2016年3月19日(土)「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」

MR. HOLMES・2015・英/米・1時間44分

日本語字幕:丸ゴシック体下、アンゼたかし/シネスコ・サイズ(デジタル、with Panavision、ALEXA)/ドルビー・デジタル

(英PG指定、米PG指定)

公式サイト
http://gaga.ne.jp/holmes/
(音に注意、全国の劇場リストもあり)

自身のファンであり、薬効のある山椒を手配してくれるという日本人、梅崎(真田広之)のところから帰った93歳のシャーロック・ホームズ(イアン・ホルム)は、留守中、鍵をかけていた自分の部屋に家政婦のマンロー夫人(ローラ・リニー)の1人息子、10歳のロジャー(マイロ・パーカー)が入ったことを知る。するとロジャーは書き掛けの事件がどうなったのか聞いてくる。正確な記録として残したいと書き始めたものの、高齢のためなかなか思い出せないでいたのだ。ホームズはミツバチの世話をロジャーに手伝わせながら、山椒を試しつつ、最後に手がけた事件を思い出そうとする。

74点

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 公式サイトにある「引退に追い込まれた未解決事件に再び挑む」ではなかった。年老いて、本人がそろそろお迎えが近いかなと思い始めた時、人の名前もちゃんと覚えられなくなった時、物を取ろうとしてベッドから落ちてけがをしてしまうようになった時、ローヤルゼリーも奇効き目が無くなってきた時、結末が違って世間に伝えられてしまっていた事件を、正確に思い出して残そうとするという話。事件というより、ミステリーというより人生の物語。人生の最後を迎えようとするホームズとホームズ・ファン(シャーロッキアン?)の幼い少年との心の交流、自分でも受け入れられない老いをどうやって受け入れて行くか。ミステリーを期待すると評価は低くなるかもしれない。しかも地味。

 事件を解決する時のように、すべてが論理的でなければならないと思っていたものが、そうではないとホームズが悟るのが、素直に伝わってくる。人生には嘘も必要なんだと。手紙は見ずにすべて捨てていたのに、返事を書こうとする。しかも嘘を織り交ぜて。それがお説教臭くなく入ってくる。

 ワトソンが結婚して彼の元を去った後のホームズ最後の事件で、解決した後、自分が倒れたためワトソンが戻って、書いてくれたが、事実とは違っていたため、真実を自分で書き残そうと。しかし、それがうまくいかない。なぜホームズは、その最後の事件を封印してしまって、思いだせなくしてしまっていたのか。そこがミソ。最初苦虫をかみつぶしたような、頑固そうな老人の顔が、ラストには優しい表情になる。あやうく今の唯一の読者を失いそうになるが……。30年前の事件、日本人と山椒のエピソード、そして家政婦とその息子とミツバチのエピソード。感動的な3つの物語。

 とにかく素晴らしいのは93歳のホームズを演じたイアン・マッケラン。1939年生まれなので、現在77歳。すごいなあ。本当の93歳のように見える。逆に30年前のホームズははつらつとしていて、そのギャップも感動的。人は年老いると実感させてくれる。最近は「X-MEN:フューチャー&パスト」(X-Men: Days of Future Past・2014・米/英/加)や「ホビット決戦のゆくえ」(The Hobbit: The Battle of the Five Armies・2014・ニュージーランド/米)などシリーズ物のファンタジー系が多いが、衝撃的だったのは、ナチス将校を演じた「ゴールデンボーイ」(Apt Pupil・1998・米/仏)や、同性愛の映画監督を演じた「ゴッド・アンド・モンスター」(Gods and Monsters・1998・米/英)。

 驚いたのはマンロー夫人を演じたローラ・リニー。もちろんうまい演技だが、歳を取ったなあと。西洋の女性はハイティーンの頃から大人びているが、その分、老いるのも速いとか。そんな典型か。1964年生まれというから52歳くらい。すっぴんのような状態なので、余計にそう感じるのかもしれない。ちょっとショック。最近あまり見かけていなかったということもあるか。最後に見たのはスカーレット・ヨハンソンのコメディ「私がクマにキレた理由(わけ)」(The Nanny Diaries・2007・米)だったか。古くは法廷ミステリー「真実の行方」(Primal Fear・1996・米)や、あまり好きではないが「トゥルーマン・ショー」(The Truman Show・1998・米)。

 そして存在感のある魅力的な子役、ロジャーを演じたマイロ・パーカー。2002年イギリス生まれというから14歳。西洋人には珍しく、もっと幼く見える。本作の前に映画に1本出ているようだが、日本公開されていない。本作で注目されたらしく、この後、TVと製作中のものも含め2本の映画に出ている。注目かもしれない。

 日本人の梅崎役で真田広之が出ているが、やはりちょっと悪役の匂いがする役で、ちょっとパターンかなと。キャスティングを担当している人の問題だが。「レイルウェイ 運命の旅路」(The Railway Man・2013・豪/英/スイス)では捕虜を虐待した日本軍将校。それにしても、真田が出ていながら、日本のセットは中国のようで、年間1970万人以上の外国人旅行者が日本を訪れているというのに、いまだにいんないい加減な日本のイメージで演出しているとは驚き。これもパターンなんだろう。

 原作はミッチ・カリンの『ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件』(KADOKAWA/訳・駒月雅子)。いわゆるパティーシュ的な作品らしい。脚本はジェフリー・ハッチャー。映画では「カサノバ」(Casanova・2005・米)や「ある公爵夫人の生涯」(The Duchess・2008・英/伊/仏/米)を書いているらしい。日本ではどちらもアート系小劇場での公開。うむむ。でもTVでは結構エンターテインメントも書いているようだが。

 監督はビル・コンドン。最近は残念な「トワイライト・サーガ」シリーズなども監督しているが、その前に「ドリームガールズ」(Dreamgirls・2006・米)を撮って「シカゴ」(・2002・)の脚本を書くなどミュージカル系の豪華な作品も手がけており、さらに前にイアン・マッケランで衝撃作品「ゴッド・アンド・モンスター」も撮っている。その前にはホラーの「キャンディマン2」(Candyman: Farewell to the Flesh・1995・米/英)も撮っているのだから、共通点がないような感じだが、あえて言えばファンタジー的な傾向はあるのかも。しかし、この人を持ってしても日本のイメージはこの程度だ。ちゃんと調べようという気もなかったのだろう。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、前日にムビチケカードで確保。当日は15分前くらいに開場。開場のアナウンスはあるが、モニターなどによる「開場中」の表示がないため、アナウンスの時にロビーにいないと開場中かどうかがわからない。上映スケジュールは小さなモニターで表示避れているが、もっと大木と見やすいところに表示すべきだろう。また、ロビーに予告編などを見せる大きめのモニターがあるが、イスの近くでしかも位置が低すぎて、イスに座っている人がいると(ほぼ、いつも誰かが座っている)よく見えない。なんのためのモニターなんだか……。

 観客層はほぼ中高年で、最初17〜18人いて女性は5人ほど。最終的には122席に4割ほどの入り。地味な作品なので、こんなものだろうか。3〜4人が場内でもケータイを使っていた。外でやれ。

 気になった予告編は…… スクリーンがむき出しの劇場なのでマスクするカーテンがない。そのためスクリーンの歪みがよくわかる。どうなんだろう。四角の枠付き「バットマンvsスーパーマン」は公開が間近なのに、古い予告のまま。あまり見せられる部分がないということか。ただ公式サイトでは別な映像が公開されている。お金の問題か。3/25公開。


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