2017年5月27日(土)「夜に生きる」

LIVE BY NIGHT・2017・米・2時間09分

日本語字幕:手描き風書体下、岸田恵子/シネスコ・サイズ(デジタル、Arri 65)/ドルビーATMOS

(米R指定、日PG12指定)

監督:ベン・アフレック
原作:「夜に生きる」デニス・ルへイン(早川書房)
脚本:ベン・アフレック
撮影:ロバート・リチャードソン
出演:ベン・アフレック、ゾーイ・サルダナ、クリス・クーパー、ほか


公式サイト
https://warnerbros.co.jp/c/movies/yoruni-ikiru/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

禁酒法時代のアメリカ、ボストン。ボストン警察の警視正のトーマス・コフリン(ブレンダン・グリーソン)を父に持つジョー(ベン・アフレック)は、第一次世界大戦から帰国すると、厳格な父や不正がはびこる社会に反発して相棒達と強盗を繰り返していた。そしてある時、内通者の手引きで掛けポーカー場を襲い現金の強奪に成功し、内通者のエマ・グールド(シエナ・ミラー)と知り合うと、いつしか愛し合うように。ところが、エマはアイルランド系ギャングのボス、アルバート・ホワイト(ロバート・グレニスター)の情婦だった。やがてホワイトの知るところとなり、エマと引き離され、殺されそうになるも、父が警官達と駆けつけかろうじて救出される。警官殺しの罪で投獄されたジョーだったが、刑務所内でエマが殺されたことを知らされる。そして父の力で3年4カ月で出所すると、ホワイトの敵であるイタリア系ギャングのボス、マソ・ペスカトーレ(レモ・ジローネ)のところに行き、ホワイトに復讐するため雇ってくれと申し出る。


83点

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 うむむ…… 楽しいか、楽しくないかで言えば、これは楽しくない映画。IMDbでは6.4点の低評価。しかし、つまらないわけではない。ただ、所詮、犯罪者の話であり、同情の余地はないのかなと。自ら望んで暴力の世界に入り、そこで生きた者たちの話だ。悲しみも、死も、自業自得ではないかと。映画の中でも言っているように「報いは必ず受ける」。それでも感動的な話で、衝撃的で、銃撃戦のアクション・シーンもたっぷりあり、よく出来たギャング映画だと思う。構成も、演出も、演技も、効果も、美術も、衣装も、いろいろな面でレベルが高いと思う。ただ、ちっとも楽しい話ではない。そして重い。たくさんの暴力があり、血が流れ、人が死ぬ。汚い言葉と暴力、裏切り、不正、差別、悪意などがてんこ盛り。受け止め切れないくらい。

 これは、幾世代にもわたる話ではないが、21世紀の「コッドファーザー」(The Godfather・1972・米)を目指したのだろうか。なんとなく共通点を感じる。そして犯罪映画という点では、同じベン・アフレック監督・脚本・主演の「ザ・タウン」(The Town・2010・米)とも良く似ている。舞台が現代か禁酒法時代かの違いはあっても。

 こういう映画を観ていると、不条理な暴力とか理由のない暴力ではなく、許せないが理解は出来る暴力によって、アメリカが作られてきたような気さえする。暴力はあちこちにある。なにしろ禁酒法と宗教問題、KKK、ラスヴェガスにつながるギャンブルの合法化とリゾート問題、などなどが実にリアリティがあって、作り事と思えなくなる。しかもギャンブルとリゾート話は、今の東京でも統合型リゾート施設として実現しようとしており、反対派の言い分がまたちょうど映画の中の宗教がらみの“聖女”のスピーチとそっくり!

 どうして、これが前売り無しなんだろう。そしてあまり広告もなかった。出来から言ったら、もっと多くの人が知って、もっと人が入ってもいい映画。

 銃は禁酒法時代に合わせて、定番のトンプソン、水平二連ショットガン、M1911ガバメント、コルト・オフィシャル・ポリスやS&Wのミリタリー&ポリスあたりの4インチ・リボルバー、ウインチェスターM12ショットガン、短銃身のBARなど。そこに、スプリングフィールドM1903ライフルや、アストラM400や600あたりのオートもあったような。元ボスのホワイトがP08を使い、ベン・アフレックがメインで使うのは、imfdbではコルトM1902となっていたが、ボク的にはM1903かM1905の短い方に見えたのだが……。ラストのサイレンサー付きはコルトの32オートか380オートだったような。スチルだとワルサーPPのようにも見えるが。

 アーマラーはエンド・クレジットではわからなかったが、IMDbではヘイデン・ビルソンとデイヴッド・フェンクル。ヘイデン・ビルソンは「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(Captain America: Civil War・2016・米)などを手がけた人で、デイヴッド・フェンクルはレオナルド・ディカプリオが出た「シャッター アイランド」(Shutter Island・2009・米)も手がけており、古くは「ダイ・ハード3」(Die Hard with a Vengeance・1995・米)や「リーサル・ウェポン4」(Lethal Weapon 4・1998・米)、「プルーフ・オブ・ライフ」(Proof of Life・2000・米)なども手がけたベテラン。最近だと「ジェイソン・ボーン」(Jason Bourne・2016・英/中/米)を手がけている。ギャングものでは「L.A. ギャング ストーリー」(Gangster Squad・2013・米)も手がけている。なるほど納得。

 製作にベン・アフレック本人のほか、レオナルド・ディカプリオも名を連ねている。製作総指揮には原作者のデニス・ルへインの名もあった。なんでも、デニス・ルへインの出身地は、本作の娼婦の出身地の設定のサチューセッツ州ドーチェスターなんだとか。しかもデニス・ルへインはベン・アフレックの監督(脚本も担当)初作品、日本劇場未公開の「ゴーン・ベイビー・ゴーン」(Gone Baby Gone・2007・米)の原作者でもあり、レオナルド・ディカプリオのシャッター アイランド」の原作者・製作総指揮でもある。

 ベン・アフレックは製作・監督・脚本・主演を担当。つい最近おもしろかったアクション「ザ・コンサルタント」(The Accountant・2016・米)に出ていて、とても良かった。「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」(Batman v Superman: Dawn of Justice・2016・米)あたりは単純に仕事という感じだろうか。最近の監督・脚本・出演作品では「アルゴ」(Argo・2012・)も「ザ・タウン」もとても良かった。才能のある人だ。

 相手役はゾーイ・サルダナ。つい最近、続編の「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」(Guardians of the Galaxy Vol. 2・2017・米)で緑色の宇宙人ガモーラを演じていたばかり。まったく印象が違う。

 裏切る娼婦のエマはシエナ・ミラー。本作では強烈な印象を残す。どういう人かと思ったら、実話の映画化「アメリカン・スナイパー」(American Sniper・2014・米)で主人公の奥さんを演じていた人。あれでも実在感のある悩める妻を好演していた。

 タンパの警察のフィギス本部長は大ベテランのクリス・クーパー。出てくるだけで存在感がある。ラストの変貌ぶりはすごい。「ザ・タウン」にも出ている。悪役が多い人だが、ボクが強烈に印象づけられたのはNASAの技術者の青春時代を描いた「遠い空の向こうに」(October Sky・1999・米)の厳格な父。

 その本部長の娘ロレッタはエル・ファニング。出番は少ないが、大きな存在感。姉がダコタ・ファニングで、どちらも美女で、幼い頃から子役として活躍している。姉は大人になって影が薄くなった感じだが、妹はいまノリにノっている感じ。今年はすでに「ネオン・デーモン」(・2016・)が公開され、「20センチュリー・ウーマン」(・2016・)も近日公開。

 公開8日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、前売り券が発売されていないので、ポイントで金曜に確保。当日は12〜13分前くらいに開場。観客層は、最初バッと見たときほとんどオヤジばかり。前売りがないとなあ。広告も予告も少なかったようだし。なんでこんな扱いなのだろう。10人中女性は2人ほど。若い人と高齢者が少し。最終的に早朝8時10分からの回は157席に30人くらいの入り。もっと入ってもいい気はするけど、前売り無しの予告も少ないとなると、こんなものか。

 スクリーンはシネスコで開いており、気になった予告編は…… 半暗になってから、ビデオ画質のような粗い絵だった左右マスクの「アイム・ノット・シリアルキラー」は、相当ヤバそうなホラー。社会病質者と連続猟奇殺人鬼の闘いを描くらしい。見たいけど劇場次第が……。6/10公開。

 四角の枠付き「ライフ」は「エイリアン」(Alien・1979・英/米)的な物語のようで、真田広之も出ているとか。怖そう。7/8公開。

 枠付き「ナミヤ雑貨店の奇蹟」は東野圭吾原作で、もっとも泣ける感動作らしい。手紙が過去とつながるとかで、ハリウッドでもリメイクされた韓国映画の「イルマーレ」(Il Mare・2006・韓)みたいな……。興味が湧く。9/23公開。

 枠付きの「ダンケルク」は映像付きの予告。撤退する海岸のシーンなど、とてつもなくスケールが大きい。それを襲うドイツのメッサーシュミットのパイロットがクリストファー・ノーラン映画常連のトム・ハーディのよう。迎え撃つスピットファイヤーもリアル。凄そう。9月公開。公式サイトでは9/9と。

 映写機のマスクが左右に広がり、シネスコ・サイズになって、マナー広告の後、本編へ。


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