2015年10月18日(日)「ヒトラー暗殺、13分の誤算」

ELSER・2015・独・1時間54分

日本語字幕翻訳:手書き風書体下、吉川美奈子/シネスコ・サイズ(デジタル、Arri ALEXA)/音声表記なし

(独12指定、米R指定)

公式サイト
http://13minutes.gaga.ne.jp
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

第二次世界大戦が勃発する直前の1939年11月8日、家具職人のゲオルグ・エルザー(クリスティン・フリーデル)は、ナチスの総統ヒトラーが演説するビア・ホールに時限爆弾を仕掛けるが、予定より13分早くヒトラーが帰ったため暗殺に失敗、軍人や一般人8人が亡くなる。刑事警察はすぐにゲオルグを逮捕し、局長のアウトゥール・ネーベ(ブルクハルト・クラウスナー)とゲシュタポのハインリッヒ・ミュラー(ヨハン・フォン・ビュロー)による取り調べが始まる。総統の命令もあり、黒幕の名をはかせようとするが、ゲオルグは1人でやったと主張する。そして徐々に、彼の人生が明らかになって行く。

74点

1つ前へ一覧へ次へ
 実話に基づく映画ということもあり、非常に重い。しかもヨーロッパらしいエンターテインメントとは違った、リアルな作りと見せ方。普通は描かない内臓感覚というか、どろどろした部分までほかと同じに作り、見せて行く。これがリアルであると共に気持ち悪くもさせる。拷問で、食べたものを戻すのも、普通は背中から撮ったりするのをあえて真横から顔をアップで捕らえたりする。注射なども、それらしく撮っているというより、本当に刺さって薬が流れ込んでいる感じ。残酷とかではなく、たぶん当たり前という感覚なのだろうが、気分が悪くなって行く。何だか悪夢を見た後のような感じ。

 当時の警察とゲシュタポの取り調べは過酷で、特に爆弾テロであり、総統であるヒトラーに対するものだけに、結論ありきでそれを明かそうと異常なものになって行く。現代を舞台にしたアクション映画の拷問の方が残酷さでははるかに上だが、内臓感覚的な描き方なので、実に不快で精神に来るようだ。観客も拷問を受けているような気持ちになる。そういう意味で良くできた映画。

 逆にエロティックなシーンも、現代の映画の同様のシーンより露出も少なく過激さもないのに、はるかにエロティックな感じがする。そしてやはりエンターテインメントでは描かないようなところまで描くことで、エロだけではなく、どこか生物の生殖活動的な生っぽい感じまでする。

 ラストに「実話に基づく。ただし私生活の部分は想像(創造?)」というような文章が出る。

 ゲオルグ・エルザーはクリスティン・フリーデル。カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞したミステリー「白いリボン」(Das weiァe Band - Eine deutsche Kindergeschichte・2009・独/墺/仏/伊)に主演しているらしいが見ていない。ピアノをを演奏し、アルバムも出しているんだとか。

 コケティッシュで魅力的な人妻エルザはカタリーナ・シュットラー。1979年生まれの36歳。いまが魅力全開で、本当にコケティッシュで驚かされる。TVでの活躍が多いようだが、日本で劇場公開された作品だとドイツ・アカデミー賞を受賞したコメディ「コーヒーをめぐる冒険」(Oh Boy・2012・独)に出ているらしいが見ていない。ハリウッド映画にも出て欲しいなあ。

 脚本は製作も兼ねるフレート・ブライナースドーファーとレオニー=クレア・ブライナースドーファーの2人。フレート・ブライナースドーファーは小説家で弁護士でもあるそうで、政治活動もしていたらしい。衝撃の実話の映画化「白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々」(Sophie Scholl - Die letzten Tage・2005・独)が初めての脚本・製作になるんだとか。テーマとしては本作と同じだ。当時でもヒトラーに反対した人々はいたと。そして、いずれも悲惨な結末を迎えている。

 レオニー=クレア・ブライナースドーファーはフレートの娘で、やはり弁護士。映画学校も卒業している。主にTVの人で、父と共に「北京からきた男」(Der Chinese・2011・独)などを書いている。

 監督はオリヴァー・ヒルシュビーゲル。実話に基づく心理実験を描いた衝撃作「es[エス]」(Es・2001・独)や、歴史実話「ヒトラー〜最期の12日間〜」(Der Untergang・2004・独/墺/伊)を監督した人。しかしハリウッド進出してからはニコール・キッドマンの残念なSFサスペンス「インベージョン」(The Invasion・2007・米/豪)や、かなり残念な実話に基づく「ダイアナ」(Diana・2013・英/仏ほか)などと振るわない感じ。本作はハリウッドで撮っておらず、ハリウッドの水は体に合わなかったということなのだろう。

 銃は兵士がKar98k、MG34、P08など。ラストに本人の写真が出る。

 公開3日目の初回、銀座の劇場は全席指定で、ムビチケカードで確保。当日は25分前くらいに着いたら、間もなく開場。そんなに混んでいなくてもエレベーターが小さいためエレベーター・ホールは混雑。観客層は中高年というより、ほぼ老。白髪が多い。若い人は数えるほど。女性は1/3くらい。第二次世界大戦もの、よかもヨーロッパだから当然か。最終的には224席がほぼ埋まってしまった。ビックリ。イスが硬くてケツが痛かったあ。

 それにしても、アート系の予告はタイトルがなかなか出ないものが多い。自己満足か。もっと早く出せ。しかもいつから公開なのかもよくわからない。何のための予告なんだろう。まだこんな予告があったなんて。

 スクリーンはビスタで開いており、非常口ランプのみ残してほぼ暗くなって始まった予告で気になったのは…… 1.66くらいの比率の「アバウト・レイ16歳の決断」は性同一性障害を描くシリアスもの。ナオミ・ワッツ、スーザン・サランドン、そして男を熱演して見せる大きくなったエル・ファニング。エル・ファニングの男っぽい演技も驚きだったが、こんなに大きくなったことも驚きだった。1月公開。

 上下マスクの「完全なるチェックメイト」は、なかなかタイトルが出ずにイライラしたが、チェスによる米ソ対決を描く実話の映画化。予告だけでも息詰まる感じ。見たいけれど、劇場とスケジュール次第かなあ。12/25公開。

 上下マスクの「黄金のアデーレ 名画の帰還」もなかなかタイトルが出ない。でもおもしろそう。ナチスが奪ったクリムトが描いた1枚の絵をめぐって、モデルとなった個人と国家が取り合いをすると。そしてそれが裁判にまで発展する。面白そう。新宿でもやるんだ。11/27公開。

 マリサ・トメイ、ヒュー・グラントのヒューマン・コメディ系上下マスクの「リライフ」は落ちぶれた脚本家が、生活のためしぶしぶ脚本の書き方を教えるというもの。どこかで聞いたような話。「幸せの教室」(Larry Crowne・2011・米)と「ラブソングができるまで」(Music and Lyrics・2007・米)を合わせたような。ハリウッドもネタ切れか。でも面白そうだった。11/20公開。

 カーテンが左右に広がって、暗くなって本編へ。やっぱり映写機のマスクだけじゃなくこっちの方が良い。スクリーンの締まりが違う。


1つ前へ一覧へ次へ