2015年9月13日(日)「キングスマン」

KINGSMAN: THE SECRET SERVICE・2014・英・2時間09分

日本語字幕翻訳:丸ゴシック体下、松崎広幸/シネスコ・サイズ(デジタル、Arri ALEXA、HAWKアナモフィック・レンズ)/ドルビーAtmos

(英15指定、日R15+指定)

公式サイト
http://kingsman-movie.jp
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

1997年、中東で活動する国際諜報機関キングスマンのメンバーは、1人の男を捕らえて尋問を始めようとしていた。すると男が突然、手りゅう弾を爆発させるが、近くにいたランスロットが男に覆いかぶさり、犠牲となって被害を最小限にとどめる。手りゅう弾を見逃したガラハッド(コリン・ファース)は帰国してからランスロットの家を訪れ、夫の死を告げメダルを渡す。困った時は裏の番号に電話しろと。そして現在、誘拐されたアーノルド教授(マーク・ハミル)を救い出そうとした新しいランスロット(ジャック・ダヴェンポート)が、誘拐したIT企業の社長で大富豪のリッチモンド・ヴァレンタイン(サミュエル・L・ジャクソン)とその右腕の美女ガゼル(ソフィア・ブテラ)に惨殺される。キングスマンのリーダー、アーサー(マイケル・ケイン)はメンバーを緊急呼集し、ランスロットが追っていた事件をガラハットに引き継がせると共に、メンバーに次のランスロットを決めるため候補者を1人ずつアーサーの補佐であるマーリン(マーク・ストロング)に挙げるように指示を出す。そんなとき、かつてのランスロットの息子、エグジー(タロン・エガートン)から、面倒を見てもらっている母の男、ギャングのボスとトラブルを起こし警察に捕まったと連絡が入る。ガラハッドはエグジーを釈放させ、エグジーの過去を調べ、直接会うと、ランスロット候補としてキングスマンの試験を受けさせることにする。

81点

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 ビックリ! なんという映画だ。痛快活劇とはこのこと。しかも2時間を超えるので見ごたえがある。その上、ほぼ全編アクション・シーン。スピード感にあふれ、ハラハラドキドキ。あえていえば、007映画だとロジャー・ムーアがボンドを演じた1973年から1985年のシリーズに雰囲気が近いかもしれない。

 その007映画にギリギリの残酷なバイオレンスを加え、リアルさとファンタジーを共存させながら、イギリス的ジョークをたっぷり盛り込んで作り上げたスパイ・アクションという感じ。「キック・アス」(Kick-Ass・2010・英/米)的なテイストだと思ったら、その監督の作品だった。原作があるとは言え、凄い才能だなあ。これは大きなスクリーンで見ておくべき映画だろう。

 毒気と残酷さはそのまま「キック・アス」に通じる。そして飛んだり、跳ねたり、ガンカタのようなアクロバティック・アクションも「キック・アス」を彷彿とさせる。トレーニングで本物のスパイになっていく過程も「キック・アス」といえば「キック・アス」だ。じっくり描いているから、奇想天外な話と超人的なアクションでも説得力がある。やはり映画は2時間は欲しい。内容にもよるが、90分程度では通り一遍で物足りない。本作は堪能させてくれる。たぶん大抵の人は満腹になるはず。

 当然、悪役がとんでもなく素晴らしい。世界を滅亡させる理論もちゃんと筋が通っている。彼の主張は「宿主を殺すとわかっているウィルスは人類のみだ」というもの。ITで儲けた莫大な資産を背景に、気候変動をどうにかしようとしたが、無理だと。とても説得力がある。そのボスの片腕、最大の敵が女性で、しかも両足義足とは考えもつかなかった。この彼女が強い!

 英国で、キングスマンというだけあって、エージェントはアーサー王伝説の登場人物の名がコード・ネームとして使われている。円卓の騎士はほとんどが王の息子で、映画内でも触れられているように、家柄もいい貴族。円卓の騎士の身代わりを務めたことがあるランスロット卿、そのランスロットの息子で聖杯を見つけたガラハッド卿、円卓に魔法をかけた魔術師のマーリン。集う場所はキングスマンというテーラー。たしかかつての人気スパイTVドラマ「0011ナポレオン・ソロ」(The Man from U.N.C.L.E.・1964〜1968・米)で、本部に入るにはNYのテーラーの試着室からだった。

 映画オタク的な会話もあり、庶民が貴族のキングスマンに加わることをたとえて、「大逆転」(Trading Places・1983・米)や「ニキータ」(Nikita・1990・仏/伊)または「プリティ・ウーマン」(Pretty Woman・1990・米)を知っているかとガラハットが聞く。すると逆に古い映画「マイ・フェア・レディ」(My Fair Lady・1964・米)なら知っているとエグジーが答える(あとで正確な発音は必要ないと言われている)。そして飼うことになったパグにJBと名付け、アーサーにJBは「ジェームズ・ボンドか、ジェイソン・ボーンか」と聞かれ「ジャック・バウアー」と答える。

 腕利きエージェントのガラハッドことハリー・ハートはコリン・ファース。この人もいろんな役を演じる人。本作はほとんど笑わないが、微妙にコミカルな雰囲気を漂わせている。最近「マジック・イン・ムーンライト」(Magic in the Moonlight・2014・米/英)では詐欺を見抜こうとするマジシャン、「リピーテッド」(Before I Go to Sleep・2014・英/米ほか)では恐ろしい悪役を演じ、直接の絡みはないがマーク・ストロングと共演している。どちらかという文科系の人だと思っていたが、こんなにアクションができるとは。

 弟子のエグジーはタロン・エガートン。TVや短編映画には出ていたが、劇場長編映画は2作目らしい。役柄にはピッタリだが、ピッタリすぎてチンピラ臭が鼻に付くのが玉にキズ。ロンドン生まれの26歳。

 アーサーはマイケル・ケイン。この人が出ているだけで重みが出る。恒例なのがちょっと気になるが、82歳とはすごい。最近では「ダークナイトライジング」(The Dark Knight Rises・2012・米/英)の執事、アルフレッド役がピッタリで「グランド・イリュージョン」(Now You See Me・2013・仏/米)や「インターステラー」(Interstellar・2014・米/英/加)にも出ている。すべて話題作だ。

 マーリンはマーク・ストロング。たぶん悪役の方が多い人だが、本作は良い人。「ビトレイヤー」(Welcome to the Punch・2013・英/米)では大物犯罪者、「記憶探偵と鍵のかかった少女」(Mindscape・2013・米)では記憶探偵、傑作ドラマ「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(The Imitation Game・2014・英/米)ではMI6のエージェントを演じていた。「キック・アス」では恐ろしい敵のボス。

 大富豪のリッチモンド・ヴァレンタインはサミュエル・L・ジャクソン。さすがにうまい。変なファッションはIT系の社長らしいし、ねちっこい嫌らしさはさすがの演技力。そして怖い。韓国映画のハリウッド・リメイク「オールド・ボーイ」(Oldboy・2013・米)ではエキセントリックな役だったが、つい最近の「ビッグゲーム 大統領と少年ハンター」(Big Game・2014・フィンランドほか)ではアメリカ大統領。

 その右腕の女用心棒のようなガゼルは、アルジェリア出身のソフィア・ブテラ。世界的なダンサーで、大物アーティストと何回も世界ツアーに出ているそう。体のきれ、バランスは抜群。このあと4作が控えている。イギリスの映画に何本か出ているが、古本での劇場公開は本作が初めて。

 アーノルド教授はマーク・ハミル。往年の面影はないが、「スター・ウォーズ」(Star Wars・1977・米/英)のルーク・スカイウォーカーでブレイクした人。あれから38年。シリーズ最新作に出るらしい。1990年代後半からはほとんどTVがメイン。ずっと見なかったので変化の大きさにショックを受けた。

 原作はマーク・ミラー作、デイヴ・ギボンズ画のコミック『キングスマン:ザ・シークレット・サービス』(小学館集英社プロダクション刊)。マーク・ミラーは「ウォンテッド」(Wanted・2008・米/独)と「キック・アス」の原作コミックを書いている。デイヴ・ギボンズは「ウォッチメン」(Watchmen・2009・米)の原作コミックを描いている。2人とも本作の製作総指揮もやっている。

 脚本は監督でもあるマシュー・ヴォーンと、本作の共同製作でもあるジェーン・ゴールドマン。ジェーン・ゴールドマンはマシュー・ヴォーンとの脚本の仕事が多いようで、良くできたファンタジー「スターダスト」(Stardust・2007・英/米/アイスランド)、「キック・アス」、「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」(X-Men: First Class・2011・米/英)などを書いている。ほかに、ちょっと残念なダニエル・ラドクリフのホラー「ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館」(The Woman in Black・2012・英/加/スウェーデン)も書いている。

 キングスマンの標準装備拳銃は、トカレフに1発発射できるショットガンをトリガー前に着けたもの。そのためこの銃にはトリガーが2つある。サイレンサー付きも使われていた。もちろんスーツは防弾。冒頭のガス・マスクを付けたキングマンたちはMP5を使用。続くアーノルド教授を誘拐した男はUSPコンパクトを使用。見慣れないSMGも使っていたが、imfdbによるブルッガー&トーメのAPC9らしい。街のギャングのチンピラが使っていたのはM36チーフ、ガラハッドは傘銃。トレーニングで生徒たちが下げていたのはM4カービン。スウェーデンの首相のボディガードはグロックを使用。アメリカの教会での大殺戮では、ガラハッドはトカレフを撃ち尽くすと、USPコンパクトを奪い、それもオープン・ストップするとベレッタのM92を奪う。乱心者をヴァレンタインが撃つのはP226あたりかと思ったらH&KのP30だったらしい。山の中にあるヴァレンタインのシェルターのガードは白くペイントしたSCAR-LとMP5。マーリンが使っていたのはHK416というより7.62mmのHK417のようだった。マグプルのマガジンPMAGを装着。スナイパー・ライフルは武器庫に飾ってあったのはイギリス映画らしくアキュラシー・インターナショナル製。しかし使われていたのは、ガードが使う白塗りのブレイザーR93。とにかくたくさんの銃が出てくる。

 キー・アーマラーはリアム・ブライン(Liam Byrne)。「シャーロック・ホームズ シャドウ・ゲーム」(Sherlock Holmes: A Game of Shadows・2011・米)や「レ・ミゼラブル」(Les Miserables・2012・米/英)、「エクスペンダブルズ3」(The Expendables 3・2014・米/仏)などを手がけている。もう1人のキー・アーマラーはニック・ジェフリーズ。「キック・アス」や「シャーロック・ホームズ」シリーズを手がけている。ほかにアーマラーがアダム・グッドールとダン・オズボーンの2人いる。

 キングスマンの腕時計は、もちろんイギリスのものでBREMONTのスイス・メイド18金マニュアル・クロノグラフ、キングスマン・スペシャル・エディションらしい。

 公開3日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜にムビチケカードで確保。当日は15分前くらいに開場。TCX(東宝の大型スクリーン)とドルビーATMOS対応劇場だった。上映直前まで、天井8コ×2列も含め周囲のすべてのスピーカーの緑LEDが点灯し、存在を誇示している。本作はドルビーATMOS音響なのだが、特に上から音という感じはSFではないのであまり感じなかったものの、音質が良く、音の響きが良く、良く回り、立体的でクリアな気がした。

 観客層は、20代くらいの若い人たちから中高年まで幅広く、男女比は4.5対5.5ほどでやや女性が多い印象。R15+指定のかなりハードなアクションなのになぜなんだろう。最終的には一番大きな499席が7割くらいが埋まった。素晴らしい。これから口コミでさらに増えるのではないだろうか。

 スクリーンはもともとカーテンの無い角丸シネスコで、全開。TCXなのでほぼ壁面いっぱいに広がっているため、やや位置が低い。そのため後方席で見ると前席の人の頭が、座高の高い人の場合、じゃまになる。ぼくはプレミアム・シートの後ろなら大丈夫だろうと思って選んだら、運悪くそこに高い料金を払って座る人がいて、しかも今回の観客超最大の座高を持つ人だったらしく、頭がシートから飛び出ていて、スクリーン下に出る字幕が読みにくいの何の。新しい劇場でもこういうことがあるのかと。次は前の席を選ぼう。それなら見上げる形になるので大丈夫だろう。どうもこの傾向は六本木の劇場でも見られ、同じ設計者でその人の特徴なのかもしれない。

 気になった予告編は…… ジョセフ・ゴードン=レヴィットの「ハロー・ジャパン」という一言ビデオ・メッセージ付きの「ザ・ウォーク」は実話の映画化で、高層ビルの間にロープを張って、命綱無しでそこを渡った男の話とか。でも、監督がロバート・ゼメキスなので、ほとんどが3D-CGなんじゃないの疑ってしまう。これまでほとんど生の俳優を使わず、そっちの世界に没頭してきた人だから。2016の1/23公開。

 「オデッセイ」はリドリー・スコット監督のハードSF。火星にたった1人取り残されてしまったマット・デイモン演じる科学者のサバイバルと救出を描くものらしい。救出チームも、主人公もみんな命がけというハードさ。見たい。2016の2月公開。

 「ファイネスト・アワーズ」は実話の映画化。石油タンカー衝突での沿岸警備隊の活躍を描くものらしい。主演はクリス・パイン。2016年公開。英語のサイトはFaceBookのみ、まだ日本語の公式サイトはない模様。予告編はこちら

 「ポイント・ブレイク」は、キャスリン・ビゲロー監督の「ハートブルー」(Point Break・1991・米/日)のリメイクとか。メイキング映像が届きましたと。日本語公式サイトはまだない模様。たぶん2016年公開。

 四角の枠付き「信長協奏曲(コンツェルト)」はTVの劇場版。信長そっくりの男が戦国自体にタイムスリップすると。2016、1/23公開。

 左右マスクの「人生の約束」は竹野内豊主演のドラマ。いかにも日本映画だなあという感じ。2016、1/9公開。

 枠付き「劇場版MOZU」もTVの劇場版だが、元のTV版が凄かっただけに、映画はもっと凄そう。ビートたけしか。11/7公開。

 ちょっと小さな枠付き「007スペクター」はちょっとだけ新しい予告に。現時点で公式サイトはFaceBookのみ。まだ凄さはわからない。12/4公開。

 枠付き「エベレスト3D」は実話の映画化らしいが、とにかく現場で撮影されたらしい絵がスゴイ。ただ3Dというのが、ほかに売りが無いようで気になる。11/6公開。

 枠付き「ジョン・ウィック」はキアヌー・リーブスが殺し屋を演じるアクション。歩いて撃ちながらM4から1911オートへのトランジッション、マガジン・チェンジなど、さまざまなタクティカル・テクニックを見せてくれる模様。「忠臣蔵」は酷かったが、これは見たい。10/16公開。

 左右マスクの「ピッチ・パーフェクト2」は歌とダンスの女の子ミュージカルらしい。ビッチかと思ったらピッチなんだ。そりゃそうだよな。嫌らしい映画かと思った。10/16公開。

 左右マスクの「ファンタスティック・フォー」は出直し版かリメイク版か、いずれにしても前のシリーズが散々だったので、いかに魅力的に見せるか。有名俳優が出ていない分、SFXにお金をかけられたのかも。10/9公開。

 左右マスクの「アントマン」は新予告に。どうもコメディ色が強いような感じだが、大丈夫か。3D上映があるということは、ダメかも。もう前売り買っちゃったけど…… 9/19公開。


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