2016年11月27日(日)「五日物語 ー3つの王国と3人の女ー」

IL RACCONTO DEI RACCONTI・2015・伊/仏/英・2時間13分(IMDbでは112分)

日本語字幕:細ゴシック体下、野崎文子/シネスコ・サイズ(デジタル、Arri)/ドルビー・デジタル

(伊T指定、日PG12指定)

公式サイト
http://itsuka-monogatari.jp
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

むかし、むかし…… ロングトレリス国の女王(サルマ・ハエック)は不妊に悩んでいたが、ある日、魔術師(ネクロマンサー、フランコ・ピストーニ)が現れ、死の代価を支払う覚悟があれば、1人で海の怪物を倒しその心臓を食すれば、たちどころに子が授かると告げる。笑顔を失った不幸な女王を幸せにするため、国王(ジョン・C・ライリー)は1人で挑み化け物を倒すも、自らも深手を負い命を落としてしまう。しかし心臓を食らった女王は一晩で身ごもり男の子を出産する。同じ時、同じ心臓から身ごもった生娘の下女(ジェシー・ケイヴ)も男の子を出産する。2人の男の子は、双子のようにうり二つだった。
ストロングクリフ国の好色な国王(ヴァンサン・カッセル)は、肉欲に溺れる毎日を送っていたが、ある日、美しい歌声を聞いて恋に落ち、積極的にアタックに出るが相手は家に閉じこもり姿を見せてくれない。実は、声の主は老婆姉妹ドーラ(ヘイレー・カーマイケル)とインマ(シャーリー・ヘンダーソン)で、姉のドーラはこんな機会は二度とないと、王に取り入ろうと画策を始める。
ハイヒルズ国では国王(トビー・ジョーンズ)がノミをペットにし、自分の血を与えるなどして飼育し巨大化させる。やがて年ごろとなった王女のヴァイオレット(ビビー・ケイヴ)は、素敵な勇者に外の世界へ連れて行ってもらうことを夢見ていた。そんなとき巨大化したノミが死に、国王は皮を形見としてはがし、何の皮か当てた者に娘を嫁がせると宣言する。多くの若者が当てることができなかったが、突然現れたオーガ(鬼、ギョーム・ドゥロネ)が当ててしまう。ヴァイオレットは一旦は逃げ出すも、父の威厳を守るため、嫁ぐ決心をする。

80点

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 本当は怖いおとぎ話、という感じ。怖いというか恐ろしいし、暗いし、悲惨な物語。ハリウッド作品とはまったく傾向を異にする作品。あまりに奇想天外な物語で、どう展開して行くのかまったく読めず、そこが余計に恐怖をあおるのだが、最悪に近いエンディングは、かなり後味が悪い。しかし、そこまで感情が揺さぶられるということは、良くできているということだ。見事な演出というか監督技術。だから、元気な時に見た方が良い。

 しかも血まみれ。心臓をえぐったり、皮をはいだり、のどを掻き切ったり。その上、エロもかなりなもの。淫乱王が出てくるので、描かざるを得ない。子供向けのおとぎ話ではなく、完全に大人のおとぎ話。モンスターも実際に居そうなリアルさで、異形の者はモンスター寄りというより、人間寄りだから、生々しい感じもある。特殊メイクの老婆達も相当怖いし、生理的な嫌悪感を感じさせる。

 その一方で、イタリア各地で撮影されたという、世界遺産を含む絶景が美しく捕らえられている。色が濃く、コントラストも高く力強い絵。素晴らしい。セットや衣装のデザイン、プロダクション・デザイン(美術)も素晴らしい。SFXも合わせてかなり予算が注ぎごまれた贅沢な映画という印象。ちょっと印象がターセム・シン監督の「落下の王国」(The Fall・2006・米/南ア/印)に似ている気もした。

 ロングトレリス国の女王はサルマ・ハエック。不機嫌な感じや、偉そうな感じ、母として息子を溺愛する感じもよく出ていた。メキシコ出身で、ロバート・ロドリゲス監督、アントニオ・バンデラスのアクション作品「デスペラード」(Desperado・1995・米)で注目された。その後「フリーダ」(Frida・・米/加/メキシコ)では眉毛のつながった歌姫フリーダを演じ、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされている。最近はあまり見かけていなかったが、最後に見たのはオリバー・ストーン監督のクライム・ムービー「野蛮なやつら/SAVAGES」(Savages・2012・米)だったか。悪役が多い感じだ。

 ロングトレリス国の国王はジョン・C・ライリー。女王の尻に敷かれている感じが見事だった。こんな感じの役が多い人で、最近見たのは、痛快SF冒険活劇「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」(Guardians of the Galaxy・2014・米/英)。

 ストロングクリフ国の好色な国王はヴァンサン・カッセル。エロティックな役も多いが、どちらかというと暴力的な役が多い印象。つい最近も「ジェイソン・ボーン」(Jason Bourne・2016・英/中/米)で主人公のジェイソン・ボーンを追い詰める役をやっていた。奥さんがモニカ・ベルッチ。離婚の多い芸能界だが、できれば別れないで欲しいなあ。狩猟のシーンでフリントロック(発射の際、点火薬の煙が出ていなかったのでパーカッションか?)の小銃を使っていた。連発で撃とうとしていたのは、いかがなものかと。部下というかお付の者から装填済みの銃を渡されるならともかく、単発の前装銃なんだから。

 ハイヒルズ国の国王はトビー・ジョーンズ。ちょっと小柄な人で、よく見かけるような気がする。ちょっと残念な「スノーホワイト」(Snow White and the Huntsman・2012・米)や「ハンガー・ゲーム」(The Hunger Games・2012・米)、面白かったが低予算B級と言う感じの「レッド・ライト」(Red Lights・2012・西/米)など立て続けに出演し、最近見たのは「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」(Captain America: The Winter Soldier・2014・米)。

 ハイヒルズ国の王女、ヴァイオレットはビビー・ケイヴ。1997年のロンドン生まれだそうで、20歳。見たことがあるような気がしたのだが、これまではTVに出ており、劇場長編映画は初めての模様。「ハリー・ポッターと賢者の石」(Harry Potter and the Sorcerer's Stone・2001・英/米)シリーズに出ていたかと思ったが……。

 原作は、世界最古のおとぎ話とされるイタリアのジャンバティスタ・バジーレの「五日物語」。書かれたのは17世紀初頭で、51話からなる民話集なんだとか。

 脚本は4人がクレジットされており、トップがエドゥアルド・アルビナティ。イタリアでTVや映画の脚本を書いているらしい。20年以上、刑務所で教師もやっているという人で、その経験を出版もしているらしい。

 2番目がウーゴ・キーティ。やはりイタリア出身で、ベテランの脚本家。監督でもあるマッテオ・ガローネのほぼすべての作品を書いているんだとか。日本ではアート系劇場での公開でほとんど知られていない。いつ、どこで公開されたのかもわからないほど。

 3番目のマッテオ・ガローネは本作の製作・監督も手がける。1968年ローマ生まれ。カンヌで2回もグランプリを獲得しているということだが、受賞作も含め監督・脚本を担当した近作3作の内1本しか日本では劇場公開されていない。わずかに巨大犯罪組織を描いた「ゴモラ」(Gomorra・2008・伊)の1本とか。やっぱり本作のように暗いのか。気にはなる。

 4人目はマッシモ・ガウディオソ。コピーライター出身だそうで、2000年からマッテオ・ガローネ監督作品の脚本を共同で書いているという。まあ、ほぼ日本劇場未公開。

 美術はディミトリ・カプアーニ。アート・ディレクターとしてマーティン・スコセッシ監督の「ギャング・オブ・ニューヨーク」(Gangs of New York・2001・米/伊)や、アシスタント・アート・ディレクターとして「コールドマウンテン」(Cold Mountain・2003・米/英/ルーマニア/伊)、アシスタント・アート・デコレーターとしてクライヴ・オーウェンのアクション「ザ・バンク 堕ちた巨像」(The International・2009・米/独/英)などに携わっている。

 色の濃い、力強く美しい絵を捉えた撮影はロンドン生まれのピーター・サシツキー。本作の公式サイトによるとデヴィッド・クローネンバーグ監督作品の常連カメラマンだそう。古くは「小さな恋のメロディ」(Melody・1971・英)なども撮っている。割と最近ではバイオレンス作品の「イースタン・プロミス」(Eastern Promises・2007・米/英/加)や、残念なウィル・スミスのSF「アフター・アース」(After Earth・2013・米)を撮っている。

 公開3日目の初回、日本橋の劇場は全席指定で、金曜にムビチケカードで確保。当日は12〜13分前に開場。観客層は若い人から高齢者まで、割と幅広かったが。メインは中年層といった感じ。10分前で17〜18人いて、女性は6〜7人。最終的には119席に4割ほどの入り。これは、ハッピーな映画じゃないとしても、宣伝不足じゃないかなあ。

 気になった予告編は…… ハリウッド・トピックスは同じで四角の枠付き「キングコング髑髏島の巨神」3/24公開、枠付き「パッセンジャー」3/24公開、枠付き「美女と野獣」4/21公開、左右マスクの「ワイルド・スピード8」GW公開と。

 ほぼ暗くなってからの予告では、枠付き「本能寺ホテル」が新予告に。ますます雰囲気が「プリンセストヨトミ」(2011・日)と似てきた気がする。監督も脚本も、主要キャストも一緒だし…… 1/14公開。

 左右マスクの「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」は新予告。ティム・バートンの思いっきりのファンタジーだが、やりどこか暗い感じが。タイム・ループで、悲惨な事件が起こる前の同じ24時間を繰り返しているとか、何とか。そして1人の少年が招かれて「あなたは私たちを守る役よ」と言われると。気になる。ビジュアルも凄いし。2/3公開。

 上下マスクの「マダム・フローレンス!夢見るふたり」は同じもの。音痴の妻を夫がカーネギー・ホールで歌わせようとする話だとかで、実話とは言えちょっと設定か居心地が悪い感じ。微妙だなあ。大富豪の話で、お金がなかったらできない話だし…… 劇場は良いんだけどなあ。12/1公開。

 暗くなって本編へ。


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