージが強くなってきた。

 相手役の若い女霊能占い師ソフィはエマ・ストーン。ちょっと「マンマ・ミーア!」のアマンダ・セイフライドにも似ている気もするが、変わった役や汚れ役もこなす感じ。やはり「ゾンビランド」(Zombieland・2009・米)は鮮烈に印象づけられた。同時期に公開された「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(Birdman: Or (The Unexpected Virtue of Ignorance)・2014・米)はしたたかで、蓮っ葉な感じがして見事だった。それにしても目が大きい。

 友人のマジシャン、ハワード・バーカンはサイモン・マクバーニー。強烈な実話の映画化「ラストキング・オブ・スコットランド」(Last King of Scotland・2006・英/独)のような超シリアスなものから、コメディの「Mr.ビーン カンヌで大迷惑?!」(Mr. Bean's Holiday・2007・英/仏/独)の製作総指揮・原案、残念なファイタジー・アドベンチャー「ライラの冒険 黄金の羅針盤」(The Golden Compass・2007・米/英)、シリアスなアクション「ワールド・オブ・ライズ」(Body of Lies・2008・米/英)にも出ている。最近は「博士と彼女のセオリー」(The Theory of Everything・2014・英)に出ていたようだが、見ていない。

 ソフィーの母親は、ちょっとしか出てこないが、マーシャ・ゲイ・ハーデン。ショッキングなギャング映画「ミラーズ・クロッシング」(Miller's Crossing・1990・米)で劇場映画デビューしたそうで、ファンタスティック・ラブ・ストーリーの「ジョー・ブラックをよろしく」(Meet Joe Black・1998・米)もいい味を出していた。クコリント・イーストウッドの「スペースカウボーイ」(Space Cowboys・2000・米/豪)や「ミスティック・リバー」(Mystic River・2003・米/豪)にも出ており、存在感のある人。最近はTVが多かったようだが、アート系の「トレヴィの泉で二度目の恋を」(Elsa & Fred・2014・米)に出ていたらしい。

 監督・脚本はウディ・アレン。1935年生まれだからもう80歳。私生活では女性関係で色々とある人のようだが、ずっと作り続けているのがすごい。ユダヤ系の家庭に生まれ、TVの脚本やコメディアンとしても活躍したらしい。ニューヨーク派と呼ばれるらしいが、現在の活動拠点はイギリス。ヨーロッパの話が多い。話術の天才とも呼ばれるそうだが、現在も一般の人にとって面白いかどうかは別だ。喋ってばかりでなかなか行動を起こさない印象。「アニー・ホール」(Annie Hall・1977・米)でアカデミーの監督・脚本・作品賞を受賞しているが、本人はアカデミー賞には興味がないと宣言している。ボク的には役者として出演した「007/カジノ・ロワイヤル」(Casino Royale・1967・英/米)が好きだなあ。しゃっくりを続けるボンドが。

 公開2日目の2回目、新宿の劇場は全席指定で、金曜にポイントで確保。さすがにお金を払って見る勇気はなかった。12〜13分前に開場。中高年がメインだが、意外に若い人もいた。なぜだろう。誰か有名人が褒めたか。男女比は4.5対5.5くらいで、やや女性が多かった。最終的には127席の8割くらいが埋まった。意外に注目されていたようだ。ただ今後増えるかどうか。

 スクリーンはシネスコで開いており、気になった予告編は...... 明るいままの四角の枠付き「ラン・オールナイト」は見難かった。パターンの感じもするが、リュック・ベッソンではないので面白いかも。5/16公開。

 枠付きの「チャッピー」は同じ予告だが、面白そう。ただし、日本公開版はオリジナル版ではなく日本向けに編集されたものになるそうで(ロケットニュース24)PG12で公開するために一部がカットされているらしい。しかもソニー・ピクチャーズ エンタテインメントは、他のバージョンを公開する気はないと宣言している。映画の観客の殆どは中高年なのだから、大人向けとしてオリジナル・バージョンを公開すればいいじゃないか。日本語吹き替え版のみPG12版とするとか。見たい気が削がれる。あーあ、ガッカリ。5/23公開。

 左右マスクの「フォーカス」は新予告に。ウィル・スミスがカッコ良すぎじゃないか。嫌な予感がしてきた。5/1公開。

 左右マスクの「アリスのままで」はアカデミー主演女優賞を受賞して話題だが、若年性アルツハイマーの女性をジュリアン・ムーアが演じるらしい。ただ、「もうすぐ私はすべて忘れる」というようなキャッチを見ると、どうしても「私の頭の中の消しゴム」(A Moment to Remember・2004・韓)を思い浮かべしてまう。あちらはもっと若い設定だが...... 6/27公開。

 マスクが左右に広がって、暗くなると同時に本編へ。


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