2015年7月25日(土)「バトルヒート」

SKIN TRADE・2014・タイ/加/米・1時間36分

日本語字幕:丸ゴシック体下、岡田壮平/シネスコ・サイズ(表記なし、Arriデジタル?)/ドルビー(ドルビー・デジタル)

(米R指定、日R15+指定)

公式サイト
http://www.battleheat.jp
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

カンボジアの小さな田舎町ポイペトで、家出してきた少女が男達に拉致され、船荷としてコンテナに入れられ出荷される。アメリカ、ニュージャージーでは刑事のニック・キャシディ(ドルフ・ラングレン)がチンピラを逮捕し、「セルビア人のグループが人身売買をやっている」との情報を得る。同じ頃、タイのバンコクでは刑事のトニー(トニー・ジャー)が同僚のヌン刑事(タイミー)とギャングの組織に潜入し、拉致されていた少女を救出する。そして女達がニュージャージーに向けて出荷されたことを知る。知らせを受けたFBIはリード捜査官(マイケル・J・ホワイト)を派遣し、ニックらと協力してコンテナの受け取りに現れるやつらを逮捕しようと待ち受けるが、予想外の展開となってしまう。

71点

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 うーむ、伝わってこない。卑劣で悲惨な人身売買を描いていながら、ちっとも伝わってこない。類型映画のパターン・マシーンに、有名キャストを集めて放り込んだら自動的にできたような印象。

 ラストに人身売買の犠牲者は毎年2,000万から3,000万人もいるとかいう字幕まで出ても、犠牲者の叫びや、それを生む社会環境のことも、守ろうとする刑事たちの気持ちも、まったく伝わってこない。テーマであるはずなのに。しかもアクション満載で、できる人たちが出ているのに、ちっとも凄そうに見えない。パンチは当たっているように見えないし、凄い技が普通に見えてしまっている。あの凄いアクション・スターの人なのかと、目を疑うほど。見どころは、豪華なキャストの顔合わせのみ。見どころがあるだけましではあるが。

 ひょっとして、新人のような監督が、ずらりと集まったスター・キャストに何も指示できなかったとか……。それでもあるレベルの映画ができ上がるのは、ハリウッド・システムゆえか。トニー・ジャーってこんな程度だったっけ? 彼がシロートっぽく見えるなんて、それはそれで凄い技なのかもしれないが。

 刑事のニック・キャシディはドルフ・ラングレン。極真空手三段で、モデルからシルヴェスター・スタローンの人気シリーズ第4作「ロッキー4/炎の友情」(Rocky IV・1985・米)のドラゴ役で本格スクリーン・デビュー。だいたいB級の悪役が多い感じだが、本作では製作・脚本も兼ねている。最近シルヴェスター・スタローンの人気シリーズ「エクスペンダブルズ3 ワールドミッション」(The Expendables 3・2014・米/仏)に出ていたが、それ以外は、脚本・監督作も含み、ほぼ日本劇場未公開。新作は7〜8本も控えているが、たぶんほとんど日本劇場未公開となるのだろう。

 バンコク警察のトニー刑事はトニー・ジャー。特殊効果を使わないといううたい文句の痛快アクション「マッハ!!!!!!!」(Ong-bak・2003・タイ)で注目された人。「トム・ヤン・クン」(Tom yum goong・2005・タイ/米/香)までは勢いがあったが、それ以降パッとしない感じになり、2010年には出家して、いったん映画界を引退したらしい。2013年に復帰して、ハリウッドへも進出し「ワイルド・スピード SKY MISSION」(Furious Seven・2015・米/日)にセリフなしの東洋人格闘家役で出ている。あれは良かったけど、本作はなあ。

 セルビア人マフィアのボス、ドラゴビッチはロン・パールマン。まさに怪優というのがぴったりの人。独特の風貌と存在感がある。傑作ミステリー「薔薇の名前」(Der Name der Rose・1986・伊/独/仏)にも出ていたが、ギレルモ・デル・トロ監督の「クロノス」(Cronos・1992・メキシコ)で注目され、メジャーに。そのためかギレルモ・デル・トロ監督作品への出演が多い。最近、数多くの賞に輝いた「ドライヴ」(Drive・2011・米)や、ギレルモ・デル・トロのロボット・アクション「パシフィック・リム」(Pacific Rim・2013・米)に出ている。凶悪な役から、「ヘルボーイ」(Hellboy・2004・米)の主人公のような顔のわからないような役まで、何でもこなす。

 FBI捜査官のリードはマイケル・J・ホワイト。多くのタイトルを持つアメリカの格闘家。スクリーン・デビューは、本作の公式サイトによると「悪魔の毒々モンスター東京へ行く」(The Toxic Avenger Part II・1989・米)の端役だそうで、「ユニバーサル・ソルジャー」(Universal Soldier・1992・米)ではドルフ・ラングレンと共演している。コミック原作のファンタジー・アクション「スポーン」(Spawn・1997・米)では主演を演じるも、基本、B級かTVが多い。「キル・ビルVol.2」(Kill Bill: Vol. 2・2004・米)には出演したものの、すべてカットされたんだとか。最近見たのは「ダークナイト」(The Dark Knight・2008・米/英)。

 ニュージャージーの警察の上司コステロはピーター・ウェラー。なんといっても「ロボコップ」(RoboCop・1987・米)が強烈だった。最近はTVが多いようで、映画だと「スター・トレック イントゥ・ダークネス」(Star Trek Into Darkness・2013・米)に提督役で出ていた。その時はあまり感じなかったが、本作は歳を取ったなあと。やせているから、悪い言い方をすると、山上たつひこの「喜劇新思想体系」のお骨の生焼けみたい。大丈夫かなあ。68歳。

 脚本は製作も兼ねるドルフ・ラングレンとスティーヴン・エルダー、ガブリエル・ダウリックの3人。スティーヴン・エルダーは役者で、脚本は本作が初めて。ガブリエル・ダウリックはビデオや短編の監督もやっているが、基本は編集マンで、長編の脚本はこれまた初めて。これで良かったんだろうか。スターが書いた脚本をプロの現場で使えるように書き直したとか? やぱりスター・ムービーということかも。だとすると当然の結果とも言える。

 監督は、実在の“おかまボクサー”の半生を描いた「ビューティフル・ボーイ」(Beautiful Boxer・2003・タイ)の脚本・監督のエカチャイ・ウアクロンタム。見ていないが、ボクシング・シーンが良かったのだろうか。その後撮ったホラーは低評価で、本作の前に撮ったコメディも低評価。なのに、なぜ? 少なくともアクションには向いていないのではないだろうか。ということは、選んだプロデューサーのせいで、決定権はドルフ・ラングレンにあったか。自分の言うことを聞く監督を選んじゃったとか。邪推かなあ。

 公開初日の初回、銀座の劇場は古い劇場ながら全席指定。場所によっては前席に座高の高い人が座ると字幕あたりが見えなくなるところ。座席指定はある意味「賭け」だ。当日は30分前くらいに着いたら、まだ別の作品を上映中。掃除の後20分前くらいに入れ替え。観客層はほぼ中高年で、最初は40人くらい。女性は10人ほど。最終的に350席の5割くらいが埋まった。ほとんど宣伝していない割には良いのではないだろうか。

 スクリーンはビスタで開いており、明るいまま始まったCM・予告は古い劇場の古いスクリーンだと反射率が良くないようで、とても見にくい。CM上映料金を取っているんだろうに。

 気になった予告編は……上下マスクの「海難1890」は日本とトルコの合作で、エルトゥール号の難波事件を描いたもの。今更という感じもするが、125年目に当たるということらしい。これがきっかけでトルコは親日国になったというから、どこまで史実に忠実か不明だが、詳しく知っておくのも意味がありそうだ。12/5公開。

 本田翼と佐藤浩市の「起終点駅 ターミナル」は、予告の印象が、ほかにもたくさんある佐藤浩市映画そのまま。直木賞作家の原作があるらしいが、どんよりとして重く、予告だけでため息が出た。見たような絵ばかりだったが……。11/7公開。

 上下マスクの「GAMBA ガンバと仲間たち」はどうもネズミが主人公らしい3DCGアニメ。完全に子供向けのようで、大人が近寄る余地はないかな。10/10公開。

 なかなかタイトルが出なくていらいらした「ガールズ・ステップ」は、少女たちのストリート・ダンス青春物語という感じ。うーむ、ありがち。「スウィングガールズ」(2004・日)のダンス版か? 東映だけど。9/12公開。

 「ピースオブケイク」はまたまた少女コミックの恋愛ものの映画化。どんだけ作られるんだ。ただ監督が俳優でもある田口トモロヲというのがちょっと意外。9/5公開。

 「この国の空」は戦時恋愛ものらしいが、どこかうんざりするように雰囲気がぷんかぷん。なんなんだろう。どこか見たことのあるような絵作りで、それもなあ。8/8公開。

 スクリーンのマスクが左右に広がって、暗くなって本編へ。良かった、誰も前の席に座らなかった。それにしても、お金を払って予約して、こんな思いををするなんて。


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