2016年9月18日(日)「怒り」

2016・「怒り」製作委員会・2時間22分

シネスコ・サイズ(デジタル、Arri、表記なし)/ドルビー・デジタル(表記なし)

(日PG12指定)(一部日本語字幕上映もあり)

公式サイト
http://ikari-movie.com
(クッキーをONにしないと表示されない。音に注意。全国の劇場リストもあり)

八王子で夫婦惨殺事件が発生。殺害現場のドアの裏には「怒」の血文字が残されていた。容疑者は山上和也とされたが、逃亡。1年経っても足取りさえつかめなかった。そんなころ、家出して新宿の風俗店で働いていた愛子(あいこ、宮崎あおい)が、漁師の父、槙洋平(まきようへい、渡辺謙)によって千葉の実家に連れ戻される。父の元には2ヶ月前からバイトをしている田代(松山ケンイチ)がいて、次第に愛子と親しくなって行く。同じ頃、東京の会社員、優馬(ゆうま、妻夫木聡)はゲイのパーティで住所不定の男、大西直人(おおにしなおと、綾野剛)と知り合い、一緒に暮らすようになる。また、沖縄では、男と問題を起こした母とともに移り住んできた高校生の泉(いずみ、広瀬すず)は、同級生で民宿の息子、辰也(たつや、佐久本宝)にボートで近くの無人島に連れて行ってもらうが、そこの廃虚に隠れ住むバックパッカー、田中(たなか、森山未来)と知り合い、親しくなる。しばらくして警察が、山上和也の整形後の新たな手配写真を公開すると、その顔は千葉の田代、東京の大西、沖縄の田中のいずれともよく似ていた。

75点

1つ前へ一覧へ次へ
 感情のデリケートな部分に、ぐいっと踏み込んでサッと斬られたような感じ。切れ味がいい刃物なので、気がついたら血がにじんでいて、ヒリヒリする。そしてとてもショッキング。だれも正面きって言わないことを、ズバリと言われたとでも言おうか。どうしていいかわからなくなる。決してバッド・エンディングというわけではないが、元気がいい時に見た方が良いと思う。何かトラブルを抱えている時に見ると、より落ち込んでしまうかも。映画としてのはとてもレベルが高いのではないだろうか。ちょっと長いけど。

 3つのまったく異なる場所で3つの物語がほぼ同時進行し、ほぼ同時に終わる。そして、どの物語の登場人物も泣いている。号泣に近い泣き。ただ「怒り」はモチーフというか、キーワードではあるけれど、描いているものではない。見て感じたのは「信頼」というか「信じる」ということ。どんな相手なら信じることが出来るのか、信じてあげられるのか、信じてもらえるのか。

 だから重い。1つは東京の同性愛の物語、1つは千葉のお互い問題を持つ男女の物語、そして沖縄の米兵による強姦事件。どれもリアルに描かれ、性愛描写もかなりどぎつい。普通の映画だと、そこより衝撃的なシーンが無いため、そこだけが強く印象に残ってしまうが、本作の場合は、それを超える展開があって、そこがかすんでしまうのだから凄い。モニカ・ベルッチの「アレックス」(Irrersible・2002・仏)は本番のように見えるレイプ・シーンだけが目立ってしまった。

 そして、壊れた人間は恐ろしい。何かがきっかけとなってスイッチが入り、何をやるかわからなくなる。「ヒメアノール」(2015・日)にもそんな怖さがあった。

 もう1つ感じたのは、犯人が整形して逃つづけた展開が、「英会話教師リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件」の市橋達也のようだということ。女装姿の手配ポスターが公開されたり、TVが特番を組んで情報提供を求めたり、頬にホクロがあったり、整形して逃亡を続け、その顔写真も公開され、エレベーターに乗る姿も公開されたり、一緒に働いていた同僚が証言したり、沖縄へ逃げようとしていたり、類似点が多い。これらがまた、リアルさを高めている。

 歌舞伎町のシーンのみビデオ的な画質だったが、あとは高画質。沖縄の海は特に美しかった。出演者はいずれも熱演だったと思うが、それにしても、俳優は大変な仕事だと思う。ギリギリまで公にさらして(公開後もディスクで発売されて、劇場よりじっくり見られる)、ときに全裸になって、号泣しなければならない。

 東京の怪しい男、ゲイの大西直人は綾野剛。とても「S -最後の警官-」(2014・日)の警官を演じた人とは思えない。「白ゆき姫殺人事件」(2014・日)のTVディレクターも良かったが、本作はもっといい。自然な感じ。「日本で一番悪い奴ら」(2016・日)は良かったらしいが見ていない。

 その恋人、優馬は妻夫木聡。どちらかというと変わった役が多い気がする。ボク的には「どろろ」(2007・日)がとても良かった気がする。強烈だったのは石井克人監督の「スマグラー おまえの未来を運べ」(2011・日)かなあ。李相日監督の作品だと「悪人」(2010・日)にも出ているが見ていない。最近だと、これまた見ていないが「殿、利息でござる!」(2016・日)に出ている。ただ、ボクとしてはCMののび太くん役が最高傑作だと思う。それとロト7のサラリーマン役。

 千葉の怪しい男、田代は松山ケンイチ。つい最近、とんでもな「珍遊記」(2016・日)に出ていたようだが、見ていない。寡黙な感じがピッタリ。その相手の愛子が宮崎あおい。これまた見ていないが「世界から猫が消えたなら」(2016・日)に出ていたと。薄幸な感じがみごと。その父が「追憶の森」(Tsuioku no mori・2015・米)の渡辺謙。

 沖縄の怪しい男、田中は森山未来。ボクが見たのは「人類資金」(2013・日)だったか。内にこもる感じが見事。怖い。その男に憧れる少女、泉は広瀬すず。「ちはやふる」(2016・日)や「四月は君の嘘」(2016・日)に出るなど、ただいま売り出し中。姉妹ともに女優で、本作でも素晴らしい演技。なんとオーディションだったんだとか。

 原作は吉田修一の同名小説。オール・スター・キャストというのは吉田の希望だったらしい。

 脚本、監督は新潟県生まれの李相日(リ・サンイル)。ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを獲得してデビュー。村上龍の小説の映画化「69 sixty nine」(2004・日)あたりから一般にも注目され、大ヒット作「フラガール」(2006・日)や、多くの映画賞を獲得した「悪人」(2010・日)、クリント・イーストウッド西部劇のリメイク「許されざる者」(20123・日)などを手がけている。妻夫木聡との仕事が多いだろうか。とにかく感情を揺さぶる手腕は素晴らしい。もちろん今後も注目の監督だろう。

 ちなみに、音楽は坂本龍一が手がけ、トゥー・チェロズ(2CELLOS)も参加している。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保。当日は20分前くらいに開場。やはりメインは中高年。ただ女性は割と若い人もいた。下は中学生くらいから(これも女子)。最初は男性のほうが多かったか、次第に女性が増え、最後は3.5対6.5くらいと逆転。そしてプレミアム・シートありの200席が9.5割、ほぼ満席といっていいくらい埋まった。さすが。プレミアム・シートも8席中7席が埋まった。

 気になった予告編は…… 四角の枠付き「海賊とよばれた男」は新予告に。原作を読んでいないので知らなかったが、石油メジャーと戦う日本の商人の話だとか。「永遠の0」(2013・日)の山崎貴監督と岡田准一の顔合わせで、日テレの製作ということらしい。12/10公開。

 枠付き「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」も新予告に。モンスターがいっぱい出てくるんだ。11/23公開。

 左右マスクの「永い言い訳」は何だか、うんざりするような雰囲気。なんだろ、この感じ。主演は本木雅弘。10/14公開。

 左右マスクの「闇金ウシジマくん」は、なんとパート3とファイナルの同時予告。それぞれ9/22、10/22公開と。

 暗くなって、上映ギリギリにドアが閉まって、本編へ。


1つ前へ一覧へ次へ