2015年5月24日(日)「チャッピー」

CHAPPIE・2015・米/メキシコ/南ア・2時間00分

日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(デジタル、Red Epic、Panavision)/ドルビー・デジタル(IMDbではDATASAT、SDDSも)

(米R指定、日PG12指定)(IMAX版、4DX版、D-BOX版などの上映もあり)

公式サイト
http://www.sonypictures.jp/movies/chappie/site/
(音に注意、全国の劇場リストもあり)

2016年、南アフリカ、ヨハネスブルグ。警察は、ロボット兵器産業テトラバール社の技術者ディオン・ウィルソン(デーヴ・パテル)が開発した人型のロボット、スカウトを採用し凶悪犯罪に対処させる。同じ技術者のヴィンセント・ムーア(ヒュー・ジャックマン)が開発した大型ロボットのムースは過剰装備として採用されなかった。そんなある日、ディオンは人工知能A.I.の開発に成功し、胸にロケット弾の直撃を受けてバッテリーが取り出せなくなり廃棄される予定だった22号にインストールする。ただバッテリーが取り出せないため5日で動かなくなってしまう運命。同じ頃、ボスに2000万ランドの借金があるギャング、ニンジャ(ニンジャ)、ヨーランディ(ヨ=ランディ・ヴィッサー)、アメリカ(ホセ・パブロ・カンティージョ)の3人組は、借金を返すため現金輸送車を襲う計画を立て、警官ロボットを動かなくさせるには、スイッチをオフにするリモコンがあればいいと考え、ネットで調べて開発者のディオンが乗ったバンを襲撃する。ところが、ロボットは出荷時から常にオンになっており、オフにできないと知り、バンに積んであったA.I.がインストールされた22号を奪い、襲撃を手伝わせようとする。ところがA.I.は初めて起動されるため、赤ん坊と同じ状態だった。

75点

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 日本で公開するバージョンはレイティングの関係でちょっとカットされるという噂が流れたが、上映時間はオリジナル版と同じだった。しかし、見ての感想はたぶん、残酷であるだろう1カットだけが削除されたらしい。それは、ロボットのハサミのような大型の手で悪党の胴体が切断されるところ。刃が近づくところまであって、次はなんだかわからないものが壁に飛ばされる。その後のカットで壁に血がべっとりと付いているから、たぶん切断されて上半身が投げつけられたのだろう。ここがカットされているため。次に同じように刃が近づいてくるシーンがあるが、残念なことに前のカットが削除されているため怖さがない。監督の意図としては、先に残酷シーンを見せておいて、次に同じシチュエーションで怖がらせるつもりだったのではないだろうか。ブレーレイやDVDで復活させる気かも。それでいいのかなあ。

 それ以外、全体としてはとても良くできていると思う。感情が揺さぶられる。そしてすごい疾走感。ロボットもそこにいるようにしか思えない。4D用なのか、重低音もものすごい迫力。ただ、バイオレンス満載。汚い言葉も満載で、根っからの悪党、スラム、悪意、いじめ、銃、ナイフ、火炎ビン、ロケット・ランチャー、投石...... なんでもあり。それに気分が悪くなる。2016年の設定だが、南アフリカとは、ヨハネスブルグとは何と恐ろしいところなのか。この世の果てのようなところか。とにかくそれが強烈。そこで育てば、そういう人間が出来上がってしまうと。A.I.はまさに無垢の子供で、次第に悪に染まっていく。

 これはいわば、ブロムカンプ版「ロボコップ」(RoboCop・1987・米)だ。スカウトと呼ばれる警察ロボットはそのままロボコップと言っても良く、ロボットの生きている頭部が A.I.で大人のマーフィーが子供のチャッピーになっているが、敵となる大型ロボットのムースがED-209だ。デザインも機能も良く似ている。飛ばないけど。そして、犯罪者の巣窟のタワー・ビルは、本当にヨハネスブルグで犯罪者の巣窟として問題となったポンテタワーだが、カール・アーバン版の「ジャッジ・ドレッド」(Dredd・2012・英/米/印/南ア)的でもある。そして意識を転送するという点では「トランセンデンス」(Transcendence・2014・英/中/米)的でもある。

 時間制限もあり、悪に染まりながらも可愛いキャラであるチャッピーと、悪女なのにままごと的にママになろうとするヨーランディと、創造者である技術者のディオンも助けたいと思うようになる。この辺のハラハラドキドキ。そして自分のことしか考えない憎たらしい悪役。もっと憎たらしい山のような悪党ども。感情が揺さぶられまくり。ラストには人間とA.I.が同じ境遇となるというアイロニー。

 出演はしていないが、チャッピーの動きの元になったモーション・パフォーマーと声はシャールト・コプリー。ニール・ブロムカンプ監督の劇場長編映画デビュー作「第9地区」(District 9・2009・米/ニュージーランドほか)で俳優として劇場長編映画デビューを飾り、一気に世界に知られ、ハリウッド・デビューを飾った人。その恩からなのだろう、ニール・ブロムカンプ監督作品にはすべて出演している。エキセントリックな役や悪役が多いので、本作のような役は珍しい。容貌からくる印象が影響しないからか。つい最近「マレフィセント」(Maleficent・2014・米/英)で悪役をやっていた。

 チャッピーの創造者、英語ではメーカーと言っていた、ディオン・ウィルソンはデーヴ・パテル。「スラムドッグ$ミリオネア」(Slumdog Millionaire・2008・英/米)に出ていた人だ。その後とんでもなく残念な「エアベンダー」(The Last Airbender・2010・米)など作品に恵まれず、ずっとパッとしなかった。ボクは「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」(Life of Pi・2012・米/台ほか)の人かと思ったが、あれはスラージ・シャルマ。「ミリオンダラー・アーム」(Million Dollar Arm・2014・米)に出ていた人だ。日本人には見分けるのが難しい。銃砲店で買う銃が、なぜか古いイギリスのリボルバー、ウェブリーのショート・バレル。

 悪役のヴィンセント・ムーアはヒュー・ジャックマン。意外な配役だが「プリズナーズ」(Prisoners・2013・米)でも悪役ではないが相当怖かった。つい最近、残念な続編「ナイトミュージアム 」(Night at the Museum: Secret of the Tomb・2014・米/英)に本人役、ノー・クレジットで出ていた。使っていた銃はグロック。最初はダークアース系のフレームだったが、後半は普通の黒フレームになってしまう。ラストにはロング・マガジンも。

 テトラバール社の社長ミシェルはシガーニー・ウィーヴァー。ブロムカンプ監督の「エリジウム」(Elysium・2013・米)のジョディ・フォスターのような感じだろうか。大作からB級まで、いろんな映画によく出ている。つい最近リトリー・スコットの「エクソダス:神と王」(Exodus: Gods and Kings・2014・英/米/西)に出ていたが、ボクはB級の「レッドライト」(Red Lights・2012・西/米)の方が良かった気がする。

 不思議なのは悪党3人組で、役名と役者の名前がとても似ていて、ニンジャがニンジャ、ヨーランディがヨ=ランディ・ヴィッサー、アメリカがホセ・パブロ・カンティージョ。ニンジャなんか本当にヤバそうな感じだが、南アのDie Antwoordというラップ・グループのメンバーらしい。役者としては映画初出演。使っていた銃は本体が黄色で、マガジンがピンクのM4カービン、同じカラーリングのキーホルダーかなんかも持っている。ハンドガンはデート・イーグル、後半、南ア版のベレッタM92ヴェクターSP1を使いチャッピーに水平撃ちを教える。

 ままごと的にママになっちゃうヨ=ランディ・ヴィッサーもDie Antwoordのメンバーで、ヴォーカリスト。もちろん劇場映画は初めての出演。使っていた銃はピンクの南ア版イングラムの BXP MK9とマイクロ・ウージー。最後の戦いで使う20mmグレネード・ランチャーはimfdbによればデネルPAW-20らしい。

 ホセ・パブロ・カンティージョはれっきとした俳優で、見た顔だなあと思っていたら、アメリカの人気TVドラマによく出ている。見かけない方がおかしいくらい。映画では「エリジウム」に出ている。

 脚本は監督のニール・ブロムカンプとテリー・タッチェルの2人。テリー・タッチェル。「第9地区」を書き、「エリジウム」でも協力している。

 監督・脚本・製作はニール・ブロムカンプ。1979年ヨハネスブルグ生まれ、36歳の注目の若手。以前はビジュアル・エフェクトをやっていたらしいが、劇場長編デビュー作の「第9地区」以来、「エリジウム」、本作とすべて脚本も書いている。共通するのは暴力と貧困があふれるスラムとロボット、そして残酷描写。すでに新作も進行しているようで、また期待したい。

 ほかに出てきた銃は、警察ロボットがポンプ・ショットガンたぶんレミントンのM870、南アのトゥルヴェロCMSライフルのショート・バレル。口径は.50口径っぽかった。ギャングは南ア版ガリルのヴェクターR5などで、ボスのヒッポは金メッキのルーマニア版AK74のカスタム・ショート・バレル。ポンテタワーのギャングはミニミのパラトルーパー。ロボットのムースの武装はM134ミニガンに40mmオートマチック・グレネード・ランチャーのMk 19、ミサイルにクラスター爆弾まで放出する。クレジットで武器はWETAと出たが、WETAはデジタルの特殊効果の会社ではなかったか。

 エンド・クレジットの書体は手書き風のもので、チャッピーが書いた的な演出だったんだろうか。なかなかいい味を出していた。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜にムビチケカードで確保。当日は12〜13分くらい前に開場。若い人から中高年まで、割と幅広い客層。女性は1割くらいだったろうか、少なかった。まあSFアクションで、ヴァイオレンスのニール・ブロムカンプだからなあ。最終的には607席に5割くらいの入り。まあまあというところだろう。

 スクリーンはシネスコで開いていて、気になった予告は...... 上下マスクの「天空の蜂」は原作・東野圭吾。ただ監督が堤幸彦で合っているのか。9/12公開。

 四角の枠付きの「テッド2」はヒット作の続編。どうもヤバそうな気が。前作のヒットで気を良くして、悪ふざけが加速して...... というような予感。よくあるパターン。ヒットしたため誰も意見を言えなくなると。現にヒットの後に同じ監督が作った監督・製作・脚本のコメディ西部劇「荒野はつらいよ 〜アリゾナより愛をこめて〜」(A Million Ways to Die in the West・2014・米)は実際ビドイことに。どうなる? 8/28公開。

 枠付きの「007/スペクター」はスカイフォールで燃え残ったものが戻ってきて、かつての敵スペクターが復活して、ということのよう。まだ日本の公式サイトは無い模様。フェイスブックはある。12/4公開。3Dもかあ。すでに限定のムビチケカードが発売されているらしい。

 マスクが左右に広がって本編へ。


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