2015年9月6日(日)「クーデター」

NO ESCAPE・2015・米・1時間43分

日本語字幕翻訳:手書き風書体下、種市譲二/ビスタ・サイズ(デジタル、Red Epic)/ドルビー・デジタル

(米R指定、日PG12指定)

公式サイト
http://www.coup-movie.com
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

アメリカのドワイヤー一家、水道技師のジャック(オーウェン・ウィルソン)、妻のアニー(レイク・ベル)、長女のルーシー(スターリング・ジェリンイズ)、次女のビーズ(クレア・ギア)は、国を挙げての水道事業をカーディフ社が受注したことから、ベトナムと国境を接するアジア某国へとやってくる。ところが迎えのタクシーが来ておらず、何回もこの国へ来ているという飛行機内で知りあった男性、ハモンド(ピアース・ブロスナン)の迎えのタクシーに同乗させてもらいホテルまで行く。ホテルは部屋の照明が点かず、TVも映らず、電話もつながらないという状態。翌日、ジャックは新聞を買いに街へ出るが、暴徒と警官隊の衝突に巻き込まれ、命からがらホテルへ逃げ帰ると、ホテルも襲撃される事態に。暴徒は国の水道事業をきっかけに首相を殺害、「外国人を殺す。捕虜はとらない。皆殺しだ」と叫び、自国民までも殺害しながら、街中を破壊し始める。

80点

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 怖い! ショッキングなんてもんじゃない。「ディア・ハンター」(The Deer Hunter・1978・英/米)のロシアン・ルーレットに匹敵するような緊張感が、ほぼ全編に渡って続く。103分が長い。途中、よくあるアート系の作品のように、最悪の結末になって、後味の悪い終わり方をするのではないかとも思わされたが、さすがにそうはならなかった。しかし、ニュース映像などで見たような暴動、渾沌、テロ、処刑…… そんなリアルな映像がこれでもかとつぎ込まれている。そして東南アジアのみならず、アフリカ、中東、南アメリカ……世界中のあちこちで起こりうる話ではないか。いつ巻き込まれるかもわからない、いまそこにある恐怖。

 ラストに「実話に基づく」と出るのではないかと、ヒヤヒヤした。だって、もし実話に基づいていたら、こんなに怖い思いをした人が確実にいたことになるのだから。とはいえ、ここで描き切れないようなもっとひどい目に遭った人も、現実にはたくさんいるのだろう。それも、自分の行いの結果ではなく、たまたまそのタイミングで居合わせてしまったために巻き込まれる悲劇。これは本当にかわいそう。

 冒頭、アバンがあって、タイトルのあと一家がホテルに着いた翌日に事件が起きて、あとはラストまでずっと逃げっぱなしという構成も見事。家族の絆も、愛も、感謝も、すべてアクションの中で語られる。それらが自然で、ちっとも嘘臭くない。素直に受け入れられる。うまいなあ。いかにものセリフを名優が語る、というような大仰な不自然さがなく、本当の言葉のように聞こえる。だから心に響く。決して楽しい映画ではないが、実に良くできた素晴らしい作品だと思う。

 ジャックはオーウェン・ウィルソン。「エネミー・ライン」(Behind Enemy Lines・2001・米)以降、パッとしない印象。ウッディ・アレン監督の「ミッドナイト・イン・パリ」(Midnight in Paris・2011・)では主演でなかなかの演技だったが、作品自体がアート系で地味でいまひとつ。「ナイトミュージアム」(Night at the Museum・2006・米/英)シリーズのお馬鹿なカウボーイが定位置だったのが、本作はリアルな人物で、実に良かった。ひーろーではない一般庶民の一所懸命な感じが見事。「10秒を先を行く」と言い続けるが、くじけそうになるところがまたリアル。

 妻のアニーはレイク・ベル。途中ヒステリックになってイラ付かされたが、後半がんばって活躍する。アシュトン・カッチャーのコメディ「ベガスの恋に勝つルール」(What Happens in Vegas・2008・米)やメリル・ストリープのロマンス・コメディ「恋するベーカリー」(It's Complicated・2009・米/日)などに出ていたようだが、見ていないので何とも。「ミリオンダラー・アーム」(Million Dollar Arm・2014・米)では主人公の家の離れに住んでいる女子大生(だったかな)を演じていた。

 お姉ちゃんのルーシーはスターリング・ジェリンイズ。「ワールド・ウォーZ」(World War Z・2013・米/マルタ)のブラッド・ピットの娘や「死霊館」(The Conjuring・2013・米)に出ていたらしい。かわいかったが、すぐに大人になっちゃうからなあ。

 妹のビーズはクレア・ギア。この時点でも幼いが大ヒット作「インセプション」(Inception・2010・米/英)に出ていて、ダニエル・クレイグの「ドリームハウス」(Dream House・2011・米/加)にも出ているらしい。

 神出鬼没で、ここぞというときに出てくる謎の男ハモンドはピアース・ブロスナン。なかなかカッコいい役だ。ちょっと前作「スパイ・レジェンド」(The November Man・2014・米/英)につながるものがある。次作はミラ・ジョヴォヴィッチの「サバイバー」(Survivor・2015・米/英)だそうで、最悪のテロリスト役らしいが、これら3作とも雰囲気が似ている気はする。

 脚本は、ジョン・エリック・ドゥードルとドリュー・ドゥードルの2人。兄弟か? ジョン・エリック・ドゥードルは本作の監督でもあり、あの話題にはなったスペインのPOV(主観)ホラー「REC/レック」([REC]・2007・西)のハリウッド・リメイク版を監督・脚本した人。日本では劇場公開されなかった。その後、あのM・ナイト・シャマランのプロジェクトに参加してM・ナイト・シャマラン原作の「デビル」(Devil・2010・米)を監督。しかし日本では小劇場での限定公開。IMDbでは6.3点の評価で微妙。その後も日本劇場未公開ホラーがあって、本作へ。つまり本作の怖さはホラーの手法ということなのだろう。なるほど、敵の執拗さや残酷さ、ラストのバトルはホラーから来ていたのか。なるほど納得できる。ちょっと普通のアクションとは違うなあと思ったら、ホラーの手法だったか。しかしその才能はホラーより本作のような作品の方が向いているようだ。今後の作品に注目したい。

 ドリュー・ドゥードルは本作の製作、プロデューサーでもある。だいたいジョン・エリック・ドゥードルの作品の脚本と製作を担当しているようだ。

 登場した銃は、首相のガードはAKを装備。空港のガードはたぶんS&WのM76 SMGを装備。暴動が始まって。リーダー格のやつがもっていたのが、シルバーのS&Wのミリ・ポリらしい4インチ。暴徒はAKのほか、SKSカービンも使用。ブロスナンはM92。ただ、これでスナイパーを倒すというのはSFか? またたまにハンマーが倒れていることもあった。娯楽作品ではないので、銃声はかなり怖い。戦車はM60A1かA3っぽかったが……。アーマラーはチェン・ゴッドヤンとかなんとか。ロケ地タイでの武器専門家なのかもしれない。

 カメラはちょっと動くが、ビスタなので酔うほどではない。ぎりぎりセーフ。ただちょっと動かしすぎの気も。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に劇場まで行って前売り券で座席を確保。面倒くさい。しかもここは新しい劇場なのに、なぜか場末感が漂う。10分前に開場。若い人から中高年まで、割りと幅広い。しかしほとんど男性ばかり。女性はオバサンが2〜3人。リアルに怖い映画だからなあ。最終的には137席の1/3くらいが埋まった。あまり宣伝していないからしかたないだろうが、もっと入っていい映画。特に海外旅行をよくする若い女性には見て欲しい気がした。

 スクリーンはビスタで開いており、気になった予告編は…… 上下マスクの「コードネームU.N.C.L.E.アンクル」はガイ・リッチー監督作品。スパイ・アクションというよりギャングもののような暗さ。1963年、ソ連のスパイとアメリカのスパイが事件解決のため手を組むことになったと。はたして…… 11/14公開。

 「エール!」は家族全員、耳が聞こえない家庭に生まれた唯一耳の聞こえる少女の話。歌の才能を生かし専門の学校に行こうとするが、誰が家族の面倒を見てくれるんだと反対され…… かなりつらい話になりそう。フランス映画。10/31公開。

 上下マスクの「トランスポーター イグニッション」は主人公を聞いたことがない新人に交代して、またまたリュック・ベッソンが脚本・製作という再起動版。どうなんだろう。10/24公開。

 ミラ・ジョボヴィッチとピアース・ブロスナンが共演する「サバイバー」はブロスナンがテロリスト、ミラがテロ対策専門家になるアクション。すごそう。10/17公開。

 絵はなかったが、クライヴ・オーウェン、モーガン・フリーマンが出演する中世騎士物語風の作品「ラスト・ナイツ」を、あの紀里谷和明が監督するらしい。ハリウッド映画ということか、日本映画なのか。詳細は全く不明。11/14公開。

 本編上映直前までケータイでTVだかビデオだかを見ているやつがいた。何しに来てるんだろう。自分がケータイを使いこなしているところを人に見せたいのか。画面がまぶしくてとても迷惑。予告を見ろよ。


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