2016年4月16日(土)「スポットライト 世紀のスクープ」

SPOTLIGHT・2015・米/加・2時間08分

日本語字幕:丸ゴシック体下、齋藤敦子/ビスタ・サイズ(デジタル、Arri、with Panavision)/ドルビー・デジタル(表記無し)

(米R指定)

公式サイト
http://spotlight-scoop.com
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

1976年、マサチューセッツ州ボストンで、ゲーガン神父による年少者へのいたずら事件が発覚。神父が逮捕されるが、司教らによって事件は公にされず、神父も釈放されてしまう。2001年、大手新聞の「ボストン・グローブ紙」に新しい編集局長マーティ・バロン(リーヴ・シュレイバー)が赴任してくる。そして特集記事を担当する「スポットライト」チームのリーダー、ウォルター“ロビー”ロビンソン(マイケル・キートン)に、ゲーガン事件を掘り下げるように要請する。そして証拠を開示させるため、教会を訴えることにする。

74点

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 うーむ、スゴイ話。事件から15年ほどが経っているとしても、日本でこういう事件の映画かはできるだろうか。派手さはないし、むしろ地味。それでいて関係者は存命で、実名で登場する。被害者が反対しそうな気もするし。やはりアメリカの懐の広さ、深さということにはなるのだろう。しかも、それでメジャーなアカデミー賞まで取ってしまう(ノミネート6部門、作品賞と脚本賞受賞)。この報道自体も2003年にピューリッツァー賞を受賞しているというし。

 この事件が日本ではどう報道されたのだろうか。まったく記憶に残っていない。同時期に発生した9.11の同時多発テロ事件があったために、それくらいしか記憶にない。本作を見て、初めて世界規模の事件だったことを知った。本作に登場する研究者によれば、聖職者の6%に幼児性愛者がいるという。一般にも似たような割合ではないのだろうか。ただ、聖職者に言われると、信者である子供は断ることができないと。

 記事にするため、裏を取る。ダブル・チェック。そしてちゃんと加害者側のコメントも取る(ほとんどノー・コメントだったが)。これが新聞記者で、ジャーナリストというものなのだろう。「クライマーズ・ハイ」(2008・日)とも通じる部分がある。

 アカデミー賞の助演賞で、マーク・ラファロとレイチェル・マクアダムスがノミネートされているが、ボクが見て感じたのはチーム・リーダーのロビーを演じたマイケル・キートンがとても良かったこと。「バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance)・2014・米)なんが高く評価されているようだが、本作の自然な感じが良かった気がする。最初の投稿を無視した張本人。さすがベテランの存在感とリアルティ。怒鳴ったり、泣いたり、叫んだりといういわばエキセントリックな演技は素人でもできないことはない。難しいのは普通にしゃべったり、なにげないしぐさだ。表に出さず内に秘めた演技。「バード……」でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたから今回はなしだったとか疑ってしまう。

 ただ、映画としては地味。むしろTVのドキュメンタリーの方がふさわしいような内容ではないかと。なにしろ日本人的には登場人物が多すぎて、名前だけでは誰が誰かわからなくなる。ドキュメンタリーなら字幕を入れたり、写真を挿入したり、肩書きを入れたりできる。映画のドラマではそれはできない。そしてドキュメンタリーだと記者達の私生活なんかは描かれないことになるが、もともと本作ではそのあたりは少なめ。

 一番感動したのは、予告でも使っていた「公開した責任は誰がとるんだ」と言われ「じゃ、公開しなかった責任は誰がとるんだ」と証拠公開を検事に迫るシーン。すごいなあ。やっぱり日本人の発想にはない気がする。そして日本では年齢の規制無し。アメリカは成人指定だ。性的虐待の具体的な内容が、ブロージョブなどが、ガンガン出てくる……。

 スポットライト・チームのマイク・レゼンデスはマーク・ラファロ。だいたい暗い役が多い印象。「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」(Avengers: Age of Ultron・2015・米)シリーズのハルク役が有名だが、地味なところでは「フォックスキャッチャー」(Foxcatcher・2014・米)にも出ていた。

 チームの紅一点、サーシャはレイチェル・マクアダムス。何といっても「きみに読む物語」(The Notebook・2004・)が良かったが、その後「シャーロック・ホームズ」(Sherlock Holmes・2009・米/独)シリーズではちょっと悪役っぽい役も演じている。本作の前に「誰よりも狙われた男」(A Most Wanted Man・2014・英/米/独)にでているが、アート系でこれもちょっと地味な作品だった。本作でアカデミー賞助演女優賞にノミネート。

 ほかに、新しい編集局長役に、つい最近「完全なるチェックメイト」(Pawn Sacrifice・2015・米/加)に出ていたリーヴ・シュレイバー、ちょっと変わったやり手の弁護士ガラバディアンに、残念な「ハンガーゲーム」(The Hunger Games・2012・米)シリーズに出ていたスタンリー・トゥッチ、大学の理事らしいピート・コンリーに大人気TVドラマの「CSI:科学捜査班」(CSI: Crime Scene Investigation・2000-2015・米/加)シリーズでブラス警部を演じていたポール・ギルフォイル、上司の部長に「アントマン」(Ant-Man・2015・米)でハワード・スタークを演じていたジョン・スラッテリーらが出ている。

 脚本は製作総指揮も兼ねるジョシュ・シンガーと、監督でもあるトム・マッカーシーの2人。ジョシュ・シンガーはイェール大学からハーバード・ロー・スクール、ハーバード・ビジネス・スクールを出たというエリートというか秀才。TVの「LAW & ORDER: 性犯罪特捜班」(Law & Order: Special Victims Unit・2007-2010・米)や「FRINGE/フリンジ」(Fringe・2009-2011・米/加)の脚本と製作を経て、本作へ。

 監督・脚本のトム・マッカーシーは1966年、アメリカ生まれの50歳。やはり超名門のイェール大の出身。そのつながりか。俳優としてもいろいろな作品に出ている。「LAW & ORDER: 性犯罪特捜班」にも出ている。最近出たのは、残念な「ピクセル」(Pixels・2015・米/中/加)。脚本としては、3D-CGアニメの「カールじいさんの空飛ぶ家」(Up・2009・米)のストーリーや、インド人メジャー・リーガーを描いた実話に基づく「ミリオンダラー・アーム」(Million Dollar Arm・2014・米)の脚本も書いているが、製作・監督・脚本を務めたコメディ「靴職人と魔法のミシン」(The Cobbler・2014・米)は日本では小劇場の限定公開。うーむ。

 撮影監督は日本人のマサノブ・タカヤナギ。2000年から短編などたくさんの作品を手がけている。最近は「ファーナス・/訣別の朝」(Out of the Furnace・2013・米/英)や「ブラック・スキャンダル」(Black Mass・2015・米/英)など、かなり暗い作品が多い感じ。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、ムビチケカードで金曜に確保。当日は15〜16分前に開場。アカデミー賞受賞の話題作ということでか、プレミアム席もある大きなキャパのスクリーンでの上映。ただ、若い人わずかで、ほとんど中高年。男女比はメモし忘れたが、男性のほうが多かったと思う。多分、女性は1/3くらいだったかと。最終的には407席に8.5割ほど、プレミアムに2人の入りはさすが。

 気になった予告編は…… 四角の枠付き「シン・ゴジラ」は初めての画像付き新予告。独特の凶悪な感じのゴジラ。はたして、どんなことになるんだろう。不安の方が大きいかも。IMAXか…… 気になるのは、画質がなぜか古くさい感じになっていたこと。デジタルで撮っているはずなのに。7/29公開。

 枠付き「アイアムアヒーロー」(クッキーをオンにしないと見られない)も新予告に。原作を読んでいないので知らなかったが、ZQN(ゾキュンか、ズキュンかと思った)は標高が高いところだと感染しないというルールがあるらしい。面白そうなのだが、どうにも傑作ゾンビ映画「ゾンビランド」(Zombieland・2009・米)を連想してしまう…… 4/23公開。なんとR15+指定。

 枠付き「追憶の森」も新予告。原題のシー・オブ・ツリーズは樹海のことだろうか。とても惹かれるものがあるが、かなり暗い物語のような気もする。うむむ。4/29公開。

 あとは、だいたい見慣れたものばかり。


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