2019年4月7日(日)「バイス」

VICE・2019・米・2時間12分

日本語字幕:丸ゴシック体下、石田泰子/監修:渡辺将人/シネスコ・サイズ(2.39、デジタル、一部フィルム)/ドルビー・デジタル(IMDbではドルビーATMOS、dtsも)

(米R指定)

監督・製作・脚本:アダム・マッケイ
撮影:グレイグ・フレイザース
出演:クリスチャン・ベイル、
   エイミー・アダムス、
   スティーヴ・カレル、
   サム・ロックウェル、ほか

公式サイト
http://longride.jp/vice/
(全国の劇場リストもあり)

ディック・チェイニー(クリスチャン・ベイル)は、コロラド大学を首席で卒業した恋人のリン(エイミー・アダムス)のコネで名門イェール大学に入学するが、成績が振るわず退学となる。その後、電気設備の会社で働くも、酒のせいでケンカし逮捕される事態に。妻となったリンに、次にやったら離婚だと発破を掛けられ、奮起して1968年にインターシップを得ると、下院議員ドナルド・ラムズフェルド(スティーヴ・カレル)のお茶くみとして働き始める。そしてラムズフェルドに気に入られ、政治の裏側を学びながら、フォード大統領の下、主席補佐官として起用されたラムズフェルドとともに次第にのし上がっていく。


73点

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 最初に、実話に基づくが、チェイニーは秘密主義なので、不完全だと出る。それにしても、恐ろしい話。世界最大の国の権力者に、こんなにいい加減な人々が選ばれてその座に着いていたとは。つけを払うのは、自国民だけでなく、たまたま標的とされた国の人々まで。ちゃんとした人々が政治を動かしていないと、とんでもないことになると。実話とは信じられないほど、ヒドイ話。これは物語としてではなく、ドキュメンタリーでも見てみたい。

 ただ、映画にするに当たって、演出を加えすぎの感はある。途中でエンド・ロールが流れるなど、作っているなと。映画というよりバラエティ感が強くなる。特にシェイスクピア劇風とか、必要だったのだろうか。あるいは、あまりリアルにしすぎると、まだ存命の人も多く、しかも実名で登場するので、具合が悪かったのかもしれない。いずれにしても日本では作れないだろうなあ。

 ヤバイ大統領たちは、よく「アメリカ・ファースト」と言っている。ああ、オバマになって良かったなと思っていると、描かれてはいないが、トランプになったわけだ。ひょっとしたら、トランプもブッシュやチェイニー、ラムズフェルドのような人物かもしれない。特に民意が直接反映する選挙・投票って大切なんだなあと。ひょっとすると、自分でブッシュに投票して、望まないのに戦場に送られてしまった人もいるのだろう。その場の雰囲気だけで投票してしまうと、取り返しの付かないことになる。イギリスの国民投票によるブレグジットもそうなんではないかなあ、とか。

 一体日本の政治家たちは、これを見てどう感じるのだろう。当時、彼らと付き合っていた人たちもたくさんいるわけで、ブッシュの別荘に遊びにまで行って、プレスリーの真似なんかしていた首相はどうなんだろう。わかっていて、つきあっていたのだろうか。それを考えると恐ろしい。イギリスのブレア首相は、それに乗ってしまったわけだし。

 ラスト、エンドロールになって出て行く人は少なかった。何人かはいたが、ショックを受けた人が多かったのではないだろうか。こういう人でも国を動かせるんだと。こんなウソみたいなことがあるんだろうか。しかしそれがアメリカだし、それを映画にするのもアメリカだ。

 最大の驚きは、キャストの多くが実際の人物にそっくりなこと。特にディック・チェイニーを演じたクリスチャン・ベイルは、オリジナルの顔がほとんどわからないほど。しかも若い時から老いた時までを演じている。映画ではあまり重要な役ではないコリン・パウエル国務長官やその後、国務長官になったコンドリーザ・ライスもそっくり。特殊メイクを手がけたのは、グレッグ・キャノン。本作のプロデューサーのブラッド・ピットの「バベル」(Babel・2006・仏/米/メキシコ)や「ベンジャミン・バトン数奇な人生」(The Curious Case of Benjamin Button・2008・米)でも特殊メイクを手がけた人。古くは狼男映画「ハウリング」(The Howling・1981・米)や宇宙人と老人の校了を描いたSF「コクーン」(Cocoon・1985・米)なども手がけている。アカデミー賞メイク・アップ&ヘア・スタイリング賞受賞。

 銃は、TVの「ライフルマン」(The Rifleman・1958・米)でウィンチェスターM92。軍はM2重機、M4、ポンプ・ショットガン。恐ろしいハンティングのシーンではディック・チェイニーが上下二連を使う。

 黄色がタイトル・バックや文字に良く使われていたが、何のイメージだろう。共和党のイメージ・カラーとか?

 公開2日目の初回、新宿の劇場はTCXスクリーンでの上映。2日前にネットで確保。当日は15分前くらいに開場となり、場内へ。予想通り中高年がメインで、女性は1/4ほどと少なかった。最終的に9席×2列のプレミアム席(P席)には3人くらいだったが、499席の6割くらいが埋まった。さすがアカデミー賞受賞作。

 予告の段階から、4Dスクリーンの振動が伝わってきて不快だった。どうにかしてくれないかなあ。びっくりするし、気持ち悪い。


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