2015年9月19日(土)「天空の蜂」

2015・松竹/木下グループ/講談社/ローソンHMVエンタテイメント/GYAO!・2時間18分

シネスコ・サイズ(デジタル)/ドルビー・デジタル


公式サイト
http://tenkunohachi.jp
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

1995年、8月8日、錦重工業が開発した日本最大のヘリコプターCH-50J、通称ビッグBが、愛知県の小牧工場で初飛行を迎えようとしていた。開発に関わった技術者の湯原(江口洋介)は、妻の篤子(石橋けい)と1人息子の高彦(田口翔大)を連れて、セレモニーがはじまるのを待っていたが、突然ビッグBのローターが回転を始め、無人のまま勝手にハンガーを出て飛び去ってしまう。しかしヘリには湯原の息子の高彦が乗っていた。ヘリはそのまま福井県に向かい、新しく作られた原子力発電所「新陽」の建屋上空でホバリングしとどまる。そして政府宛に「天空の蜂」と名乗る犯人から、「ただちに新陽以外の全国の原発を停止させろ」という脅迫状が届く。さもなければ爆弾を積んだヘリを「新陽」に墜落させると。しかも8時間後には何もしなくてもヘリの燃料がなくなり勝手に墜落してしまうという。

72点

1つ前へ一覧へ次へ
 ずっと映画の間中、原発を止めようと行動を起こさないことをなじられているようで、とても居心地が悪かった。そして、その主張が強すぎて、ちっともミステリーの謎解きの部分を楽しめなかった。原作は読んでいないが、せっかくのミステリーなのに主張したいこととエンターテインメントのバランスが悪く、とてもお説教臭いものになってしまっている。原作もそうなのか。まあ、ミステリーにはあまり力を入れていないようで、影にいる犯人はあっさりと割れてしまうし、予想も付く。

 また演出として冒頭からイラつかせる要素が多すぎ、映画に入って行けず、引いてしまう。小さな子供が何もしゃべらずに、何かに足をぶつけてトントンと音を立てているとか、妻が甲高い声でヒステリックに一方的に文句を言いまくるとか、とにかくカンに障り、苛ついてしまう。そこへ持ってきて、主人公とおぼしき男の対応が酷く、ヘタレ丸出し。好きになれないし、感情移入できない。

 さらに、変な前髪をいじっていて、普通ではない偉そうな刑事が観客の感情を逆なでする。これで映画が楽しめるわけがない。魅力的な人が1人もいない。せいぜい脇役の「新陽」原発の所長がまともかなあというくらい。でも、この人が良い人でもストーリーになんら関係ない。ストーリーに関わるやつはみんな嫌なヤツって。たくさんの人が出てくるのに整理も説明もされておらず、誰が刑事なのかよくわからない。

 一番驚いたのは、タイトルの「天空の蜂」というのは脅迫者のペンネームというか、匿名だったこと。ヘリのあだ名かと思った。

 映画の間中なじられっぱなしなので、見終わって、誰かと会話が弾むということはないと思う。といって、これをテーマに語り合うというのも無いと思う。デートには全く適さない映画。

 存在感の薄い主人公、技術者の湯原は江口洋介。劇場で観たのは「るろうに剣心 伝説の最期編」(2014・日)以来か。主役ではないのに「るろう……」の方が存在感があった気がする。ダメな感じは良く出ていたが。

 主人公を食ってしまうキャラクター、原発技術者の三島は本木雅弘。「おくりびと」(2008・日)が良かったし、NHKの戦争歴史ドラマ・シリーズ「坂上の雲」(2009〜2011・日)も良かった。つい最近出ていた「日本のいちばん長い日」(2015・日)の昭和天皇もとても良かった。うまいなあ。

 まるでオール・スター・キャストのようにたくさんの有名俳優が出ているが、なかでもリアルでいかにもいそうな感じがした湯原の妻、篤子は、地味ながら素晴らしかった。そういう役なので、素晴らしいほど観客を苛つかせ、嫌われる役なのだが。演じたのは石橋けい。 古くはTVの「NIGHT HEAD」(1992〜1993・日)や、WOWOWのとてつもなく怖いが尻切れトンボの「女優霊」(1996・日)に出ていたらしい。危機的な状況にある妻役、うま過ぎ。

 そしてやはり途中で死ぬ役は印象に残る。若い刑事、関根を演じた落合モトキも良かった。オタク的な独特の雰囲気を持っていて、ボクが見たものでは「MONSTERZ モンスターズ」(2014・日)に出ていて、他に「ホットロード」(2014・日)や「日々ロック 」(2014・日)、「娚の一生」(2014・日)に出ているらしい。

 原作は1995年に単行本化された東野圭吾の同名小説。ベスト・セラー作家だけあって、「ガレレオ」シリーズなど、たくさんの小説が映画化されている。「麒麟の翼 〜劇場版・新参者〜」(2011・日)や「プラチナデータ」(2012・日)もそうだった。映画に向いているのかもしれない。

 脚本は楠野一郎。TVでバラエティなどの構成作家としても活躍しているらしい。脚本はTVの「ガチバカ!」(2006・日)があり、映画では「ケンとメリー 雨あがりの夜空に」(2013・日)を書いているのだとか。うーむ。

 監督は、と並ぶ多作作家、映画撮りまくりの堤幸彦。「ケイゾク」(1999〜2000・日)シリーズや「トリック」(2000〜2014・)シリーズ、「SPEC」(2010〜2013・日)シリーズの人だ。コメディ系ミステリーで、スローや広角レンズを多用した味のある独特の手腕を発揮する人だと思うが、本作はそれとちょっと外れるか。ボク的には破天荒な時代もののアクション・ファンタジー「大帝の剣」(2006・日)が好きだが。

 銃は刑事がニュー・ナンブを使用。おろかにも、それを奪って湯原が撃つ。自衛隊が少年の救出で使うロープ銃にはドット・サイトが取り付けてあったが、1995年当時そこまで行き渡っていたんだろうか。もちろんすでにあったのはあったと思うが、普及し出すのは2000年代に入ったあたりからではなかったか。雑賀(佐竹)を逮捕しにくる自衛隊の特殊部隊らしい男(女も1人いた)達は、たぶんP220を使用。銃器特殊効果はビッグショット。犯人の雑賀(佐竹)のアパートが爆発するシーンはものすごく迫力があった。あんなに土砂のようなものが飛ぶかは別として、いままでの邦画に無かった迫力の表現。

 公開8日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜にムビチケカードで確保。当日は13〜14分前くらいに開場。観客層はほとんど中高年で、若い人は少しだけ。女性は最初2割ほどだったが、最終的には2.5割くらいになったか。最終的には301席に4.5割くらいの入り。これは日曜に江口洋介と監督の舞台挨拶があるためかもしれないが、テーマというか主張は今にピッタリだとしても、この雰囲気では今後観客が増えるかどうか。

 スクリーンはシネスコで開いており、片岡愛之助の新作案内とCMのあと、場内がほぼ暗くなって予告編へ。気になったのは…… 左右マスクの「劇場霊」は新予告。これだけでは怖いのかどうかわからないが、超怖いTVムービー「女優霊」(1995・日)のちゃんと結末のある版だったら良いかも。同じ中田秀夫監督。11/21公開。

 左右マスクの「アース・トゥ・エコー」は、なんだかSFジュブナイル「エクスプローラーズ」(Explorers・1985・米)に似ている気がした。ただ、気になるのは、前売り券が作られていないらしいこと。うむむ。10/24公開。

 幕末の彰義隊を描く「合葬」は、ちょっと期待していた部分もあったのだが、予告の映像は色が浅く、ビデオっぽい画質。これはなあ……。9/26公開。これも前売り券が無いらしい。

 左右マスクの「愛を語れば変態ですか」はなんだかよくわからなかったが、日本映画らしい感じはした。11/28公開。

 映写機のマスクが左右に広がって、映画泥棒から、暗くなって本編へ。


1つ前へ一覧へ次へ