2016年5月7日(土)「追憶の森」

THE SEA OF TREES・2016・米・1時間51分(IMDbでは110分)

日本語字幕:手書き風書体下、稲田嵯裕里/シネスコ・サイズ(デジタル、ALEXAマーク、REDマーク)/ドルビー・デジタル

(米PG-13指定)

公式サイト
http://tsuiokunomori.jp
(音に注意、全国の劇場リストもあり)

妻を失ったアーサー・ブレナン(マシュー・マコノヒー)は、1人、片道切符で訪日し、ネットで調べた青木ケ原の樹海へ入り、立ち入り禁止の札を越えてさらに奥へと入って行く。大きな岩の上で薬を出して飲み出した時、横を泣きながらふらふらと歩く男(渡辺 謙)に気付く。彼は両腕にリスト・カットの跡があり、ネクタイとシャツの袖で応急処置をする。彼はナカムラ・タクミと名乗り「ここから出られない。助けてくれ」という。無視することも出来ず、通路のある方向を教えるが、戻ってきてしまう。そこで、一緒に出口へと向かうことにするが、なかなか出ることは出来ず、2人とも完全に迷ってしまう。お互い、ここに来る深い事情があった。

74点

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 心にジーンと来るラブ・ストーリー。ハッピー・エンドというのとは違うが、暗い気持ちではなく、希望を感じさせるさわやかな後味。ただ、前半の夫婦間のささいな喧嘩からそれが決定的となってしまう描き方がリアルすぎて、気が重くなる。そこをどう評価するか。重すぎて付いて行けないと評価は厳しいものになるだろう。IMDbでは、わずか5.5点の評価。ボクはギリギリ絶えて、後半で感動できた。ただ、その展開はボクでも読めたので、わかった人も多いだろうが、もともとどんでん返しを売りにしたミステリーではない。

 驚くべきは、公開1週間で、小スクリーンの、それも1日1回上映という、扱い。普通の映画でも、打ち切りにならない限り、1カ月後でもそんなに酷い扱いにはならない。よほど人が入らないのか。うーむ。もっと入っても良い作品だと思うのだが……。

 主要な登場人物は3人のみ。名優マシュー・マコノヒーは素晴らしい演技。対するナオミ・ワッツも実際にいそうな人物で説得力があり、本当に夫婦げんかはリアルだと思う。普段なら笑い飛ばせる些細なこと、あるいは思いやりなのに、トゲトゲしているとそれを逆にとって、悪く取って、喧嘩へと発展して行く。実に凄いバランスで、これが良く伝わってくる。だからうんざりする。ここでくじけると、次の展開が楽しめない。

 日常を失って初めて、その大切さに気付く。主人公が言う。「人生は皮肉だ。ある瞬間、大切なことに気付くが、手遅れだ」確かに、気付いた時には手遅れ、そんなものだ。そしてキー・ワードとなるのは妻のこと。妻は水辺が好きで、ジーン・ケリーのミュージカルが好き。しかし好きな本、好きな色、好きな季節も、夫は知らなかったことにがく然とする。

 主演は「ダラス・バイヤーズクラブ」(Dallas Buyers Club・2013・米)で激ヤセしてアカデミー主演男優賞を受賞したマシュー・マコノヒー。まあ、この人はうまい。説得力がある。つい最近クリストファー・ノーラン監督の感動SF「インターステラー」(Interstellar・2014・米/英)に出ていた。アート系の演技派というイメージもあるが、ボクはギャングを描いた「ニュートン・ボーイズ」(The Newton Boys・1998・米)や、SFアドベンチャー「コンタクト」(Contact・1997・米)、SFアクション「サラマンダー」(Reign of Fire・2002・米/英/アイルランド)、痛快アクション・アドベンチャー「サハラ 死の砂漠を脱出せよ」(Sahara・2005・英/西ほか)、B級ミステリー「リンカーン弁護士」(The Lincoln Lawyer・2011・米)なんかが良かったなあ。

 妻のジョーン・ブレナンはナオミ・ワッツ。「21グラム」(21 Grams・2003・米)と「インポッシブル」(Lo imposible・2012・西/米)で2度アカデミー主演女優賞にノミネートされている。最近はアート系が多い印象だが、ボクはSFアクション「タンク・ガール」(Tank Girl・1995・米)やデヴィッド・リンチ監督のミステリー「マルホランド・ドライブ」(Mulholland Dr.・2001・仏/米)、リメイクSFアドベンチャー「キング・コング」(King Kong・2005・ニュージーランド/米ほか)が良かったなあ。「ダイアナ」(Diana・2013・英/仏ほか)は酷かったけど……。

 森で出会う日本人、ナカムラ・タクミは渡辺謙。「ラストサムライ」(The Last Samurai・2003・米/ニュージーランド/日)でアカデミー賞助演男優賞にノミネート。ほかにも「SAYURI」(Memoirs of a Geisha・2005・米)、「硫黄島からの手紙」(Letters from Iwo Jima・2006・米)、「インセプション」(Inception・2010・米/英)と立て続けにハリウッドのメジャーな素晴らしい作品に出ている。「GODZILAゴジラ」(Godzilla・2014・米/日)は悪くはなかったが……日本映画ではハリウッド作品のリメイク「許されざる者」(Unforgiven・2013・日)が印象的だった。

 脚本は製作も兼ねるクリス・スパーリング。企画的には面白いが、映画としては退屈だったライアン・レイノルズの低予算、1シチュエーション1人芝居「[リミット]」(Buried・2010・西/米/仏)の脚本で注目された人。

 監督は「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」(Good Will Hunting・1997・米)でアカデミー賞監督賞にノミネートされたガス・ヴァン・サント。「エレファント」(Elephant・2003・米)でカンヌ国際映画祭のパルムドールと監督賞をとったというが、「カウガール・ブルース」(Even Cowgirls Get the Blues・1993・米)とか「サイコ」(Psycho・1998・米)とか、残念なものも撮っている。実在の政治家を描いたショーン・ペンの「ミルク」(Milk・2008・米)で再びアカデミー賞監督賞にノミネートされているが、見ていない。当たり外れの大きな人というイメージ。

 公開9日目、新宿の劇場は1日1回上映に激減。初回も何もないが、ムビチケカードで確保しておいて。当日は15分前に開場。観客層は若い人から中高年まで割と幅広かったが、中でも目立っていたのは高齢者。男女比は6対4で男性が多かった。最終的には86席に8割ほどの入り。

 気になった予告編は…… 四角の枠付き「キング・オブ・エジプト」は、何だか「300〈スリーハンドレッド〉」(300・2006・米)と「ハムナプトラ」(The Mummy・1999・米)を合体させたような印象。ちょっとおふざけッぽい所が心配。9/9公開。

 枠付き「バイオハザードVIザ・ファイナル」は6作目にしていよいよ最後らしい。映像は何もなく、主要キャスト3人のビデオ・メッセージ予告。日本初のゲームが原作ということで、日本公開が世界で一番速いらしい。日本に人気タレント、ローラも出ているんだとか。12/23公開。日本の公式サイトはまだない模様。

 枠付き「ベン・ハー」はもちろん1959年のチャールトン・ヘストン主演、アカデミー賞11部門獲得の名作のリメイク。なぜ、あれほどの名作をあえてリメイクするのか? しかも予告はあの有名な戦車レース・シーン。デジタル技術使いまくりなのだろうが、印象はあまり変わらなかった。モーガン・フリーマンが出ているんだ。はたして…… 2017年公開。

 半暗になって、映画泥棒のあと、枠付き「怒り」は渡辺謙や宮崎あおい、妻夫木聡、森山未來、松山ケンイチらオール・スター・キャストで描くドロドロのミステリーらしい。監督は李相日。予告だけでも重い。9/17公開。公式サイトはクッキーをオンにしないと見られない。

 枠付き「後妻業の女」は高齢な金持ち老人と結婚して遺産を狙う女の話らしい。いかにもありそう。演じるのは大竹しのぶ。8/27公開。

 枠付き「ダーク・プレイス」はシャーリーズ・セロン主演。原作は「ゴーン・ガール」と同じ人だそうで、そういうミステリーになるのだろうか。子供の時に起きた事件で、ウソをついたとか何とか…… 6/24公開。

 枠付き「マネーモンスター」はTVの生放送中にスタジオが銃を持った男に占拠されて…… という話らしい。なかなか面白そう。ジョージ・クルーニーにジュリア・ロバーツという顔合わせ。6/10公開。M84、M700、M4か。

 枠付き「サウスポー」はボクシング映画。ちょっと「シンデレラマン」(Cinderella Man・2005・米)ッぽい感じも。ジェイク・ギレンホールなので、やっぱり暗いなあ。そして重い。6/3公開。

 枠付きの「マクベス」は、マイケル・ファスベンダーとマリオン・コティヤールの共演。でも何度も映画化されてるし、黒澤明の時代劇版もあるし、オーストラリアのギャング版もあるし、監督もほとんど無名の人で、予告を見てもピンと来ない…… なんで作ったんだろう? 5/13公開。


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