2015年9月5日(土)「ギヴァー 記憶を注ぐ者」

THE GIVER・2014・米・1時間37分

日本語字幕翻訳:手書き風ゴシック体下、佐藤栄奈/シネスコ・サイズ(表記なし、IMDbではデジタル、Arri ALEXA)/音声表記なし(IMDbではドルビー・デジタル)

(米PG-13指定)

公式サイト
http://giver-movie.com
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

世界が荒廃したあと、生き残った人類はコミュニティを築いて、平等で平和な管理社会を実現していた。そこでは、正しい言葉遣い、同じ服装、毎朝の投薬、時間どおりの行動、嘘をつかないことなどが義務づけられていた。そしてある年齢に達すると儀式が行われ、次の段階へと進む。ジョナス(ブレストン・スウェイツ)とアッシャー(キャメロン・モナハン)とフィオナ(オデイア・ラッシュ)の幼なじみ3人組みは、ついに儀式で主席長老(メリル・ストリープ)から職業を割り当てられることに。そこでジョナスは「記憶の器」になることを命じられ、ギヴァー(ジェフ・ブリッジス)の元へ送られる。そしてはじめて記憶を見せられる。衝撃を受けたジョナスはうすうす感じていた色を認識できるようになり、感情が芽生え、ついには投薬をやめてしまう。やがてそれは主席長老の知るところとなり、解放が命じられるが、ギヴァーにはある狙いがあった。

70点

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 97分が長い。退屈。3回ほど気を失いそうになった。なんだ、これは。今まで何度も描かれてきたありふれた未来社会。一度世界は荒廃し、そこから復活して、超管理社会を築いたというパターン。ちょっと思い返しても、薬を使うところまで同じ「リベリオン」(Equilibrium・2002・米)や、進路が決められてしまう「ダイバージェント」(Divergent・2014・米)など、いくらでもある。もはや陳腐。

 さらに、規制社会をモノクロで描き、自由になるごとに色彩を付けているという手法も、映画黎明期のサイレントの昔から人工着色によるパート・タイム・カラーや、演出効果としては黒澤明の「天国と地獄」(1963・日)などで使われており、それを真似たスピルバーグの「シンドラーのリスト」(Schindler's List・1993・米)もある。そしてズバリ、傑作ファンタジー「カラー・オブ・ハート」(Pleasantville・1998・米)もそうだ。白黒TVドラマの世界にカラーをもたらす。いまさらこれだけで売りにしようとしても……。しかも「ブレインストーム」(Brainstorm・1983・米)や「ギャラクシー・クエスト」(Galaxy Quest・1999・米)のように、劇場の場合、世界が変わるとシネスコになる演出の方がはるかにインパクトがある。もちろん、カラーはきれいはきれいだが。

 見どころは、ジェフ・ブリッジスとメリル・ストリープという名優たちと、美人歌姫のテイラー・スイフトくらい。SFなのにSF的なビジュアルはほとんどなし。たぶん超低予算。ほとんどは2大俳優の出演料だろう。

 とにかく観念的で、お説教臭い。だからなのか、シンプルな内容なのに分かりにくい。なぜ主人公たちは、係りでもないのに赤ちゃんを育てている「養育館」へ行くのか。主人公を監視しているような母は何なのか。主人公と巡り合う赤ん坊のゲイブリエル関係は? この監督、SFを知らないか、SFを撮ったことがないのでは?

 メリル・ストリープは「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」(The Iron Lady・2011・英/仏)でアカデミー主演女優賞を受賞したかと思えば、「イントゥ・ザ・ウッズ」(Into the Woods・2014・米/英/加)で魔女を演じるという幅広い活躍をしている人。本作のような作品に良く出たなあという感想。

 ジェフ・ブリッジスも「トゥルー・グリット」(True Grit・2010・米)のような渋いリメイク西部劇に出たかと思えば、「ゴースト・エージェント/R.I.P.D.」(R.I.P.D.・2013・米)のような前売り券も発売されない作品に出たりする、振り幅の大きな活躍をしている人。なんと本作では製作も兼ねている。それでこれか。

 ジョナスの母親役はケイティ・ホームズ。何か意味ありそうなのだが、説明不足で、何だったのかよくわからない役。そしてジェフ・ブリッジスの娘で、回想シーンで出てくるのが歌姫テイラー・スウィフト。美人だなあ。群像劇の「バレンタインデー」(Valentine's Day・2010・米)で女子高生を演じているらしい。

 原作はハワイ出身のロイス・ローリーの1993年の同名小説。それで世界的な児童文学賞「ニューベリー賞」を受賞しているらしい。なんと少女時代に日本で2年ほど暮らしているのだとか。本作はギヴァー4部作の第1作目になるという。

 それを脚本にしたのは、マイケル・ミトニックとロバート・B・ウィードの2人。マイケル・ミトニックは本作が初めての脚本。それ以前には短編映画の作曲をやったことがあるだけ。ロバート・B・ウィードはTVのコメディ「ラリーのミッドライフ★クライシス」(Curb Your Enthusiasm・1999〜・米)シリーズの監督らしい。日本ではパーチャンネルで放送されたのみ。脚本ではTVのドキュメンタリーを何本か書いているくらい。それでなぜ本作なんだろう。

 監督はオーストラリア出身のフィリップ・ノイス。過去にハリソン・フォードの「パトリオット・ゲーム」(Patriot Games・19921・米)やアンジェリーナ・ジョリーがブレイクするきっかけとなった「ボーン・コレクター」(The Bone Collector・1999・米/加)などアクション系の作品を撮っている。最近は同じアンジェリーナ・ジョリーのアクション「ソルト」(Salt・2010・米)があるくらい。SFには手を出さないほうが良かったのではないだろうか。

 銃は、ベトナム戦争風のシーンでM16が登場。体制側の特殊部隊のようなチームはM4カービンを使用。

 ホームとドゥエリング(字幕は住居)の違いとか、アダムとイヴ的な真っ赤なリンゴとか、失われた感情の「LOVE」とか、古いなあと。

 公開初日の初回、渋谷の劇場は全席指定で、前売りを買っていなかったので、オンラインの通常価格で購入して座席を確保。劇場窓口まで電車賃をかけて前売り券を買いに行って、購入当日は座席予約ができないため再び劇場を訪れて予約しなければならないという手間を考えると、正規料金でその日に座席まで確保できたほうが安くて速い。どこもムビチケにしてくれないかなあ。

 そんなわけで金曜にオンラインで予約して、当日は30分前くらい前に着いたら4Fまでは行けてチケット発券機も使えたが、劇場は開いていなかった。15分前くらいの開場時間が書かれていて若い女性が1人、並んでいた。その後オバサンが4人くらい来て、関係者らしい若い女性が7〜8人が来たら入り口前のエレベーター・ホールはいっぱいに。客より関係者の方が多いではないか。時間になって開場すると、その場で入場券を買っている人もいた。

 観客層は割りと若い人が多く、中高年との比は6対4くらい。しかもほとんど男性。女性は最初にいた5人くらいのみ。最終的には、小さなスクリーンにフラットな床で前席が邪魔な202席に50人くらいいただろうか。上映直前には関係者が後ろのところに鈴なり状態。じゃまだなあ。

 スクリーンはビスタで開いており、気になった予告編は…… ボクにはどうでもよさそうな日本の女子高生の恋愛モノばかりで……。邦画の「罪の余白」は、心理学者の高校生の娘が死んで、あらわれた親友という少女がとんでもない悪魔だったという話らしい。同じ女子高生でもこちらは大分違うが、話がリアル過ぎる感じで、かなり怖そう。予告だけでちょっと気分が悪くなった。

 ビスタのまま本編へ。左右の幕にも映像が映っていて、しまいには縦の字幕が幕に映る異常事態。数人が言いに行ったのか席を立った。5〜6分して上映が止まり、静止画に。左右の幕が広がってシネスコになると、スクリーンが真っ黒になり、劇場の係員が現れて、「カーテンが開かなかったので最初から上映し直します」と宣言。おいおい、お詫びもなしか。だいたい関係者があれだけいたのに、上映の確認もしていなかったとは。何しに来たんだ。これだから映画業界は……。


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