2016年12月24日(土)「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」

EYE IN THE SKY・2015・英/南ア・1時間42分

日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(デジタル、表記なし)/ドルビー・サラウンド7.1(表記なし、IMDbでもなし)

(UK15指定、米R指定)

公式サイト
http://eyesky.jp
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

ロンドンのPJHQ(常設統合司令部)のキャサリン・パウエル大佐(ヘレン・ミレン)は、6年掛けて追っていた指名手配のテロリスト2人、No.4とNo.5のイギリス人の所在を突き止め、2人が同時に居る家を特定する。そこはイギリスの友好国である東アフリカに位置するケニアの首都ナイロビで、アメリカが運用する無人機リーパーの協力により監視し、確認が取れたらケニアの特殊部隊が突入して逮捕することになっていた。ところがターゲットが移動し、市内の武装集団がたむろする地区の家に入ったため、特殊部隊が突入して銃撃戦になると大変な被害が出ることから作戦は中止するしかなくなる。しかしその家に自爆テロを行うアメリカ人2人が連れてこられ、自爆ベストの用意を始めたため、急きょ、リーパーによるミサイル攻撃でその家だけを破壊する作戦が立てられる。

75点

1つ前へ一覧へ次へ
 昔、流行った「究極の選択」のような物語。ただ命が懸かっていて、実際に起こっている「テロとの戦い」に非常に近いのではないか。かなり怖いというか恐ろしい。

 1人の少女を救って、これから犠牲になるであろう70人とか80人を見捨てるのか。目の前の1人の少女を犠牲にして、これから犠牲になる70〜80人を救うのか。今それを決断しなければ、二度とこのチャンスは巡ってこないかもしれない。しかも状況は刻々と変化する。

 1つわかっていることは、自爆テロで70人とか80人が犠牲になった場合、責められるのはテロリストだが、1人の少女を犠牲にした場合、責められるのは映画の中の我々(軍や政府)だということ。そして、ターゲットがいる場所がイギリスの友好国であり、現地の特殊部隊を突入させることもできなくなり、そこにミサイルを撃ち込むしかないという状況。あなたならどういう決断を下すか。

 話はドローンによる攻撃の話で、「ドローン・オブ・ウォー」(Good Kill・2014・米)と似ている部分も多い。あれは実際にボタンを押すパイロットに焦点を当てていたが、本作はその上、判断を下す司令部の話。ミサイルのスイッチを押すパイロットのジレンマだけでなく、軍事作戦の政治的な側面が描かれている。しかも女性の上司で、英米共同作戦で、いろんな部署が関わっている。

 そしてたぶん憎しみの連鎖が生じる。テロリストを殺害した時巻き込まれた一般市民の親族は、実行したイギリスやアメリカを憎み、復讐しようとするかもしれない。新たなテロリストが誕生してしまう。しかし攻撃を実行しなければ確実にテロは実行され、無実の人々が何十人も犠牲になるかもしれない。話はこの映画の中だけで終わらない。一体どうすればいいのか。ここは映画では触れていない。

 キャサリン・パウエル大佐はヘレン・ミレン。さすが、うまいなあという感じ。ちゃんと軍人の、高級将校に見える。こういったB級的な作品にも良く出るし、「RED/レッド」(RED・2010・米)のようなコミカル・アクションのハリウッド大作にも出るし、「クィーン」(The Queen・2006・英/米/仏/伊)のエリザベス女王ような実在の人物を演じたりもなんでもできる。本作の前に話題となった「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」(Trumbo・2015・米)に出ている。

 コブラ(内閣府ブリーフィングル ーム(COBRA; Cabinet Office Briefing Room A))のフランク・ベンソン中将はアラン・リックマン。2016年1月14日に亡くなっている。本作が劇場長編映画の最後の出演作になるようだ。メジャーになったのは「ダイ・ハード」(Die Hard・1988・米)の賊のボス役で、本作の前に「アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅」(Alice Through the Looking Glass・2016・米/英)で怖い蛾の声をやっていた。

 現地のエージェント、ジャマ・ファラはバーカッド・アブディ。「キャプテン・フィリップス」(Captain Phillips・2013・米)でオーディションを勝ち抜いてスクリーン・デビューし、数々の賞を受賞した人。本当にソマリアのモガディシュ出身。イエメンで育って、1999年に家族そろってアメリカへ移住したんだとか。本作でも必死感が良く出ていた気がする。

 脚本は、製作総指揮も兼ねるイギリス人のガイ・ヒバート。TVムービーの脚本が多いようだが、日本劇場未公開のリーアム・ニーソンのサスペンス「レクイエム(未)」(Five Minutes of Heaven・2009・英/アイルランド)で、イギリス・アカデミー賞を含む多くの賞を受賞している。

 監督はギャヴィン・フッド。南アフリカ出身で、俳優もやっていて、本作でも出演しているらしい。過去には「ウルヴァリン:X-MEN ZER」(X-Men Origins: Wolverine・2009・米/英)の監督、そして残念だったSFアクション「エンダーのゲーム」(Ender's Game・2013・米)の監督・脚本を担当している。本作はまるで同じ人が撮ったとは思えない印象。

 銃は、ケニアの武装集団は定番のAKにAKMS、FAL、ジープに積んでいるのが、側だけで機能しないだろうM2ブローニング。MQ-9リーパーのミサイルはヘルファイヤーと言っていた。

 ハチドリ型の、小型リモコンでモニターしながら操作できるロボットのような監視カメラは、実際にあるのだろうか。また上空からの監視カメラの映像は、リーパーからの映像なのか、監視衛星からのものなのか、ほとんど位置が動かない映像だったが、あれもリアルなのだろうか。気になった。

 公開2日目の初回、銀座の劇場は古い劇場で、混むとどの席も前席の人の頭がじゃまで字幕が読みにくいのに全席指定。座席の配列も千鳥ではないので、中央寄りは前席の人を避けにくいので、左右どちらか寄りの席を取るしかない。金曜にムビチケカードで確保し、当日は20分前くらいに開場。

 観客層は高齢者が多い感じ。まあ地味な映画だから当然か。だいたいこの劇場は高齢者が多いが。ぎりぎりになって若い人も少し増えた。男女比は半々くらい。高齢者が夫婦で来ている感じか。最終的には201席の9.5割くらいが埋まった。作品が面白いとはいえ、TV・CMもやっていない割に良い入り。ほぼこの劇場で上映していないからか。それにしても、今どき床がフラットなんて! 新しい劇場でやって欲しいなあ。こんなに差があっても料金が同じなんだから。どうにも納得できない。

 スクリーンはビスタで開いており、気になった予告編は…… 上下マスクの「お嬢さん」は名匠パク・チャヌク監督のR指定ミステリー。日本統治下の韓国が舞台で、原作は「このミス」第1位のサラ・ウォーターズ「荊の城」。見たいけれど、この劇場でしかやらないとは……。3月公開。

 「ボヤージュ・オブ・タイム」はテレンス・マリック監督、ケイト・ブランシェットのナレーションによる宇宙と生命のドキュメンタリーらしい。3/10公開。

 上下マスクの「王様のためのホログラム」はトム・ハンクス主演の、砂漠の国の王様にハートフル・コメディらしい。ちょっと面白そうな感じだが、またこの劇場のみか? 見たいけど……2/10公開。

 上下マスクの「未来を花束にして」は女性の参政権をめぐる実話の映画化。キャリー・マリガン、ヘレナ・ボナム=カーター、メリル・ストリープの顔合わせ。1/27公開。

 上下マスクの「キム・ソンダク大河を売った詐欺師たち」は、詐欺師4人が国家権力に立ち向かい一世一代の大ばくちを打つ韓国のお話らしい。1/20公開。

 上下マスクの「NERVE[ナーブ]世界で一番危険なゲーム」は、ネットによる参加ゲームで、むちゃな指令をクリアするとお金がもらえるというもの……って、これタイの「レベル・サーティーン」(13 game sayawng・2006・タイ)みたいな話ではないか。リメイク? パクリ? 1/6公開。

 スクリーンが左右に広がってシネスコ・サイズになって本編へ。


1つ前へ一覧へ次へ