2015年10月3日(土)「ドローン・オブ・ウォー」

GOOD KILL・2014・米・1時間44分(IMDbでは102分)

日本語字幕翻訳:丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(デジタル、IMDbではArri ALEXA)/ドルビー・デジタル

(米R指定、日R15+指定)

公式サイト
http://www.drone-of-war.com
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

アメリカ空軍のトーマス・イーガン少佐(イーサン・ホーク)は、かつてはF-16戦闘機のパイロットで、飛行時間3,000時間、出撃200回以上のベテランだったが、現在はラスヴェガス近くにある第61攻撃飛行隊に勤務し、そこからリーパーやプレデターなどの無人機を操縦し、10,000km以上離れた中東でのテロリスト掃討作戦に従事している。しかし深刻なPTSDに悩まされ、妻との関係もうまくいかず、朝から酒に浸るような毎日。そんなある日、CIAからの協力要請で、さらなる過酷な任務に従事することになる。

74点

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 うーむ、これは落ち込んだ。つらい。現代戦の悲劇を描いた映画で、ある程度は予想できたが、PTSDによって1人のベテラン・パイロットが崩壊していくさまが、これほどリアルとは。そしてほとんど救いがない。楽しいとか面白い映画ではないが、映画としての完成度は高いと思う。

 自分でもわかっているダメになる感じ。そして、どうにか修復しようとしている妻が離れていって、家族が崩壊する感じ。同僚や上司ともうまくいかなくなって、1人、浮いてしまう感じ。アルコールにおぼれる。それなのに、小さな正義にこだわり、規則を破ってしまう感じ……。誰も我々を哀れんじゃくれないと。すべてがリアルで、ひしひしと伝わってくる。

 現代戦で、自分の命を危険にさらさなくても敵を殺し、施設や建物を破壊できるにもかかわらず、PTSDに襲われるというのは衝撃的だ。戦争なのに、相手に対してフェアじゃない、いんちきみたいに感じてしまうというのは驚きだが、こうしてリアルに描かれると実感できる気がする。しかも本作で悪役のように描かれているCIAの「集団で排除する」やりかただと、敵がやっている無差別爆弾テロとほとんどかわらないことになってしまう。爆撃の後、助けに来た近所の人々を関係者と共に2度目の攻撃で一網打尽にしてしまうやりかた。原題の「グッド・キル」は任務の完了で、敵を一掃することらしく、字幕では「一掃」とルビ付きで出ていた。対象の葬儀まで追って、部下や弟がいることを理由に、葬儀に集まった人々まで一撃で殲滅する。女性新兵のスアレスが言うように「私たちはテロリスト製造器」ということになってしまっている。憎しみの連鎖。しかしやめるにやめられない。これが仕事で、これを続けていることによって、9.11のような事件は起こっていないという事実もある。命令に従わなければ罰せられる。うーむ。

 もちろん、無人機による攻撃の手順などもリアルに描かれているようで、シミュレーターのコックピットのように作られたコンテナのようなモジュール。そしてターゲットにレーザーを照射して、ウェポンをオンにして、ウェポンズ・ホットになったら、トリガーを引いて「ライフル」(発射)と言って撃つ。発射をライフルって言うんだ。ドカンが「スプラッシュ」。しかも、ライフルからスプラッシュまで10秒前後かかる。この間に他の人が接近してきたり、思わぬことが起こる。たぶんそれは戦闘機でその場で攻撃しても同じだろうが、無人機の場合、それをリアルタイムで高画質でずっと見ることができる。攻撃したらすぐ離脱できるわけではない。これがまたPTSDの元になる。チームは上官も含めて、攻撃評価をする係などいて5人で交代で作戦を実行する。観客までもがチームになったようで、かなり緊張をしいられ、そして怖い。

 唯一の心休まる任務は、6名ほどの味方地上部隊からの要請で、ちょっと朝まで眠りたいから敵が接近してこないか監視して欲しいというもの。朝になって、無線で「モーニング・コールだ」と言って起こすと、「恩に着る」と感謝される。しかし。そうばかりではなく、部隊を監視していても、敵が付近にいないにも関わらず、誰かが地雷を踏んで5〜6名が一度に戦死してしまうこともある。監視では防ぎようがない。

 最初に「事実に基づく」と出る。たぶんかなりリアルなんだろうと思う。空軍基地にはF16がずらりと並ぶが、それらが飛ぶことはほとんどない。映画の中では、夢でしか飛ばない。新兵はセスナしか飛ばしたことがないとか。

 トーマス・イーガン少佐はイーサン・ホーク。どちらかというとアート系やB級作品に良く出ている印象。最近見たのは、最悪画質のかなり残念なPOV風映画「ゲッタウェイスーパースネーク」(Getaway・2013・米/ブルガリア)や驚きのSF「プリデスティネーション」(Predestination・2014・豪)だが、日本ではほとんど小劇場での限定公開。二枚目だし、演技もうまいと思うのだが、惜しいなあ。

 上官のジャック・ジョンズ中佐はブルース・グリーンウッド。「13デイズ」(Thirteen Days・2000・米)でJ.F.ケネディを、イメージピッタリで演じていた人。軍人役が多い気もする。

 元ダンサーの美人妻モリーはジャニュアリー・ジョーンズ。大ヒットSFアクション・シリーズの「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」(X-Men: First Class・2011・米/英)で全身宝石のようなエマ・フロストを演じていた人。TVでは「MAD MENマッドメン」(Mad Men・2007〜2015・米)シリーズにずっと出ているらしい。本作でも夫婦げんかのシーンなどはとてもリアルで、美人なだけじゃないことを証明している。

 女性の新兵スアレスはゾーイ・クラヴィッツ。あのミュージシャンのレニー・クラヴィッツの娘さんだ。「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」に羽根のあるエンジェル役で出ていた。ただその後作品に恵まれず、超残念なSF「アフター・アース」(After Earth・2013・米)や、超退屈なSF「ダイバージェント」(Divergent・2014・米)に出ている。やっと本作で良い作品に巡り合えたか。

 脚本・監督はアンドリュー・ニコル。評価の高いSF「ガタカ」(Gattaca・1997・米)の脚本・監督で劇場映画デビューしたニュージーランドの人。CG女優をテーマにした「シモーヌ」(Simone・2002・米)の製作・脚本・監督や、SFギャング・ストーリーのような「TIME/タイム」(In Time・2011・米)の監督を務めている。ほかに武器商人を描いた「ロード・オブ・ウォー」(Lord of War・2005・米/独/仏)の製作・脚本・監督があり、本作はその流れといえるだろう。SFものと戦争物は同じ監督とは思えない印象だ。本作の前のSFスリラー「ザ・ホスト美しき侵略者」(The Host・2013・米/スイス)は見たかったが、小劇場の公開で前売りなしという扱い。SFより戦争物に向いているのではないだろうか。

 劇中、「なぜ飛ばないのに飛行服を着るんだ」というセリフもあるが、パイロットたちは拳銃などを身に付けていない。なにしろ不時着の心配がない。そのため基地内で銃を持っているのはMPのみのようで、M4カービンのようだった。ほかに、イエメンなどでアルカイダの兵士がAKやRPGをもっている。派兵されているアメリカ軍の兵士は、上空からのカメラということでアップならないがたぶんM4カービン。

 単位は12,000キロなどとメートル法で言っていた気がする。アメリカは世界で3つしかないヤード・ポンド法採用国だそうだが、法律上はメートル法の国で、世界で展開する軍は早くからメートル法を採用しているらしい。ただ、映画やTVでは視聴者にわかりやすくするため、軍内の会話でもヤード・ポンド法を使っているらしい。しかし本作は、リアルさにこだわったのだろう、メートル法だったと思う。

 夢のシーンで主人公のイーサン・ホークがF-16で飛んでいるが、まるで本当に飛んでいるようだった。撮影のため体験飛行をしたのだろうか。

 公開3日目の初回、六本木の劇場は全席指定で、金曜にムビチケカードで確保。当日は10分前くらいに開場。ほとんどオヤジで、女性は1割ほど。若い人も1割くらい。

 スクリーンはビスタ・サイズで開いていて、すぐにTOHOニュースが始まり、気になったのは…… 四角の枠付き「ファイネスト・アワーズ」は実際にあった海難事故での沿岸警備隊の救出劇を描くものらしい。2016年公開。まだ日本の公式サイトはない模様。

 「スティーブ・ジョブズ」は主演がマイケル・ファスベンダー。アシュトン・カッチャー版が2013年に公開されているが、またすぐに作って意味があるのか。それとも先行作品がビドかったので作り直すということか。これも日本の公式サイトはない模様。2/27公開。

 予告で気になったのは…… 上下マスクの「杉原千畝」はちょっと前からやっている新予告。ちょっと美談過ぎるような印象もあるがどうだろう。12/5公開。

 上下マスクの「ラスト・ナイツ」は「CASSHERN」(Casshern・2004・日)の紀里谷和明監督によるハリウッド映画。なんとモーガン・フリーマンとクライヴ・オーウェンが出ている。そして伊原剛志とアン・ソンギも。国際的だ。インタビュー映像付き。サムライ・ストーリーだと。11/14公開。

 上下マスクの「ミケランジェロ・プロジェクト」は第二次世界大戦秘話。ヒトラーがたくさんの美術品を集めており、それを奪還したチームが存在したと。芸術の専門家でも戦争はどシロート。しかも実話。パターン的な感じもするが、おもしろそう。11/6公開。

 上下マスクの「ダイバージェントNEO」はあの酷いSFの続編。なぜ。面白かったから作るのならわかるが…… 2本セットで買い付けたのか。ただ、予告の絵は凄い。SFXは上等なようだ。10/16公開。

 暗くなって、スクリーンのカーテンが左右に広がって本編へ。何か廊下で起きていたのが、外が騒がしく、その音が場内に入ってきてうるさかった。


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