2016年4月10日(日)「ルーム」

ROOM・2015・アイルランド/加・1時間58分

日本語字幕:丸ゴシック体下、稲田嵯裕里/シネスコ・サイズ(デジタル、Red、Panavision)/ドルビー・デジタル

(米R指定)

公式サイト
http://gaga.ne.jp/room/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

7年間、拉致・監禁されているママ(ブリー・ラーソン)の息子ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)が5歳になり、どじ込められている部屋の中でケーキを作りお祝いをする。しかし5歳になっていろんなことがわかるようになってきたため、ママは思い切ってジャックだけでも逃がす計画を立て、熱が出たように装い犯人のオールド・ジャック(ショーン・ブリジャース)に病院に連れて行かせようとするが失敗。そこで、そのまま死んだと思わせて、どこかに埋めに行かせようとする。ジャックには何度も死んだ振りと車からの脱出方法を練習させ、近くの人に助けを求めるように教える。はたしてジャックは脱出に成功し、覚えていた車の停止回数などから警察は監禁場所を特定し犯人を逮捕、ママも解放される。しかし、自宅に戻ろうとすると、いくつもの問題があった。

74点

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 日本でも最近報道された拉致・監禁事件。それを子供を中心にリアルに描いて行く。前半は脱出までの監禁生活の過酷さ、理不尽さ、そして子育ての難しさまで。後半は解放されてからの問題、周囲の反応、そして壊れた心の治療と回復などを、これまたリアルに描いて行く。

 犯人はほとんど描かれていない。犯行の理由というか動機も明らかにされないし、犯人像も明らかにならない。脱出のサスペンスや、犯行の謎解き、そういったものにはスポットが当てられていない。被害者に視点を置いたものだからだ。そのため、映画としては実に地味で、感動は薄い。そして気分は落ちる。

 ただ、拉致・監禁の悲惨さ、先の見えない絶望感、閉塞感、恐怖などはよく伝わってくる。観客も監禁されているような感覚。アカデミー賞主演女優賞受賞作品だが、あえて言えば、映画よりはTVドラマのほうが向いているテーマなのかも。それもシネスコよりはヴィスタのほうが閉塞感が出たかもしれない。解放されてからシネスコへ広げるとか…… しかし、そういう演出をするとエンタテインメント性が出てしまうか。

 拉致・監禁映画では、「白い沈黙」(The Captive・2014・加)の方が映画的で良かったと思う。IMDbでは5.9点の評価だが。そして、どちらも見て、ニュース報道も見て思うのは、なんと卑劣な犯罪だろうかということ。許されていいはずはない。そして、いじめ問題、親の幼児虐待とか、世の中は一体どうなってしまったんだろう。

 難しい心理状態の息子ジャックはカナダ出身のジェイコブ・トレンブレイ、10歳。監督の演出だとしても、特殊な状況の5歳を見事に演じ切っている。母に反発する姿や、自分の世界をつくって遊ぶ様子、いろんなものに名前をつけて呼ぶ無邪気さなど、完璧とも思える。特に、監禁者が夜母の元を訪れるのをタンスから出て見てしまい、泣きながら「もうしません」と謝る姿は涙を誘った。TVには何本か出ていて、映画ではCGアニメの「スマーフ2 アイドル救出大作戦!」(The Smurfs 2・2013・米)で声を担当しているらしい。本作での評価が高く、新作映画が目白押し。

 ママはアメリカ出身のブリー・ラーソン。TVや日本劇場未公開作品で出ていて、たぶんほとんど日本では知られていないのでは。かろうじてボクも見た作品だと「スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団」(Scott Pilgrim vs. the World・2010・米/英/加/日)に出ていたようだ。どこかで見たと思ったら、ここだったか。

 ほかに、受け入れられないおじいちゃんに「ファーゴ」(Fargo・1996・米/英)のウィリアム・H・メイシー、どうにか受け入れようとするおばあちゃんに「カラー・オブ・ハート」(Pleasantville・1998・米)でもメイシーと夫婦を演じたジョーン・アレンが出て、共に良い味を出している。

 原作はエマ・ドナヒューの「部屋」。アイルランド生まれで、カナダ在住の作家。自ら原作の脚色を名乗り出たらしい。脚本と製作総指揮でもクレジットされている。

 監督はアイルランド出身のレニー・アバラハムソン。元はCMの世界の人だとか。劇場作品は3本ほど撮っているが、どれも評価が高いらしい。2本は日本でも劇場公開されているものの、どれも見ていない。インディーズ作品ということで、アート系の限定公開だった模様。でも本作の成功で、今後はメジャー公開になるかもしれない。ただIMDbを見ても現時点では新作は上がっていない。

 公開3日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、たまったポイントで金曜に確保。当日は12〜13分前に開場。やはり中高年メインで、女性は最初1/3ほどだったが、予告が始まってから続々やってきて、4.5対5.5くらいに逆転。最終的には499席の3割くらいが埋まった。

 大スクリーンのTCX、ATMOS対応スクリーンだったが、この地味なドラマにそれらは不要だろう。むしろ200席クラスのコンパクトなスクリーンの方が合っている。でもアカデミー賞の影響ということか。ここは真下のスクリーンがMX4DだかIMAXだかで、そこの振動が座席に伝わってきて、地震かと不安になるほど。設計ミスか? かなり不快だ。それでも真ん中のプレミアム・シートに1人が座った。

 気になった予告編は…… 四角の枠付き「スノーホワイト-氷の王国-」はかなり残念だった作品の続編。なぜ作ったんだろう。起死回生の見どころでもあるのだろうか。ちょっと「アナ雪」狙いのような雰囲気。キャストは超豪華。それがなきゃ、誰も見ないか。実は妹がいたって? ありがちな設定。ますます「アナ雪」じゃん。5/27公開。

 TCXスクリーンのデモの後、映写機のマスクが左右に広がって本編へ。


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