2016年4月9日(土)「ボーダーライン」

SICARIO・2015・米・2時間01分

日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(デジタル、Arri、ALEXA、IMDbでは2.39:1)/ドルビー・デジタル(IMDbではドルビーATMOSとAuro 11.1も)

(米R指定、日R15+指定)

公式サイト
http://border-line.jp
(全国の劇場リストもあり)

FBIの特殊部隊「誘拐即応班」のケイト・メーサー(エミリー・ブラント)は、人質救出作戦でアリゾナ州の荒野の一軒家に突入するが、すでに人質の姿はなく、銃撃戦の後、壁の中から数十体の死体が発見される。その家はメキシコの麻薬組織「ソノラ・カルテル」の幹部、マヌエル・ディアスのものだったのだ。後日、上司に呼び出されたケイトは、国防総省のマット・グレイバー(ジョシュ・ブローリン)を紹介され、ソノラ・カルテルの専任タスク・フォースへの志願を求められる。タスク・フォースは、連邦保安官、DEA(麻薬取締局)、陸軍の特殊部隊デルタ・フォースなどからなる混成チームだった。そして、プライベート・ジェットにコンサルタントというコロンビアの元検察官アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)を乗せると、メキシコのフアレスへと向かう。ディアスの兄のギエルモを裁判所に連れて行くということで、全員が完全武装し、メキシコ警察は誰も信用するなと言い渡される。ところが、チームの目的は移送ではなく、拷問によって噂のある国境のトンネルの場所を吐かせることだった。

82点

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 驚きの麻薬戦争映画。リアルに描いているので、とにかく恐ろしい。緊張感の連続。怖い! これで主人公が女性というのだから驚かされる。音響のベースにはずっと、低い音で鼓動のようなリズムが刻まれている。これも不安を煽る。メキシコじゃ警察官も信用できないとは。

 メキシコの新興麻薬組織と、アメリカ政府の戦い。単に戦いというより、もはや戦争で、ただ単に取り締まるとか、逮捕するとか、撃ちあうとかいうレベルではない。戦争だから、対症療法的な作戦だけではなく、長期的視点や広い俯瞰的な視点による原因療法的な戦略が必要だと。実行犯を逮捕するのではなく、命令を出したボスを捕まえる。あるいは、処分する。逮捕などと悠長なことを言っていられない。放っておけばアメリカもメキシコのフアレスのようになってしまうという危機感が、良く伝わってくる。

 そして戦争だから政治が絡んでくる。政治なくして解決はあり得ない。その政治的判断というものが何なのか。それがまた衝撃。毒をもって毒を制し、より毒の少ない毒を取ると。これに納得できるかどうか。許されることなのかどうか。主人公は葛藤することになる。ただ、ボクなんかそこまで正義感が強くないから、あまり悩まずこれで仕方ないんじゃないかと思ってしまうのだが。

 とにかくFBIの特殊部隊「誘拐即応班」(HRT?)の隊員らしい動きと銃さばきを見せるエミリー・ブラントが見事。お姫さまなんかも演じる人なのに、ちゃんと所作ができていて、説得力がある。普通アクションをやりながらの演技は非常に難しいと言われる。それでも、ちゃんと感情が伝わってくる。さすがだ。トム・クルーズと共演した「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(Edge of Tomorrow・2014・米/加)でトレーニングしたことがここでも生きているのだろう。やはりブレイクのきっかけとなったのは「プラダを着た悪魔」(The Devil Wears Prada・2006・米/仏)だろう。その後コメディからシリアスまで、いろんな作品にガンガン出ている。ホラー「ウルフマン」(The Wolfman・2010・米)でベニチオ・デル・トロと共演。ボク的にはSFミステリーの「アジャストメント」(The Adjustment Bureau・2011・米)が良かった。この後、残念だったダーク・ファンタジーの続編「スノーホワイト/氷の王国」(The Huntsman: Winter's War・2013・米)に出ている。使っていた銃はグロックとEOTech付きM4カービン。

 コロンビアの元検察官アレハンドロはベニチオ・デル・トロ。さすがベテラン、うまい。怖い感じが良く出ている。傑作ミステリー「ユージュアル・サスペクツ」(The Usual Suspects・1995・米/独)で印象に残る役を演じ、麻薬戦争映画「トラフィック」(Traffic・2000・米/独)でアカデミー助演男優賞を受賞。ボク的にはB級アクションの「誘拐犯」(The Way of the Gun・2000・米)が良かった。そこでもなかなかの銃さばきを見せていたが、本作はそれをも凌ぐ見事なハンドリング。カッコいいし、様になっていた。やはりトレーニングを受けたのだろう。ただ、うま過ぎて、元検事がここまでできるかということはあるが……復讐を果たすためトレーニングを受けたということにしておこう。「野蛮なやつらSAVAGES」(Saveges・2012・米)の殺し屋も恐ろしくて良かった。 使っていた銃は、グロック、ラストにはサプレッサーを付けたMk23、そしてレール付きのMP5A3。

 国防総省、実はCIAのマット・グレイバーはジョシュ・ブローリン。SFホラー「インビジブル」(Hollow Man・2000・米/独)で強い印象を残す。その後、恐ろしい殺し屋の物語「ノーカントリー」(No Country for Old Men・2007・米)でも印象に残る演技。さらに同じコーエン兄弟の「勇気ある追跡」(True Grit・1969・米)のリメイク「トゥルー・グリット」(True Grit・2010・米)でも味のある悪役を演じていた。使っていた銃は、M4カービン。

 銃は他にM92、P226、AKMS、AKSU、AK74など。アーマラーはロン・リカーリ。主にTVを手がけている人で、「NCIS:LA」(NCIS: Los Angeles・2009〜・米)などをやっている。ただトレーニング関係はクレジットが見当たらなかった。

 脚本は俳優でもあるテイラー・シェリダン。本作が初めての脚本らしい。俳優としてはこれまでに「CSI」や「NCIS」などの人気ドラマにゲストで出演しているようだ。ドラマの方はわからないが、この脚本は見事ではないだろうか。今後に期待したい。

 監督はカナダ出身のドゥニ・ヴィルヌーヴ。「複製された男」(Enemy・2013・加/西/仏)はかなり残念だったが、「プリズナーズ」(Prisoners・2013・米)はダークながらなかなかリアルで怖くて良かった。アート系の人なのかと思ったら、こういうアクションも撮れるとは驚き。

 公開初日の初回、新宿の劇場は全席指定で、ムビチケカードで確保。当日は13〜14分前くらいに開場。ほぼ中高年の男性で、女性は1〜2割程度。気になったのは関係者らしい一団。10人くらいいて、多すぎるって。予告が終わって、本編が始まるまでいる。じゃま。気になる。2人もいれば充分だろ。そしてケータイを使っているヤツがだいたい2〜3人。必ずいる。スクリーンに注意が出ても見ていない。入り口で「携帯の電源はお切りください」とか言ってはどうだろう。最終的には157席がほぼ埋まった。もっと入っても良い映画だと思う。

 スクリーンはシネスコ・サイズで開いていて、気になった予告編は…… 四角の枠付き「ターザン」は映像付き新予告。実写版で、かなりシリアスに作った本格的なもののよう。面白そう。7/30公開。

 枠付きの「クリーピー」はちょっとだけ新予告。まだティーザーで、具体的な内容が良くわからない。なかなか怖そうなんだけど…… 6/18公開。

 枠付きの「二ツ星の料理人」は三つ星を目指す料理人の話らしい。映画としてはちょっと地味だが、主演は「アメリカン・スナイパー」(American Sniper・2014・米)のブラッドリー・クーパー。どうなんだろう。6/11公開。

 枠付き「教授のおかしな妄想殺人」はまたまたウッディ・アレンの映画で、予告の感じはこれまでの多くのアレン作品と同じ雰囲気。あまり笑えないディーブなドラマの軽いコメディ的な。同じパターン、繰り返し。「ミッドナイト・イン・パリ」(Midnight in Paris・2011・西/米/仏)とか「マジック・イン・ムーンライト」(Magic in the Moonlight・2014・米/英)と同じじゃん。批評家なんかの評価は高いけど。うーむ。

 映写機のマスクが左右に広がって、本編へ。


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