2016年3月20日(日)「僕だけがいない街」

2016・アニプレックス/フジテレビジョン/KADOKAWA/関西テレビ放送/京楽産業ホールディングス/電通/ローソン/シーワン/クリスマスホーリー/鐘通インベストメント・2時間00分

シネスコ・サイズ(デジタル、ALEXA)/ドルビー・デジタル


公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/bokumachi/
(全国の劇場リストもあり)

ピザ屋でアルバイトをしながら漫画家を目指す藤沼悟(ふじぬまさとる、藤原竜也)は、事件や事故が起きた時、たまに時間を逆戻りして同じシーンを繰り返す現象を経験していた。悟はこれを「リバイバル」と名付け、何か違和感のあるところを見つけて直し、それを回避しなければ元に戻れないことを知っていた。そんなある日、交通事故の現場でリバイバルが起き、子供を助けたものの巻き込まれて怪我をしてしまう。病院にはバイト仲間の片桐愛梨(かたぎりあいり、有村架純)が付き添ってくれ、二人は急接近する。そして北海道の田舎から母の佐知子(さちこ、石田ゆり子)が上京し、しばらく一緒に住むことになる。すると、数日後、悟と母が買い物に行くと、そこでリバイバルが起きる。繰り返しで母が幼女誘拐に気付き、それで防ぐことができたのだ。ところがある夜、母が1人でいる時、男が侵入し母が刺殺されてしまう。ちょうど帰って来た悟は通報すると人影を見つけて追いかけるが、振り切られ、逆に容疑者として警察に追われることになる。そして捕まりそうになった瞬間、リバイバルが起きて、18年前の北海道の小学校時代、連続幼女誘拐殺人事件で同級生の雛月加代(ひなづきかよ、鈴木梨央)が誘拐される直前に戻ってしまう。

82点

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 感動的な物語。久しぶりにあやうく涙が流れそうになった。今、話題となっている、幼児虐待が実にリアルに描かれている。そして時間をさかのぼり繰り返すというSFファンタジーの要素、ノスタルジーあふれる昭和の子供時代の思い出話、まるでジュブナイルのような冒険談、まっすぐに生きようとする素直な心、優しい母の愛、通常人と見分けのつかない連続幼児誘拐殺人鬼…… そういうものがごった混ぜとなりながら、きちんと1本の作品としてまとまっている。ラストにはしっかりすべてのエピソードに納得のいく結末を見せてくれる。うまい。

 難があるとすれば、途中まで主体的に関わって、まるで副主人公のようなヒロイン片桐が、途中から過去が変わってしまったために存在感を失って、ほぼエキストラのようになってしまうことくらいだろうか。原作漫画も読んでいないしアニメも見ていないが、どうなんだろう。雛月という存在がいる以上、主人公と片桐が結ばれることはないのだろうけれど、それにしても、あまりに変わってしまって、美人で良い性格で印象に残るキャラクターだけに、残念だった。それと、児童相談所がこんなに存在感あるかなあと。実際の事件ではほとんど何も出来ていないような印象なのに……。

 物語の構造としてはいわゆるタイムトラベル系で、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(Edge of Tomorrow・2014・米/加)や、古くは「恋はデジャ・ブ」(Groundhog Day・1993・米)なんかと同じ。小学生時代の雰囲気は「狼少女」(2005・日)や「遠くの空に消えた」(2007・日)に似ている。ミステリーの雰囲気は、明るさが正反対だがちょっと藤原竜也が主演した「MONSTERZ モンスターズ」(2014・日)的なところも。

 特に良いのは、会話。生きた言葉でリアルなのにユーモアがあので、ヘタをすると臭くなってしまう感動するようなカッコいいセリフもスッと入ってくる。うまい。だから何回見ても楽しめるかもしれない。

 原作は三部けいの同名人気漫画(「ヤングエース」KADOKAWA連載)。フジテレビのイノタミナでTVアニメ化もされている。「このマンガがすごい!」などの多くのランキングで軒並み上位に入っているらしい。それを絶妙な脚本にしたのが、後藤法子。TVの「チーム・バチスタの栄光」(2008)シリーズを書いている人。映画だと「神さまのカルテ」(2011・日)シリーズを書いている。どれも見たことがないが、このリアルな会話の構成は素晴らしく、ほかも見たい気にさせる。ちなみにエンディングは映画オリジナルらしい。

 監督は平川雄一朗。TVの漫画原作ヒット作「ROOKIES ルーキーズ」(2008)シリーズと、その劇場版も手がけ、話題になったタイムトラベル系漫画原作「JIN-仁-」(2009)も手がけている。僕が見たのは、やっぱり漫画原作の「クロコーチ」(2013)だが、これもなかなか良い味だった。ちょっと本作の製作会社でもある監督が所属するオフィスクレッシェントの堤幸彦監督の作風に似ている気はしたが。

 主演は多くの映画に出ている藤原竜也。「バトル・ロワイヤル」(2000・日)のイメージが強かったが、最近だと「るろうに剣心 京都大火編」(2014・日)とその続編の敵のボス役が強烈だった。

 相手役が有村架純。TVの「SPEC」(2010)のころはここまでになるとは思えなかったが、いまや大人気で大活躍。最近「映画ビリギャル」(2015・日)が話題になった。これから公開される「アイアムアヒーロー」(2015・日)でも、予告ではなかなか良い役をやっている模様。ただかわいいだけじゃない。

 特に素晴らしいのは子役達。けなげな被害者の女の子、雛月加代の鈴木梨央。ときとぎせTVのバラエティなどにも出ているが、そこでは明るい子供らしい子供。しかし本作では間違いなく女優だ。NHKの大河ドラマ「八重の桜」(2013)で八重の子供の頃を演じていた。

 そして小学生の藤沼悟が中川翼。TVの「ORANGE」(2015)などに出ているようだが、どうやら大きい役は本作が初めての模様。まっすぐな感じが良く伝わって来た。今後も期待できそう。

 小さい役だが、憎たらしくて見事なのは、虐待している雛月加代の母を演じた安藤玉恵。「ソロモンの偽証」(2015・日)シリーズでも嫌らしい先生で印象に残ったが、何より「探偵はBARにいる」(2011・日)シリーズが良かった。損な役ばかりだが、スゴイ。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜にムビチケカードで確保。当日は10分前くらいに開場。朝早いせいかそれほど客数は多くない。良かった。アニメ系やTV系は混むからなあ。観客層はハイティーンから中高年まで幅広い。やっぱり。男女比は意外にも男性の方が多く、女性は1/5から1/4ほど。最終的には287席に3割ほどの入り。早朝は起きるのが大変だが、ゆったり見られるのが良い。

 1人遅れて入ってきたヤツがいて、懐中電灯代わりに煌々と携帯のモニターを光らせ、迷惑甚だしい。こういう時は、入ってきたら隅っこに立ったまま1分ほど目をパチパチさせながら暗闇に慣らせば見えるようになる。懐中電灯などは必要ない。昔は先輩とかが教えてくれたものだが、今は誰も教えてくれないんだろうなあ。マナーを上映しているんだから、その時教えたら?

 スクリーンはシネスコで開いていて、気になった予告編は…… 左右マスクの「二重生活」はティーザーでほとんど内容がわからなかった。なんか同じタイトルの邦画が1年くらい前にあったような……6/25公開。

 四角の枠付き「テラフォーマーズ」は新予告に。昆虫のDNAを注入して人間を火星に送り込んだと。面白そうだが、期待していいんだろうか。4/29公開。

 枠付き「オオカミ少女と黒王子」はまたまた漫画原作だろうか。最近こればっかりの気が。確かに漫画は世界に誇れるコンテンツだけど、映画オリジナルもがんばって欲しい気が。5/28公開。


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